Mozilla前CEOが設立したBraveが30秒で3500万ドル調達――テック界に広がるICOの可能性

暗号通貨の売却を通じて資金を調達するイニシャル・コイン・オファリング(ICO)に関しては、さまざまなニュースを目にするが、昨日の出来事ほど衝撃的なものはなかった。Mozilla前CEOのBrendan Eichが立ち上げたブラウザ開発企業Braveが、ICOで3500万ドルを調達したのだ。しかも、30秒以内に。

ICOでは投資に対して暗号通貨が配布されるようになっており、投資家は従来の株式よりも多様な形で資産を保有することができる。Braveは資金調達にあたり、独自の通貨Basic Attention Token(BAT)を10億枚売却した。その総額は15万6250ETH(=3500万ドル強)。同社によれば、さらに5億万枚のBATがユーザー獲得や「BATの開発」のために発行されたが、将来的な追加販売は考えていないという。

BraveのICOは過去最高額にあたり、彼らのビジネスはブロックチェーン技術のユースケースとしてはかなり興味深い。JavaScriptの考案者で2014年の疑惑のあとにMozillaを去ったEichは、Founders Fundをはじめとする投資家からこれまで700万ドルをBraveのために調達してきた。現状のネット広告のシステムに本質的な問題があると考えている彼は、ブロックチェーン技術を使って広告システムを効率化し、広告主や出版社、ユーザーという全ての関係者がメリットを享受できるような仕組みを提唱している

北米の若者に人気のメッセージングサービスKikも、モノやサービスの購入に使える”Kin”と呼ばれる仮想通貨の構想を最近発表し、Braveの後に続こうとしている。BraveはBATを広告システム内で流通させようとしており、同社によればBATの導入によって、広告詐欺を抑制できるとともに、出版社や広告主の効率性も向上するという。さらに彼らは、将来的にマイクロペイメントや電子商品の購入にもBATが使えるよう研究を重ねている。

また、Braveは同社のブラウザのメリットとして、短い読み込み時間、強固なプライバシー管理機能を挙げているほか、ユーザーはBraveのブラウザ上でコンテンツを読むだけでお金を稼ぐことができるようになるかもしれない。

直近では、ICOで調達した資金を使って広告プラットフォームの開発を進める予定だ。

ところで、BraveのICOで気になったのは参加者の少なさだ。Coindeskによれば、実際にBATを購入した人は130人しかおらず、中にはひとりで460万ドル(=2万ETH)分のBATを購入した人もいた。全体で見ると、投資総額の約半分がたった5人の投資家によるもので、投資額上位20人が発行されたBATの3分の2を手にしたとCoindeskは報じている。

この状況は、暗号通貨を使った資金調達によって、日常的に使っているサービスの開発元や気になっている企業の所有権を誰でも得ることができるという、Ethereumの哲学に反しているように映る。もちろん、何億ドルという金額の仮想通貨を販売するためには、冒険心溢れる企業や先見性のあるVCのように、多額の資金を運用している投資家も必要だが、個人投資家が入り込める余地を残しておくというのは、ICOが一般化するにつれて重要な課題になってくるだろう。

ICOのスケジュールについては明かしていないKik以外にも、アジアのペイメント企業Omiseが2000万ドル弱規模のICOを今月行う予定で、暗号通貨を使った資金調達に規模の大きな(そしてVCからの投資を受けている)テック企業も興味を持ち始めているようだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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