MITのキャンパスを走り回る自動運転車いす

マサチューセッツ工科大学(MIT)のキャンパスでは、ここ数ヶ月の間、MITコンピューターサイエンス・人工知能研究所(CSAIL)が開発した自動運転車いすをよく見かける。この車いすは、彼らの研究結果を披露する広告塔のような存在であると同時に、自動運転技術を現実世界でテストするための実験台でもある。会話に集中して周りが見えていない学生のグループや、スマートフォンを持って”ながら歩き”をしている学生の進行方向は予測不可能なため、キャンパスの状況は公道に近いのだ。

そもそもこの車いすは、自動運転技術を現実世界でテストするために作られたものだ。一般的に、自動運転車を公道でテストするのは難しく、特に人口密度の高いボストンのような街では、試験走行を行うまでにさまざまな規制上のややこしい手続きを踏まなければならない。

近くにある軍用基地が試験走行の候補地として浮上したが、MITは2トンもの鉄の塊を走らせる前に、自分たちのアイディアを試すための手段が必要だと考えた。CSAILが開発した車いすは、ちょうど自律型の自動運転車と遠隔操作型の車の中間に位置するため、研究者はスピーディーに問題点を改善できる。障害を持つ人たちを対象としたユースケースはその中で偶然生まれたものだった。

「現在行っている研究では、車いすはあくまでプラットフォームのひとつとして利用されていますが、車いすに特化した研究を行おうとしている人もいます」とロボットソフトエンジニアのThomas Balchは話す。「私が(CSAILに)入って以降、身体的な障害を持った人たちをターゲットにした研究がたくさん行われています」

彼らの車いすには、実寸の自動運転車と同じライダー(レーザーの反射光から障害物との距離を測るセンサー)のほか、自動運転技術がもてはやされ始めるよりもずっと前の2010年にCSAILがシンガポールの道路用に開発したマッピングテクノロジーが搭載されている。背もたれの上部に取り付けられたこのシステムが、周囲の定点(不規則に並んだFrank Gehry設計のStata Centerの壁)をもとに3Dマップを作成し、前方に搭載された小さなセンサーが進行方向にある障害物を検知するようになっている。

Balchと研究助手のFlix Naserのおかげで、私はStata CenterのロビーでCSAIL製の車いすに乗ることができた(結果的に私が想像していたものとは少し違うキャンパスツアーになった)。まず、ジョイスティックと背もたれに搭載された3Dマッピングシステムを使って進路をマッピングする。といっても、今回の走路はロビーの一方からもう一方までほぼ直線で進むというシンプルなものだった。マッピングが完了すると、手元の大きなタブレットに進路が色付きの線で表示される。壁は真っ黒なブロックとして表れ、ロビーにいる人の脚はさまざまな色の点で表示されていた。ロビーの俯瞰図のような地図はそれほど複雑ではないが、センサーがきちんと機能していることがわかる。

動きは一般的な電動車いすのように、スムーズかつゆっくりとしていた。システムが人間を感知すると、車いすは速度を緩めて完全に停止し、進行方向を修正してから人を避けていく。このプロセスにかかる時間は10〜15秒ほどだった。強いて言えば、現時点ではかなり慎重な設定がされていて、周囲に誰かが近寄るとすぐに車いすが停止するようになっていた。車いすとしては注意深すぎるくらいがちょうどいいのかもしれないが、自動車としてはすこし過剰な気もする。

走行中は、緊急ブレーキのためにXboxのコントローラーを手にしたBalchが車いすの背後についてまわっており、これだけゆっくりと走るものでも人間の補助を完全に取り去るまでにはかなりの努力が必要だということを物語っていた。その一方で、このくらいゆっくりで周囲への影響が少ないセッティングの方が、バグを処理する上では安全だと言える。

しかし、システムが完成すれば、彼らの車いすは人の多い病院でも患者を移動できるようになるかもしれない。MITは現在世界中の病院とパイロットプログラムに関する話を進めているが、このCSAILの自動運転車の研究が商業的な成果に繋がるのは、まだ先のことになりそうだ。

原文へ

(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。