新型コロナで人々は建物の人口密度を計測するDensityの技術を求め始めた

新型コロナウイルス(COVID-19)が大流行する前から、いくつもの企業がDensity(デンシティー)の技術を利用してきた。例えばTechCrunchの親会社であるVerizon(ベライゾン)も、Yahoo!(ヤフー)とAol(エイオーエル)の統合後のオフィス空間を効率的に利用するために、以前から導入している。そして今、新型コロナ禍の影響で建物や部屋の人口密度を測定しようと、誰もがDensityの技術を欲しがるようになった。

同社が新しい投資ラウンドで5100万ドル(約54億円)を調達できたのも、ひとつにはそのお陰がある。このラウンドはKleiner Perkins(クレイナー・パーキンス)が主導し、Dick Costolo(ディック・コストロ)氏の01 Advisors(ゼロワン・アドバイザー)や、ロサンゼルスを拠点とする投資会社Upfront Ventures(アップフロント・ベンチャーズ)など、以前からの投資会社が参加している。

この需要の「第1の牽引力は、プライバシーを侵害することなく建物の利用を安全に再開できる点です」と、Densityの最高責任者Andrew Farah(アンドリュ−・ファラー)氏はいう。

同社はデータを愛するテック企業、小売店、コーヒーチェーンのためのサービスを提供する企業としてスタートしたものの、今では共有スペースを持つあらゆる事業所、つまり出荷センター、食料品店、倉庫、食肉加工場そしてTechCrunchの本社のような場所で必要とされる普遍的なテクノロジーの提供者になったとファラー氏は話す。

今回調達した資金は何に使われるのか?ファラー氏によればセールス、マーケティング、さらにはその技術を顧客の建物に導入する目的に使うという。

「私たちが計画している投資の大半はカスタマーサクセス、基幹インフラ、製品とセールスの拡大です」とファラー氏。「お客様が私たちの企業名を初めて知るのは、営業で訪問してデモをお見せしたときです」。

同社のハードウェアとソフトウェアサービスへの注文が殺到していると、彼はいう。注文は2万〜5万ドル(約200万〜520万円)程度の試験導入から、100万ドル(約1億円)単位の1000ユニット初期導入まで幅がある。「すべての顧客は初期導入後、その3倍の規模に拡大しています」と彼は話す。Densityでは、最初のセンサーの設置に1回かぎりの料金として895ドル(約9万4000円)かかる。その他に必要な年間のデータアクセス料金は、センサー1台あたり800ドル(約8万4000円)となっている。

Densityはチャンネルパートナーと直接販売の両方で成り立っており、潜在顧客が急増したことで、投資が大幅に膨らんだのだとファラー氏は話している。

「多くの顧客が、1週間前に遭遇した問題を解決しようと奮闘しています。不動産部門と保安部門からは、これまでにない緊迫度が伝わってきています」とファラー氏。

この背景には、いまだに米国で暴れ回る新型コロナウイルスとの戦いが続く中、公共スペースで安全なソーシャルディスタンスを確保したいと願う会社従業員の要請がある。

新型コロナは現在の最大のセールスポイントになっているが、Upfront VenturesのMark Suster(マーク・サスター)氏などの投資家は、Densityの技術の価値をもっと早い時期から見抜いていた。「私の投資方針は、次世代のI/Oとしてのコンピュータービジョンを信じる気持ちと、投資家のジレンマつまりインターネットでの大成功はすべてデフレ経済に動かされているという信念を掛け合わせたものだ。現在、人をトラッキングする技術は極めて高価であり、ほとんどが小売り環境で使われている」とサスター氏は、2016年にDensityへの初めての投資を発表した際のブログ記事に書いている(Medium投稿)。「コストが普及を大きく妨げている。そこを大胆に変革しなければならない」。

 

Densityのトラッキング能力を示した2016年のアニメーション(GIPHYより)

最近になってDensityのコンピュータービジョン技術に資金提供を行った投資会社Kleiner Perkinsは、この投資に1年間を費やした。

「彼らが投資家と話を始めるという噂を聞きました」と話すKleiner Perkinsのパートナーの1人で同社の新ディレクターであるIlya Fushman(イリヤ・フッシュマン)氏がファラー氏と会うようになったのは、およそ1年前だ。

フッシュマン氏によれば、Kleinerは不動産市場に興味があり、カードや認証装置もいらない建物の入退館管理のスタートアップであるProxy(プロクシー)に最近行った投資の路線に、Densityが重なったのだという。

私たちのように市場規模で見るならば、不動産と同程度の市場はそうありません」とフッシュマン氏。「また、歴史的にテクノロジーが浸透しにくい市場もあります。ビル管理は、空間利用となるとほとんどが紙と鉛筆で行われる世界です」。

入退館管理も空間利用も、新型コロナ禍以来、多くの企業がもっと効率的にコントロールしたいと考えている分野だ。Densityのような企業への支援は、まさに自然の成り行きだったと彼は話していた。

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(翻訳:金井哲夫)

ターゲティング広告がパブリッシャーにもたらす利益はほとんどない

ユーザーのプライバシーを踏みにじるトラッキング技術を使ってウェブサイトの閲覧者に表示する広告を選ぶ行動ターゲティング広告で、パブリッシャーはどれほどの価値を引き出せるのか?

最新の調査によれば、パブリッシャーが得られる価値は、ターゲッティング広告を使わなかった場合と比較して、わずか4%増でしかないとのこと。

これは、なぜかくも多くのニュース編集室の予算が削られ、ジャーナリストが職を失い、それでいてアドテクノロジーの巨大企業は相も変わらず大儲けをして金庫を膨らませ続けているのかといった問題に挑発的な光を投げかける発見だ。

サードパーティーのクッキーがひしめく一般的なニュースサイト(TechCrunchも含まれる)を訪れたときは、そのパブリッシャーは本業の他に、ユーザーをプログラマティック広告システムに接続して貴重な個人データが吸い上げ、表示すべき広告の決定に使用するユーザーの閲覧傾向を販売して膨大な利益を貪っていると考えていいだろう。

オンライン広告市場は巨大化し、成長を続けている。IAB(Interactive Advertising Bureau、非営利団体インタラクティブ広告事務局)の資料によると、米国では、2017年に880億ドル(約9524億円)の収益を上げ、前年比で21%増加している。パブリッシャーは、コンテンツだけで大儲けしているわけではないのだ。

それとは対照的に、近年の調査によると、パブリッシャーの大半は、ディスプレイ広告の経済学に締めつけられていることがわかる。2015年のEconsultancyの調査では、そのうち40%ほどが、広告収入が停滞しているか減少していると報告しているという(それゆえ、購読の形式に手を伸ばすパブリッシャーが増えていると断言できる。TechCrunch自身もExtra Crunchを提供している)。

デジタル広告収益の大部分は、最終的にはアドテクノロジーの巨人、つまりGoogleとFacebookがさらっていってしまう。いわゆるアドテクノロジーの複占だ。eMarketerによれば、アメリカでは、この2社がデジタル広告市場での支出のおよそ60%を占めている。およそ765億ドル(約8兆2900億円)だ。

この2つの企業の年間収益は、デジタル広告費全体の伸びを正確に反映している。Googleの親会社Alphabetの場合、収益は、2015年から2018年にかけて、749億ドル(約8兆1083億円)から1368億ドル(約14兆8115億円)に増加している。Facebookは179億ドル(約1兆9382億円)から558億ドル(約6兆0424億円)と増えている(これに対してアメリカのオンライン広告費は、2015年から2018年にかけて、598億ドル(約6兆4745億円)から1075億ドル(約11兆6389億円)以上にステップアップしている)。

eMarketerは、2019年にはこの複占企業の合計シェアは初めて減少に転じると予測している。しかしこれは、パブリッシャーにツキが回って突如として大金が転がり込むからではない。もうひとつのハイテク巨大企業、Amazonがデジタル広告市場のシェアを拡大しているからだ。それは、eMarketerが呼ぶところの「複占の小さな凹み」の始まりと期待されている。

行動ターゲティング広告、いわゆるターゲティング広告は、トラッキング技術の拡散と規制対象とならない目立たない場所でのテクニックを助長するプラットフォームの力学により、オンライン広告市場を支配するようになった。そして、オンライン広告主の目からは、これが非常に効率的に見えたのだと報告書は書いている(測定と特定に疑問が残るものの、多くの研究はターゲティング広告は広告代理店にとって有益であり効率的だと考えているようだ)。

これが、広告の選択を脈絡要素(例えば、今見ているコンテンツや、使用中のデバイスのタイプや、今いる場所など)に依存する非ターゲティング・ディスプレイ広告を閉め出す原因となった。

この非ターゲティングディスプレイ広告は、今では例外的な存在となっている。クッキーがブロックされたときの予備的な地位に追いやられてしまった(とはいえ、プライバシーを保護をうたう検索エンジンのDuckDuckGoは、脈絡に依存した広告事業を黒字に転換させている)。

2017年にIHA Markitが行った調査では、ヨーロッパにおけるプログラマティック広告の86%が行動データを使用していたことがわかった。しかも、そのモデルによれば、非プログラマティック広告の4分の1(24%)も、行動データを使用していたという。

「2016年のディスプレイ広告市場の成長は、その90%が行動データを利用した形式や処理からもたらされた」と同社は見ている。また、2016年から2020年の行動ターゲティング広告は106%成長し、こうしたデータを使用しない形式のデジタル広告は63.6%減少すると予測している。

非ターゲティング広告ではなく行動ターゲティング広告を推すという経済的誘因は、広告主、サイトの訪問者、コンテンツ、行動データのすべてにおいて規模を拡大し、インターネットの分散した多様なオーディエンスから価値を引き出すことに依存している支配的なプラットフォームには自明の理に思える。

しかし、コンテンツ制作者と彼らが関わるユーザーのコミュニティにとって、プライバシー軽視の規模の経済に服従しようという誘因は、きわめて不明瞭だ。

オンライン広告市場に潜在する不均衡に対する懸念はまた、大西洋を挟んだ両地域の政治家や規制当局の、市場の透明性に対する疑問を誘発する。そして、透明性の大幅な改善が求められるようになる。

人のトラッキングで獲得できる賞金

来週、ボストンで開催されるEconomics of Information Security(情報セキュリティーの経済学)カンファレンスのワークショップで発表予定の新しい調査結果がある。この調査の狙いは、ひとつのパブリッシャーが、行動ターゲッティング広告を選んだ場合と、選ばなかった場合の価値を数量化して、デジタル広告の収益のパズルを解く新たなピースになることにある。

この調査については、以前、研究に携わった一人の学者が米連邦取引委員会の公聴会にて研究結果を引用したとき、その存在をお伝えしているが、今回初めて報告書の全文が公開された。

Online Tracking and Publisher’s Revenue: An Empirical Analysis」(オンライン・ターゲッティングとパブリシャーの収益:実証的分析)と題されたこの報告書は、次の3人の学者が共同執筆している。Veronica Marotta氏(ミネソタ大学スクール・オブ・マネージメント、情報および決定科学助教)、Vibhanshu Abhishek氏(カリフォルニア大学アーバイン校Paul Merageスクール・オブ・ビジネス准教授)、Alessandro Acquisti氏(カーネギーメロン大学ITおよび公共政策教授)。

「広告主のキャンペーンの有効性におけるターゲッティング広告のインパクトは広く実証されているものの、オンラインターゲッティングとターゲッティング技術がパブリッシャー、つまりウェブサイトの広告スペースを販売する業者にもたらす価値については、ほとんど知られていない」と彼らは書いている。「事実、行動ターゲッティング広告によるパブリッシャーの利益に関する社会通念は学術研究で精査されたことがほとんどない」。

「報告書でも簡単に触れましたが、複数の株主(小売り業者、パブリッシャー、顧客、仲介者など)のためのオンライントラッキングと行動ターゲッティングの共通の利益に関する主張があるにも関わらず、独立系の研究者からの経済的結果に関する実証的な評価は驚くほど少ないのです」とAcquistiは私たちに話してくれた。

「事実、評価のほとんどは市場の広告主側に焦点を当てられたもので(例えば、ターゲッティング広告のクリックスルーやコンバージョンレートによる増収の評価は非常にたくさん行われてきた)、市場のパブリッシャー側の評価は、ほとんど知られていません。この調査を始めるに当たり、私たちの予測を裏付けるデータがほとんど存在しなかったため、どんな事実が出てくるのか、純粋に好奇心が湧きました」

「私たちには、適格な予測の元になる理論的根拠がありましたが、それらの予測はまったく反対の結果なる場合もありました。ある状況では、ターゲッティングはオーディエンスの価値、広告主のビッド数を増やし、パブリッシャーの収益を増加させますが、別の状況では、ターゲッティングによって広告に興味を持つオーディエンス層が縮小し、それがディスプレイ広告の競争力を低下させ、広告主のビッド数を減らし、結果的にパブリッシャーの収益を減少させます」。

この調査のために、研究者たちは、ニュース、エンターテインメント、ファッションといった幅広いバーティカル市場のウェブサイトを運営するある大手パブリッシャー(企業名は明かされていない)が所有する複数のオンラインショップでの、1週間にわたる「数百万件」ものディスプレイ広告の取り引きのデータセットを提供された。

このデータセットには、サイトの訪問者のクッキーIDが使えるか否かの情報も含まれている。これにより、行動ターゲッティング広告と非ターゲッティング広告の価格の違いが分析できるようになる(研究者たちは統計的メカニズムを用いてクッキーを拒絶したユーザー間の系統的差異に対処している)。

上記のとおり、今回の最も大きな発見は、データ解析の対象となったパブリッシャーが得られた利益の上昇率は、非常に低かったというものだ。それは4%前後に留まる。つまり、平均的な収益の差額は広告1本につき0.00008ドルだ。

この発見は、ネット上で吹聴されている、行動ターゲッティング広告はパブリッシャー、ひいてはジャーナリズムを支えるために「必要不可欠」だとする、声高ながら根拠のない主張と真っ向から対立するものだ。

例えば、これは今月の初めにフリーランスのジャーナリストが公開した「An American Prospect」(米国の繁栄)と題した記事だが、その中に「サードパーティーのクッキーを使わないオンライン広告の掲載料は、同じ広告にクッキーを用いた場合のわずか2%だ」と書かれている。ただし、その数値的データの出所は確認されていない。

「この記事の著者が私たちに話したところによると、情報源は、Index ExhangeのAndrew Casaleが2018年に行ったスピーチだという。その中で彼は、購入者IDのない広告の依頼は、同じ広告でID付きの依頼に対して99%もビッドが低かったと話している。この情報に、アドテクノロジー業界の人たちから彼女が独自に聞いた、クッキーのない広告の価値の減少率は99%から97%という数値の中間値を加味している」。

同時に米国の政策立案者たちは、今になってプライバシー規制に関してヨーロッパに大きく遅れをとっていることを痛感し、インターネットのユーザーがアドテクノロジーの巨大企業によるトラッキングと顧客プロファイルの厳密な実態調査と、その恐ろしさの喧伝に慌てて力を入れている。

米上院司法委員会が今月の初めに開いた公聴会(「デジタル広告のエコシステムとデータ機密性と競争方針を理解する」ために招集された)では、巨大ハイテク企業を規制するか否かではなく、独占的な広告巨大企業をどれほど厳重に処置するかが話し合われた。

「それのために、今日私たちは集まりました。(インターネット上での消費者のプライバシーを保護するための)選択肢の欠如です」とRichard Blumenthal上院議員は言った。「GoogleとFacebookと、その他の市場を独占する企業が過剰にして驚異的な力を有していることは、紛れもない事実です。だからこそ、早急なプライバシーの保護が絶対的に不可欠なのです」。

アドテクノロジー業界が組織的に展開している「侵襲的な監視」とも言うべき行為は、「政府が行おうものなら断じて許されませんが、FacebookもGoogleも、建国の父祖が夢にも思わなかった権力を手にしています」とBlumenthalは続け、アドテクノロジー業界の監視複合体によって吸い上げられ利用されるいくつかの個人情報のタイプを示した。「健康、交際、位置、経済、非常に私的な情報、これらがほとんどなんの制限もなく、誰にでも提供されています」。

この「侵襲的な監視」を思えば、単純に脈絡によって提供される(そのためウェブユーザーをどこまでもトラッキングする必要がない)広告に対して、パブリッシャーにとって4パーセントだけ「プレミアム」なプライバシー蹂躙広告は、とんでもない詐欺に思える。パブリッシャーのブランドも、オーディエンスの顧客価値も、インターネットユーザーの権利とプライバシーも被害者だ。

ターゲッティング広告による増益はほんのわずかであることが、この調査で判明した。しかも研究者たちは、パブリッシャーのプライバシー規制に準拠するためのコストを加味しなければならないと指摘している。

「訪問者へのトラッキングクッキーの設定が無料で行えるとすると、ウェブサイトは確実に損をする。しかし、トラッキングクッキーの広範な利用と、さらに広範に行われているインターネット上でのユーザーのトラッキングは、プライバシー問題を引き起こし、とくに欧州連合においては、厳しい規制の導入を招くことになった」と彼らは綴り、International Association of Privacy Professionals(国際プライバシー専門家協会)による評価の引用へと続く。それによれば、フォーチュンのグローバル500に選ばれた企業は、EU一般データ保護規則に準拠するために、およそ78億ドル(約8444億円)を支出する計画を立てているという。

組織的にインターネット上のプライバシーを侵害するために多額なコストを費やしても、パブリッシャーが価値を得ることは難しい。こうも考えられる。迷惑なトラッカーでサイトを飾り立て、ブランドの評判とユーザーのロイヤリティを獲得しようとするパブリッシャーが負担するコストであろうが、もっと大きな社会的コストであろうが、それはデータを燃料にして弱い立場の人たちを操り搾取する危険性につながっていると。平たく言えば、何も見えていないということだ。

パブリッシャーはこの調査によれば、差益のために自社のコンテンツとオーディエンスという資産の剥奪に加担しているように思える。しかし、アドテクノロジー業界が不透明であるために、彼らを手中に収めている巨大広告企業の計らいで、彼らがどのような「取り引き」をしているかは、彼ら自身にもほとんどわかっていないことが推測される。

そのために、この報告書は、オンラインパブリッシング業界にとって非常に魅力的なものになっている。そして、アドテクノロジー業界で働く人にとっては、実に気まずいニュース速報でもある。

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行動ターゲッティング広告でパブリッシャーが利益を得ることはない。それは、インターネットでタダのものをくれるわけでもない。Googleなどのアドテクノロジー企業があなたのデータを売っているに過ぎないのだ。その企業が持っている価値は、監視もなく広告主に届けられる。

この調査は、ひとつのパブリッシャーが経験した、広告市場の経済のスナップショットを提供したに過ぎない。これが示した兆候は、大金をつぎ込んでプライバシー法に反対し、「行動ターゲッティング広告を潰せばインターネットから無料のものが消える」との主張を根拠にアドテクノロジー業界のロビイストが描こうとしている絵とは、はっきりと異なる。

これ以上不気味な広告は出さないと宣言しても、パブリッシャーの収益がわずかに減るだけかも知れず、まったく同じ破滅を導く指輪を持ってるわけではないことは明確だ。

「簡単に言えば、この調査は指摘されてきたものの実証的な確認がほとんどなされていなかった広告エコシステムの一部の、最初のデータポイントを提供するものです。結果として、これはデータの流れからどのようにして価値が生み出され、さまざまな株主に配分されるのかを透明化する必要性を強調するものとなりました」とAcquisti。この調査結果は、広告市場全体と照らし合わせて読むべきだと総括している。

この調査の反応を聞くべく、広告業界紙IABのCEOであるRandall Rothenberg氏にコンタクトをとったところ、彼はデジタルサプライチェーンは「あまりにも複雑で、不透明すぎる」ことに同意した。さらに、ターゲッティング広告が生み出す価値のうち、パブリッシャーに渡る量が比較的わずかであることに懸念を表明していた。

「身元不明のパブリッシャー1社の1週間ぶんのデータでは、予測可能な調査材料にはなりません。それでも、この調査は、ターゲッティング広告がブランドにとって膨大な価値を生み出すことがわかりました。この匿名のパブリッシャーが競売にかけた広告の90%以上が、ターゲッティング付きで購入されています。しかも広告主は、その広告に60%増しの特別料金を喜んで支払っています。しかし、その価値のほんのわずかしか、パブリッシャーには流れません」と、彼はTechCrunchに語った。「IABがこの10年間訴え続けてきたとおり、デジタルサプライチェーンはあまりにも複雑で、不透明すぎます。この価値の格差は、透明性の大切さを明らかにしています。そうすることで、パブリッシャーは、自分たちが生み出した価値から恩恵が得られるようになります」。

報告書では、アプローチの制限と、追加調査のアイデアについても論じられている。たとえば、クッキーの価値が、そこに含まれる情報の量によって変化する問題だ(これに関して、彼らは初期の発見についてこう書いている。「情報をほとんど含まないクッキーと情報をある程度含むクッキーとを比較したとき、情報は(パブリッシャーの観点からは)非常に貴重であるかに見える。しかしある時点から、クッキーに情報を追加してもパブリッシャーにとっての価値は高まらなくなる」)。また、「クッキーの有無が競売に変化をもたらす」仕組みの調査だ。広告の競売の力学と潜在的メカニズムの働きを解明しようというものだ。

「これは、ひとつの新しい、そして便利であって欲しいと願うデータポイントです。他の人たちの追加調査を必要とします」とAcquistiは、締めくくりとして私たちに話した。「調査活動の鍵は、積み重ねによる進歩にあります。より多くの調査研究が発展的に追加されることで、問題の理解はより深まります。この分野での研究が進むことを楽しみにしています」。

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(翻訳:金井哲夫)

オンライン広告をもっとプライベートするアップルの提案

長年にわたり、オンライン広告のおかげでウェブのほとんどが無料で使えるようになっている。ただ問題は、広告がみんなに嫌われていることだ。無神経に画面全体を占領したり、自動的に表示されたりするとき以外も、インターネット上のどこへ行こうと、彼らは私たちの動きを見張っている。

広告は、私たちがどこへ行き、どのサイトを訪れたかを追跡でき、個人の特徴を蓄積できる。広告をクリックしなくてもだ。もしクリックすれば、何を買ったかが相手に知られて、他のサイトにも報告される。だから、あなたが夜更かしをしてアイスクリームやネコの餌や、もうちょっとプライベートなものを買っていることが知れ渡ってしまうのだ。

簡単な対策として、広告ブロッカーという手がある。しかし、それではインターネットの発展や利便性の向上は望めない。そこでApple(アップル)は、評判の悪い広告トラッキング能力は使わずに、広告を存続させる中間地点を見つけ出した。

巨大ハイテク企業のアップルが考え出したのは、Privacy Preserving Ad Click Attribution(プライバシー保護型広告クリック・アトリビューション)。舌を噛みそうな名前だが、その技術的な能力は確かなようだ。

背景を簡単に説明しておこう。インターネットで何かを買うごとに、広告を掲載した店舗は、あなたが何かを買ったことを知り、同時に、同じ広告を掲載している他のサイトにそれが伝わる。広告がクリックされると、店舗は、どのサイトで広告を継続させるべきかを考えるために、それがどのサイトの広告なのかを知る必要がある。これがいわゆる広告アトリビューションだ。広告はよく、トラッキング画像を使う。見えるか見えないかのピクセルサイズの微小なトラッカーがウェブサイトに埋め込まれていて、どこでウェブページが開かれたかを監視している。この画像にはクッキーが仕込まれていて、ページからページへ、またはウェブサイト全体にわたるユーザーの移動状況を簡単に追跡できるようになっている。この目に見えないトラッカーを使うことで、広告をクリックしてもしなくても、その人が訪れたいくつものサイトを通じて、興味や何を欲しがっているかといった個人的な特徴の数々を、ウェブサイトが蓄積してゆく。

その概要を説明した米国時間5月23日公開のアップルのブログ記事によると、広告は、オンラインストアで何かを買ったことを他人に知らせる必要はないと、同社では考えているようだ。広告に必要な情報は、誰か(個人は特定しない)が、どのサイトの広告をクリックして何を買ったかという情報だけだという。

個人の識別などはもってのほか。その新技術を使えば、広告キャンペーンの効率を落とすことなく、ユーザーのプライバシーが守れるとアップルは話している。

アップルeのこの新しいセブ技術は、間もなくSafariに組み込まれることになっているが、大きく分けて4つの部分で構成されている。

1つ目は、広告をクリックしても、個人が特定されないようにするものだ。広告には、ユーザーがどのサイトを訪れ何を買ったかを認識するための、長大な一意のトラッキングコードが使われていることが多い。なので、キャンペーンIDの数を数十個に限定すれば、広告主はその一意のトラッキングコードをクリックごとに割り当てることができなくなり、ウェブ上で特定の個人ユーザーのトラッキングがずっと難しくなる。

2つ目は、広告のクリック回数の測定は広告がクリックされたウェブサイトだけで許可されるというもの。これによりサードパーティーは排除される。

3つ目は、ユーザーがサイトに登録したときや何かを買ったときなど、ブラウザーは広告のクリックとコンバージョンに関するデータの送信を最大で2日間、不特定な時間だけ遅らせるというもの。そうすることでユーザーの行動をさらに見えにくくする。そのデータは、他の閲覧データが関連付けられないように専用のプライベートな閲覧ウィンドウを通して送られる。

最後に、アップルによれば、これらをブラウザーレベルで行うということだ。それにより、広告ネットワークや業者が取得できるデータが大幅に制限される。

誰が何をいつ買ったかを正確に調べるのではなく、アップルのブライバシー広告クリック技術は、個人を特定せずにクリックされたこととコンバージョンのデータを送り返す。

「サイトを超えたトラッキングによる問題を訴えるブラウザーが増えているため、私たちは、プライバシーを侵害する広告クリックのアトリビューションを過去のものにしなければなりません」と、アップルのエンジニアであるJohn Wilander氏はブログ記事に書いていた。

この技術の中核となる機能の1つに、広告が収集できるデータの量を制限する技術がある。

「今日の広告クリック・アトリビューションの実践方法には、データ量に実質的な制限がなく、クッキーを使用するユーザーの、サイトをまたいだ完全な追跡が可能になります」とWilander氏は解説する。「しかし、アトリビューションデータのエントロピーを十分に低く保つことで、報告はプライバシーを保護した状態で行えると信じています」。

要約すれば、キャンペーンとコンバージョンのIDの数を64個に限定すれば、サイトを超えて移動するユーザーの追跡を可能にする一意の識別子となる長い一意の値を、広告主が使えなくなるということだ。アップルによれば、この数を制限しても広告主は広告の効果を知るための十分な情報が得られると言っている。それでも広告主は、例えば特定のコンバージョンIDを使い特定のサイトで48時間以内に行った広告キャンペーンのうち、どれがもっとも顧客の購入に結びついたかを知ることができる。

アップルは、この技術が広く普及すれば購入のリアルタイムの追跡は過去のものになると考えている。広告のクリックとコンバージョンの報告を最大2日間遅らせることで、広告主は誰が何をいつ買ったかをリアルタイムで知ることができなくなる。アップルによれば、誰かが何かを買った途端にアトリビューションの報告が送られる間は、ユーザーのプライバシーを守る手立てはないという。

アップルは、このプライバシー機能が今年の後半にSafariのデフォルトに切り替わるよう設定しているが、それだけでは不十分だ。同社は、他のブラウザーのメーカーもこの松明を手に取って一緒に走ってくれるよう、この技術をワールド・ワイド・ウェブ・コンソーシアムで規格化するよう提案した。

最近のことを憶えている人なら、ウェブの規格はすべて成立するわけではないと思うだろう。哀れな運命を背負ったDo Not Track(トラッキング拒否)機能は、ブラウザーのユーザーからウェブサイトと広告ネットワークに追跡するなという信号を送れるようにするものだった。主要なブラウザーのメーカーはこの機能を受け入れたものの、議論が泥沼化して規格にはならなかった

アップルは、今回の提案は通ると見ている。その主な理由は、プライバシー広告クリック技術は、Do No Trackと異なり、他のプライバシー保護のための技術と協力してブラウザー内で効果を発揮できるからだ。Safariにはintelligence tracking prevention機能がある。GoogleのChromeMozillaのFirefoxなどの他のブラウザーも、プライバシーにうるさい人たちに対処するためにプライバシー機能を強化している。アップルはまた、ユーザーが積極的にこのプライバシー機能を欲しがると踏んでいる。その一方でこれは、広告やコンテンツのブロッカーをインストールするなどのユーザーの思い切った行動によって閉め出されることを恐れる広告主の懸念にも配慮している。

この新しいプライバシー技術は、先週公開になった開発者向けのSafari Technology Preview 82に搭載されている。ウェブ開発者向けには、今年後半に提供される。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)