ソニー、留守でも生活支援サービス業者が開錠できる「MANOMA Entrance」を提供開始

eng-logo-2015ソニーネットワークコミュニケーションズが提供するスマートホームサービスMANOMAが、不在時でもサービス業者が家のスマートロックを解除し、家事代行などのサービスを受けられる「MANOMA Entrance」を3月1日より開始します。

MANOMAは、ソニーネットワークコミュニケーションズが2018年10月に発表したスマートホームサービス。Alexaに対応したAIホームゲートウェイを中心に、室内カメラや開閉センサーなどを組み合わせ、留守中の家の様子を確認したり、留守時に開閉センサーが作動すると警報を鳴らし、オプションでセコムが駆け付けるなど、セキュリティに強いのが特徴です。

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あらたに提供されるMANOMA Entranceは、予約した日時にサービス提供業者が自宅を訪問し、適切なスタッフであることを認証したうえで玄関の鍵を開錠します。あらかじめ鍵を預けておいたり、時間になったら自分で遠隔操作をする手間がないのが特徴です。

室内カメラを使って作業スタッフの様子を確認でき、必要なら直接スタッフとの会話も可能とのこと。

3月から開始するのは、家事代行のダスキン メリーメイドとベアーズ、ハウスクリーニングのおそうじ本舗、ペットシッターの麻生PETの4サービス。2月15日から順次、各サービスの申込受付を開始します。

なお、サービスを受けるには、MANOMAを利用しており、かつQrio LockとQrio HubをMANOMAに登録していることが条件となります。

今後、対応サービスとして、介護やヘルスケア、宅配、ECなどとの連携も検討しているとのこと。宅配業者と連携できるようになると、宅配ボックスも不要で配達員が家の中に荷物を置く、米AmazonのKeyのようなサービスが実現できるかもしれません。

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Engadget 日本版からの転載。

機械学習でミツバチを救え

機械学習とそれに関連したあらゆる”AI”は、この世のほぼ全ての問題に取り組むために使われているが、憂慮すべき勢いで続くミツバチの減少を阻止するための取り組みはまだ不足している。実際に、それは技術の素晴らしい応用であり、ミツバチと養蜂家たちが、その群れを健康に保つことを助けてくれるだろう。

私たちの大切なミツバチに対する最新の脅威はミツバチヘギイタダニである。これはミツバチの巣に住み着き、ミツバチと幼虫の両方の血を吸う寄生虫だ。それがハチを完全に殺してしまうことは多くないものの、ハチを弱らせ、幼虫も弱らせたり発育不全にしたりする可能性がある。時間が経つにつれて、コロニーの崩壊につながる可能性があるのだ。

困ったことに、注意深く観察しない限り、ダニを目にすることはできない。なにしろダニなのでとても小さいのだ。さしわたしせいぜい1ミリ程度のものである。このため、ダニの寄生は発見されないまましばらく進行することになる。

もちろん群れを心底気にかけている養蜂家たちは、このことを避けたい。しかしそのための解決策は、平たい板を巣箱の下に置き、それを2、3日おきに引き出して落ちている様々なゴミなどの中から、小さなダニの死体を見つけるといったやり方だった。それは骨の折れるそして時間のかかる仕事である、そしてもし少しばかり見逃してしまったならば、寄生状態が悪くなっているのではなく、改善していると考えてしまうかもしれない。

これを救うのが機械学習だ!

これまでに10億回ほど主張しているが、機械学習が本当に得意なのは、様々な小さな形状のもので覆われた表面の中から、目標となるもの(例えばミツバチヘギイタダニの死体)を選り分けることなのだ。

スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の学生たちがApiZoomという名の画像認識エージェントを作成した。これはダニの画像を使って訓練されており、写真からダニの死体を瞬時に選り分けることができる。養蜂家がする必要があるのは、定期的にスマートフォンで写真を撮り、それをEPFLのシステムにアップロードすることだけだ。

このプロジェクトは2017年に始まり、それ以来モデルは何万枚もの画像でトレーニングされ、約90パーセントの検出成功率を達成した。プロジェクトのAlain Bugnonが私に語ったところによれば、これはほぼ人間の成績に匹敵するそうだ。現在の計画は、できるだけ広くアプリを配布することだ。

「私たちは2つのフェーズを考えています。まずウェブソリューション、そしてスマートフォンソリューションです。これら2つのソリューションは、巣箱への寄生率を推定することを可能にしますが、もしアプリケーションが1つの地域で大規模に使用されている場合には」とBugnonは言う。「自動的に包括的なデータを収集することによって、地域や養蜂家の非定型的な習慣、さらにはミツバチヘギイタダニの変異の可能性についての新たな発見をすることも不可能ではありません」。

そのような体系的なデータ収集は、国家レベルでの寄生対策を立案するための、大きな助けとなるだろう。ApiZoomは、Bugnonによって、独立した会社としてスピンアウトしている。このことでソフトウェアを養蜂家たちになるべく早く届けられるようにしたいからだ。ミツバチたちも、やがて感謝することだろう。

画像クレジット: florintt / Getty Images

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(翻訳:sako)

Amazonのスーパーボウル広告が、Alexaを起動しない仕組み

アニメーションのサウスパークは、おなじみのウェイクワードを使ってEchoやGoogle Homeデバイスを起動させ、世間を騒がせたことで有名だ。しかしAmazon自身は、「音響指紋」という手法を使って、似たような状況でAlexaが反応しないようにすることができる。

スーパーボウルに向けての準備の中で、同社はなぜ有名人が沢山登場するこの広告が、Alexaを起動しないのかについての、(比較的)わかりやすい仕組みを説明した。その広告のために、同社は音響指紋を追加している。

Echoの容量には制限があるので、アシスタントがウェイクの前にクロスチェックができるように、追加の音響指紋はクラウド上にも保存されている。システムは大抵の場合うまく機能するが、例えば騒々しい環境ではうまく動作できない場合もある(まあスーパーボウルのパーティーは大概騒がしいものだが)。その場合は、判定のためにはより長いクリップが必要になる。

だがAmazon自身が広告を制作していない場合には、(サウスパークのファンが証言してくれるように)事態はもっと複雑になる。その場合には、システムは様々なユーザーからの音声をクロスチェックしているのだ。

「もし少なくとも2人以上の顧客から届いたリクエストの音響指紋が互いに一致した場合には、私たちはそれをメディアイベントとして扱います」と同社は説明する。「また、私たちは入力された音声を、そうしてリアルタイムに判定された音響指紋のキャッシュ(マッチしたと判定された音響指紋の平均値)とも比較します。このキャッシュのおかげで、Alexaは疑わしいウェイクワードを、次からは同時発生でなくても無視し続けることができるのです」。

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(翻訳:sako)

大学発、量子コンピュータ用ソフト開発のJijがANRIから資金調達

従来型のコンピュータに対して、より効率よく計算ができる量子コンピュータは、カナダのD-Wave が実機を開発し、2013年にNASAとGoogleが共同で導入を決めたことで、広く注目されるようになった。機械学習や物流、金融など、さまざまな分野で「実際に使えるもの」として認識が進んだのだ。

しかし、D-Waveの量子コンピュータを使って実社会にある課題を解くためには、これまでのコンピュータのプログラミングとは異なる形で課題を定式化して、アプリケーションやアルゴリズムを用意しなければならない。

そうした実業務向けに、量子コンピュータのためのアプリケーションやアルゴリズムを開発する大学発スタートアップが、Jij(ジェイアイジェイ)だ。Jijは2月1日、ベンチャーキャピタルのANRIから数千万円規模の資金調達を実施したと明らかにした。

D-Waveマシン実現で可能性が開けた「量子アニーリング」

そもそも、量子コンピュータは従来のコンピュータと何が違うのだろうか。

「0」か「1」のいずれかの状態を取る「ビット」を使って計算を行う従来型のコンピュータに比べて、量子コンピュータでは0と1の状態を同時に取る「重ね合わせ」状態が取れる「量子ビット」を使うため、効率よく計算ができる。

例えば30枚のコインを地面に投げる場合。1枚のコインは「表」と「裏」の2つの状態を取る。2枚では「表・表」「表・裏」「裏・表」「裏・裏」の4つ、3枚では8つと状態が増えていき、30枚では約10億にもなる。ここで量子ビットが30個あり、それぞれが「表」と「裏」の重ね合わせ状態にあるとしたら、約10億の状態を同時に表せる。「表」「裏」どちらの可能性も持つ重ね合わせ状態から計算をスタートすることで、状態を1つずつ計算して確認していくより、効率よく、高速で計算が行えるという仕組みだ。

量子コンピュータには、従来のコンピュータの論理回路(論理ゲート)の代わりに「量子ゲート」を使う量子ゲート方式と、自然現象を借用したアルゴリズムのひとつ「量子アニーリング」を使う量子アニーリング方式とがある。D-Waveが採用しているのは、この量子アニーリング方式だ。

D-Waveの量子コンピュータ「D-Wave 2000Q system」

量子ゲート方式の量子コンピュータはあらゆる目的で使えるという意味で「汎用型」と言われるが、量子ビットの重ね合わせ状態が壊れやすく、安定して動作させることが難しい。一方、量子アニーリング方式では、汎用性はないが、特定の問題なら高速に解くことができる。また、量子ゲート方式よりもシステムを安定して動作させることが可能だ。

量子アニーリングが得意とする「特定の問題」とは、組み合わせ最適化問題やサンプリングだ。組み合わせ最適化問題の例としては、巡回セールスマン問題が有名だ。

巡回セールスマン問題は、宅配便のドライバーやセールスマンが、複数の訪問地をどのようなルートで回れば距離が一番短くなるか、コストが最も低くなるか、というもの。訪問数が増えれば増えるほどルートの組み合わせが指数的に膨大になっていく。訪問数が5カ所の時にはルートの組み合わせが120だったものが、訪問数30カ所の場合ではすべての組み合わせは2.7×10の32乗になり、従来型のコンピュータですべての可能性をしらみつぶしに調べようとすると、高性能なスーパーコンピュータでも計算に何億年もの時間がかかる。つまり事実上、計算が終わらない。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

こうした計算を、量子アニーリングマシンではより現実的な時間で行うことができる、とされている。「ほかにもスケジュール調整や、ディープラーニングで必要となるサンプリングなど、量子アニーリングマシンを使った計算で解決できる課題にはさまざまなものがある」とJij代表取締役CEOの山城悠氏は説明する。

Jij最高技術顧問で東北大学 兼 東京工業大学量子コンピューティング研究ユニット准教授の大関真之氏も「人口縮小や人員削減にともなう生産性向上や、即時即応のサービスが求められていることを背景に、組み合わせ最適化問題の解決は社会の問題解決につながる」と語る。

「例えばUBERで、ドライバーがユーザーからの経路リクエストに瞬時に応えられ、また『ついでに買い物がしたい』といった思いつきのニーズにも対応できれば、サービスの密度が上がる。こうした問題にも量子アニーリングは使えると考えている」(大関氏)

量子アニーリングのためのアプリ開発

さて、組み合わせ最適化問題を量子アニーリングの手法で解くためには、問題を物理学でよく知られている「イジングモデル」という数学的モデルに書き換え、マッピングすることになる。Jijが行っているのは、このイジングモデルを使ったマッピングによる、アプリケーション開発だ。

Jijホームページより

イジングモデルは、磁石(強磁性体)の磁力が表れる様子を模した数学的モデル(模型)だ。格子上の点の上に「電子スピン」が配置され、スピン(自転)の右回り・左回りがそれぞれ「0」「1」に対応する。スピンが同じ方向にそろうと、強い磁力が生み出される。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

それぞれの格子のスピンの向きには、ほかのスピンとの相互作用がある。ペアになったスピンが同じ方向になった場合と、反対の方向になった場合とでどちらが安定する(エネルギーが低い、低コスト)かが、相互作用の値によって決まる。

各格子のスピンの最適な組み合わせを見つけるに当たり、量子力学の重ね合わせ状態を初期状態として使うのが、量子アニーリングだ。

D-Waveの量子アニーリングマシンは、計算手法として考案された量子アニーリングを、超伝導回路で実際のチップに実装したものだ。

D-Waveのマシンに組み込まれた格子状のチップ

Jijでは、クラウド契約でD-Waveの量子アニーリングマシンを利用している。実際の課題をイジングモデルに落とし込んでマッピングし、量子アニーリングマシンに送り込む。これが普通のコンピュータではプログラミングに相当する作業となる。マシンでは量子アニーリングを実際の物理現象として実行し、解を得ることができる。

山城氏によれば、「現実で起きている問題をイジングモデルに当てはめるのが難しい」とのことで、そこがJijのもつ技術力であり、優位性だということだ。

「量子アニーリングの手法には、リバースアニーリングや不均一量子アニーリングなど、いくつかの亜種があり、問題によって処理がより速くなる方法が研究されている。この量子アニーリングマシンの性能をフルで引き出すための調整が難しいところだ」(山城氏)

Jijでは、組み合わせ最適化問題の抽出、イジングモデルへのマッピング、シミュレーションと実機での実証実験、そして結果をもとにした性能評価を行っていくという。

アニーリングマシンのためのシミュレータをOSSで開発

D-Waveの量子アニーリングマシンは、NASAやGoogleに導入されたほかにも応用研究が行われており、日本の企業もリクルートが広告掲載順の最適化、デンソーが工場内の無人機の交通最適化などで、共同研究や実証実験に取り組んでいる。

また海外では、1QbitQC Wareといったスタートアップが、量子コンピュータのためのソフトウェアやアルゴリズムを開発。日本でも2018年設立のスタートアップQunaSysが量子ゲート方式のマシンのためのソフトウェア開発を行っており、同年4月に、Jijと同様にANRIから数千万円を資金調達している。

このように量子コンピュータ周辺の事業が盛り上がりを見せる中、これまでは計算が難しかった大規模な課題に、量子コンピューティングで取り組みたいという事業者は増えている。Jijでも他の事業会社と連携し、共同研究開発やコンサルティングによるソフトウェア開発を行っていくそうだ。

また、量子アニーリングマシンのD-Wave登場に触発されて、デジタル処理により、従来のコンピュータで用いられるアルゴリズム「シミュレーテッドアニーリング」に特化したハードウェアも誕生。より現実的に使えるアニーリングマシンとして、日本でも、富士通のデジタルアニーラや日立製作所のCMOSアニーリングマシンといった技術が開発されている。

量子アニーリングマシンでも、シミュレーテッドアニーリングマシンでも、組み合わせ最適化問題を今までのコンピュータより高速に解けることが期待されている。組み合わせ最適化問題の抽出とイジングモデルへのマッピングが利用のカギとなることにも変わりはない。

そこでJijでは、量子アニーリングマシンに限らず、シミュレーテッドアニーリングマシンも含めて、アニーリングを包括的に使えるシミュレータとして「OpenJij」を準備している。これはアニーリングマシン向けの開発を行う際に、異なるマシンでも、同じインターフェイスで同じベンチマーク機能が扱えるというもの。

OpenJijは、オープンソースソフトウェア(OSS)としてGitHub上にプロジェクトが公開されており、世界中の開発者からの貢献を得ながら、アニーリングマシンを使った開発に使用してもらうことを想定している。山城氏は「プロジェクトを進め、問題解決に最適なマシンが選定できるようにする予定だ」と話す。

世界的に注目される量子アニーリングにスピード感を持って取り組む

量子アニーリングは、組み合わせ最適化問題を解くための量子力学を使った計算手法のひとつ。金属やガラスを高温に熱してからゆっくり冷やすことで、内部のひずみが除去できて構造が安定する、という自然現象「焼きなまし(アニーリング)」をシミュレートすることで解を得ようというものだ。この計算手法は1998年、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏によって提案された。

Jijは、西森研究室で学んだ大関氏を代表研究者として、2017年度、科学技術振興機構(START)の大学発新産業創出プログラムに採択されたプロジェクトの成果として設立された。2018年11月のことだ。

大関氏によれば、プロジェクト採択に当たってのヒアリングでは「量子アニーリングが世界的に注目されているタイミング。スピード感を持って取り組んでもらえるか」と問われ、支援期間が原則3年間のところを1年半で結果を出すよう求められたとのこと。「結局、それをさらに短縮して、1年強で成果を出すことができた」という。

このプロジェクトに参加していた代表取締役の山城氏は、現在も西森研で修士課程に在学中。同じく西森研に在学中の西村光嗣氏が研究・開発を担当し、東京工業大学、東北大学からのメンバーが中心となってチームに参加する。

今回のANRIからの調達資金により、Jijでは開発と人材強化に投資すると山城氏は述べる。「量子アニーリングは専門性の高い分野だ。その高い専門性の中でも技術力の高い人たちとやっていきたい」(山城氏)

大関氏は、量子力学を使った組み合わせ最適化問題の探索法と、シミュレータを使った探索法との違いについて「シミュレータを使った探索法では、スピンの配置(0か1か)はランダムでスタートして、移動しながら解を探索する。このため試し打ちが必要で無駄が出る方法だ。量子力学を使った探索法では、重ね合わせ状態からスタートして(スピーディーに)解を1つに絞ることができる」と説明する。

『量子コンピュータが人工知能を加速する』(日経BP社刊、西森秀稔・大関真之共著)より

現状ではシミュレータを使った計算のほうが安価で効率がよいケースも多いことは事実だが、大関氏は「今後のハードウェア、ソフトウェアの開発が進むことにより、こうしたコスト面の問題はいずれ解消できる」と考えている。このため「注力したいのは量子アニーリングのための開発」として、量子アニーリングに焦点を当てつつ、ほかのアニーリングマシンでも使えるソフトウェアを開発していくと述べている。

OCR、自然言語処理、データ予測などAIプロダクトを複数提供するCogent Labsが資金調達

手書き文字をデータ化するOCRプロダクトの「Tegaki」などを提供するCogent Labsは1月30日、SBIインベストメント、京都電子計算、TIS、野村ホールディングス、みずほ銀行、三井住友信託銀行、および個人投資家から資金調達を実施したと発表した。金額は非公開。

Cogent Labsが手がけるサービスは3つある。金融機関や自治体向けに導入が進む手書き文字の読み取りサービス「Tegaki」、ニュース分析などに利用する自然言語文章の分析エンジン「Kaidoku」、金融業界などで利用できる時系列データ予測エンジンの「TSF」などを展開している。

このようにAI関連技術を応用して複数のプロダクトをCogent Labsは国内外から優れたAI人材を採用し、技術の研究開発にも積極的だ。世界20カ国からAI人材を採用し、従業員は現在66名となっている。また、2018年10月にはイギリスのUniversity College Londonとのパートナーシップを発表。人間の脳と同じ仕組みでAIが思考する「モジュラーAI」という次世代AI技術を共同で研究していくという。

同社は今回調達した資金を利用して、既存サービスの強化、および上記のようなAI技術を応用した新規サービスの開発を進めるという。

人の創造性やセンスを定量化する「CI技術」に取り組むVISITSがシニフィアンと資本業務提携

左からシニフィアン共同代表の村上誠典氏、同じく小林賢治氏、VISITS Technologies代表取締役の松本勝氏、シニフィアン共同代表の朝倉祐介氏(Photo credit : 疋田千里)

独自の合意形成アルゴリズムであるCI(Consensus Intelligence)技術を用いたプロダクトを展開するVISITS Technologies(以下VISITS)。同社は1月30日、未上場スタートアップや新興上場企業の経営支援を行うシニフィアンと資本業務提携を締結したことを明らかにした。

VISITSでは今後CI技術に注力しながら相性の良いマーケットを探っていくとともに、2017年10月に発表した「ideagram」など同技術を組み込んだ複数のプロダクトをリリースしていく計画。資本政策や組織構築、事業開発などのナレッジを持つシニフィアンとタッグを組み、さらなる事業成長を目指す。

独自の合意形成アルゴリズムで定性的な価値を可視化する

VISITSが開発するCI技術は人の創造性やセンス、アイデアの価値など従来は不確かだった「定性的な価値」を定量化できる仕組みだ。

一例をあげるとこの技術を用いたideagramはクリエイティビティや目利き力を定量化することで、企業内の人材発掘や育成、イノベーションの創出を支援するプロダクト。これを使えば「社内でイノベーションに繋がるアイデアを出せる人材は誰か」「破壊的イノベーションに繋がるアイデアはどれか」といったことが可視化できる。

具体的には「アイデア創造」と「アイデア評価」という2つのオンライン試験を通じて、メンバーがアイデアを出し合うとともに、出されたアイデアを相互に評価する。このプロセスを通じて各自のアイデア創造力や目利き力、各アイデアの価値が数値化されるわけだが、その際にアイデア創造の結果を教師データとして参加者の目利き力を予測し、アイデア評価の結果に重み付けを行う点がポイントだ。

つまり「必ずしもみんなから好評なわけではないが、目利き力が高いメンバーが評価しているアイデア」など、単純な多数決では埋もれてしまっていたイノベーションの種や価値あるアイデアを発掘できるようになる。

表現を変えれば、本当に高い目利き力を持った人の判断を重くすることによって「意思決定の質を上げられる仕組み」と言ってもいいかもしれない。

AIでは解決することが難しい問題を解く技術

CI技術は定性的な価値を定量化する仕組みだと紹介したように、この技術が真価を発揮するのは「教師データがない(教師データが変動する)ためにAIでは解決することが難しい問題」に直面した際だという。

「今の価値観に合わせたオシャレとは何なのか、今の価値観に合わせた時の課題は何なのかなど目的変数すら動的な場合でも、(ideagramのようなプロセスを通じて)適切なインセンティブを与えながらそれを抽出し、最適な方法を考えることができる」(VISITS Technologies代表取締役の松本勝氏)のが特徴だ。

またデータを基にしたパーソナライズがAIの強みとすれば、松本氏いわくCIは「もっとも人が共感する重心を探す」ことによって全体最適を実現できるのがウリ。合意形成を経てアイデアを1つに絞らなければならない場合に有効活用できる余地があり、ものづくり(新製品のアイデアを1つに決める)やマーケティング(CMのクリエイティブを複数案から決める)などと相性が良いという。

「イメージとしては服作りにおけるZARAとユニクロのような関係性に近い。ZARAのようなファストファッションは細かいニーズに合わせて何十通り、何百通りのパターンの服を用意していくという点でAI的。一方でユニクロはみんなが本当に求めるものに絞って、その品質を高めていくスタイル。CIはこちらのアプローチだ」(松本氏)

AIとの違いでいくと、CIは中央から外れた端っこにある価値を汲み取りやすいという側面もある。「AIは過去のデータを参考にしすぎると教師データに引っ張られて真ん中に寄りがち」だというのが松本氏の見解。CIの場合はideagramで紹介した例のように、一部の人が支持した奇抜なアイデアでもウエイトが高ければその価値を見逃さずに済む。

もちろんAIが万能ではないのと同じようにCIも万能ではない。定量的で固定の教師データがあるような場合はAIの方が適しているし、そもそも合意形成をする必要がないシーンではCIを使うまでもない。その意味でAIを代替する技術ではなく、共存・補完する技術と言えるという。

松本氏によると、特にここ半年ほどは「CIという合意形成アルゴリズムがどのマーケットにおいて大きなインパクトを与えられるのかを探っていた」期間だったようだ。ideagramはあくまでCI技術を組み込んだプロダクトの第1弾という位置付けで、今後は他のマーケットに焦点を当てた新しいプロダクトも予定している。

すでに中小企業庁の補助金審査プロセス高度化や、厚生労働省及び経済産業省が事務局を務める有識者会議の効率化に向けてCI技術の提供を発表しているが、これはideagramとはまた異なる仕組みなのだそう。ゆくゆくは正式にサービス化する計画だ。

CI技術を手がけるスタートアップとしてアクセルを踏む

大雑把に分類すると、これまでのVISITSは“HR Tech”領域のスタートアップだったと言えるだろう。

2015年にリリースしたOB・OG訪問プラットフォームの「VISITS OB」は、アナログな部分が多く残る人材業界の課題をテクノロジーで解決しようというプロダクトであり、2017年にはパーソルホールディングスと資本業務提携も締結していた。

ただ会社としてはこれらの事業を継続しつつも、HR業界はもちろん幅広い業界にインパクトを与えられる可能性を秘めたCI技術により多くのリソースを投下し、CI技術を手がけるスタートアップとして事業成長を目指していく計画だ。

今回はシニフィアンの共同代表である朝倉祐介氏(TechCrunchの読者には以前ミクシィで代表取締役社長を務めていた朝倉氏と言った方がピンとくるかもしれない)と村上誠典氏にも話を聞けたのだけど「すでに着手しているマーケット以外でも意思決定の精度が上がったり、新たな価値が形成される現場がもっとたくさんあるのではないか」(村上氏)とCI技術のポテンシャルを高く評価していた。

特にVISITSの場合はこれまでに累計で二桁億円の資金を調達していて、ミドル〜レイターステージに当たるスタートアップ。そういった企業の組織構築や事業開発をサポートしてきたシニフィアンとしては会社のフェーズ的にもマッチしたため、今回の資本業務提携に至ったようだ。

「日本に閉じた話ではなく、世界の社会課題解決につながる可能性を秘めた事業。シニフィアンとしては『あの時あんなことをしなければもっと上手くいったのに』など、踏まなくて良い落とし穴や地雷を除去していく役割を通じて、事業の成長に貢献していきたい」(朝倉氏)

なおVISITSではCI事業の拡大に向けて年内にも大型の資金調達を予定していて、その点でもシニフィアンと連携を進めていくという。