Hyzon Motorsは水素燃料電池車への意欲に米国の2つの工場を追加

水素自動車の動力源として極めて重要な部品とともに燃料電池の生産を予定しているHyzon Motors(ハイゾン・モーターズ)は、米国の2つの工場で商用規模の国内生産を開始する。

水素を動力源とするトラックとバスのメーカーであるHyzon Motorsは、すでにシカゴのボーリングブルック郊外に2万8000平方フィート(約2600平方メートル)の施設を借り受けており、さらに8万平方フィート(約7400平方メートル)を追加して拡張する予定だ。シカゴ工場では、2021年第4四半期からの生産開始が期待されている。この発表が行われたのは、Decarbonization Plus Acquisition Corporation (ディカーボナイゼーション・プラス・アクイジション・コーポレーション)と評価額21億ドル(約2240億円)で合併し公開企業になるという発表から、ちょうど3週間後のことであり、ニューヨーク州モンロー郡の7万8000平方フィート(約7250平方メートル)の工場を改修する計画の発表から1週間と少しのことだった。

Hyzonは、20年近い経験を持つが新しい会社だ。2020年3月に、2003年から燃料電池の商用製品を開発しているシンガポールのHorizon Fuel Cell Technologies(ホライゾン・フュエル・セル・テクノロジーズ)から独立する形で創設された。2021年2月には、2026年までに1500台の燃料電池トラックをニュージーランドに走らせることを目標に、ニュージーランド企業Hiringa Energy(ハイリンガ・エナジー)と提携。現在は、北米の燃料電池自動車市場に視点を定めている。ただし米国内では水素燃料ネットワークが未整備なため、同社は「基地に帰る」ビジネスモデルで運用できる大型車両をターゲットにしている。

米国内に工場を設けるHyzonの決断は、注目に値する。なぜなら、米国での燃料電池素材の生産はヨーロッパやアジアに大きく引き離されているからだ。また米国では全国的に、海外で見られるような水素の補給所や基盤ネットワークが欠落している。

「水素は、ドイツやオランダなどの地域ではずっと身近です」とHyzonのCEOであるCraig Knight(クレイグ・ナイト)氏はTechCrunchのインタビューに答えた。「現代の米国でガソリンを補給するのと同じように、クルマを停めて補給できる民間の水素ステーションがいくつもあります。(米国が)そうなるまで、それほど時間はかからないでしょうが、それまでは、基地に戻る運用モデルを採用している顧客に的を絞ることで、水素ステーションネットワークの依存度を限定できます。それなら、水素インフラ1つで、特定地域の数十台から、さらには数百台の車両に対応できます」。

米国で生産されている水素は、天然ガスから作られる、いわゆる「グレー水素」だ。現在は、再生可能エネルギーによる電気分解で作られる「グリーン水素」を目指す企業が増えているが、Hyzonはその両方を使う予定だ。燃料電池の生産をどれほど拡大するかの判断は、水素の生産量にかかっている。

シカゴの工場では、膜 / 電極接合体(MEA)の設計、開発、生産が行われる。これは、電力を生み出すために欠かせない、電気化学反応を起こすための燃料電池の部品だ。同社ではこの新工場で、年間1万2000台の燃料電池トラック生産に十分な量のMEAを作ることにしている。

完成したMEAは、先日発表された燃料電池スタックとシステムを組み立てるモンロー郡の工場に送られ、部品が燃料電池の完成品に組み上げられる。そこから燃料電池は、提携トラックメーカーに送られ、商用大型車両に組み込まれることになる。同社の米国での主な提携先には、Berkshire Hathaway(バークシャー・ハザウェイ)の子会社Fontaine Modification(フォンティーン・モディフィケーション)がある。

水素燃料電池技術は、大型車両に使用事例を見いだしている。トラック輸送会社は、どれだけの重量を運べるか、どれだけの頻度で運べるかによって収益が変わることが多い。そのため、充電に時間がかかったり、バッテリーで積載量が減らされるといった心配のない燃料電池が、フリートの脱炭素化を目指す企業には魅力的な選択視となるのだ。

Hyzonは、水素燃料電池の導入によるプラスのネットワーク効果と規模の経済と、充電池導入の限界費用の増加を見据えている。小型車向けの燃料電池市場への参入計画について同社は何も発表していないが、水素燃料電池の価値提案に関しては強気を保っている。

「私たちは、ある時点で、充電式電気自動車の限界費用が増加し始めると考えています。なぜなら、送電網、貯蔵所の規模、充電インフラの建設能力などに関連するインフラの制限にぶち当たるからです」とナイト氏。「使用率が非常に高くなった場合、充電式電気自動車には規模の不経済が付きまとうことになりますと、私たちは信じます。小型車もいずれは水素で走るようになるでしょう。私たちのモデルでは、そこに完全に依存しているわけではありませんが、そう私たちは信じています」

Hyzonは、2021年5月末か6月の頭にNASDAQでの上場を予定している。ティカーシンボルはHYZNとなる予定。

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カテゴリー:モビリティ
タグ:Hyzon Motors燃料電池水素

画像クレジット:Hyzon Motors

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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