家具や家電のサブスクリプションサービス「CLAS(クラス)」を展開するクラスは5月29日、ANRIやキャナルベンチャーズを含む複数の投資家を引受先とした第三者割当増資等により、総額3.7億円を調達したことを明らかにした。
クラスは2018年4月の創業。同年7月にANRI、佐藤裕介氏、光本勇介氏、中川綾太郎氏からシード資金を調達していて、今回はそれに続くシリーズAラウンドとなる。
今後はサブスクリプションに最適化した家具の設計・開発・調達に向けて家具のデザイン体制を強化するほか、オリジナル家具以外の商品ラインナップの増強にも取り組む計画だ。
またユーザーの家具選びをサポートするべく、AIやVRなどのテクノロジーを活用したCRM機能の開発も進めていくという。
長期間使うほど月額料金が安くなる家具サブスク
CLASはテーブルやベッド、ソファといった様々な家具を毎月定額で利用できるサブスクリプションサービスだ。
2018年8月のサービスローンチから約9ヶ月が経過し、オリジナル家具の種類は約50種まで増加。並行して商品のジャンル自体も拡大中で、家電やベビーカーなどもラインナップに加わった。
サービス上で表示されている料金は基本的に送料や保険料も含んだもので、購入する場合と比べて初期コストを抑えられるのが特徴。1年目以降は利用期間が長くなるほど月額料金が安くなる仕組みを取り入れていて、3年目には初回の75%オフの価格で利用できる。
1年目以降は無料で返品することも可能。生活環境に合わせて気軽に家具を組み替えられるのは、サブスク型のウリと言えるだろう(交換自体はいつでもできるが、1年未満の場合は利用期間に応じて返品手数料がかかる)。
またローンチ時にも紹介した通り、CLASでは同じ家具をリペア(修理)し、数年間に渡って使用してもらうことを前提にプロダクトを設計している。家具の製造は中国の自社工場にて、リペアは都内の拠点で実施。通常使用の範囲内であれば、汚れや傷がついたアイテムでも修理費用はかからない。
「短期のレンタルというより、1年以上使ってもらえるケースをメインで考えている。ライフステージの変化に合わせて軽やかに家具を変えられる仕組みを作ることが1つのテーマ。その人たちが1番嬉しいプライシングやサービス設計を意識している」(クラス代表取締役社長の久保裕丈氏)
現在は東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県が対象エリア。1000世帯近くがすでに有料でサービスを利用しているという。
ホテルやマンスリーマンションなど法人向け事業が好調
久保氏にローンチ時からのアップデートを尋ねると「商品面でラインナップが広がると共にオリジナル家具についても厚みが出てきたことに加え、法人向けビジネスがかなりのスピードで成長している」という答えが返ってきた。
ここ1〜2年ほどで日本でも“サブスクリプション”と言うキーワードの認知度が拡大。各業界でサブスク型のプロダクトが登場し、メディアで取り上げられる機会も増えた。その波は“住”の領域にも訪れている。
久保氏によると今年日本に上陸したOYOを始め不動産×サブスクが盛り上がってきたことで、CLASにも追い風が吹いているという。具体的にはマンスリーマンションやホテルなど法人向けの事業が想定以上に伸びているようだ。
CLASでは「OYO LIFE」などと連携を進めているほか、レジデンストーキョーとは共同で「サブスクリプション型の賃貸住宅」事業にも取り組む。
サブスク型住宅の特徴は、オフィスのフリーアドレスのようにその時のライフスタイルに合わせて最適な場所へと自由に住み替えられること。敷金・礼金や仲介手数料、保証料、家具家電の購入料、引っ越し料などのコストを抑えられるのが利点だ。
またマンスリーマンションと同じく好調なのがホテルへのサービス提供だという。ホテル側としてはサブスク家具を導入することで初期費用を大幅に削減できるほか、メンテナンス費用や発送・組み立て・設置・廃棄などの費用もカットできる。
クラスは自社製造の家具を直接提供するモデルのため、代理店の手数料も不要。ホテルが自社で仕入れる場合と比べて「2〜4割のコスト削減を見込める」(久保氏)だけでなく、調達担当者の家具選びから組み立てまでの業務負担を減らせるため、引き合いが増えているそうだ。
すでにホテルで300部屋、マンスリーマンションでも150部屋ほどにクラスの家具が導入済み。オフィスやモデルルームでの利用なども含めると、クライアントの数は約50社に上る。
「最終的にはCLASを通じてユーザーの生活を変えたい。また家具の寿命を伸ばすことで『家具を捨てない社会』の実現を目指したいという気持ちが強いので、法人向けに特化することはなく、あくまでも両輪でやっていく。(双方をやっていることで)個人が利用した家具を次に法人に展開できるなど、ビジネス上でも良い影響がある」(久保氏)
家の中のサブスク化テーマに商品ラインナップ拡充へ
冒頭でも触れた通り、今回の資金調達を踏まえてクラスでは商品の拡充やオペレーション体制の整備、サポートシステムの開発により力を入れていく計画だ。
商品に関してはサブスクに適した家具の開発・設計を強化。その上で2020年中にオリジナル家具を300種類まで拡大することを目標にする。また家電やベビーカーに続き、クッションやファブリック製品などのインテリア用品、観葉植物などの取り扱いも進めていく。
「耐久性やリペア効率、組み立て効率、ライフステージに沿ったサイズ可変性など、サブスクに適した家具は通常の家具とは少し異なるので、とにかく量産するというよりは(開発・設計には)時間をかけて取り組みたい」(久保氏)
商品以外では物流やリペアの体制強化のほか、ユーザーの家具選びをサポートするシステム(CRMツール)開発にも力を入れる。
「家具は服などに比べて購入する頻度が少ないこともあり『自分にあった家具を選ぶのが難しい』というペインを自分自身でも抱えていた。たとえばコンテンツマーケティングの強化やAIを組み込んだカスタマーサポートシステムの開発、VRを活用した家具のコーディネートを表現・確認できるシステムの開発などを進める」(久保氏)
直近ではこれらの展開が中心になりつつも、中長期的には「家の中にあるものをどこまでサブスクにできるか、持たない生活という選択肢をどこまで広げられるか」をテーマに事業を広げていく構想。その際にはモノだけでなく、コト消費も対象に考えているという。
「Amazonが本からスタートして今では様々な商品を扱うマーケットプレイスになっているように、自分たちもサブスクにフィットしているモノを考えた結果、最初に扱ったのが家具だった。暮らし方が軽やかになるものであればどんな物でも対象になりうると思っているので、最終的には『何かを持たずに保有したいならCLAS』というポジションを目指していきたい」(久保氏)