CO2回収へ一歩、アイスランド独自の火山地質は空気をろ過し二酸化炭素を貯留する技術に理想的な環境だ

私たちが吸っている空気は二酸化炭素問題を抱えている。だが、アイスランドのレイキャビク郊外にある、地熱活動の活発な台地のように広がるHellisheidi(ヘトリスヘイジ)では、新しい技術がそれを修復するための小さくも力強い一歩を踏み出している。

Climeworks(クライムワークス)が建設したOrca(オルカ)というプラントは、CO2を空気中から直接ろ過し、地中に永久に貯留する世界初の施設である。

Orcaの二酸化炭素回収デバイスは巨大なトランジスタラジオのようだ。氷に覆われた山頂から日の光が差し込む珍しい日でさえ激しい風が吹くアイスランドの風景に、これらのデバイスはぴったりとフィットしている。

同プラントは2021年9月に稼動を開始したばかりだが、同社の空気ストレーナー技術は直接空気回収として知られているもので、かなり前から環境保護活動家の間で論点になっていた。二酸化炭素を吸い上げることは、かつては最後の手段と考えられていたのだが、私たちは最後の手段がなくてはならない未来に向かって進んでいるようだ。

「直接空気回収と貯留の組み合わせは、パリ気候目標に準拠することを目指す上で、世界が膨大な規模で必要とするものになる可能性が非常に高いです」とClimeworksのCEOで共同創業者のJan Wurzbacher(ヤン・ヴュルツバッハー)氏は語る。

計算と魔法に基づく二酸化炭素除去

ヴュルツバッハー氏が言及していた「パリ」目標とは、2015年のパリ協定で定められた、気温上昇を摂氏2度(理想は摂氏1.5度)まで抑えるために温室効果ガスの排出量を制限する世界目標のことだ。この目標を達成するためには、2050年までに年間100億トンの二酸化炭素を大気中から除去する必要があると国連は推定している。この数字は、他の手段によって積極的な排出削減が達成されると仮定した場合の最良のシナリオである。十分な削減がなければ、二酸化炭素除去の必要性はさらに高まるだろう。

「それはかなりシンプルな気候計算です」と、ヴュルツバッハー氏はClimeworksが拠点を置くスイスのチューリッヒからのビデオ通話で説明した。「今世紀半ばまでに、他の対策がすべてうまくいくという想定の下で、100億トンのCO2を除去する必要があります。石炭火力発電所などを十分な速さで縮小することは困難であることから、最終的には200億トン削減する必要に迫られるかもしれません」。

直接空気回収技術は、過剰なCO2を除去するための多くの選択肢の1つである。植林などの自然な方法や、煙突などの排出源から直接CO2を回収する技術もある。CO2を発生源で回収するよりも、文字通り薄い空気からCO2を回収する方が困難でコストがかかるが、直接空気回収の利点は、個々の汚染源を見つけ出したり停止したりする必要がないことである。世界中で機能するソリューションだ。

「直接空気回収を行う場合、CO2のある場所に行く必要はありません。空気はどこにでもあるからです」とヴュルツバッハー氏は述べている。

Orcaプラントはコンテナサイズの8つのボックスで構成されており、Climeworksはこれをコレクターと呼んでいる。それぞれの箱の正面には大きなベネチアンブラインドのようなスラットが取り付けられている。背面には12個のファンがあり、ボックスを通して空気を引き込む役割を果たす。コレクター内では、CO2分子は特別に開発されたフィルター材料の表面に衝突し、そこでアミンと呼ばれる分子によって選択的に吸着される。

その接点は魔法のような瞬間だ。残りの空気はコレクターの反対側から出ていくが、二酸化炭素はアミンにしっかりと付着する。その瞬間、CO2は混沌とした大気の乱れから秩序だった人類の支配へと移行し、数千年にわたって制御され続ける可能性を秘めたものとなる。熱を加えると、アミンからCO2が放出され、近くの火山岩に送り込まれて、永続的な炭酸塩鉱物を形成する。

現在、Orcaで大量のCO2を除去するにはトン当たり600〜800ドル(約6万8000〜9万1000円)の費用がかかるが、これはほとんどの潜在的な支払者にとって法外な金額だ。初期の顧客は、Microsoft(マイクロソフト)やStripe(ストライプ)、Swiss Re(スイス・リー)、さらにはバンドColdplay(コールドプレイ、近く行われるワールドツアーからの排出量の一部を相殺するためにClimeworksを採用)など、高い料金を支払うことに前向きな企業や個人となっている。

Climeworksはこのコストを100〜200ドル(約1万1000〜2万3000円)に引き下げることを目指している。US Department of Energy recently(米国エネルギー省)は最近、技術的な二酸化炭素除去のコストをトン当たり100ドル以下にするという同様の目標を設定した。このような低価格帯であれば、直接空気回収は他の野心的な排出削減策と同等になる。

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この魔法の瞬間は、今のところ安くはないかもしれないが、少なくともうまく機能する。

「Orcaはゼロから1に進みました」とコロンビア大学のシニアリサーチフェローであるJulio Friedmann(フリオ・フリードマン)博士は述べている。「現時点で私たちは、必要に応じてOrcaをさらに製造できることを承知しています。コストが削減され、パフォーマンスが向上することなどが予想できますが、現在は1台の装置で年間4000トンのCO2を大気から回収しています」。

コストが高いことに加えて、OrcaはCO2の回収量が非常に少ないことが指摘されている。4000トンという量は、数十年以内に除去しなければならない100億トンに比べれば微々たるものである。現在の排出レベルでは、人類はOrcaの毎年の取り組みを3秒ごとに相殺していることになる。

しかし、大気中から二酸化炭素を除去する他の方法と比較して、この量を考慮することは有用かもしれない。1エーカー(約4000平方m)のセコイア林を育てることも約4000トンのCO2削減につながるが、1年をはるかに超える時間を要する上、限られた場所でしか実現できない。

フリードマン氏は、直接空気回収のエレベーターピッチを同じような言葉で表現している。「それは20万本の木の仕事を、1000倍のスペースにわたって行います」。

Greta Thunberg(グレタ・トゥーンベリ)氏のような活動家は、直接空気回収のような工学的解決策を「ほとんど実在しない技術」として退け、代わりに自然に基づく解決策を推奨しているが、両方の戦略を追求することは可能である。国連の推定が正しければ、余分な二酸化炭素を吸収するための複数の解決策の余地があるだろう。

「私たちがこれを必要とすることになれば、数十億トンものオーダーになるでしょう。私はそうなることを確信しています」とヴュルツバッハー氏は語っている。

小さいほうがいいこともある

Orcaの小さい規模に対する指摘も別の重要なポイントを見落としている。小さい規模で始めることは、独特の学習機会である。

他の技術と同様に、直接空気回収は反復によって改善され、時間の経過とともにより効率的かつ安価になる。ClimeworksのCO2コレクターはモジュール化されている。つまり、より多くのCO2を回収する方法は、コレクター自体を大きくするのではなく、その数を増やすことにある。モジュールプロダクトを使うことで、より大型の特注品に比べて安価かつ容易に繰り返し利用できる。

「当社が現在所有するプラントの何倍にもなる大型プラントや複合設備を建設する頃には、プラントが機能していること、そして私たちがいかに効果的に運用を続けているかを確信しているでしょう」と、Climeworksの技術責任者であるNathalie Casas(ナタリー・カサス)氏は語る。「これがモジュラー型アプローチの優れた点です」。

ヴュルツバッハー氏によると、より大きなプラントをすでに建設中だという。Orcaプラントの10倍の大きさになるため、コンテナサイズのコレクターは8台から80台に増え、年間4万トンのCO2回収することになる。

Orcaほどの規模のプラントを建設する利点は、コレクターの設計を8回繰り返すだけで済むことだ。

「80のコンテナを作ればまったく別のストーリーになります」とヴュルツバッハー氏。

Climeworksの中小規模のアプローチは、直接空気回収技術を商用化している別の大手企業Carbon Engineering(カーボン・エンジニアリング)とは対照的である。同社は50万トンのCO2を回収するプラントをテキサス州に建設中だが、同プラントは今世紀半ばに稼働する予定となっている。

「Climeworksは、一度に砲弾のように急速に進むのではなく、段階を踏みながらスイミングプールに入っていきます」と、二酸化炭素除去に特化した投資コンサルティング会社Carbon Direct(カーボン・ダイレクト)のチーフイノベーションオフィサーColin McCormick(コリン・マコーミック)氏は述べている。

これらのアプローチの一方または双方が、規模とコストの両面で二酸化炭素除去を達成できるかどうかはまだわからない。直接空気回収はまだ初期段階にあるが、持続可能な技術の重要な担い手の一部と類似性がある。太陽光発電(PV)パネルと風力タービンはどちらも数十年前に始まったばかりだが、今では巨大かつ成長中の産業となり、エネルギー移行の先陣を切っている。

ソーラーパネルは、理論的には可能だが商業的には証明されていないものを実現するために、新しい素材を使って作られていることから、ソーラーパネルとの比較は特に適切であろう。

マコーミック氏の説明によると、大気中の二酸化炭素を回収するのに必要なエネルギー量には最低限度があり、それはかなりのものであるが、ClimeworksとCarbon Engineeringはともにその最低値の約10倍のエネルギーを使用しているため、改善の余地は大きいという。

「効率は100%を大幅に下回っていますが、問題ありません」と同氏は続けた。「初期のソーラーパネルは効率が数パーセントでした」。

Climeworksが効率性の向上とコスト削減に向けて模索している方法は数多くある。中でも大きいのは、フィルター材を改良して、より多量のCO2回収と長寿命化を図ることである。同社はまた、モジュールユニットの建設コストを下げるために生産を合理化する方法も検討している。そして、CO2のパイプラインのような比較的固定されたコストがあり、それはプラントが大きくなるにつれて自然に減少していくことになる。

今後の技術的な課題は気が遠くなるほどのものかもしれないが、Climeworksのチームは動じない。実際、ヴュルツバッハー氏は、直接空気回収の現状は1970年代と1980年代の風力や太陽光よりもずっと有利であると考えている。

「太陽光発電や風力発電が始まった頃と比較してみると、それらはコスト削減に関連するより多くの要因に取り組む必要性を抱えていました」とヴュルツバッハー氏。「私たちが対処すべき要因がその10分の1程度であることは、実際のところ朗報と言えます」。

これらのコスト削減を実現するには、研究室やオフィスではなく、実際の環境でのみ可能な学習が必要となる。

「これはソフトウェアのスタートアップではありません」とヴュルツバッハー氏は続ける。「私たちは過酷な環境に鋼鉄とコンクリートを置いています。おそらく90%までしか予測できないような奇妙なことが起こりますが、予測できない残りの10%については学習していきますので、現場で何かを取り出すことは非常に重要です」。

Hellisheidi地熱発電所はレイキャビクの大部分と同様にOrcaにも熱とエネルギーを供給している

なぜアイスランドなのか

Orcaほど雄大なフィールドサイトを見つけるのは難しいだろう。このプラントは、草の茂った平原の端に位置し、くっきりとした白い雪で彩られた岩だらけの黒い山頂のすぐ下にある。しかしClimeworksのチームは、その風景のためにその場所にOrcaを建設することを選んだわけではない。Hellisheidiのサイトには、直接空気回収に不可欠な2つの要素がある。安価な再生可能エネルギーと、CO2を貯留する場所だ。これらの要素はいずれもアイスランド独自の火山地質の産物である。

Orcaはアイスランド最大の地熱エネルギー源の1つであるHellisheidi地熱発電所のすぐ隣に位置している。同発電所は地下1マイル(約1.6km)の深さから熱水を引いており、そこは火山性ホットスポットによって自然に暖められている。地熱プロセスは熱と電気を発生させ、どちらも直接空気回収のための重要なインプットとなる。

この電力を使って空気をコレクターに送り、その熱を利用して、フィルター材から回収されたCO2を放出する。この放出は、沸騰水の温度である摂氏100度前後で発生するものだ。

「まず第一に、地熱はとても優れています。24時間年中無休で熱と電気を供給しますので、私たちの活動に非常に適しています」とヴュルツバッハー氏は語っている。

それからCO2だ。Hellisheidiの下にある岩は多孔質の玄武岩で、100万年も経っておらず、地質学的にはかなり新しい。Carbfix(カーブフィックス)という企業が、この若い岩にCOを注入し、反応させて炭酸塩鉱物を生成する方法を考案した。

Carbfixは、地熱発電所を運営する自治体所有の電力会社Reykjavik Energy(レイキャビク・エナジー)の子会社である。同社は5年以上にわたり、地熱プロセスから排出される少量のCO2を貯留する技術を使用しており、OrcaからのCO2を貯留するインフラはすでに整っていた。

「これがOrcaがアイスランドに存在する大きな理由です」とマコーミック氏は語る。「地熱地帯からの廃熱とゼロカーボン電力を利用しています。すでに掘削済みの注入孔と、CO2を注入するための優れた地質構造を備えているため、この場所には必要なものがすべて揃っています」。

二酸化炭素の貯留は二酸化炭素除去の方程式の重要な構成要素である。多くの方法が存在するが、二酸化炭素はすぐに岩に変わるため、Carbfixの方法は特に有望だ。2年以内、あるいは数カ月以内に鉱化する可能性が高く、数千年にわたって固体状態を保つ。

「CO2はどこにも移動することはありません。基本的に、いったん地下に沈んだ後は、地下に留まり続けることがわかっています」と、Carbfixの研究・イノベーション責任者であるKari Helgason(カリ・ヘルガソン)氏は述べている。

このタイムフレームは、CO2が漏出しないことを確認するための不確定なモニタリングを必要とする、放棄された油井での貯留のような他の方法とは対照的である。

Carbfix方式のもう1つの利点は、コストをほとんど無視できることであり、特に二酸化炭素を回収するための高いコストと比較する場合に顕著である。

「純粋なCO2を受け入れる場合は、かなりコスト効率が高くなります」とヘルガソン氏。「Climeworksで行っていることは、途方もなく低コストです」。

幸いなことに、アイスランドは大部分が玄武岩で構成されているため、貯留のオポチュニティはほぼ無限に存在する。ヘルガソン氏は、玄武岩1立方キロメートルあたり1億トンのCO2を貯留できると見積もっている。

「ストレージ容量は膨大です」と同氏はいう。

この大容量ストレージが存在するのはアイスランドだけではない。Carbfixは、地質学的な二酸化炭素貯留のポテンシャルを持つ世界の地域をマッピングしたオンラインの地図帳を編集した。

HellisheidiとCarbfixはOrcaプラントで完璧な適合を果たしたが、Climeworksは今後のプロジェクトのために他の場所にもオープンである、とヴュルツバッハー氏は言及している。

「アイスランドの天候と風はそれほど完璧とは言えません」と同氏。「同じ気象条件で次の発電所を建設したいかどうか、私たちのコミッショニングチームに尋ねれば、彼らはむしろハワイやその他の火山岩が多い場所へ行くことを望むかもしれません」。

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二酸化炭素回収にはビレッジが必要

ClimeworksとCarbfixのパートナーシップは、二酸化炭素除去を成功させるために必要な共同イノベーションの一例である。同様の関係を活性化する試みとして、米国は複数の企業が協働してCO2を回収・貯留する4つの直接空気回収「ハブ」の建設に35億ドル(約3980億円)を割り当てた。この対策は、最近議会で可決されたインフラ法案の一部である。

「直接空気回収は、多くの異なるグループ間の連携として考えることが非常に重要です」と二酸化炭素除去に焦点を当てたシンクタンクCarbon180(カーボン180)の政策担当副局長Rory Jacobson(ローリー・ジェイコブソン)氏は述べている。

多くの場合、石油・ガス会社は直接空気回収プロジェクトの一部であり、通常は資金援助者の役割を担っている。Carbon Engineeringは、テキサス州でのプロジェクトでOccidental Petroleum(オクシデンタル・ペトロリアム)と提携しており、もう1つの直接空気回収会社Global Thermostat(グローバル・サーモスタット)は、米国での複数の小規模プロジェクトでExxon Mobil(エクソンモービル)と提携している。

二酸化炭素回収のスタートアップにとって、これらの大企業と協力するのは理に適っている。彼らは大きな小切手を振り出すことができ、地質学を深く理解しているからだ。しかし、このようなパートナーシップは二酸化炭素回収が継続的な汚染の煙幕であるという主張にも火をつけた。

「Orcaで真に期待できることは、プロジェクトに化石燃料が関与していない点です」とジェイコブソン氏は話す。

化石燃料産業の支援があろうとなかろうと、政府の気候政策の支援なしには、直接空気回収の規模拡大は限界に直面する可能性が高い。問題は、風力や太陽光で発電された電力のように、大気から二酸化炭素を除去する固有の市場がないことにある。直接空中回収には(これまでClimeworksを支えてきたような)自主的な購入、あるいは政府の奨励策や指針による資金提供が必要である。

「二酸化炭素除去の自主的市場は、私たちに数百万トン、おそらく1千万トン、あるいはそれ以上をもたらすでしょう」とヴュルツバッハー氏。「公共の機関は、数千万トンから数十億トンまで私たちを運んでいく必要があります」。

いくつかのインセンティブはすでに実施されている。米国には現在、二酸化炭素の回収と貯留にトン当たり50ドル(約5700円)を支払う45Qと呼ばれる政策があり、この支払いはBuild Back Better(よりよき再建)法案の下でトン当たり180ドル(約2万円)に拡大される。同法案は最近下院を通過したが、上院では保留されたままになっている。

しかし、政府が高い炭素税を課したり、あるいは産業界に急激な排出量の削減や除去を直ちに強制するような措置を講じるならば、直接空気回収の市場はかなり拡大するだろう。最近グラスゴーで開催された国連気候変動会議では、世界のリーダーたちはそのような大胆な行動を発表しなかった。それは国民の圧力と気候変動の影響の両方が強まるにつれて変わるかもしれない。いずれにしても、すぐには解消されそうにない兆候を示している。

今後、より強力な政策が実現すれば、今日よりもはるかに安価な直接空気回収技術を携えて、Climeworksの準備が整うことになるだろう。価格は依然として高めかもしれないが、何もしない場合の価格はさらに高くなる可能性がある。

Orcaプラントはレイキャビクからクルマで20分ほどのところにある

画像クレジット:Ben Soltoff

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(文:Ben Soltoff、翻訳:Dragonfly)

ベルテクスとエコ・プランナー、年間消費電力を半分にできる高効率な地中熱冷暖房システムを製品化へ

ベルテクスとエコ・プランナー、年間消費電力を半分にできる高効率な地中熱冷暖房システムを製品化へ

実証試験システム概要図(赤字部分が今回の開発成果)

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は12月17日、「新エネルギー等のシーズ発掘・事業化に向けた技術研究開発事業」を通じ、プレキャストコンクリート・メーカーのベルテクスと、地中熱利用などの開発を行うエコ・プランナーとが、「ライニング地中熱冷暖房システム」を開発し製品化を果たしたことを発表した。

これは、地中熱を活用した冷暖房システム。従来は、地中に直径約160mm、深さ約100mの縦坑を堀り、U字に折り曲げた細い管を入れてケイ砂で埋め戻すという方式がとられていた。しかし、それには掘削コストなど膨大な経費がかかり、細い管に水を循環させて地中熱を採取するため採熱効率が低く、普及は進んでいなかった。

これに対して、ベルテクスとエコ・プランナーが、福井大学と共同で2016年から2020年の間に開発に取り組んできた地熱冷暖房システムは、縦坑の壁に樹脂製の袋(ライニング材)を密着させ貯水するという方式で、穴の深さは従来の半分の50mほどで済み、穴を掘る経費も半分で済む。地中熱冷暖房システムの経費のほとんどが、深い穴を掘ることに費やされているからだ。

この「ライニング地中熱交換器」方式なら、貯水による蓄熱効果と、穴の壁に密着させることにより採熱効果が向上する。さらに、エアコンの出力に合わせて熱源の循環水量を調整できる「熱収支制御ユニット」を組み合わせることで、熱交換効率は従来比で3割以上向上したという。またこのシステムを兵庫県加東市の事業所に実装し、消費電力を比較した結果、従来の空冷式エアコンに比べて、年間消費電力量が約50%削減できることも確認できた。

熱収支制御ユニット(プロトタイプ)

熱収支制御ユニット(プロトタイプ)

ベルテクスとエコ・プランナーは、このシステムを発展させて地中熱交換器の設置コストや省エネ性能のさらなる向上をはかり、熱収支制御ユニットを搭載した水冷式エアコンの開発を目指すとしている。

地球の電力需要を満たす大きな可能性を持つ地熱テクノロジーでリーダーを目指す「Fervo」

地表の下に蓄えられた地熱を再利用可能エネルギーの生成に使う方法は、環境問題専門家や石油、ガス技術者らの注目を引きつけている未来に向けた新たなビジョンだ。

それは、この技術が温室効果ガスを発生る炭化水素に依存しない発電方法であるからだけでなく、石油とガス産業が長年にわたって磨き続けてきたのと同じ技能と専門技術を使うからだ。

少なくともそれが、石油工学のコンプリーション・エンジニアだったTim Latimer(ティム・ラティマー)氏がこの業界に興味をもち、 Fervo Energy(ファーボ・エナジー)を立ち上げた理由だ。テキサス州ヒューストン拠点の地熱技術開発会社は、あのBill Gates(ビル・ゲイツ)のBreakthrough Energy Ventures(非常に忙しいファンドである)とeBay(イーベイ)の幹部であるJeff Skoll(ジェフ・スコール)氏のCapricorn Investment Groupから資金提供を受けている。

新たに2800万ドル(約30億6000万円)のキャッシュを手にしたFervoが計画、遂行しているプロジェクトの数々は「今後数年のうちに数百メガワットの電力を生み出す」とラティマー氏はいう。

ラティマー氏が発電の環境への影響を初めて肌で感じたのは、テキサス州ウェイコ郊外の小さな町で、米国で作られた最後の石炭による発電所であるSandy Creek石炭発電所の近くで少年時代を過ごしたときだった。

多くのテキサス・キッズと同じく、ラティマー氏は石油一家の出身で、彼が石油・ガス産業で最初の職を得たとき、世界が再生可能エネルギーへと切り替わり、石油産業が友達や家族ともども、取り残される運命になる可能性があることを知らなかった。

それが、Fervoを立ち上げた理由の1つだった、と起業家は語った。

「私にとって、石油・ガス産業で仕事を始めて以来一番大切にしてきたことは、エネルギー転換が起きる中で、化石燃料側にいる人達が将来クリーンエネルギーの仕事に就けるようにすることです」とラティマー氏は言った。「私は石油価格の暴落によって失業したり苦労を強いられている人たちを雇い、私たちの発電所で働いてもらうためのスタートを切ることができました」。

Fervo EnergyのCEOであるティム・ラティマー氏。同社の作業現場で保護帽を被っている同氏(画像クレジット:Fervo Energy)

バイデン政権がエネルギー転換政策の一環として、炭化水素業界の労働者のために職を探すことについて話している今、彼らはまさしくそのとおりのことをやっている。

そして地熱発電は以前ほど地理的制約を受けないため、世界には豊富な資源があり、すでに地質学的作業に依存している地域では高賃金職の可能性もある、とラティマー氏はいう(2020年10月にVoxはこの技術がもたらす歴史と可能性に関する優れた概観を出版した)。

「世界人口の大きなパーセンテージが、実は良質な地熱資源の近くに住んでいます」とラティマー氏はいう。「現在25か国に地熱発電所が設置・運用されており、他に地熱発電が生まれつつあるところが25か国あります」。

実際地熱発電は、米国西部およびアフリカの一部で長い歴史をもっている。自然に間欠泉が湧き、水蒸気噴流が地球から出ていることは、良い地熱資源の明白な指標だ。

「Fervoのテクノロジーは、大規模な展開が期待される新たなタイプの地熱資源の扉を開きます。Fervoの地熱システムは水平掘削、分散型光ファイバーセンシング、先進コンピューターモデリングなどの斬新な技術を使って、反復可能で費用効率の高い地熱電力の提供を可能にします」とラティマー氏がメールに書いた。「Fervoのテクノロジーは、有機ランキンサイクル発電システムの最新技術を組み合わせることで、柔軟な24時間運転カーボンフリー電力を供給します」。

当初、スタンフォード大学TomKat Centerの助成金とローレンス・バークレー国立研究所サイクロトロン・ロード・プロジェクトでActivate.orgから受けた奨学金によって設立されたFervoは、エネルギー省の地熱技術部門とARPA-E(エネルギー省高等研究計画局)から資金を調達するまでになり、Schlumberger(シュルンベルジェ)、ライス大学、バークレー研究所などと提携して業務を遂行している。

この新旧技術の融合は、同社が新たなプロジェクトを開発する可能性を地理的に膨大な地域へと拡大するものだ。

地熱を使って再生可能発電開発ビジネスを推進しようとしている会社は他にもある。エネルギーメジャーのBP Ventures、Chevron Technology Ventures、Temasek、BDC Capital、EversourceおよびVickers Venture Partnersらの支援を受けているEavornなどのスタートアップや、GreenFire EnergySage Geosystemsなどが参入している。

地熱プロジェクトの需要は止まるところを知らず、地熱開発のコスト問題を解決できるスタートアップには巨大な市場が開かれている。Latimer氏によると、2016~2019年には主要な地熱の契約はわずか1件だったが、2020年には業界内で新たに締結された大型電力購入契約が10件あった。

いずれのプロジェクトにとっても、コストは未だに課題だ。地熱発電契約における価格はメガワット当たり65~75ドル(約7100〜8200円)の範囲だとラティマー氏はいう。比較して、ソーラー発電はメガワット当たり35~55ドル(約3800〜6000円)だ。2020年のThe Vergeの報告による。

しかしラティマー氏は、地熱発電の安定性と予測可能性は、無停電電力供給の確保が必要な公共機関や企業にとってコスト差異を許容できるものだという。テキサス州ヒューストン住民として2021年の厳冬で5日間電気のない生活を強いられたラティマー氏にとって、これは身近な体験のある問題だ。

事実、常時利用可能なクリーン電力を供給する地熱の能力は、驚くほど魅力的な選択肢になりうる。エネルギー省の最近の研究によると、地熱は米国電力需要の最大16%を満たす可能性があり、別の推計によると地熱は完全脱炭素電力グリッドの20%近くに寄与する。

「私たちは長年の地熱エネルギー信奉者ですが、業界でイノベーションを起こす理想のテクノロジーとチームが見つかるのを待っていました」とCapricorn Investment GroupのIon Yadigarouglu(イオン・ヤディガロウグル)氏が声明で語った。「Fervoaはその技術力と彼らが先端研究組織と築いたパートナーシップによって、地熱の新たな波における明確なリーダーになるでしょう」。

Fervo Energyの掘削現場(画像クレジット:Fervo Energy)

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Fervo Energy再生可能エネルギー電力地熱

画像クレジット:Universal Images Group / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nob Takahashi / facebook

石油の巨人シェブロンが地熱プロジェクトのスタートアップを支援

米国を拠点とする石油大手のChevron(シェブロン)は、Baseload Capitalというスウェーデンの低温地熱および熱発電プロジェクト開発業者に投資した。地熱発電への投資を加速している。

石油会社は新しい事業分野を探し出すプレッシャーにさらされている。世界が再生可能エネルギーへ大規模にシフトしつつあるためだ。地球の気温を上昇させる温室効果ガスの排出が引き起こす気候関連の災害増加を前にして、再生可能エネルギーはあらゆる産業に電力を供給している。

Chevronの投資に加わったのは、億万長者が投資するクリーンエネルギー投資会社のBreakthrough Energy Venturesと、Gullspang Invest ABというスウェーデンの投資グループだ。

Baseloadへの投資は、Chevronが地熱技術開発業者Eavorに対して行った別のコミットメントと、Breakthrough Energy Venturesが最近行ったGoogleの関連会社であるDandelion Energy(Googleの親会社のムーンショット技術開発ビジネスユニットからのスピンアウトで「X」と呼ばれる)への投資に間を置かずして続くものだ。

DandelionとEavorは石油およびガス業界の知識を活用して、ベースロードエネルギーから家庭の冷暖房に至る地熱資源の利用に取り組むスタートアップのうねりのほんの2つの例にすぎない。

他には、Fervo EnergyGreenFire EnergySage Geosystemsなどの企業があり、いずれも熱を発電に利用している。

Chevronがプレスリリースで述べたように、熱の力は手頃な再生可能エネルギーの形態だ。地熱資源または廃熱のいずれかから利用できる。

BaseloadとEavorへはCTV(Chevron Technology Ventures)のCore Ventureファンドから投資した。このファンドは、Chevronのコアビジネスにおいてオペレーションの強化、デジタル化、低炭素オペレーションなどの分野で効率を高めるテクノロジーを備えた企業を見つけ出す。

2社は共同で技術テストのためのパイロットプロジェクトを計画している。プロジェクト開発にあたっては日本、台湾、アイスランド、米国での現在のBaseloadのオペレーションを念頭に置いている。

取引の金銭的条件は明らかにされていない。

「8月に、主要市場における展開を加速してくれる戦略的投資家を探していると発表しました」と、Baseloadの最高経営責任者であるAlexander Helling(アレクサンダー・ヘリング)氏は述べた。「これ以上良い投資家を求めることはできなかったでしょう。Chevronは株主グループを補完し、掘削、エンジニアリング、探査などの専門知識を与えてくれます。こうした資産が、熱の力を利用する能力を高め、私たちのやり方を強化してくれるものと思われます」。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:Chevron地熱発電再生可能エネルギー投資

画像クレジット:Universal Images Group / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber、翻訳:Nariko Mizoguchi