インターネットを忘れてはいませんか

今起きている「歴史は勝者によって記される」的状況について知りたい人は、Tim WuJohn Gruber の2人による、なぜAppleが90年代終り以来、他を叩きのめしてきたかに関するバトルを読むべきだ。

Wuは、システムのオープン対クローズドが真に意味するところを混同し(彼は様々な定義を用いている)、Appleはクローズドであるにも関わらず成功したと主張している。Gruberは、オープン対クローズドは無関係であり、Appleが成功したのは優れた製品を早く作った(先に市場に出した)からだと言う。Gruberの論旨をつきつめると、「天才が動かしている会社は、そうでない会社より一般に業績が良い」ということであり、私も同意する。

ただし。

インターネットを除いて。

ちなみにGruberの言う「90年代にWintelの複占がMacを圧倒したが、これはMacの質的優位性が底を打っていた時代と一致していた」は正しい。しかし、〈もっと正しく〉言うならば、「インターネット以前時代の終りと一致していた」と言うべきだ。

Apple対Microsoftに関してインターネットとブラウザーを抜きに語ることは、第二次世界大戦を原爆抜きに語るようなものだ。OSのオープン対クローズド、ハードウェアやソフトウェアの質、誰がCEOかなどを中心に会話を構成するのはバカげている。

なぜなら、インターネットなくしてAppleの成功はあり得なかったからだ。

インターネット以前、人々はほぼ全員Officeのことだけを気にしていた。そして、Officeは人々がMacではなくWindowsを選ぶ事実上唯一の理由だった。

私が学生だった90年代初めの、Apple対Windowsのエンドレスな議論を思い出す。Macの方が優れたマシンであり、Officeは何もかもが大きな苦痛だと誰もが言っていた。当時OSを横断してファイルを移動することは困難であり、ふつう、Officeが使いたければWindowsパソコンが必要だった。Macはグラフィックをいじる学生たちのものだった。Windowsマシンは大人のためにあった。

もちろんそれは90年代半ばにすべて変った。人々が主にインターネットを使うためにパソコンを買うようになる前、Appleはひどく痛めつけられていた。市場シェアはあまりに小さく、MicrosoftがMac版Officeを作り続けるかどうかさえ疑問視されていた。

そして、Appleにとって何もかもがほぼ同時にやってきた。1997年にスティーブ・ジョブズが戻ってきた。彼はMicrosoftにMac版Officeを再度約束させた。Wikipediaにこうある。

1997年のMacworld Expoで、スティーブ・ジョブズはAppleがMicrosoftと提携することを発表した。その中には、MicrosoftがOffice for Macintoshを発売する5年間にわたる約束と、Appleへの1.5億ドルの出資が含められていた。この契約の一環としてAppleとMicrosoftは、長年続いていたMicrosoftのWindows OSがAppleの特許を侵害しているとする法廷闘争で和解した[47]。また、Internet ExplorerをMacintoshの標準ブラウザーとして出荷することも発表された。Microsoftのビル・ゲーツ会長はExpo会場の大画面に登場して、MicrosoftがMacのために開発しているソフトウェアの計画について説明し、Appleが再び成功する力になれることを非常に楽しみにしていると語った。この後、スティーブ・ジョブズはExpoの聴衆に向かってこう言った。

「Appleが再び健康になり繁栄するために、手放さなくてはならない物がいくつかある。Appleが勝つためにはMicrosoftが負けなくてはならない、という考えは捨てる必要がある。Appleが勝つためには、Appleが真にすばらしい仕事をしなければならないという考えを受け入れる必要がある。そして、もし誰かが助けてくれるならそれはすばらしいことだ。なぜなら今われわれはあらゆる助けを必要としているからであり、もし失敗して良い仕事ができなければそれは誰のせいでもなく、われわれの責任だ。だから、これは非常に重要な見方だと私は考えている。もしわれわれがMicrosoft OfficeをMacに欲しければ、それを出してくれる会社に少々感謝の意を表すべきだろう:われわれは彼らのソフトウェアが好きだ。この状況をAppleとMicrosoft間の競争と考える時代は終ったと私は考えている。重要なのはAppleが元気になることであり、Appleが業界に優れた貢献をし、再び健康になり繁栄することである。

しかし上記の何よりも重要なのは、インターネットだ。当時Officeは私がパソコンに最初にインストールするソフトウェアであり、Officeのないパソコンは一人前のパソコンではなかった。最近買ったパソコン2台には、Officeをインストールすらしていない。

つまり、1997年にOfficeが重要であったように、本当の意味でAppleの戦いを変えたのはインターネットだった。われわれの生涯で最も重要なバーチャルマシン/オペレーティングシステムであるブラウザー。これを通じてアクセスすることによって、インターネットは戦いの場を完全に公平にした。

突如としてパソコンはOfficeだけのものではなくなり、Office〈と〉インターネットのためになった。Macには少しだけ違うバージョンのOfficeがあり、すばらしいインターネット体験がある。インターネットが成熟し、ブラウザーが良くなるにつれ、「問題」は大きく軽減された。今から5年前、Officeの重要度は下がり、Mac、Windows間の互換性は十分良くなり、もはや完全に問題ではなくなった。

インターネットの高まりとOfficeの落ち込みが、Appleの勝因だ。あるいは、Appleが公平な競争の場を与えられ、Appleに関するすばらしい物事のすべてが、ようやく実際に製品を買うほどの影響を人々に与える機会を得たと言ってもいいかもしれない。世界は、「本当はMacが欲しいけど、Officeが重要すぎる」から、「本当はMacが欲しいけど、こいつら高すぎる」へと変わった。

Office以降、インターネット以前、Appleはもがき苦しんだ。インターネット以降、Appleは勝利した(競争の場が公平になったから。その場合に限りGruberの言っていることはすべて正しい)。あまりに当たり前なのでみんな忘れている。

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(翻訳:Nob Takahashi)

Appleの小売戦略:「作れば、人はやってくる(そして消費する)」を実証

Appleはユニークな会社だ。個々の事業を解体して全体から切り離したとしても、数多くの領域で大いに成功していると考えることができる。ハードウェア会社として、成功している。ソフトウェサービスのプロバイダーとして、成功している。小売店チェーンとして、成功している。そしてAppleの物理的小売店の順調な成長ぶりを見ると、この会社にとって、どの製品よりも、今後数年間で最大のイノベーションを起こす場になるかもしれない。

火曜日(米国時間2/12)、Goldman Sachsの投資家向けカンファレンスの講演で、CookはAppleの小売計画の詳細に立入り、Appleストアの成長と成功、および2013年の拡張と展開戦略変更の計画について話した。AsymcoのHorace Dediuが、公表された数字をビジュアル化して、店舗数、来客数、海外展開などの重要データのグラフ等を昨日ブログに掲載した。

Dediuが注目した中で特に重要な指標は、店舗来客数と店舗数を対比したグラフに示されてる。当初は店舗拡大が早く平均来店数は少なかったが、過去2年間で来店数は急増し、全店舗平均で約100万人の来客を記録している。Appleの今年の戦略の中には、新店舗開業以外に既存店舗を閉鎖して大型店で置き換える計画もあるので、もし今の傾向が続けば、店舗・来店者数比はさらに高くなるだろう。

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Appleが小売事業に投じた資金に関しては、私が先に言ったタイプのイノベーションがさらに増えていく傾向が見てとれる。Asymcoの「施設、工場、設備」への投資のグラフを見ると、「機械、設備、および内部利用ソフトウェア」(オレンジ)の出費が最近急増しているのに対して、土地、建物(青)、施設改善(緑)の伸びは落ち着いている。

2009年末にこのカーブがさらに急な上昇を始めて以来、Appleは独自のiPod Touchベースのレジ・在庫管理システムを導入し(以前はWindows CEベース)、iPadベースの情報コンソールへと移行し、チェックアウトの重きを減らしてジーニアスバーやワンツーワンの顧客対応を強調するよう店舗の構造を変え、顧客向けのEasyPayによるセルフサービスショッピングを立ち上げ、店頭受け取りを導入するなど、およそ世界中が考えているリアル店舗のやり方全般を変えてきた。大げさな話ではない。

もう一つ、このところApple小売部門のリーダーシップに問題が起きていることも思い出してほしい。Appleの小売事業担当SVP、Ron Johnsonは同社小売部門を立上げ成功に導いた実績を認められていたが、2011年6月に会社を去った。半年にわたる後任探しは、2012年1月にDixonsのCEO John Browettを雇うという議論を呼ぶ結果となった。Browettは1年ももさず2012年10月に解任された。Appleは未だにBrowettの後任を探している。

Appleは商売を見えにくくしつつ、売上を伸ばしている。

小売部門に明確なトップのいないことが、小売事業に不安をもたらすかと思われたが、組織のこうした変動にも関わらず、2012年はAppleの小売事業にとって最大の年だった。CEO Tim Cookは、中でも小売店はiPadの2010年発売以来の圧倒的成功に寄与していると語った。

Cookは、「小売」という分類はAppleが店舗で実現しようとしていることを十分に説明しておらず、今後益々その度合いは高まっていくだろうと言った。この会社は、iOSからファイルシステムなどの要素を隠し、あるいは消費者向けデバイスから拡張性やモジュール性をなくす代りにスムーズでユーザーに優しい外観を優先させたのと同じように、店舗での体験からできる限り商業的要素をなくそうとしている。それでも、その報酬は顧客の消費増加となって返ってきている。

イノベーションは、革新的スマートフォンや画期的PCデザインで測ることもできるが、長年を経た慣習を変える継続的な努力による総合的効果で測ることもできる。Appleの小売への取り組みは後者のタイプであり、同社の投資傾向から見るに、今後もまだまだ続きそうだ。

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(翻訳:Nob Takahashi)