やむを得ずキャンセルしなければならないホテルの宿泊権利を第三者に販売できるのが、日本のスタートアップCansellが提供する「Cansell」だ。同社については、これまでにもTechCrunch Japanで取り上げてきた。
Cansellに宿泊権利を出品したユーザーは販売代金によってキャンセル代の穴埋めができ、購入者は通常よりお値打ちな値段でホテルに宿泊することができる。また、ホテル側も通常の宿泊料金を受け取れるという仕組みになっている。
そのCansellは3月15日、「パッケージツアー」に含まれる宿泊権利の出品も可能にすると発表した。同時に、3月9日付けで旅行業を営む認可を取得したことを明らかにした。
ここで言うところのパッケージツアーとは、ホテルなどへの「宿泊」と、飛行機などの「移動手段」が最初からセットになっている旅行のことを指す。そして、今後Cansellはこの宿泊権利の取り扱いも開始するという。
でも、正直これだけ聞くと「ツアーで買ってわざわざホテルだけ出品する人なんているの?」と思ってしまう。
しかし、Cansell代表の山下恭平氏は、この新機能はユーザーからの声を取り入れたことにより生まれたものだと話す。「実際にユーザーから『パッケージで買ったホテルの宿泊権利を出品したい』という声があった。ただ、Cansellには転売目的での出品は受け入れないという方針がある。そのため、これまではホテルの『定価』が明確ではないという理由で出品をお断りしてきた。ただ、転売目的の出品対策さえ整えれば、誰も損をしないビジネスの構図を保つことができると考え、出品の受け入れを開始することに決めました」。
転売目的での出品を防ぐため、Cansellでは宿泊日から起算して21日以前の権利の出品は受け付けない方針だ。ツアーパッケージの場合、キャンセル料が発生するのはチェックインまで20日を切ったものに限られるからだという。また、従来と同じく市場価格以上での値付けは禁止するそうだ。
とはいえ、この新機能において転売目的の出品を規制するのは非常に難しいと思う。既存のサービスの場合、Cansellを利用するのは何らかの理由で旅行に行けなくなった人たちが想定されていた。しかし、今回の新機能の登場によって「(航空券はあるから)旅行には行くが、なんらかの理由でホテルだけ変えたい人々」も想定ユーザーに含まれている。だからこそ、転売を目的とするユーザーも増えそうだ。
例えば、元々ツアーで予約していたホテルよりも安く宿泊できるホテルを見つけた場合、Cansellで権利を販売することができればその差額分ユーザーが「得」をする(たとえ「定価」以下で売ったとしても、それ以上に安いホテルが見つかれば同じことが言える)。航空券もツアーの方が安いから、それだけでも「おいしい」話だ。
僕みたいに「安いホテルでもいい」と割り切っているユーザーにとっては、初めから権利を売却するつもりでツアーに申し込む人も出てくるだろう。現実的に考えれば、ユーザーが得をする以上、プラットフォームが活発になればなるほど利益を出そうとするユーザーも増えるはずだ。
そのため、新機能を追加してもなお「転売目的としてプラットフォームではない」という山下氏の主張がどこまで有効なのかについては少し疑問が残る。
ただ、今回Cansellが生み出したのはまったく新しい市場だ。転売目的の売買を防ぎ、値段が無駄に釣り上がってしまうことを防ぐことさえできれば、今まで世の中に存在しなかった便益をユーザーに与えることができる。個人的には、この新しいマーケットはすごく面白いと思っている。
同社は2017年1月、DGインキュベーションなどから約4000万円を調達した。サービスのプレビュー版が公開されたのは2016年9月のことだ。その後の進捗状況について山下氏は、「プレビュー版の時点で百数十件と、出品数は少しづつ伸びてきているが、成約率がまだ20%程度と低い。買い側のトラフィックが足りていないことが原因で、ここは今後の課題だ。PRやマーケティング戦略に注力していきたい」と話している。