米国人は、人との出会いの機会まで、Facebookを信頼するつもりなのだろうか?米国連邦取引委員会が、プライバシー保護に関する過失に対して、Facebookに記録的な50億ドル(約5345億円)の罰金を科し、ユーザーのプライバシーを扱う際の判断について、より重い責任を負うよう、企業としての構造改革までを課してから、まだほんの1カ月ちょっとしか経っていないというのに。このような歴史的なできごとに引き続いて、Facebookはまったく新たな出会い系サービスを全米で開始した。同社が保有しているユーザーの個人データを利用して分析することで、Tinder、Bumble、Matchなどといったライバルの出会い系アプリよりも、適切なマッチングを提案できるとされている。
今回米国で利用可能になったこのFacebook Datingでは、Instagramの投稿を出会い用のプロフィールに組み入れたり、Facebookの友達やInstagramのフォロワーを「Secret Crush」(秘密のパーティ)リストに追加できるようになった。
年末までに、Facebook Datingのユーザーは、自分でFacebookやInstagramストーリーを選んで、出会い用のプロフィールに追加できるようになる。
自分に合う人をFacebookに見つけてもらう
Facebook Datingにとって、米国は20番目の市場だが、このサービスにとって最も重要な国の1つには違いない。ちなみにFacebook Dating自体は、昨年のF8デベロッパーカンファレンスで初めて発表されたもの。
この新しいサービスは、Facebookを友達や家族ではない人とつながるためのツールにするための重要な一歩となる。
同社は今、この分野に多大な金額を投資している。毎月10億人が使用しているFacebookグループのサービスが、関連するグループとも連携して、似通った趣味を持っていたり、地理的に近いといった条件で、ユーザーを結び付ける。同社は数年前にもFacebook at Workを立ち上げ、企業がFacebookのインフラを利用して、独自のネットワークを構築できるようにしていた。
こうした取り組みはどれも、ユーザーのFacebookデータをすべて公開してしまうことに比べれば、さほどの信用を必要とするものではないのは確かだろう。そもそもFacebookは、ユーザーデータの不適切な利用で知られている会社なのだし、それで愛が見つけられるのなら安いものだ。
もちろんFacebookも、このようなサービスには潜在的なプライバシーの落とし穴があることは十分にわかっている。そこで同社は、Facebook Datingの機能を完全に隔離してしまうための対策も、いくつか用意している。家族や友達、あるいは会社の同僚や、仕事上の付き合いのある人、もっと言えば配偶者や伴侶にうっかりバレないようにするためだ。
まず、Facebookで友達になっている人は、Facebook Datingに表示されない。さらに、Facebook Datingに表示される人を、共通の友達がいない人だけに限定するような設定も可能だ。他にも保護機能はある。ユーザーは、自分のFacebook Datingのプロフィールが、特定の人からは見られないよう、先手を打ってブロックすることもできる。たとえば分かれた相手のプロフィールは絶対に表示されないようにしたり、逆にそうした相手から自分のプロフィールが見られないようにすることが可能だ。
そしてもちろん、Facebook Datingは明示的に希望した人だけが利用できるサービスだ。
ユーザーの出会い用プロフィールは、友達になっている人や、Facebook Datingに参加していない人からはけっして見えない。ニュースフィードにも表示されない。新たに利用可能となったInstagram統合機能でも、ユーザーの写真だけが表示され、Instagramのユーザーネームは表示されない。
ただし、Facebookの友人を「Secret Crush」に追加する方法は残されている。これは互いの関心が一致した場合にだけ表示される。利用可能な「Crush」は9個までに限られている。この機能の悪用を防ぐためだ。米国での公開に伴い、このようなポリシーはInstagramのフォロワーについても適用されるようになった。
Facebook Datingのサービスは、メインのFacebookアプリに組み込まれている。同じイベントに参加している人や、同じグループのメンバーになっている人ともつながることが可能だが、いずれの機能も初期状態ではオフに設定されていて、個別にオンにすることができる。
それ以外でも、Facebook Datingは、共通の友達がいるとか(その機能がオンの場合)、同じグループに入っているとか(その機能がオンの場合)、学校が同じとか、あるいはその他不明の要因によって、選ばれた人のプロフィールを提示する。
ここから先はちょっとビミョーな話になる。
そもそもFacebookは、友達を推薦するのに、不気味なほど的確なことがあるのは、みんな気付いている。そのため、何らかのスパイ的な機能があるのではないかと疑う人もいる。結局のところFacebookは、ユーザーが誰とつながりを持っているのか、ユーザー自身が気付いているよりも、多くを知っているということなのだ。
Facebook Datingの推奨機能に関しては、ユーザーも知らないどんなデータをFacebookが利用するのか、まったくわからない。
公式には、Facebookは、マッチングの提案は「ユーザーの好み、興味を持っていること、またユーザーのFacebook上での行動」に基づくものだとしている。
Facebook Datingのプロダクト責任者、Nathan Sharp(ネイサン・シャープ)氏は、実のところFacebookは、どのようにしてプロフィールのマッチングをランク付けするか尋ねられたものの、システムの詳細について話すことはできないと述べた。
「私が言えるのは、プライバシーについては、あなたが見かけたり出会ったりした人は、どのような情報も漏らすことはないということです」と彼は説明する。「あなたと、テイラーという人が同じ大学に通っていたとして、あなたはそのことを出会い用のプロフィールに書いてなかったとしましょう。それを人に知られたくなかったとします。その場合、テイラーさんは、あなたがどの大学に行ったのかを知ることはないし、テイラーさんがどの大学に行ったのか、あなたが知ることもないでしょう」とシャープ氏は言う。
シャープ氏は、むしろFacebook Datingのチャット機能を使った会話を通じて、例えば母校が同じといった共通点を、自然に発見していくものだと述べている。
出会い系アプリのメーカーが、秘密のレシピについて口を閉ざすのは珍しいことではないが、Facebookがこの機能のために利用できるデータの量は、競合に比べて有利に働くだろう。ただそれだけに、Facebookが見えないところで扱っているプロフィールデータについて、ユーザーがどこまでコントロールできるのか、疑念を持たれる可能性もある。
例えばTinderでは、「ハイキングが大好き」と自分で書くことができるが、Facebookでは、ユーザーが実際にハイキング関連のグループやイベントに参加したかどうか、そしてその頻度までが考慮されるだろう。本当はもっと多くのことを知っているかもしれない。ユーザーがハイキングの場所にチェックインしたこと、山が写っている写真を投稿したこと、「ハイキング」というキーワードを含むコメントを書いたこと、ハイキングに関連するFacebookのページに「いいね」を付けたことなど、みんな筒抜けだろう。しかしFacebookは、この種のデータが使用されるかどうか、だとしたらどのように使われるのか、一切明らかにしない。
もしユーザーが、自身の個人データをFacebookがどのように使おうと構わないというのなら、このようなサービスのメリットはいくらでも挙げることができる。ただし、それは米国市場では、あまりありそうもないことだが。
Facebook Datingの大きな目標は、出会い系のサービスを、パーソナルなものと感じられるようにすることにある。つまり、表示されるプロフィールの背後には、現実の人がいることを意識させること目指している。そしてその出会いを、ゲームとして扱うことは意図していない。これは、出会い系アプリにはうんざりしているのに、使わずにはいられないという人にとっては、差別化の要因となるかもしれない。
これまでの出会い系アプリには、いろいろなつながりを築くために、長く使い続けようという気にさせるものが欠けているという問題があった。結局のところ、相手を見つけることができると、人は出会い系のサービスの利用を止めてしまうのだ。これは、アプリの収益にとって最悪だ。それでは、ユーザーが使い続けてくれるようにするためには、どうすればいいのだろうか?例えば、Tinderがやっているように、「独り暮らし」というライフスタイルを推奨すればいいのだろうか?
Facebookの場合、ユーザーが離れてしまうことは、それほど心配していない。なにしろFacebookには月間24億人のユーザーがいる。出会い系の機能を、単なるおまけとみなすだけの懐の深さがあるのだ。またその膨大なユーザー数は、出会い系アプリを使おうなどとは考えたこともない人を含めて、出会いの対象となりうる人の潜在的な予備軍を大量に抱えていることを意味する。
またFacebookは、魅力的なユーザー体験を構築する方法を知る企業であるという点でも優位に立っている。出来栄えの良さは、Facebook Datingの随所に見て取れる。たとえばセットアップの際に、性別を設定する画面にスムーズに移行するところとか、最初のデートの際に、安全のため、Messengerを使って信頼できる友達に現在の居場所を簡単に通知する機能など、よくできている。
さらにFacebook Datingでは、一般の出会い系アプリで問題になっている、勝手に写真を送りつけてきたりすることや、ポルノ系ボットによるスパムの送信を、厳重に禁止している。チャットを、テキストとGIFのやり取りのみに制限しているのだ。つまり、URL、写真、支払い要求、動画などをメッセージで共有することはできない。
また、年末までにストーリーも統合されることになっているので、出会い候補の飾らない投稿をチェックすることが、一種の流行になるかもしれない。
最後に言えるのは、これは少なくとも今のところ、出会い系の機能そのものを収益化するために存在しているわけではない。メッセージングや、以前にうっかり削除してしまったプロフィールに戻るなど、本格的な機能を備えたものながら、Facebookは無料で使えるサービスとして提供することができる。そのため、ユーザーからお金を搾り取ろうとするアプリに見られるような制限とは無縁でいられる。
とはいえ、Facebook Datingが、Tinderからあれこれ影響を受けることは避けられないようだ。たとえば、角の丸い「好き」「嫌い」のボタン(なぜそれ以外の選択肢がないのか?)、遺伝的に恵まれた人に有利な写真中心のプロフィール、プライベートなチャット機能、そしてInstagarmの統合といったものだ。
米国に加えて、Facebook Datingはすでにアルゼンチン、ボリビア、ブラジル、カナダ、チリ、コロンビア、エクアドル、ガイアナ、ラオス、マレーシア、メキシコ、パラグアイ、ペルー、フィリピン、シンガポール、スリナム、タイ、ウルグアイ、ベトナムでも利用可能となっている。2020年初頭までにヨーロッパでも使えるようになる。
同社は、Facebook Datingに参加しているユーザーの数については明かすつもりはなさそうだが、今のところ「そこそこうまくいっている」とだけ述べている。
Facebook Datingは、米国時間9月5日から米国内で18歳以上のユーザーに公開された。
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(翻訳:Fumihiko Shibata)