ライドシェアリングサービスを運営する企業が、車での移動という既存のサービスと全く異なる製品やサービスを提供できるということはめったにない。しかし、東南アジアでUberとの競争を繰り広げているGrabが、まさにそれを行おうとしている。
シンガポールを拠点とするGrabは、本日(米国時間7月22日)、同社のペイメントシステムを利用して、ユーザーがGrabのサービス以外の支払も行えるようにしていくと発表した。「GrabPay」はGrabのキャッシュレスデジタルウォレットサービスで、年初にはじめて発表されて以降Grabアプリ内に設置されている。
「Grabは、ペイメントプラットフォームをGrabPay内のモバイルウォレットオプションとして、Grabアプリ上に統合していきます。これにより、モバイルユーザーはGrabアプリを使って、日々の交通手段だけでなく、その他の生活サービスの支払も行えるようになります」と同社は説明した。
Grabは、はじめに2億5000万人の人口を誇る東南アジア最大の国インドネシアをターゲットとし、今年中に「ペイメントプラットフォーム」をインドネシアのユーザーに対して提供しようとしている。このプロジェクトでGrabは、インドネシアの10億ドル規模の小売コングロマリットLippoとパートナーシップを結んでいる。Lippoは、Grabの投資家でもあり、近年eコマースやテック投資の分野へ進出している。GrabにとってLippoは初めての小売パートナーであり、Lippoのビジネス(デパート、映画館、オンラインショップなど)の顧客に対してGrabアプリを通じての支払サービスを提供していく。そのうち、他の小売企業もGrabのプラットフォームに加わっていくかもしれない。
ライドシェアリングからペイメントサービスというのは不思議な拡大路線のように感じられるが、市場全体を支配するひとつのペイメントシステムが存在しない新興市場においては、とてもロジカルな動きだといえる。ペイメントサービスを提供することで、今後さらにサービスの利用頻度が増えることが予想される既存顧客との結びつきを強めるだけではなく、もっと多くの人にサービスの魅力を伝えることでGrabのユーザーベースを拡大することにもつながる可能性があるのだ。東南アジアでは、「クラウド」という言葉には効き目がある。というのも、オンラインペイメント業界は、モバイルオペレータや銀行、Lineのようなメッセージアプリを運営する企業などがそれぞれのサービスを市場に売り込んでおり、細分化がかなり進んでいるのだ。Lippoとの協業は、間違いなくGrabにとって大きな後押しとなるが、決してそれで勝負が決まってしまうわけではない。
「東南アジアでのペイメントプラットフォーム開発の可能性は無限大です」とGrab CEOのAnthony Tanは、声明の中で語った。「東南アジアの人の大半が携帯電話を持っていながら、銀行口座を保有していません。私たちは、彼らにお金の管理ができるようなキャッシュレスソリューションを提供する必要があると考えており、モバイルウォレットはその一歩となります」
実は同様の動きは既にアジアで起きていた。Uberのインドのライバルであり、Grabと協力関係にあるOlaは、昨年11月にOlaアプリ内のペイメントシステムを、スタンドアローンのアプリとして展開していた。Grabは、少なくとも当面の間、ペイメントシステムをコアとなるGrabアプリ内にとどめておく意向だが、間違いなく同社は「アンチUber同盟」の仲間であるOlaにコンタクトをとり、ペイメントプラットフォームに関するヒントやアドバイスを求めていただろう。
Grabは、インドネシアがライドシェアリングの乗車数で最大の市場であると言っていたものの、同社のビジネスは今後インドネシアからさらに拡大していくと考えられ、今回のGrabPayのプラットフォーム構想が、どこかの時点でさらに5つの市場(シンガポール、タイ、ベトナム、フィリピン、マレーシア)への拡大を想定していることを示唆していた。
「私たちは、各地域のローカルパートナーと協力し、東南アジアの大部分でキャッシュレス決済を現実のものにしていきます」とGrabは声明の中で述べた。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)