東京証券取引所一部市場への直接上場、そしてその2カ月半後の下方修正、30億円の銀行借入の“後出し”、韓国子会社での横領事件——昨年1年の動きを「gumiショック」と揶揄されたゲーム開発会社gumiだが、その周囲がまた騒がしいようだ。
1月16日号の週刊ダイヤモンドが報じたところによると、2015年2月設立のスタートアップCandeeとその子会社であるMacaron、Biscotti、コンペイトウ(いずれもお菓子から名前を取った動画制作関連のスタートアップだ)がgumiとが深く関わっているというのだ。同誌によると、gumi代表取締役社長の国光宏尚氏は、自身の父親を代表に据えてCandeeを設立。1億円超の資金調達を実施した後に父親は不可解な理由で辞任しているという。
インタビューやイベント登壇時など、ことあるごとに「時価総額8兆円企業を目指す」と語っていた国光氏だが、gumiの現状はそこから遠い状況(現在の時価総額は約210億円)。そんな中で新事業にリソースを割いているとなれば、市場の投資家は「本業がままならないままに新会社を設立して出資、新事業に挑戦するのはどういうことだ」とでも言いたくなる話だ。記事はgumiの例をもとに、ここ最近のIPO企業は玉石混交だと論じている。
gumiに限らず、株価が上場時の公開価格や初値を大きく下回る、いわゆる「上場ゴール」と批判を受けるIPO、数度に渡る下方修正の発表、果ては個人資金を用いて売上を作るようなケースもあり、玉石混交という表現はまさにその通りだ。だがここで気になったのは、やり玉に挙げられたgumiとCandeeの関係だ。その詳細についてgumi代表の国光氏に聞いた。
CandeeはLINE LIVEの番組制作などを担当
実はこのCandeeという会社、スタートアップ起業家などの間で昨年秋頃に「gumiと関係性があるのではないか」と話題になったことがある。ダイヤモンドが報じたとおりだが、当時同社について調べたところ、会社は東京・青山にあるが、代表者の名字は「国光」、住所も国光氏の出身である「兵庫県」となっていた。そこから同氏の親類であろう人物が代表を務めている可能性が高いと考えられたが、当時は事業の実態がなかったこともあり、それ以上の話題にならなかったのだ。
同社の名前を再び聞いたのは2015年12月、LINEがライブ配信サービス「LINE LIVE」をローンチしたタイミングだった。LINE LIVEでは、スタート当初から芸能人や著名人によるオリジナル番組を配信しているが、その制作パートナーとしてLINE主催の発表会で同社の名前が挙がったのだ。Candeeは現在、芸能人を起用したLINE LIVEの番組を複数制作している。
gumi国光氏「あくまで個人としての投資」
ではこのCandeeとgumi、実際にはどういった関係なのか? 国光氏は「gumiとは関係のない会社だ」と説明する。
gumi設立前は映像制作にも携わっていた国光氏、個人として動画事業には興味があるものの、まずは本業に集中しなければならない状況。そのため、もともと現在のCandee経営陣らとビジネスアイデアなどを話し合ってはいたが、自身が関わる予定はないと語る。
ではなぜ父親名義でCandeeを設立したのか? これについては「(自身の名前を出さないためではなく)とりあえず『ハコ』を作る、という目的だった」と語る。この説明には正直少し苦しいものも感じたのだが、経営チームがまとまった時点で代表を交代したのだという。なお現経営陣はエイベックス・エンタテインメントやよしもと、電通出身のエンタメに強いメンバーだという。
ちなみにCandeeの資本金は現在1億5100万円(設立時は100万円)。国光氏が個人で出資している金額については「非公開」としている。またCandeeに対してgumiや同社グループのVCであるgumi venturesは出資していないという。
「あくまでCandeeには投資家として関わっており、個人として起業家を応援している。また投資についてはgumiの役員にも合意を得た上で行っている。何よりgumiについては株価の(現状について)責任は感じているので、1日でも早く業績を回復させたいと考えている」(国光氏)
イグジット後にこそ本業に注力を
国光氏に限らず、上場やM&Aでキャッシュを得た起業家が、自分たちより若いスタートアップにエンジェルとして投資することはよくある話だ。僕たちのイベント「TechCrunch Tokyo 2015」でもコーチ・ユナイテッド代表取締役社長の有安伸宏氏、スマートフォン向けゲームなどを手がけるコロプラ取締役 Co-Founderの千葉功太郎氏がそれぞれのエンジェル投資の姿勢について語ってくれた。
その他にも2015年にマザーズに上場したピクスタ代表取締役社長の古俣大介氏が縫製特化のクラウドソーシングサービス「nutte」を運営するステート・オブ・マインドに出資していたり、KDDIに買収されたnanapi代表取締役の古川健介氏(nanapiは同じくKDDI傘下のスケールアウト、ビットセラーと合併してSupershipとなり、古川氏は同社の取締役となっている)もAndroidアプリ解析などを手がけるFULLERに出資していたりする。これはあくまでプレスリリースやイベントなどを通じて正式に発表されている話の一部に過ぎず、実際は非常に多くの起業家がスタートアップへの出資を行っている。本業が赤字であっても上場益をもとに個人投資を行っている起業家だっている。
もちろん若い起業家からすれば、イグジット経験があり、(イグジットして間もないため)現場の空気を知る起業家から支援を受けられることが、資金以上の価値になることは多いだろう。スタートアップのエコシステムという観点で考えても、成功者のお金と知識が次の挑戦者に流れるという意味は非常に大きい。
だからこそ、本業に注力し、同時に市場の投資家からどう見られているかも忘れないで欲しい。冒頭の記事にあるように、スタートアップへの風当たりはまだまだ厳しい。業績のもそうだし、施策に対する不備、脇の甘さなど、外部から指摘される可能性のあることは少なくないはずだ。一度イグジットした起業家ならば、若い挑戦者への支援だけでなく、市場に、世の中に認められるような成長を続けてもらいたい。その成長の軌跡は、必ずや後に続く人たちの道になると思うからだ。