バイデン大統領が掲げる2050年太陽光発電の目標を達成するために米国が必要な4つのこと

米国エネルギー省(DOE)が発表した太陽エネルギーの未来に関する報告書には、今後30年間における明るい未来像が描かれており、30年後には国のエネルギーの半分近くが太陽でまかなわれるようになるという。ただしそれを実現するためには、太陽光発電の性能向上、エネルギー貯蔵量の増加、ソフトコストの低減、そして約100万人規模の労働力の確保という4つの分野における大きなハードルを乗り越えなければならない。

この野心的な目標を達成するためには何が必要なのか、同報告書による考えをご紹介したいと思う。

太陽光発電の向上

DOEが期待するような導入量を達成するためには、太陽電池自体のコストと効率性の両方を改善していく必要がある。2020年には過去最高の15ギガワット分の太陽電池が設置されているが、2025年までにその2倍、2030年までにはさらに2倍の設置量が必要となる。

もし太陽光発電の効率が上がらなければ、すでに野心的な数字をさらに上げる必要がある。また、現在の価格のままではコストが高すぎてその数量を達成することは不可能である。

太陽光発電は確実に進歩を遂げてきたものの、まだまだ今後の進展が必要だ(画像クレジット:米国エネルギー省)

幸いにもすでに効率は向上しているし、コストも下がっている。しかしこれは当然、ただ自然に起きたことではない。世界中の企業や研究者たちが新しい製造プロセスや新素材などの改良に何百万ドル(何億円)も費やしてきたのである。それぞれが少しずつ進化を遂げ、時間をかけて実績が積み上げられてきた。このような太陽電池に関する基礎研究や科学および手法は、これからも過去20年間と同様のペースで、あるいはそれ以上のスピードで進歩し続けなければならないのだ。

DOEは、より特殊なPVをより安価にしたり、バンドギャップによる損失を最小限に抑えるためにセルを積層したりするなどの研究が重要であると指摘している。また、柔軟性のあるタイル状や板状の基板や、作物や建物の内部に光を通す半透明の設備も考えられるだろう。こういった計画全てを通して、2030年までに全体のコストを現在の1ワット平均1.30ドル(約140円)から、0.70ドル(約77円)とほぼ半減させることを目指している。

このレポートでは太陽集光器が取り上げられているが、多くの企業が産業プロセスの代替として太陽集光器を検討し始めている。大規模なグリッドをサポートするために使用されることはないだろうが、多くの化石燃料ベースのプロセスを置き換えることになるだろう。

より多くのエネルギー貯蔵

太陽からエネルギーを得ていると、夜間は何らかの形での蓄電に頼らざるを得ない。当初は原子力や石炭が使われていたが、最近では昼間に集めた余剰電力を蓄えるタイプのものも増えている。ピーク時の電力を自然エネルギーでまかなうことで、都市は安心して炭素系エネルギーからの脱却を図れるようになる。

蓄電というと電池のイメージがある。確かに電池はあるが、蓄えなければならないエネルギーの大きさを考えると、リチウムイオン電池のようなものは主な蓄電手段としては使えない。しかし、余ったエネルギーは水素燃料電池のようにエネルギーを大量に消費する再生可能な燃料の生産に回すことが可能だ。そしてこの燃料が、太陽光が需要を満たせないときに発電するために使用されるというわけだ。

この図では、通常の需要(紫)、太陽光発電による需要(オレンジ)、蓄電による負荷軽減(混合色)を示している(画像クレジット:米国エネルギー省)

これは数ある計画の中のほんの一部である。報告書には「熱的、化学的、機械的な貯蔵技術は、揚水式熱貯蔵、液体空気エネルギー貯蔵、新しい重力ベースの技術、地中の水素貯蔵など、さまざまな段階で開発が進められている」と記されている。

この国が必要とするさまざまなレベルのエネルギーの冗長性と貯蔵期間をもたらすために、新旧のあらゆるテクノロジーが活用されていくことは間違いない。これらのテクノロジーは、太陽光やその他の再生可能エネルギーがより多くの需要に対応できるようにするため、大いに役立っていくことだろう。

ソフトコストの削減

太陽電池の導入率を2倍、3倍にしようとすれば、太陽電池自体のコストだけでなく、アセスメント、会計、労働、そして当然実際の作業を行う企業の利益など、すべてのエンドツーエンドのプロセスにかかるコストを下げなければならない。

ハードウェア以外のコストを下げるというのは、すでに多くのスタートアップ企業の目標となっている。たとえばAurora Solar(オーロラ・ソーラー)はこの兆候を見逃すことなく、ソーラー設備の計画、視覚化、販売をオンラインでできるだけ簡単に行えるようにしている。

おそらく現在のソーラールーフのすべて込みの価格は、ハードウェアコストの2倍以上になるだろう。これには資金調達、規制、市場など、いくつかの要因があり、それぞれに本稿では説明しきれないほどの複雑な事情がある。ただ、これらの分野で時間やコストを効率化することで、太陽光発電の設置費用を1%でも安くすることができれば、その1%を巨額の金額に変えるだけのボリュームが存在すると言えるだろう。PVの改良に多くの科学者の努力が必要であるように、これを実現するためには多くの組織の努力が必要となる。

100万人規模の労働力

そして何より、これらの作業を実際に行う人がいなければどうしようもない。現在アメリカでソーラー産業に従事していると推定される25万人の何倍にもあたる、大量の労働力が必要となる。

画像クレジット:Will Lester/Inland Valley Daily Bulletin/ Getty Images

この分野での仕事は、建設経験のある熟練工から、送電網を管理してきたエネルギーの専門家、政府の必然的なトップダウンの性質と商業を結びつける官民パートナーシップの専門家まで多岐にわたる。50万から100万の雇用が追加されることで、多くの新企業やサブ業界が形成されることは間違いないが、これまでの一般的な内訳は、設置やプロジェクト開発が約65%、販売や製造が約25%、残りがその他さまざまな役割を担っている。

しかし、現在老朽化しつつある石油や石炭のインフラにしがみついているエネルギー関連企業は、何万人もの従業員を適切に対処していく責任があり、再生可能エネルギー分野がそのための完璧な移行スペースであるということは注目に値する事実である。本報告書では「移行期間中、一部の化石燃料企業の財務状況は悪化する可能性がある」と記されているが、これは控えめすぎる表現である。著者らは、トレーニング、転勤のほか、年金などの既存の経済的利益の保証をカバーする移行プログラムに資金を提供することを強く提案している。

太陽電池業界は他のいくつかの業界と同様、圧倒的に白人と男性が多い業界であるということが同報告書で指摘されている。何百万人もの雇用を少しでも公平にするためには、その面においても努力する価値があるのではないだろうか。

調査内容の全文はこちらからご覧いただける

原文へ

(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

ベンチャーキャピタル、Tuskがトランプ政権の政策予測メモ配布―ビジネスへの干渉は減る

ORLANDO, FL - NOVEMBER 2: Republican presidential candidate Donald Trump speaks during a campaign event at the Orlando Amphitheater at Central Florida Fairgrounds in Orlando, FL on Wednesday November 02, 2016. (Photo by Jabin Botsford/The Washington Post via Getty Images)

Tusk HoldingsはTusk Venturesと Tusk Strategiesの親会社で、Uber、FanDuel、Handy始め有力スタートアップ多数の最初期からの投資家として著名だ

巨大で多様なポートフォリオを持つこのベンチャーキャピタルが資金を投じているポートフォリオ企業すべてを対象にメモを配布した。

これはトランプの大統領当選がビジネスに与える影響を詳細に分析したもので、メモはさまざまなビジネス分野ごとに、次期政権の(人事を含めて)政策を予想している。

抜粋:

反ビジネス的で規制の強化を強く推進する閣僚を見る可能性は低くなった。このことは同時に、現在保留中の合併、買収が承認される可能性がはるかに高くなることを意味する。たとえば〔補助金を受けるが私的団体が運営する〕チャーター・スクールは合併に当たって連邦政府の反対を受けにくくなるだろう。連邦政府が規制を改正し、労働者の区分を変更することによって共有経済を破壊するような事態は避けられよう。SEC〔証券取引委員会〕は現金化しにくい私企業や資産に強く干渉しなくなる。ピア・ツー・ピア・レンディング〔ソーシャル融資〕も連邦政府の反対を受ける可能性が減る。その他同種の干渉の減少が多数予想される。

われわれはこのメモがテクノロジー・ビジネス全般に多いに参考になると思ったのでScribにアップロードし、以下ににエンベッドした。

〔日本版〕下記エンベッド冒頭のWhat Does This Mean for You by Jordan Crook on Scribdはリンクではないので作動しない。Scribdサイトで原文を見る場合は上の記事末のリンクから開ける。抜粋中の「労働者の区分変更」はUberのドライバーを契約者ではなくUberの被雇用者として認定しようとしていることなどを指す(関連記事

What Does This Mean for You by Jordan Crook on Scribd

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

トランプ大統領のシリコンバレーに対する意味―ニュースの大部分は暗い

2016-11-10-president-trump-minus-trump

ドナルド・J.・トランプがアメリカの次期大統領に選ばれた。この選挙戦の勝利はアメリカの歴史上もっともシュールかつ意外なものだった。

株式市場はトランプ大統領の誕生にすでに値を下げている。ドルも同様だ。

トランプの政策プラットフォームに通じた経済学者によれば、テクノロジー経済とシリコンバレーに関する短期的見通しは暗いということだ。

選挙戦を通じてトランプの経済政策はかなり漠然としていたが、大まかに言えば、トランプが述べた経済政策はベンチャーキャピタリズム、さらに広くテクノロジー・ビジネス一般にとって適合性が高いものではない。

南カリフォルニア大学マーシャル・ビジネス・スクールの経済学者、Gregory Autryによれば、トランプは「ハイテクテク製造業を含む製造業の職を増やすかもしれないがシリコンバレーのテクノロジー企業にとっては逆風となる可能性がある」という。

貿易

Autryは「現在テクノロジー産業といえばまず シリコンバレーを考えることが多い。トランプはそのような考え方に対して間違いなく悪いニュースだ。トランプの経済政策は貿易政策の不正に関して中国を罰し、製造業をアメリカに戻そうというものだ」と述べている。

もしトランプが政策を実行に移し、中国から輸出される物品に高い関税をかけるなら(要するに貿易自由化を中心とする現在の経済政策を20年以上も昔に巻き戻すなら)、サプライチェーンを世界的な貿易に頼っているアメリカ企業(つまりほとんどアメリカ企業)にとって不都合をもたらすだろう。

「(そうした企業は)ひどい目に遭いそうだ」とAutryは言う。

移民

関税によってテクノロジー製品の価格をアップさせる(それによって製造業がアメリカに戻ることを余儀なくさせようようという政策)の他に、トランプ大統領は移民政策にも大きな変化をもたらすだろう。

シリコンバレーはこれまでH-1B〔移民就労ビザ〕によって拡大と成長を大きく助けられてきた。このプログラムは海外から優秀な人々を労働者として迎え入れ、シリコンバレーが必要とする高い技能を提供しながら最終的にグリーンカード〔永住権〕を取得する道を開く。トランプはこれを実質的に無効にすると公約している。

シリコンバレーにとってH-1Bプログラムは、いわば自由の女神の台座に刻まれた文字のハイテク版だ。つまり単なる難民ではなく、高等教育を受け、高度な技能を持ち、自由な世界で生きたい人々を世界から招き寄せようとするものだ。

「移民就労ビザ・プログラムはテクノロジー産業が必要と考える労働力を外国から輸入する道を開くものなので〔トランプの政策はテクノロジー産業に〕 懸念をもたらす」とAutryは言う。

再生可能エネルギー

トランプ政権の元で痛手を負いそうなのはこうしたハイテク・ビジネスだけではない。 再生可能エネルギーはビジネスとして急成長しており、その一部はアメリカでももっとも希望のもてる分野となっているが、次期大統領の下では強い逆風にさらされそうだ。

エネルギー・ビジネスを分析するS&P Global Plattsによれば、トランプは(その政策からみて当然ながら)再生エネルギー開発に対する補助金を廃止することに力を入れるはずだという。トランプの エネルギー政策について分析したPlattsのレポートによれば「たとえば、投資税額控除が現在の30%から10%に減らされれば、ソーラー発電に対する需要は60%減少する」という。(私見だが地球温暖化が人間の活動によるものだという圧倒的な証拠が集まっているにも関わらずこういう政策を取るのは良くないと思う)。

トランプは再生可能燃料基準(Renewable Fuel Standard)を支持しているが(この基準は主として農民の利益になる)、これにも疑いの目が向けられている。

エネルギー政策についてのレポートでPlattsはこう書いている。

トランプは選挙戦を通じて再生可能燃料基準を支持すると述べているが、一時、これに反する経済政策パッケージが発表されたことがあった。〔これは〕強い反発を受けてこれはトランプの選挙戦のウェブサイトから削除された。スタッフは「誤って公表されたもの」とした。 *

*強調は筆者

サイバーセキュリティー

アメリカのサイバーセキュリティーについては選挙戦を通じて大きな問題となっていたが、これについてのトランプの対応の計画は漠然としすぎている

2014にソニーが攻撃を受けて個人情報が漏洩した事件からアメリカのインターネット運用に重大な被害を与えた先月のDDoS攻撃に至るまで、アメリカのインターネットが危険なまでに脆弱であることは何度も暴露されてきた。しかしトランプの選挙戦での立場はクリントン候補の国務長官時代のメール処理の誤りを攻撃するものでしかなかった。

データがいわば血液であるシリコンバレー企業にとってサイバーセキュリティー以上に重要な課題は少ない。これは敵候補に打撃を与えるための政治的な魂胆で利用していいような問題ではない。こうした脆弱性を抱えるネットワークが世界でもっとも時価総額が高い10社を支えるバックボーンとなっていることを考えるならなおさらだ。

企業の上場と大型M&A

今年の後半に入って上場のチャンスが増え始めた。われわれはこのトレンドが 2017年にも続いていくだろうと考えていた。しかしAutryによれば事情は変わってきたという。

金融や株式についてはその性質からして必ずこうなるという予測はできない(アメリカでは市場が開くのを待たず、すでに〔ショックから立ち直って〕安定化の兆しがみえる)。しかし株価の急落に加えて新政権の誕生で制度改革の方向がしばらく不透明になること、 世界とアメリカ市場が大統領になったのはどちらのドナル・ トランプなのか(ポピュリストのスーパー・ヒーローか、辣腕の不動産大富豪か)を判断するにも時間がかかることを考えれば、会社の上場には当面急ブレーキがかかるのではないか。

Autryによれば「短期的には、新規上場とベンチャーキャピタルの活動はスローダウンするだろう」という。

トランプ政権の誕生で影響を受けそうなのは新規上場だけではない。選挙戦の終盤でトランプはAT&TがTime Warnerに買収を提案したことを挙げて大型のM&Aを強く攻撃していた。

10月にはいって トランプはある集会でこう述べている。

AT&TがTime Warnerを、つまりは〔子会社の〕CNNを買収できるような権力構造と私は戦う。私が政権に就けばそういう買収は絶対に認めない。そうした買収は、あまりにも大きな権力をあまりにも少数の人間の手に与えることになるからだ。

ほとんどは暗い見通し…とはいえ、トランプのすべてがそうではない!

ただし、こうした暗い見通しの中にあっても、シリコンバレーの企業は、当局による過剰な規制の廃止は利益を奇跡的に改善する場合があることを思い出すべきだろう。
消費者金融保護委員会(Consumer Finance Protection Board)を廃止するという公約はフィンテック企業(特に資金の貸し手)のビジネスを大幅に容易にするだろう。

Reutersの記事によれば、医薬品の在庫の山にも新たなチャンスが与えられるかもしれない。医薬品業界の再生は誰にとっても良いニュースだ。

そうした点以外にもAutryは企業減税と海外資産のアメリカへの移転を奨励する政策が多くのビジネスにとってきわめて前向きな効果をもたらすと予想している。「海外に流出した資本をアメリカに取り戻すためのインセンティブを与える政策〔が実行されれば〕国内産業への投資の再活性化と職の増加をもたらすだろう」とAutryは言う。

またアメリカの宇宙航空産業はトランプ政権の経済政策から利益を受けるはずだ。「規制の緩和と減税は〔宇宙航空産業に〕大きな助けになる」とAutryは書いている。

**こうして私が「何やら怒って大騒ぎ」(sound and fury)しているものの「結局何の意味もありはしなかった」(と認めるのは嫌だし、シェークスピアも嫌いだが)ということになる可能性がないではないことは断っておくべきだろう。公平に言って、真意がどこにあるのかとらえどころのないトランプの性格からして、その政権が現実にどんな政策を採用するのか予想するのは難しい。

〔日本版〕上記の引用、sounnd and furyはシェークスピアの「マクベス」の引用。魔女の予言について「何やらわめき立ててはいるものの、何の意味もありはしない」と否定するマクベスの独白。フォークナーの小説「響きと怒り」の原題。

「印刷を早まったな…」

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

スタートアップと移民をめぐる情報の真偽

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【編集部注】執筆者のDesmond Lim氏はQuickForceの創設者。

Uberがアメリカ各都市の移動手段に変化をもたらし、SpaceXがアメリカ国民に火星旅行を提供しようとしている。Oscar Health Insuranceが、健康保険をアメリカ国民にとって身近なものにし、ZocDocが医者のアポ取りを簡素化している。Razerが世界中のゲーマーから愛される製品をつくり、FanDuelは、スポーツファンが楽しめるファンタジースポーツのプラットフォームをつくり出した。これらの先進的企業の共通点に気づいただろうか?実は、創設者のうち最低ひとりが外国生まれの起業家なのだ。

ヴァージニア州アーリントンを拠点とする、無党派シンクタンクのアメリカ政策国家基金(the National Foundation for American Policy)のある調査によると、アメリカ国内の10億ドル規模のスタートアップのうち、51%(87社中44社)を移民が創設しており、さらに70%以上(87社中62社)で移民が重要なポストについている。

さらに同調査では、これらの企業が合計で6万5000以上もの雇用を生み出したことがわかっている。ここから、移民がアメリカの雇用創出や起業家精神、スタートアップのエコシステムに関して、大きな役割を担っていることが見てとれる。しかし、アメリカでは厳しい移民政策が敷かれており、「スタートアップビザ」に関する法案も未だ可決されていない。スタートアップビザに関しては、現在の情勢を考えると、段々法案可決が難しくなっているとさえ言える。

私は、最近修士課程を修了し、キャリアに関する様々なオプションについて模索する中で、自分で会社を立ち上げるか、スタートアップで働こうという決意を固めた。ほとんどの留学生のように、当初私は、アメリカに滞在し続けて起業やスタートアップでの勤務を行うことは不可能だという印象を持っていた。

私の友人の多くが、H-1Bビザのスポンサーとなり得るような信用力のある会社で勤務した方が良いだろうという思いから、AppleやGoogle、Facebookへ就職していった。さらに、毎年4月1日に行われるH-1Bビザの抽選システムのせいで、ビザを取得するチャンスは一度しかないとも聞いていた。

移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしい。

そのため、外国生まれの起業家精神溢れる人たちにとっての「安全策」は、スタートアップの道へ進む前に、大企業で数年間働くというものであった。学生によって運営され、学生が立ち上げたスタートアップへの投資を行うDorm Room Fundという投資ファンドも、留学生が自らの事業を続けたり、スタートアップに就職したりするのではなく、大企業への就職という選択肢に走る1番の理由は「移民問題」だと語っている。

しかし、私のメンターや移民問題に詳しい弁護士と話をしていくうちに、このような話のほとんどが嘘であり、次のSpaceXやUber、Palantirとなる企業の立ち上げや、スタートアップでの勤務を目指し、アメリカ滞在を決意した起業家たちにとって、以下のような都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について知っておくことが大切だと学んだ。

H-1Bビザの抽選結果は、勤めている企業のサイズやブランドで決まる

真実:私の経験からいって、FacebookやTeslaで働いているH-1Bビザの申請者に許可が下りる確率は、その他の条件が全く一緒だとして、社員5人のアーリーステージスタートアップで働く申請者と同じである。確かに、FacebookやTeslaの人事部の方が申請書の準備については頼りになるかもしれないが、重要な点は、抽選結果が全くのランダムで決まるため、勤務先のサイズやブランドに関わらず申請者全員にとって、H-1Bビザがおりる確率は同じだということだ。

H-1Bビザの申請は、オプショナルプラクティカルトレーニング(OPT)期間の一発勝負

真実:2016年3月11日にアメリカ合衆国国土安全保障省は、新たなルールを制定し、科学(Science)・技術(Technology)・工学(Engineering)・数学(Math)(略してSTEM)の学位を持っている一定数の留学生については、全学部の留学生に許可される12ヶ月のOPT期間に加えて、さらに24ヶ月間の延長が認められることとなった。これによって、1回目の申請でビザがおりなくても、2年目以降に再度申請のチャンスが与えられることになる。

さらに、申請期限が4月1日であることから、もしも学部4年生、または大学院の最終学年在籍中に就職先が決まれば、OPTがはじまる前にH-1Bビザの申請ができるので、実質的にビザ申請のチャンスが1回分増えることとなる。

アメリカに滞在するには、H-1Bビザしかオプションがない

真実:H-1Bの他にも、B-1、 O-1、 E-2、 J-1、 L-1、F-1など取得できるビザには様々な種類が存在する。B-1(商用ビザ)であれば、出張者として6ヶ月間アメリカに滞在が可能だ。また、もしも科学、芸術、教育、ビジネス、スポーツの分野で、これまでの実績や評価をサポート材料に、申請者が卓越した能力を持っていることを証明できれば、O-1ビザがおりる可能性もある。また、新規・既存問わず、もしもアメリカ企業に多額の投資を行っていれば、E-2ビザが取得可能だ。L-1ビザは、同企業内での転勤者向けのビザで、母国で登記された会社の社員を、子会社設立のためにアメリカへ派遣する際などにぴったりだ。

抽選がH-1Bビザを取得するための唯一の方法

真実:H-1Bビザ取得には他の道もある。マサチューセッツ大学ボストン校のVenture Development Centerでは、the Massachusetts Global Entrepreneur-in-Residence (GEIR)というプログラムが提供されていて、外国生まれの起業家が、事業を継続しながらGEIRのメンターとして活動することで、発行上限無しのH-1Bビザを取得し、アメリカに滞在できるようサポートを行っている。GEIRプログラムは、2014年にマサチューセッツ大学とMassachusetts Technology Collaborativeの試験的プログラムとしてはじまった。さらに、シンガポールまたはチリ生まれの人については、H-1B1と呼ばれる非移民ビザ(永住を認めていないビザ)を取得でき、このビザが発行上限に達することはほとんどない。

外国人はアメリカで会社を設立できない

真実:私の会社の顧問弁護士から聞いた話によると、外国人でもアメリカで会社を設立することができる。実際、私と同じ大学にいた外国人の同級生たちの多くが、在学中もしくは卒業後に会社を登記している。しかし、労働に対して正当な報酬を受け取るためには、労働が許可されているビザをもっているか、OPT下になければならない。

自らが共同設立者のひとりである会社を通して、H-1Bやその他の非移民ビザの申請を行う際は、外国人が株式の過半数を保有することが認められていないため、牽制力のある取締役会や、申請者以外の主要株主の存在から、申請者が会社に対して支配権を持っていないということを証明しなければならない。

弁護士に法外な費用を払うことがビザ取得の唯一の手段

真実:アメリカに滞在して働きたいという外国人のための情報が、オンライン上でだんだん増えてきている。そのため、ビザ取得を目指す人は、オンライン上の情報にアクセスしたり、最近増えてきているClearpath ImmigrationLegal Heroなどの法律系スタートアップに相談することができる。

その他にもアメリカ国内には、外国人起業家をサポートし、彼らの野望を叶える手助けをしているスタートアップ関連プログラムがたくさん存在する。その中でも、ミッション重視の外国人起業家向けファンドであるUnshackledは、選別された外国人起業家の、労働ビザや永住権獲得に必要なスポンサーに関する問題対応のサポートを行っている。

アーリーステージスタートアップへの就職や起業を志す、熱意あふれる起業家たちにとって、自分のキャリアにおける次のステップにふさわしい場所を決める際には、移民政策に関する都市伝説や嘘、間違いを含んだ情報について理解することが重要だ。移民に関する情報は分かりづらい上に、オンライン上の情報は片手落ちであることが多い。しかし、ひとつだけ確かに言えるのは、もしもあなたが、自分のスタートアップのアイディアに真の情熱を持っているなら、移住問題の解決策を模索することや、真実を突き止めることを諦めないでほしいということだ。

著者注:私は、最近ハーバード大学を卒業したシンガポール生まれの起業家です。私自身は弁護士ではなく、アーリーステージスタートアップにおける勤務経験のある起業家として、私の個人的な経験をもとにこの記事は書かれています。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter