スカイディスクとトヨタ自動車九州、品質検査で「音」を聞き分けるAI異音検査システムを共同開発し本稼働開始

スカイディスクとトヨタ自動車九州、品質検査で「音」を聞き分けるAI異音検査システムを共同開発し本稼働開始スカイディスクトヨタ自動車九州は11月4日、レクサスを生産するトヨタ九州宮田工場の検査ラインにおいてAIを活用した異音検査システムを2021年8月から導入し、本稼働を開始したと発表した。異音検査のAI活用は、設備保全分野で多数の事例があるものの、品質検査分野での実装は国内初という(2021年10月までに公開された実証実験を除く、AI実装の事例対象。スカイディスク調べ)。

レクサス完成車の検査項目の1つに、走行中に車内で異音がしないか最終確認する「車内異音検査」があり、この車内異音の検査工程にAI異音検査システムを導入した。今後は、今回の実績を基に宮田工場内の別の検査ラインへの導入を検討する。

トヨタ九州宮田工場は、レクサス製造拠点として各工程に熟練工を配し、世界トップレベルの品質を守り続けているという。ただ、出荷前の検査項目である異音検査は、検査員の聴覚で「音」を聞き分ける官能検査であるため、個人の聴力に影響を受けやすい工程となっていた。また将来予想される検査員の高齢化による聴力の衰えや個人差に対応するため、2018年1月からAI化の検討を開始したという。

スカイディスクが開発した音に特化したAI分析ソリューションは、検査走行中の車内の音データを人の聴覚特性に基づいて分類し、抽出された約1万個以上の特徴量から異音を判定するAIモデルを作成するというもの。今回の取り組みでは、スカイディスクとトヨタ九州が、AI分析ソリューションをレクサス製造ラインに合わせてカスタマイズし、AI異音検査システムを共同開発した。

システム概要と導入ステップ

スカイディスクのAI分析ソリューションでは、対象の音に合わせたマイク選定が重要という。そこで今回は、新たに車内異音用に集音マイクを選定し、異音検査における音データをデータベース化した。データに基づいた安定した検査品質の実現のため、熟練検査員の経験や判断をAIに学習させて、検査精度を高めたそうだ。

2018年4月から、実際の工程でAI異音検査システムの検証を開始。実運用に向けて繰り返し精度向上に取り組むとともに、システム構築を含めた最終調整を実施した。検査精度が安定的に確保できたことから、2021年8月に本稼働を開始した。

両社は、このAI異音検査システムの開発・導入により、検査員の聴覚に依存していた検査工程の属人化解消・品質安定化を実現したとしている。また、検査作業者の耳の負担や凹凸のある検査路面を運転する際の身体的負担も低減できたそうだ。高い検査品質が求められる最終検査工程かつ、特に人の身体能力に依存し標準化が困難だった異音検査で導入できた実績を基に、今後は他の検査工程への展開も検討するそうだ。スカイディスクとトヨタ自動車九州、品質検査で「音」を聞き分けるAI異音検査システムを共同開発し本稼働開始

一般に、官能検査による検査工程は、熟練検査員の経験により不良原因まで推測されるなど、品質管理の向上に寄与してきた歴史があり、検査員が音を聞いて良品・不良品を判断する異音検査もその1つとなっている。しかし異音検査では、人の聴覚で聞き分けるために定量的な判定基準を設けることが難しく、また検査対象の「音データ」が蓄積されていないため、検査員同士での共有・継承が困難だ。

スカイディスクによると、これら課題をAI分析ソリューションで解決するには、まずは適切なデータ収集(集音)から着手する必要があるという。ものづくり現場の様々な制約条件を考慮した上で、AI開発に最適なデータ収集、ハードウェア・設備を含めたワークフロー設計・開発まで取り組むことで、AI実装による課題解決が実現したとしている。

熟練の匠の技術をAIに、製造業をスマートにするスカイディスクが8.6億円を調達

製造業に特化したAI×IoTソリューションを提供するスカイディスクは4月18日、複数の投資家を引受先とする第三者割当増資により総額で8.6億円を調達したことを明らかにした。

今回の投資家リストは以下の通りだ。

  • SBIインベストメント
  • AJS
  • 中島工業
  • 鈴与商事
  • りそなキャピタル
  • 環境エネルギー投資
  • みずほキャピタル
  • DG Daiwa Ventures

スカイディスクにとってシリーズCとなる今回のラウンドには、VCに加えてこれまで同社が協業を進めてきた大手企業が参画している。AJSとは2017年10月に業務提携を締結し、主に旭化成グループの工場におけるAI活用を推進。2018年1月に提携を発表した中島工業とは、工場向け水処理装置にAIを組み込んだパッケージ商品の開発に取り組んできた。

また直近では2019年1月に鈴与商事と業務提携を締結。ファクトリーオートメーション機器とAIサービスを組み合わせたビジネススキームの開発を進めている。今後もそれぞれの取り組みを継続していく方針で、連携強化も見据えて各社から出資を受けた形だ。

スカイディスクでは調達した資金を活用して国内外でAIエンジニアの採用を進める計画。製造業向けAI開発ツールを充実させ、製造現場へのAI導入を加速させる。

ベテラン技術者の技をAIが解明し、再現

過去に何度か紹介しているように、スカイディスクではセンサデバイスの開発からAIを活用したデータ分析まで、現場でAI・IoTを活用するのに必要な機能をワンストップで提供してきた。

以前は製造業に限らず農業や流通、環境などさまざまな分野へのサービス展開を見据えて事業に取り組んでいたが、特に2017年10月に実施したシリーズB以降は需要の多かった製造業へと徐々にフォーカス。業務ヒアリングによる課題の抽出から目的や解決策を設定し、必要なデータをどのように集め、人工知能によってどう解析するかまでをトータルでサポートする。

事業の核となるのはセンシングデータから正常異常などの判定結果を提供する「SkyAI」だ。

これまでスカイディスクが蓄積してきたナレッジを活用し、データ整形・解析するためのモジュールと分野別のAI学習モデルをライブラリとして保有。顧客の課題に合わせて最適なものを組み合わせることで、時間やコストを抑えつつ、設備の保全や製品の検品、歩留まりチェックなどの業務を効率化できるのがウリだ。

同社によると自動車業界を始め、化学メーカーやプラントの現場で導入が進んでいるそう。たとえば製造時のプロセスデータとセンサから取得した波形データ、検査結果が紐づけられたデータなどを基に不良品の発生要因を見える化した事例や、事前に不良発生を予測できるAIを導入することで生産性の向上・機器の多台持ちを実現した事例などがあるという。

スカイディスクのユニークな点をひとつ紹介しておくと、製造現場における単純作業だけでなく、これまで熟練のベテラン技術者が「経験や勘」で実行していた高度な業務をAIでサポートしようとしていることだ。

労働力不足や高齢化により現場で高度な業務を担える人材が減っていく中で、同社では「匠の技を、AIに」というコンセプトを掲げる。ベテラン技術者の操作データを材料に、彼ら彼女らが持つスキルやナレッジをAIが解明し、再現することが目標だ。

以前紹介した「スマート聴診棒」はまさにその代表例と言えるだろう。このサービスはスマホのマイク機能を使って取得した“音”により、設備機器の異常診断ができるというもの。従来は熟練の技術者が聴診棒という棒状の器具を用いて、それぞれの機器から発せられる振動音を聞き分けることで成り立っていた業務を、データとAIを活用することで他の担当者でもできるようにした。

2019年の3月にはこの機能を「SkySound」としてモジュール化し、SkyAIの中の1機能としてAPI経由で使える形で提供している。

上述した例も含め、クライアントやパートナー企業との共創によって年間数十件のAIプロジェクトを進めてきたスカイディスク。今後も製造現場の人手不足を始めとする課題解決や生産性の向上に向けて、AIサービスの機能拡張やパートナーとの連携強化に取り組む計画だ。

スカイディスクは2013年設立の福岡発スタートアップ。2017年に実施したシリーズBラウンドでニッセイ・キャピタルなどから7.4億円を調達しているほか、2016年にも1億円の資金調達を実施している。

福岡発AI・IoTスタートアップのスカイディスクが7.4億円を調達、提供分野の拡大と海外展開目指す

AIやIoT を活用したソリューションを提供するスカイディスクは10月3日、ニッセイ・キャピタル、 DG Daiwa Ventures、環境エネルギー投資、山口キャピタル、加賀電子、ドーガンベータ、アーキタイプベンチャーズを引受先とする第三者割当増資により、総額7.4億円を調達したことを明らかにした。

スカイディスクは2013年に福岡で設立。2016年の1月にニッセイ・キャピタル、アーキタイプベンチャーズ、ドーガンが運営するファンドから1億円を調達していて、今回はそれに続く資金調達となる。

センサデバイスからAI分析サービスまでワンストップで提供

スカイディスクの特徴はAI・IoTを現場で導入するのに必要な機能をワンストップで提供していることだ。

具体的にはデータを取得するための「センサデバイス」、そのデータをクラウドに届けるための「通信システム」、取得したデータを蓄積する「データ蓄積クラウド」、貯まったデータを分析するための「AI分析・学習モデル」といった技術やシステムを全て自社で保有。様々な業界の課題に合わせて、IoTとAIを活用したソリューションを提供している。

その1つが先日TechCrunchでも紹介した、スマホのマイク機能を使って取得した「音」により、設備機器の異常診断ができる「スマート聴診棒」だ。

従来は熟練の担当者が機器の発する音をたよりに行っていた異常診断業務。高度な技術や経験が必要になる属人的な業務であり、後世へノウハウを継承することも現場の課題となっていた。

そこでスカイディスクではIoTとAIを活用し、若手の担当者でも対応できる仕組みを構築。ある電力会社のニーズからできあがったシステムだったが、他社でも同様の課題を抱えていることを知り、正式なサービスとしてリリースした。

スマート聴診棒

設備保全分野に限らず、スカイディスクでは農家向けにハウスの気温や湿度などを自動測定できるシステムや、フィットネススタジオ向けに施設内の室温や酸素濃度を感知するシステムなども提供している。

プロダクトアウト型から、マーケットイン型の企業体へ変化

「(2016年1月に)出資を受けてからビジネスサイドのメンバーも増え、プロダクトアウト型の企業体からマーケットイン型へシフトしてきている。顧客のニーズや痛みをAIやIoTでいかに解決していくのか探るアプローチへ変わった結果、スマート聴診棒のようなサービスが生まれた」

そう話すのは、スカイディスク代表取締役CEOの橋本司氏。この1年半ほどで5名だった同社の社員は約25名までに増えた。事業が前進するきっかけになったのは、チーム編成が変わったことに加え顧客の変化もあったからだという。

「以前は『IoTって何?』という顧客が多かったが、今では『AIやIoTを活用してこのような課題を解決できないか?』という声が増えた。問い合わせもIoT推進部のような新設された部署だけでなく、実際に課題を抱えている事業部からいただくように変わってきている。現場の課題が明確なため取り組みやすく、仮に対応できない場合も断りやすい。状況判断のサイクルが早くなり、事業の成長に繋がっている」(橋本氏)

スカイディスク代表取締役CEOの橋本司氏

この1、2年ほどで「AIやIoTの活用に貪欲になった企業が増えてきている」(橋本氏)という実感があるからこそ、さらに多くの顧客に自社の技術を提供できるように資金調達へと踏み切った。今後スカイディスクではAIエンジニアやビジネス開発人員を増やした上で、「提供分野の拡大」と「海外展開」の2つに取り組む。

たとえば現在同社が注力している設備保全分野では、工場やビルの機械装置だけでなく、鉄道やトンネル、橋梁といったインフラにも拡大していきたい考えだ。扱うデータについてもスマート聴診棒のような「音」に加え、「振動・電流」から故障予兆が検知できるサービスを準備し顧客のニーズに応える。

また九州工業大学と介護領域でのIoT活用に関する共同研究をスタート。これまで着手できていなかった分野でもチャレンジを始めていく計画だ。

そしてAIやIoTを活用したサービスを提供できるのは、日本国内の企業だけではない。特に設備保全の問題などは世界でも共通する部分が多いという。橋本氏によると「主にアジア圏で実際に話が出てきている」そうだ。日本で作った事例の海外展開やその逆パターンなど、これから1、2年で国を超えた取り組みも行っていくという。