東京都市大学、磁気ヘッドの誤差を減らしデータセンター用HDDを30%大容量化する技術を開発

HDDの磁気ヘッドは、ボイスコイルモーター(VCM)とピエゾ素子(PZT)を用いた2つのアクチュエーターによって制御される

HDDの磁気ヘッドは、ボイスコイルモーター(VCM)とピエゾ素子(PZT)を用いた2つのアクチュエーターによって制御される

東京都市大学は2月21日、インターネットのデータセンターで使われるHDDを、現行から30%大容量化する技術を開発したと発表した。ディスクにデータを読み書きする磁気ヘッドの位置決め精度を改善し、単位面積あたりの記録密度を向上させるという。

東京都市大学理工学部機械システム工学科の藪井将太准教授と、千葉工業大学工学部の熱海武憲教授らからなる研究グループは、磁気ヘッドの位置決め制御系に着目し、ディスク上の1bitあたりの物理サイズを小さくすることを目指した。HDDのディスクのサイズは規格化されているため、容量を増やすには記録密度を高めるしかない。ディスク上の1bitの記録サイズは、磁気ヘッドの位置決め精度によって決まる。そこで、磁気ヘッドを正確に制御する必要がある。

HDDの磁気ヘッドは、ボイスコイルモーター(VCM。Voice Coil Motor)とピエゾ素子(PZT)を用いた2つのアクチュエーターによって制御されるが、研究グループは、これらの制御性能を最大限に引き出すコントローラーを設計した。それにより、その位置決め精度は、現行の精度に比べて30%向上した。この技術を使えば、現行で18〜20TB(テラバイト)の記録容量を、25TB程度まで増大できる。

磁気ヘッドの位置誤差信号

現時点でのHDD容量とデータセンターの消費電力の関係

現時点でのHDD容量とデータセンターの消費電力の関係

身の回りのガジェットではHDDがSSDに急速に置き換わっているが、データセンターでは今後もしばらくHDDが使われてゆく見通しだ。だが、現在のデータセンターは膨大な電力を消費し、大量の熱を発するなど、環境への影響が問題視されている。そこでこの技術を導入すれば、データセンターのHDD稼働台数を減らして効率化し、消費電力を低減できるということだ。

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功

展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。センサーが固定されたパドル面には、千葉 工業大学の校章とPERCのロゴが印字されている

展開した膜型ダストセンサーをオンボードカメラで撮影した自撮り画像。センサーが固定されたパドル面には、千葉
工業大学の校章とPERCのロゴが印字されている

千葉工業大学惑星探査研究センター(PERC)は2月15日、宇宙塵探査実証衛星「ASTARISC」(アスタリスク)がJAXAのイプシロンロケット5号機で高度約570kmの地球周回軌道に打ち上げられ、初期運用に移行したことを発表した。

ASTARISCは、宇宙塵や微小なスペースデブリを観測するための、サイズが30×10×10cmというU3超小型衛星。世界初の方式による、展開すると30×30cmになる膜状の粒子観測装置(ダストセンサー)を搭載している。ダストセンサーは、ポリイミド製の膜に圧電素子を接着したもの。この膜に宇宙塵やスペースデブリが衝突すると、そのとき発生する弾性波を電気信号としてとらえ、独自の信号処理によりリアルタイムで粒子を観測できる。粒子が膜に衝突しさえすれば検出できるので「膜の面積を大きくするだけで大面積のセンサーを容易に実現できる画期的な技術」とのことだ。

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功

ASTERISC外観写真。写真左は、展開前の衛星外観。写真右は、30×30cmの膜型ダストセンサー(左方向に広げられたオレンジ色の膜)展開後の衛星外観。膜型ダストセンサーの膜面には、受信用の8個の圧電素子と2個の試験信号用の圧電素子が接着されている

 

千葉工業大学の宇宙塵探査衛星ASTARISC、大面積膜型ダストセンサーを展開し軌道上実証に成功ダストセンサーは、センサーの健全性と展開実施の要件を確認したあと、ニュージーランド上空付近で展開された。タイマーコマンドにより自律的に展開されたが、オンボードカメラの映像などによって、設計通りの形状で展開されたことが確認できた。すでに「真の粒子観測イベント」と判定できるデータが得られているとのこと。観測された粒子は、0.1〜1μm(マイクロメートル)程度のサイズと推定され、センサーが設計通りの感度を有していることも実証された。今後は、長期的な観測により、軌道上の粒子の量・飛来方向・運動量などを明らかにできるとしている。

宇宙塵は、太陽系の形成に大きく関わる重要な微粒子で、原始の地球に降り注いだ宇宙塵由来の有機物が生命の起源ともいわれている。また、スペースデブリの定量的な観測と評価も、今後の宇宙開発において重要な意味を持つ。しかし、宇宙塵や微小なスペースデブリを地上から観察することはきわめて難しく、その分布や量などの特性を調べるには、直接宇宙で観測しなければならない。

ただ、宇宙空間での宇宙塵や微小スペースデブリは存在が大変に希薄であるため、それらを観測するには大きな検出面積を持つダストセンサーが必要となるが、これまでの方式ではコストの面などで大型化が困難だった。そこで惑星探査研究センターは、容易に大面積化できるこのダストセンサーを開発した。

ASTARISCは、惑星探査研究センターと東北大学が共同で開発したもの。今回は同時に、将来のミッションを視野に入れた国産の衛星バス技術(電源系、通信系、データ処理制御系、姿勢系)の軌道実証も行い、成功している。

ツタンカーメンの鉄剣は隕石で作られていた―千葉工業大学がその製造法と起源を解析

ツタンカーメンの鉄剣は隕石で作られていた―千葉工業大学と惑星探査研究センターがその製造法と起源を解析

ツタンカーメンの鉄剣。(a)(b)2020年2月に研究チームが鉄剣の両面を撮像したもの。(c)1925年発掘時に鉄剣の片面(a)を Harry Burton氏が撮影したもの。オックスフォード大学グリフィス研究所の許可を得て複製した画像。(d)鉄剣の面(a)の拡大写真。中央を横切るひび割れと鉄剣の長手方向に平行に走る細かい擦り傷。(e)鉄剣の面(a)の拡大写真。斑点状に分布する黒い部分は硫化鉄

千葉工業大学は2月14日、エジプト考古学博物館においてツタンカーメン(紀元前1361年~1352年)の鉄剣の非破壊・非接触化学分析を行ったことを発表した。その結果、鉄剣の原料は隕石であり、低温鋳造で作られ、エジプト国外からもたらされたことが判明した

千葉工業大学学長であり、千葉工業大学地球学研究センターおよび惑星探査研究センター所長の松井孝典氏率いる研究チームは、エジプト考古学博物館において、ポータブル蛍光X線分析装置を用いた鉄剣の元素分布分析を行ったところ、その製造法と起源が明らかになった。

鉄剣には10〜12%のニッケルが含まれており、その二次元元素分析から鉄剣の表面にはウィドマンシュテッテン構造が認められた。これは、鉄とニッケルを含むオクタヘドライト型隕石にみられる特有の構造のこと。さらに、黒い斑点として見られる部分は、これもオクタヘドライト型隕石に含まれる硫化鉄だと認められることから、原料は隕石由来と考えられた。また、ウィドマンシュテッテン構造と硫化鉄包有物が残されていることから、950度以下の低温で製造されたこともわかった。

ニッケル(Ni)、硫黄(S)、塩素(Cl)の元素分布

この剣が作られた紀元前14世紀ごろは、現在のトルコ周辺を支配していたヒッタイト帝国(紀元前1200~1400年)が鉄の製造技術を独占していた。当時のエジプトには製鉄技術はなく、鉄隕石を加工していたと考えられる。また、古文書によると、ヒッタイト帝国の隣国であるミタンニ王国からツタンカーメンの祖父であるアメンホテップ三世に鉄剣が送られたと記されていることから、この剣はミタンニ王国から持ち込まれたものと推測できる。

もう1つ、金の柄からは少量のカルシウムが検出されており、これは装飾物の接着に使われた漆喰の成分だと考えられるという。ただ漆喰は、エジプトではツタンカーメン王の時代から1000年以上後にならないと使われていない。それらを総合すると、この鉄剣は、アメンホテップ三世への贈答品としてミタンニ王国から持ち込まれたものと考えられるということだ。