シリコンバレーにいないものといえば、他の人間のアイディアをコピーしたと認める起業家だ。ところがFacebookの本社―世界有数の巨大なビジネスが運営されている場所―でInstagramのファウンダー、CEOのケビン・シスストロムの発言は私を仰天させた。
シストロムはInstagramがリリースしたInstagram Storiesのデモを見せてくれた。この新しいプロダクトは24時間で消える気軽な写真共有サービスだが、あまりにもライバルのSnapchatに似ているので、シストロムの洒落れたオフィスでプレゼンのスライドを見せられながら私は笑いをこらえるのに苦労するほどだった。
シストロムはInstagramをFacebookに10億ドル近くで売却した、しかしどうやら彼自身はそこから想像されるような華々しい生活をしていないらしい。Instagramのフィードにあまり写真を投稿していない。Instagramは基本的に「生活のハイライト」の写真を投稿するサイトだ。10代のユーザーは投稿後数分で十分な数の「いいね!」が付かないと写真を削除してしまうことが多い。そのためInstagramにはSnapchatのような「なんでもない日常の情景」を写した写真が少ない。【略】
これがシストロムがInstagram Storiesを作った理由だ。
記録を残すのか、体験を共有するのか?
24時間で消えるスライド共有がソーシャルメディア全般にどういう影響を与えるかはまだ不明だ。しかしInstagramという巨大なフィードに欠けていた部分を補うサービスなのは間違いない。Storiesは「大人向けSnapchat」だ。Snapchatの機能や画面への書き込みツールがInstagramにあったらいいと考えていたユーザーは多い。
Storiesのようなサービスに対する私の懸念は、日常の些細な場面を常にフィードするライフキャスティングが人々のポピュラーな行動パターンになりはしないかという点だった。美しい夕日が沈むの見ているときでも、あわててスマートフォンを引っ張りだして自分の体験を放り出し、記録を残さねばならなくなる。
しかしシストロムはそういうふうには考えていなかった。記録か体験かという問題を尋ねられるとシストロムは「なるほどネガティブな面もあるが、ポジティブなユースケースの可能性が圧倒的に上回ると考えた」と答えた。たとえばこれまで北朝鮮や難民キャンプでの日常がInstagramにアップされることはなかった。
「美しい夕日を見ているときに慌ててスマートフォンを引っ張り出すという側面と、世界の無数の人々とつながり、多様な生活を直かに見て新しい考え方、異る文化を理解するためのハードルが低くなる側面〔との比較だ〕。Instagramは世界を巨大な共時的存在と感じさせることに役立った。いつでも誰とでもつながることができ、自分自身は非常に小さいものでありながら多くの人々と共にあるという感覚だ」とシストロムは言う。【略】
テクノロジー・ビジネスで稀な正直さ
なるほどこれまでInstagramには「共有性が足りなかった」かもしれない。しかし私には Instagram Storiesは「共有が過剰」ではないかという思われた。しかしそれはともかくとしてシストロムのオフィスでデモを見た全員の頭上に”Snapchat”という口に出されない大きな疑問がずっとわだかまっていた。そこで私は率直に尋ねた。
「重要な点だと思うが、24時間で消えるライフキャストの共有というフォーマットはSnapchatがパイオニアで、実際、コンセプトから実装手法、細かい機能まで…」
「そのとおり。すべての功績はSnapchatのものだ」とシストロム
シストロムの言葉に私はのけぞった。
Facebookは以前にもPokeやSlingshotでSnapchatをまるごとコピーして失敗に終わったことがある。Facebookの「過去のこの日(On This Day)」は TimeHopというスタートアップをまるごとコピーしたものだ。ハッシュタグや話題のトピックの採用はTwitterのコピーだ。にもかかわらずこうしたプロダクトの責任者は「われわれのユーザーの行動を詳しく観察した結果だ」とか「他人の動向を気にしたことはない」とか述べるのが普通だった。
しかしシステムは大胆にも真実を口にした(強調は筆者)。
これはフォーマットの問題だ。新しいフォーマットをサービスに取り込んで、独自の性格をもたせることができるかどうかだ。【略】
誰もが周囲を見回して最良のフォーマット、最高の先進テクノロジーを採用しようとする
Snapchatで好評の顔フィルターは既存の顔認識テクノロジーを採用したものだ。スライドショーももちろん既存の技術だ。スライドショー作成はFlipagramがだいぶ前から提供している。シリコンバレーのおもしろいところはここだと思う。ゼロから新しいプロダクトを考えつくのは不可能だ。 しかし「このフォーマットはここがすごい」と見極めて、それを自分のサービスに適用することはできる。
Snapchatは非常にいい仕事をした。Facebookもいい仕事をした。Instagramもいい仕事をした。われわれはみないい仕事をしたと思う。彼らはあれを発明した。われわれはこれを発明した。そういう世界だ。
Gmailだって最初のメール・クライアントではない。Googleマップも最初のオンライン地図ではない。iPhoneが最初の携帯電話ではないのは誰もが知っている。重要なのは既存のフォーマット何を付け加えられたかだ。【略】
エンジニアリングの世界でこれは「正しいやり方(The Right Thing)」と呼ばれている。困難な問題を解決するために誰もが採用すべきベストの方法といった意味だ。テクノロジーのバックエンドに「正しいやり方」を採用したプロダクトには、「自分が発明したのではない」としても、標準に成長したものが多数ある。Amazon Web Services、Twilio SMS、各種のMySQL データベース、みなそうだ。
しかしシリコンバレーには病んだプライドが蔓延しており、本質的にはコピーであるにもかかわらず、見た目を少々変えるだけで独自性を主張する例が多い。
しかしシストロムはプライドという病とは無縁のようだ。願わくば多くの起業家がシストロムを手本として、透明性を口に唱えるだけでなく堂々とコピーしたソースを名指せるようになってもらいたいものだ。
Instagram Storiesについてのわれわれの記事はこちら。:
- Instagram launches “Stories,” a Snapchatty feature for imperfect sharing
- How to use Instagram Stories, explained in GIFs
[原文へ]
(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)