バイデン大統領のEV販売目標達成に向けて、自動車メーカーが政府の投資拡大を要請

Joe Biden(ジョー・バイデン)大統領は、2030年までに米国の新車販売台数の半分を低エミッションまたはゼロエミッション車にするという意欲的な新目標を発表するが、この計画について、ビッグ3の自動車メーカーは、政府による多額の支援が必要であるとしながらも、一定の支持を表明している。

General Motors(ゼネラルモーターズ)、Ford(フォード)、Stellantis(ステランティス、旧Fiat Chrysler)の3社は現地時間8月5日に共同声明を発表し、10年後までに新車販売台数に占める電気自動車の割合を40~50%にするという「共通の目標」を掲げた。ただし、この目標は「ビルド・バック・ベター(より良い復興)プランで政府が約束した一連の電化政策が適切に展開される場合にのみ達成できる」と注記されている。

具体的な投資としては、消費者へのインセンティブ、米国全土の「十分な量」のEV充電ネットワーク、研究開発への資金提供、製造・サプライチェーンへのインセンティブなどが挙げられている。

現地時間8月5日に大統領令として発表される予定のバイデン大統領の目標は、拘束力はなく、完全に自主的なものだ。この目標には、バッテリー、水素燃料電池、プラグインハイブリッドを搭載した車両が含まれる。

ホワイトハウスで開催される新しい目標に関するイベントには、自動車メーカー3社の幹部と全米自動車労働組合の代表者が出席。Elon Musk(イーロン・マスク)CEOのツイートによると、テスラは招待されなかったようだ。

ホワイトハウスが同日発表したファクトシートによると、バイデン大統領は、トランプ大統領の任期中に緩和された2026年までの乗用車および中・大型車の新しい燃費基準も強化する。この新基準は、米国運輸省と米国環境保護庁の管轄下で策定されるが、自動車メーカーにとっては驚きではない。この新基準は、すでにバイデン大統領の、いわゆる「Day One Agenda(初日のアジェンダ)」に含まれており、気候変動への取り組みの基礎となっている。

新基準は、2020年カリフォルニア州で可決された、自動車メーカー5社(BMW AG、Ford、本田技研工業、Volkswagen AG、Volvo AB)の連合体と協力して決定された基準を参考にしていると思われる。これらの自動車メーカーは8月5日、ホワイトハウスの排出量削減計画を支持するとした別の声明を発表したが、ビッグ3と同様、排出量削減目標を達成するためには、米国政府による「大胆な行動」が必要であるとしている。

2030年への道のり

Edmunds(エドモンズ)のインサイト担当エグゼクティブディレクターであるJessica Caldwell(ジェシカ・コールドウェル)氏は、声明の中で、バイデン大統領の拘束力のない命令は象徴的なものに過ぎないが、目標は達成可能であると述べ、自動車業界のリーダーたちは、誰が大統領であろうと、電化に関しては「以前から『壁に書かれた文字(不吉な警告の意味)』を見てきた」と続ける。

製品開発のリードタイムが比較的長いこともあり、大手自動車メーカーの多くが、少なくともこの10年の半ばまでは、EV(電気自動車)やAV(自動運転車)に数十億ドル(数千億円)規模の投資を行うことをすでに発表している。General MotorsFordは2025年までにそれぞれ350億ドル(3兆8000億円)、300億ドル(約3兆3000億円)の投資を発表しており、Stellantisも同様の発表を行っていることはいうまでもない。フォルクスワーゲンはバッテリーの研究開発に数十億ドル(数千億円)を投じており、さらにVolvo Cars(ボルボ・カーズ)は2030年までに全車を電気自動車に移行するとしている。

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これらの膨大な数字は、自動車メーカー各社の販売目標に沿ったもので、ほぼバイデン大統領の目標と一致している。

一方で、燃費規制については、これまで自動車メーカーの反応は芳しくなかった。General Motors、Stellantis(当時はFiat Chrysler)、トヨタ自動車の3社は、カリフォルニア州が独自の排ガス規制を設定する権限を剥奪しようとするトランプ大統領時代の訴訟を支持していたが、各社とも最終的には180度方針転換し、バイデン大統領は2021年、独自の基準を導入できることとなった。

本質的には、バイデン大統領の発表は気候変動と同様に地政学的な意味合いが強い。彼もまた、電気自動車に関しては「不吉な警告」を見ているのだ。バイデン政権は、ファクトシートの中で、電気自動車や電気自動車用バッテリーの材料について「中国が世界のサプライチェーンを支配しつつある」と指摘し「(中国を筆頭とする)各国は、電気自動車の販売目標を明確に設定することで、部品・材料から最終組立に至る製造部門に民間投資を呼び込む存在となっている」と述べている。

国際エネルギー機関(IEA)によると、米国では2020年、2016年の3倍の電気自動車が登録されたものの、電気自動車の市場シェアではヨーロッパや中国に後れをとっている。

このニュースにはさまざまな反応があり、その中には政権側にもっと断固とした行動を求める環境保護団体もある。Ceres(セレス)の交通部門シニアディレクターCarol Lee Rawn(キャロル・リー・ローン)氏は、将来的な規制は、二酸化炭素排出量を60%削減し、2035年までに電気自動車の販売を100%にするという「明確な軌道」を目指すべきという声明を出している。

現地時間8月5日にホワイトハウスでバイデン大統領と同席する全米自動車労働組合は、Ray Curry(レイ・カリー)会長が声明を出し「(同組合は)厳しい期限やパーセンテージではなく、米国の中産階級の心と魂を支えてきた賃金と福利厚生を維持することに焦点を当てている」と述べた。

画像クレジット:Getty Images

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(文:Aria Alamalhodaei、翻訳:Dragonfly)

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