TikTokの成長といまだ決着がつかない米政府との確執の軌跡

TikTok(ティックトック)の西欧諸国での人気の高まりは中国テック企業にしては前例のないものだ。世界中の政治家から注がれた注意の量もまた然りだ。ショートビデオの新たな「コピーキャット」ととらえられていたTikTokがいかに世界で圧倒的なシェアを手にし、やがて米政府の標的となったのか。タイムラインにまとめた。

2012〜2017年:TikTokの登場

この期間はTikTokの親会社で北京に本社を置くByteDance(バイトダンス)が急成長していた。元々はDouyinとして中国で立ち上げられたビデオシェアのアプリは、海外に目を向ける前に瞬く間に中国マーケットで成功を収めた。

2012年
29才のシリアルエンジニアであるZhang Yiming(張一鳴、チャン・イーミン)氏が北京でByteDanceを立ち上げる。

2014年
中国人プロダクトデザイナーAlex Zhu(アレックス・ジュ)氏がMusical.lyを立ち上げる。

2016年
ByteDanceがDouyinの提供を開始する。多くの人はMusical.lyのクローンだととらえていた。同年後半にDouyinの海外バージョンを立ち上げる。

2017〜2019年:TikTokが米国でサービス提供開始

TikTokはMusical.lyと合併し、米国でサービスの提供を開始する。すぐさま人気となる。米国でそこまで成功した中国のテック企業のソーシャルメディアアプリは初めて。しかし同時に、トランプ政権下での米国・中国間の貿易戦争と中国テック企業(HuaweiとZTEを含む)への高まる疑念を背景に、アプリの所有が国家安全保障と検閲についての疑念につながる。

2017年

11月 ByteDanceがMusical.lyを8〜10億ドル(約830〜1040億円)で買収

2018年

8月 TikTokがMusical.lyと合併し、米国で利用できるようになる

10月 TikTokがダウンロード数でFacebook(フェイスブック)、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、YouTube(ユーチューブ)を上回る

11月 フェイスブックがTikTokのライバルLasso(ラッソ)を立ち上げる

2019年

2月 TikTokのApp StoreとGoogle Playでのインストール数が10億回に到達。児童プライバシー法に違反したとして米連邦取引委員会がTikTokに570万ドル(約6億円)の罰金を科す。

5月 TikTokが5四半期連続でApp Storeのチャートで第1位に。

9月 中国政府が神経を尖らせている話題をTikTokが検閲していることが明らかに。

10月 TikTokが政治広告を禁止する。しかし米国の政治に関するハッシュタグについては行動を取らなかった。TikTokは会社法を専門とする法律事務所K&L Gatesに米国におけるコンテンツモデレーションについてアドバイスを求める。米国の国会議員が国家情報局のJoseph Maguire(ジョセフ・マグワイア)氏に、TikTokが国家安全保障の脅威となっていないか調査するよう求める。TikTokは中国政府にコンテンツを削除するよう求められたことはなく、もし尋ねられても削除しないと言明する。

11月 米国の対米外国投資委員会が国家安全保障の懸念でTikTok調査を開始する。InstagramがTikTokのライバルReels(リール)を立ち上げる。ウイグル人虐待についての流出ビデオの削除についてTikTokが謝罪する。

12月 米海軍がTikTokを禁止する

2020年上半期:米政府による厳しい調査のなか成長

TikTokはいま米国で、特にZ世代の間でオンラインカルチャーの主役だ。人々が新型コロナウイルスパンデミックで気分転換を求めるのにともない、TikTokのユーザーベースはさらに広がった。しかしTikTokは米政府の次第にエスカレートする一連の措置に直面し、こうした措置により米国事業の先行きが不透明になった。

TikTokを宣伝するシャツを着ている男性。2020年7月17日金曜日、北京のAppleストア(画像クレジット:AP Photo/Ng Han Guan)

2020年

1月 復活したDubsmash(ダブスマッシュ)がTikTokの喫緊のライバルに成長する。

3月 TikTokが社外の専門家に自社のモデレーションプラクティスを「透明性センター」で調べさせる。米上院議員が米政府のデバイスでのTikTok使用を制限する法案を提出。TikTokがコンテンツポリシー作成で外部専門家を招く。

4月 TikTokがペアレンタルコントロールを導入。ダウンロード数が20億回を超える。

6月 コンテンツレコメンデーションのシステムがどのように機能しているかを公開する。YouTubeがTikTokと競合するサービスを立ち上げる。

7月 フェイスブックがTikTokのライバルサービスLassoを閉鎖。米国はTikTok禁止を検討中だと国務長官Mike Pompeo(マイク・ポンペオ)氏が発言。TikTokが米国クリエイターのための2億ドル(約208億円)のファンドを発表。トランプ大統領は報道陣に対し、TikTok禁止で大統領の権限を使うと話した。

2020年下半期:TikTok vs 米政府

トランプ大統領は数週間検討した後、ByteDanceに対する大統領令に署名した。ByteDanceはTikTokを買収する米国企業探しを開始する。しかし同時に同社は大統領令について法廷で争っている。2020年最後の数カ月は情け容赦なく、また往々にして混乱するようなものだった。突然の動きや新たな展開もあり、出口は見えない。

8月 報道によると、ByteDanceはTikTokの米国事業を売却し、Microsoft(マイクロソフト)が引き継ぐことに同意。トランプ大統領がByteDanceとマイクロソフトの案に反対の意を表す。マイクロソフトはTikTokの買収についての協議が9月15日までに完了すると発表。トランプ大統領は主張のトーンを変え、TikTok売却額の減額に言及。TikTokは米国の選挙を前に事実チェックに関する提携を拡大する。

8月7日 米政府とTikTokの間の緊張が激しく高まる中で、トランプ大統領はByteDanceとの「取引」を45日以内、あるいは9月20日に禁止する大統領令に署名。TikTokは、大統領令は「適正な手続きを経ずに出され、米国の遵法精神に対する国際企業の信頼を損なうリスクがある」と述べる。

8月9日 TikTokがトランプ政権の禁止令に抵抗するとの報道。Oracle(オラクル)もまたTikTok売却に関心を示していると伝えられる。

8月24日 TikTokとByteDanceが大統領令に関して、トランプ大統領と国務長官Wilbur Ross(ウィルバー・ロス)氏、米商務省を相手どって連邦裁判所に提訴する。訴訟で米政府によるTikTok禁止の回避を模索。カリフォルニア州の連邦地裁に提訴し、大統領令は違憲と主張。TikTokの米国ユーザー数が1億人に到達。

8月27日 TikTokのCEO、Kevin Mayer(ケビン・メイヤー)氏が就任100日で辞任。

ケビン・メイヤー氏(画像クレジット:Jesse Grant/Getty Images for Disney)

Walmart(ウォルマート)がTikTok買収でMicrosoftと提携することに関心を示す。

8月28日 中国の輸出法改正により、TikTokの売却が不可能になる恐れ。

9月

TikTokを米国企業に売却するより閉鎖が好ましいと中国が発言。

9月13日 ByteDanceが財務省に提出した、Oracleが「信用できるテクノロジー提供社」となるとの提案の事実をOracleが認める。

9月18日 商務省が2段階で発効するTikTokに対する規制を発表。TikTokは米国のアプリストアで9月20日以降は配布されない。しかし11月12日までは延長が認められる。それ以降は米国のインターネットホスティングサービスを使用することはできない。つまりTikTokは使用不可となる。

商務省の発表があった日に、TikTokへの大統領令に対する2つの訴訟が起こされた。1つはByteDanceがによるもの、もう1つは3人のTikTokクリエイターによるものだ。

コロンビア地区連邦地方裁判所にTikTokとByteDanceが起こした訴訟ではトランプ大統領と国務長官のロス氏、米商務省を被告としている。その前にByteDanceがカリフォルニアで起こした訴訟とかなり似ている。TikTokとByteDanceの弁護士は、大統領令が行政手続法や言論の自由に反し、適正な手続きを経ていないと主張。

TikTokのクリエイターであるDouglas Marland(ダグラス・マーランド)氏、 Cosette Rinab(コセット・リナブ)氏、Alec Chambers(アレック・チャンバー)氏が起こしたもう1つの訴訟も、トランプ大統領と国務長官ロス氏、米商務省を被告としている。ペンシルベニア東部地区連邦地方裁判所に提出された訴状には、大統領令が「米憲法修正第1条と第5条に違反していて、大統領の法的権限を超えている」とある。

9月19日 Google(グーグル)とApple(アップル)がそれぞれのアプリストアからTikTokを削除することを余儀なくされるかもしれない9月20日の期限の前日、商務省が期限を1週間伸ばして9月27日とする。これはByteDanceとOracle、そしてWalmartに案件をまとめる時間を与えるため。

同じ日に3人のTikTokクリエイター、マーランド氏、リナブ氏、チャンバー氏が大統領令の予備的差止め命令を求める初の行動に出る。3人はTikTok禁止が発効すれば、プロモーションやブランディングなどTikTokに関連する活動で収入を得ることができなくなるため、大統領令が言論の自由に反していて、また「適正な手続きなしに保護された自由と財産権」を奪っていると主張。

9月20日 大統領令についてD.C.地区連邦地区裁判所に訴えを起こしたあと、TikTokとByteDanceはカリフォルニア州の連邦地裁に起訴し、係争中だった似たような内容の訴訟を正式に取り下げる。

9月21日 ByteDanceとOracleがディールを認めるも、TikTokの所有権をめぐり矛盾する声明を出す。TikTokは推定600億ドル(約6兆2000億円)と評価される。

9月22日 中国の国営新聞は中国政府が「恐喝だ」としてTikTok売却を承認しないだろうと報道

9月23日 TikTokとByteDanceは、アプリストアからTikTokを削除する9月27日の禁止措置は、係争中に直接的かつ喫緊、そして取り返しのつかない害を原告に与えると主張し、コロンビア地区連邦地方裁判所に大統領令の予備的差止め命令を求める。

9月26日 連邦地方裁判所の判事、Wendy Beetlestone(ウェンディ・ビートルストーン)氏は、マーランド氏、リナブ氏、チャンバー氏による予備的差止め命令の求めを却下。「もしユーザーあるいは見込みユーザーが9月27日以降にTikTokをダウンロードしたりアップデートできなくてもアプリを使うことはでき、3人がすぐに取り返しのつかない害に苦しむことを証明していない」とした。

9月27日 TikTok禁止が発効する数時間前に連邦地方裁判所の判事、Carl J. Nichols(カール J・ニコルス)氏は、アプリが国家安全保障にリスクを与えているかを裁判所が検討する間、ByteDanceの予備的差止め命令の求めを認めるとした。

9月29日 TikTokが米国選挙ガイドをアプリ内で立ち上げ。

10月

コメディアンのサラ・クーパー氏のページがTikTokアプリに表示されている、ワシントンD.C.、8月7日(画像クレジット:Drew Angerer/Getty Images)

SnapchatがTikTokのライバルとなるサービスを立ち上げ。TikTokがヘイトスピーチ対策をとっていると話す。TikTokがソーシャルコマースでShopify(ショピファイ)と提携。

10月13日 最初に求めた予備的差止め命令は認められず、クリエイターのマーランド氏、リナブ氏、チャンバー氏は2つめの予備的差止め命令を申し立てる。今回の申し立ては、ユーザーがTikTokに投稿したコンテンツにアクセスできなくなる商務省の11月12日の期限にフォーカス。

10月30日 判事のビートルストーン氏がマーランド氏、リナブ氏、チャンバー氏の申し立てを認める。

11月

11月7日 投票から5日後、Joe Biden(ジョー・バイデン)氏が次期大統領に選ばれたとCNNが報じ、AP通信、NBC、CBS、ABC、Fox Newsも続いた。バイデン氏は2021年1月20日に就任を宣誓する予定で、これによりTikTokに対する大統領令の今後はさらに不透明なものになる。

11月10日 ByteDanceは、TikTok米国事業の11月12日までの売却を強制する米政府の売却命令を無効とするよう米連邦控訴裁判所に申し立てる。ByteDanceは対米外国投資委員会に延長を求めたがまだ認められていないと話した。

11月12日 本来なら商務省のByteDanceとの取引を禁止する命令が発効する日だった。しかし米政府がTikTokの今後について矛盾したメッセージを出し、混乱したものに。商務省は、さらなる法的展開を保留するという、判事のビートルストーン氏が10月30日に認めた予備的差し止め命令に従う、と述べる。しかし同時に、司法省はビートルストーン氏の裁定について上訴する。その後、判事のニコルス氏がD.C.地区連邦地区裁判所に提訴された件で、原告、被告ともに申し立てと新たな書類を提出する期限(12月14日と28日)を設ける。

11月25日 トランプ政権が売却命令の7日間延長をByteDanceに与える。TikTok売却の完了期限は現在12月4日となっている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:TikTokアメリカ

画像クレジット:AaronP/Bauer-Griffin/GC Images / Getty Images

原文へ

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。