東大IPCがアドリアカイムに3億円出資、迷走神経を刺激し心筋梗塞領域を縮小させる治療機器を開発中

東大IPCがアドリアカイムに3億円出資、迷走神経を刺激し心筋梗塞領域を縮小させる治療機器を開発中

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が運営する協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合(協創1号ファンド)は8月4日、アドリアカイムに対して3億円の出資を行ったと発表した。同社は、迷走神経を刺激することで心筋梗塞領域を縮小させる世界初・新発想の治療機器の開発を進めている。

東大IPCは、アドリアカイムの技術が日本生まれの世界初新発想コンセプトであること、未解決の治療ニーズ(アンメット メディカル ニーズ。Unmet Medical Needs)に対応するものであることなどの理由からこの度の出資を決定した。今後のアドリアカイムの事業について、東大IPCは積極的に支援する。

アドリアカイムは、オリンパスで医療機器の研究開発に長年携わってきた⼩林正敏CEOや今林浩之CTOが2018年11月に設立した医療機器スタートアップ。国⽴循環器病研究センターとの長年の共同研究の成果を活かし、急性心筋梗塞患者の慢性心不全への移行を軽減するための世界初の迷走神経刺激デバイスの開発を進めている。

急性心筋梗塞患者は、日本国内で10万人、アメリカでは100万人が毎年発症し、大部分の患者さんが救急搬送されて手術を受けているという。近年、カテーテル治療などの治療体制が進歩し、急性心筋梗塞で直接的に命を落とす患者さんは減ったものの、退院後に予後不良となる患者もいるそうだ。

アドリアカイムが開発を進める治療デバイス「ARIS」(開発コード名)は、急性心筋梗塞患者の迷走神経を刺激することで心筋梗塞領域縮小を図るもの。薬剤で実現できない迷走神経の賦活化を電気的刺激で実現し、より高い治療効果を目指しているという。

今回、東京大学大学院新領域創成科学研究科 久田俊明名誉教授(UT-Heart研究所 代表取締役会長)のチームが開発したヒト心臓モデルを用いたシミュレーターの技術を活用。同シミュレーション技術は、従来動物実験に頼っていた電気刺激による神経賦活の現象を予測解析し、同医療機器の開発に大きく貢献した。開発段階の医療機器の検証手法として、非常に有効であり、今後も多方面への活用が期待されるとしている。

東大IPCの協創1号ファンドは、東京大学関連スタートアップの育成促進と、東京大学を取り巻くベンチャーキャピタルの質・量の充実を中心にすえて運用することで、東京大学の周辺に持続可能なイノベーション・エコシステムを構築し、世界のスタートアップ創出拠点のひとつとなることへの寄与を目的としている。

具体的な運用として、今までに6つのベンチャーキャピタルへのLP出資(ファンド オブ ファンズ)と、16社の東京大学関連スタートアップへの直接投資を行い、現在も積極的に東京大学関連スタートアップへの直接投資を行っている。

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DMM.make AKIBAが東大IPC起業支援プログラムを通じスタートアップを支援

DMM.make AKIBA 東大IPC 1stRound

DMM.comは7月21日、事業課題解決型プラットフォーム「DMM.make AKIBA」がコンソーシアム型インキュベーションプログラム「東大IPC 1stRound」を通じ起業支援を開始したと発表した。

DMM.comは、スタートアップ支援を目的に東大IPC 1stRoundと連携し、採択されたチームに対しDMM.make AKIBA施設を無料で利用できる取り組みを開始する。これにより、採択されたチームは無料で機材を利用しプロダクトを開発したり、ビジネスの拠点として施設を利用したりできるようになる。

DMM.make AKIBAは、今後も教育機関などと連携し支援を広げるとともに、様々なステークホルダーを巻き込んだネットワーク・コミュニティによりオープンイノベーションの推進に取り組むとしている。

DMM.make AKIBA 東大IPC 1stRound

2014年11月開設のDMM.make AKIBAは、ハードウェア開発・試作に必要な最新機材を取り揃えたモノづくりの拠点「Studio」、コワーキングスペースやイベントスペース、会議室として利用できるビジネスの拠点「Base」で構成された、ハードウェア開発をトータルでサポートする総合型のモノづくり施設。

ハードウェア開発用に約5億円を投じた機材と、技術やビジネス面でサポートするスタッフ、さらに24時間利用可能なコワーキングスペースを備えており、新たなモノづくりに挑戦するイノベーターをトータルで支援している。

またDMM.make AKIBAは、スタートアップ150社を含む600社、4000名以上の会員、スポンサー企業、地方自治体、国内外のパートナー機関、ベンチャーキャピタルなどを含む広いネットワーク・コミュニティを形成。施設常駐のコミュニティマネージャーやテックスタッフ、イベントなどを通して事業を加速するパートナーや協業先、切磋琢磨する仲間とも出会えるという。

東大IPC 1stRoundは、東京大学のイノベーションエコシステム拡大を担う「東大IPC」(東京大学協創プラットフォーム開発)が運営する、コンソーシアム型の起業支援プログラム。起業前やシードラウンドの現役学生、卒業生などの東京大学関係のスタートアップに対し、活動資金に加えて、開発リソース・オフィス・ITシステムなど、本格的な事業開始に必要なリソースをハンズオン支援6ヵ月間とともに提供することで事業の垂直立上げを実現。プログラムは年2回開催され、各回約5社を採択している。

2019年より開始した同プログラムでは累計22の団体が採択され、うち12組が1年以内に資金調達に成功している(2020年 6月末現在)。

DMM.make AKIBA 東大IPC 1stRound

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東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は3月25日、起業を目指す現役東大生や卒業生などの大学関係者、起業をしてまもない東京大学関連ベンチャーに対して事業化資金や経営支援を提供するプログラムの新たな支援先を発表した。

今回で同プログラムは5回目を迎える。前回からは各業界のリーディングカンパニーと共同でコンソーシアム型のインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」として運営をスタート。JR東日本スタートアップ、芙蓉総合リース、三井住友海上火災保険、三井不動産、三菱重工業に加えて、新たにトヨタ自動車と日本生命保険がパートナーとして参画した。

今月には前回参加企業のエリーが三井住友海上キャピタルから出資を受けるなど、すでに採択企業とパートナー企業の協業事例も生まれている。

ここからは支援先に選ばれた6チームを紹介していこう。

Pale Blue : 水を推進剤とした小型衛星のエンジンを開発

Pale Blueは「小型衛星」を動かすためのエンジンを開発しているチームだ。

近年、衛星の小型化により宇宙産業への参入障壁が下がり、小型衛星市場に注目が集まっている。この小型衛星を宇宙空間で動かすには推進器(エンジン)が必要になるが、大型衛星用のエンジンには高圧ガスや有毒物が推進剤として用いられているため、体積や重量、コスト感の観点で小型衛星にはマッチしないことが1つの課題とされてきた。要は小型衛星用のエンジンが必要なわけだ。

Pale Blueが目指すのは、東京大学で研究を進めてきた「水」を推進剤としたエンジンを社会実装すること。水は低コストなうえに安全無毒で、なおかつ入手性や取扱い性にも優れる。

同チームは東京大学の小泉研究室で5年以上に渡って衛星やエンジンの研究開発を行ってきたメンバーが立ち上げた。CEOの浅川純氏は2019年に小泉研究室で博士号を取得し、現在は東大の特任助教を務めている。

ファンファーレ : 産業廃棄物回収の省力化目指す“ゴミテック”企業

ファンファーレはテクノロジーを活用して廃棄物業界の省力化や効率化を目指す、ゴミテック領域のスタートアップだ。同社は最初のプロダクトとして産業廃棄物回収における配車計画を瞬時に作成するサービスを手がけている。

配車計画を立てる際には何十台の車と作業員、作業種別、処分場などさまざまな要素を踏まえる必要があるが、この複雑な作業を配車係がエクセルや紙を使って毎日行なっているため負担が大きい。前日にキレイな計画を作っても当日イレギュラーが発生することも頻繁にあり、1日の70%ほどの時間を配車表の組み替えに使っているそうだ。

ファンファーレのサービスを使った場合、乗務員情報やコンテナ情報、案件情報などを入力すると、瞬時に計算して効率的な配車表を出力。約7時間かかっていた作業が3分ほどで終わるという。

ファンファーレ代表取締役の近藤志人氏は前職のリクルートホールディングス時代に同社でUX業務を行う傍ら、副業として産廃大手の基幹システムの改善に携わっていたそう。その際に現場の課題を知ったことが、この領域で事業を立ち上げるきっかけになった。

UrbanX Technologies : スマホを活用した道路点検AI

UrbanX Technologiesはスマートフォンやドライブレコーダーなどの簡易デバイスを用いて、都市空間のリアルタイムデジタルツインを構築することを目指すスタートアップだ。

現在このチームでは、車のダッシュボード上にスマホを設置した状態で道路を走行すると、リアルタイムに損傷箇所を検出してくれる道路点検AIを開発している。従来この点検作業はレーザーなどを備えた専用車を用いるか自治体の職員が目視で実施するかの2パターンが主流だったが、前者はコストがかかりすぎるため網羅的な点検が難しく、後者の場合も専門職員不足や予算不足などから十分な点検ができていないケースがあるという。

UrbanX Technologiesではそれに変わる新しい選択肢として、スマホをベースとしたリアルタイムかつ高精度な点検システムの社会実装に取り組んでいる。

UrbanX Technologiesは東京大学生産技術研究所の特任研究員である代表の前田紘弥氏と、東京大学生産技術研究所人間・社会系部門准教授の関本義秀氏が中心となって立ち上げた。4月を目処に法人化をする予定だ。

スマートシティ技術研究所 : 道路の状態をスマホ一台で定量評価

スマートシティ技術研究所は独自の車両振動解析技術とAI画像処理技術を用いて、スマートフォン1台で道路の状態を定量評価する技術「GLOCAL-EYEZ」を開発している。

現時点で取り組んでいるのは上述したUrbanX Technologiesと近しく、道路点検の領域だ。車にスマホを設置して道路を走ることで車両の振動と前方の画像を取得。振動を分析することで路面のプロファイルを推定し、前方画像をAIで分析することで路面のひび割れなど不良箇所を検知する。

同社の技術はすでに土木研究センターによる「路面性状自動測定装置性能確認試験」に合格した実績もあり、高価な専用測定車両に劣らない点検精度を低コストかつ簡単な操作で実現することを目指していているという。

スマートシティ技術研究所は東京大学博士卒のZHAO BOYU(チョウ ヒロタカ)氏と現東京大学研究員のXUE KAI(セツ ガイ)氏が創業。2人は共に長年路面評価技術の研究に従事してきた経験を持つ。ゆくゆくは道路の分野のみならず、様々なインフラ維持管理の分野に同社の技術を広げていく計画だ。

Liquid Mine : リキッドバイオプシーを用いた白血病遺伝子検査

Liquid Mineは次世代の白血病検査法を実現しようとしている医療スタートアップだ。

同社の代表取締役を務める近藤幹也氏は現在東京⼤学医科学研究所(IMSUT)の博士課程に在籍中で、⾎液内科専⾨医として白血病診療に携わってきた経験も持つ人物。近藤氏によると従来の白血病検査法は全ての患者に適応できるわけではないことから、時に本当に最適な治療方針を立てることができない現状があるそう。その課題を解決したいという思いがLiquid Mineを立ち上げたきっかけにもなった。

Liquid Mineが研究開発を進めているのは、IMSUTの独自の遺伝子解析手法と液体生検(リキッドバイオプシー)を組み合わせた検査方法。血液を用いることで患者の負担を軽減しつつ、今まで以上に多くの患者に適応可能な仕組みを確立することで、個々の患者に最適な治療環境を提供することを目指す。

Liquid Mineには近藤氏のほか、ゲノム医療の知見を持つ複数人のメンバーがアドバイザーとして参画している。

Magic Shields : 転んだ時にだけ柔らかくなるマット

Magic Shieldsが開発を進めているのは、歩くときは硬く、転んだときだけ柔らかくなるマットや床「ころやわ」だ。

背景には高齢者や神経疾患を持つ患者が頻繁な転倒によって骨折してしまう現状がある。同社で代表取締役CEOを務める下村明司氏によると、高齢者の転倒による骨折は国内で毎年100万人発生しているそう。本人や家族の苦しみが大きいことはもちろん、社会的な観点でも医療費や介護費が増大する原因になってしまっている。

そこでMagic Shieldsでは転んだ際にだけ柔らかくなることで衝撃を吸収する、手すり付きのマットを開発。まずは転倒が発生しやすい自宅の居間や寝室に設置してもらうことで、高齢者や神経疾患を持つ患者を骨折から守ることを目指す。

下村氏はヤマハ発動機でさまざまなバイクの設計を手がけてきた技術者。チームには下村氏と同じくヤマハ出身の技術者や理学療法士のメンバーなどが参加しているという。

漫画の自動翻訳、手術支援AI、下膳ロボ、昆虫食など——東大IPC起業支援プログラムが第4回目の支援先を発表

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は10月10日、起業を目指す現役東大生や卒業生などの大学関係者、起業をしてまもない東京大学関連ベンチャーに対して事業化資金や経営支援を提供する「東大IPC起業支援プログラム」の新たな支援先を発表した。

4回目となる今回からは、4月にも紹介した通り各業界のリーディングカンパニーと共同でコンソーシアム型のインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」としてバージョンアップ。初代のパートナーとしてJR東日本スタートアップなど6社が参加している。

ここからは支援先に選ばれた6チーム(4社と2プロジェクト)を紹介していこう。

Mantra : 漫画の多言語翻訳&配信プラットフォーム

Mantraは日本語で書かれた漫画を中国語や英語に自動で翻訳し、多言語で配信するプラットフォームだ。

このチームを牽引する石渡祥之佑氏によると、漫画の翻訳においては「スピードとコスト」が大きな壁になる。日本で単行本が出た後に翻訳権のライセンスが発行されるため、実際に海外向けの正規版が発売されるのはだいたい1年ほどかかるそう。加えて単行本1冊を1つの言語に翻訳するだけで20〜30万円ほどかかるので、本当に売れると判断されたようなものしか多言語化されない。結果的に海外では海賊版が広く出回ってしまっているのが現状だ。

Mantraでは独自の機械翻訳・文字認識技術を用いた翻訳エンジンを軸にこの課題を解決する。マンガの画像から吹き出しを自動で検出し、吹き出し中の文字を正確に認識した上で異なる言語へ自動で翻訳。それをタッグを組む翻訳者が修正ツールを使って整えることで高速・安価で漫画を多言語化し、自社開発の配信プラットフォームで世界へ届ける構想だ。

中心メンバーの石渡氏と日並遼太氏は共に東京大学の情報理工学研究科で博士号を取得。石渡氏は機械翻訳や未知語処理、日並氏は画像認識の研究者だ。このチームは先日開催された「HONGO AI 2019」でも複数の賞を受賞している。

iMed Technologies : 脳血管内治療に関する手術支援AI

iMed Technologiesが開発するのはディープラーニングを活用して医師の手術をリアルタイムで支援するプロダクトだ。現在は、くも膜下出血や脳梗塞などに対する「脳血管内治療」(カテーテルやガイドワイヤーを用いて血管の中から治療する方法)をアシストする技術を手がけている。

従来現場の医師や助手は数台のモニターに映し出される映像を基に、カテーテルの先端の動きなどを自身の目で追っていく必要があった。万が一血管を突き破ってしまえば脳出血で死に至ることもあるため、平均3〜4時間に及ぶ手術中、複数のポイントを常に集中して監視し続けなければならない。

同社の手術支援AIは自動車における運転支援システムのような仕組みに近く、何か危険な状態が発生した場合にアラートすることで医者や助手の目を補完する役割を担う。

iMed Technologies創業者でCEOの河野健一氏は16年間に渡って脳血管内手術に医師として携わってきた人物で、エンジニアメンバーとともに主にプロダクト周りを担当。東証一部企業の社外取締役やIGPIで働いていた経験のあるCOOの金子素久氏がビジネスサイドを担っている。

イライザ : 自然言語処理とリテールを軸とした松尾研発AI企業

イライザは自然言語処理(NRP)とリテールテック領域にフォーカスして研究開発を進めるAIスタートアップだ。

自然言語処理の領域ではレポートや記事を自動生成する技術、対話エンジン、OCR(文字認識)などの技術、リテール領域では商品のレコメンドエンジンや需要予測AI、ダイナミックプライシングに関する技術などに取り組む。

直近ではアシックスのアクセラレータープログラムで最優秀賞を受賞。同社と共にシューズ・アパレル商品の需要予測と発注最適化に向けた実証実験を進める予定のほか、森・濱田松本法律事務所及び東大松尾研究室と法律業務におけるAI活用の共同研究を開始することも発表している。

イライザ代表取締役CEOの曽根岡侑也氏は松尾研出身の未踏クリエイタで、現在も松尾研にて共同研究のPMやNLP講座の企画・講師などを務める人物。イライザは松尾研からスピンアウトする形でスタートしたチームで、ほかにも同研究室に関わるメンバーや未踏クリエイタが集まっている。

Jmees : がんセンター発、AI手術支援システム

JmeesはAIを用いた内視鏡手術の支援システムを開発するチームだ。

内視鏡手術においては臓器損傷による死亡事故や臓器・神経損傷による合併症リスクが従来から課題とされてきた。そもそも外科手術が「暗黙知」になっていることから、個人差や施設間格差が生じてしまっているのもその原因の1つ。そこでJmeesでは内視鏡手術をAIによってリアルタイムに解析し、熟練医の暗黙知を可視化するナビゲーションシステムの実現を目指している。

まずはテクノロジーを活用して術前・術後の支援を行っていく計画。術前であれば手術の訓練や学習時に役立つツール、術後であれば手術を見返して定量的に評価できるシステムを通じて現場をサポートする。

Jmeesは国立がん研究センターの外科医と機械学習エンジニアが主導するプロジェクト。代表の松崎博貴氏は大学院で機械学習による医療画像の診断支援の研究に携わった後、Ubieなど複数のスタートアップを経て、国立がん研究センター東病院で手術動画解析システムの開発に取り組んでいる。

スマイルロボティクス : 飲食店の片付けを自動化する下膳ロボット

スマイルロボティクスが開発するのは、飲食店のホールでの片付け作業(下膳)を自動化するロボットだ。

飲食店の作業をサポートするロボットとしてはキッチン周りの調理作業を効率化するものや、ホールの接客を自動化するものなどが多い。ただスマイルロボティクスの代表取締役である小倉崇氏の話では、飲食店にヒアリングをしても配膳に関してはこだわりがあり、機械に任せたくないという声も多いそう。一方で食事後の下膳についてはロボットへの期待値も高く、まずはこの工程を自動化することを目指している。

具体的にはディープラーニングベースの3D画像認識技術を搭載した⾃律移動型の下膳ロボットを開発中。食後の座席までロボットが移動しアームを使って多様な食器を収納。自らバックヤードまで運び、シンクに漬け込んだり、食洗機にセットしたりできるものを計画しているという。

スマイルロボティクスの3人のコアメンバーは、全員が東京大学情報システム工学研究室(JSK)の出身でSCHAFT(Google)に在籍していたバリバリのロボットエンジニアだ。

エリー : 蚕を原料とした「シルクフード」の開発

エリーは蚕を原料とした「シルクフード」を開発するスタートアップだ。

近年コオロギの粉末を始めとした昆虫食や植物由来の代替肉(ビヨンドミートがその代表例だ)など、代替タンパク質の創出に取り組むフードスタートアップがメディアで注目を集めている。

エリーが取り組むのもまさにこの領域。同社の場合は蚕×食品という軸で研究開発を進めていて、機能性成分を豊富に含み、環境にも優しいサステイナブルな食品として蚕を用いた商品をプロデュースしていく計画だ(ちなみに「そら豆」などに似た味がするそう)。

エリーCEOの梶栗隆弘氏は食品メーカーの出身。前職では大豆や小麦を原料にした食品を扱っていて、当時から代替タンパク質に関心があったそう。その後大学の技術シーズを事業化するコンテストで食品研究技術と蚕の研究を組み合わせたアイデアを考える機会に巡り合ったことが、エリー創業の背景だ。

今回紹介した6チームを含めると、東大IPC起業支援プログラムにはこれまで16チームが採択。先日estie第3回の採択チーム)の資金調達ニュースを紹介したが、すでに9社は資金調達を実施しているという。東大IPCでは現在5回目の公募も実施中だ。

 

東大IPCが新たな起業支援プログラム開始へ、JR東日本スタートアップや三井不動産らと連携

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は4月1日、業界のリーディングカンパニーと共同でコンソーシアム型のインキュベーションプログラム「東大 IPC 1stRound」を開始することを明らかにした。

同プログラムでは年2回の開催、各回5件の採択を予定していて本日より初回の募集を始める。

TechCrunchでも何度か紹介してきたように、これまで東大IPCでは「東大IPC起業支援プログラム」を通じて、起業を目指す現役学生や卒業生などの東大関係者、起業直後の東大関連スタートアップの支援を行ってきた。

事業化資金とハンズオン支援を6ヵ月に渡って提供するこのインキュベーションプログラムには累計で10社が参加。内7社はすでに資金調達を成功させている。先日UTECから資金調達を実施したBionicMや、昨年10月にグローバル・ブレインなどから3.5億円を調達したソナスも過去の採択スタートアップだ。

今回発表された東大 IPC 1stRoundは東大IPC起業支援プログラムの支援対象や支援規模を大幅にアップデートしたもの。採択企業には従来通り6ヶ月のハンズオン支援に加え、最大1000万円の活動資金やJR東日本スタートアップなど6社のコーポレート・パートナーとの協業支援、様々な開発リソース、各分野のプロフェッショナルサービスなどが提供される。

支援内容の一例としては10万ドルのAWS利用権&技術支援、あずさ監査法人のプロフェッショナルにより財務・経営管理サポート、会議室の無償寄与など。初代コーポレート・パートナーは以下の企業らだ。

  • JR 東日本スタートアップ
  • 芙蓉総合リース
  • 三井住友海上火災保険
  • 三井不動産
  • 三菱重工業

衛星による毎日全地球観測インフラの実現へ!東大宇宙系スタートアップが総額25.8億円調達

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)が運営する「協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合」は12月7日、東大関連の宇宙系スタートアップ3社に総額7億円を出資した。

小型光学衛星のコンステレーションによる全地球観測網の構築を目指すアクセルスペースに対して約3億円、小型衛星による宇宙デブリ回収を目指すAstroscale(アストロスケール)に約1.1億円(100万ドル)、「小型合成開口レーダ衛星」のコンステレーションによる地球観測を目指すSynspective(シンスペクティブ)に約3億円という内訳だ。

またアクセルスペースは、東大IPCからの約3億円を含め、シリーズB投資ラウンドとして総額25.8億円を資金調達している。引き受け先は以下のとおりで、31VENTURES-グローバル・ブレイン-グロースIがリードインベスターを務める。

左から、三井不動産ベンチャー共創事業部田中氏、同菅原部長、 アクセルスペース代表取締役中村氏、グローバル・ブレイン百合本社長、同社パートナー青木氏

・31VENTURES-グローバル・ブレイン-グロースI(三井不動産/グローバル・ブレイン)
・INCJ
・協創プラットフォーム開発1号投資事業有限責任組合(東京大学協創プラットフォーム開発)
・SBIベンチャー企業成長支援投資事業有限責任組合(SBIインベストメント)
・SBIベンチャー企業成長支援2号投資事業有限責任組合(同上)
・SBIベンチャー企業成長支援3号投資事業有限責任組合(同上)
・SBIベンチャー企業成長支援4号投資事業有限責任組合(同上)
・第一生命保険

アクセルスペースはこの資金調達によって、2020年に2機のGRUSの追加打ち上げを予定している。資金調達に併せて、2017年から延期されていたGRUS初号機の打ち上げと組織改編についても発表した。

GRUS初号機

GRUS初号機は、2018年12月27日にソユーズ(Soyuz-2)を使い、ロシア連邦ボストーチヌイ射場から打ち上げられることとなった。同社は、今後数十機のGRUS衛星を打ち上げ、2022年に毎日全地球観測インフラ「AxelGlobe」の構築を目指す。

組織改編については、中村友哉CEO、野尻悠太COOは留任となるが、新たに同社の共同設立者で取締役だった宮下直己氏がCTOに任命された。そのほか、CBDO(最高事業開発責任者)に山崎泰教氏、CFOに永山雅之氏が就く。なお、同社創業者の永島隆氏は取締役CTOを退任し、今後は上席研究員となる。

バイオ、オフィス版「SUUMO」、ハイテク義足など——東大IPC起業支援プログラムが第3回目の支援先を発表

東京大学関連のイノベーション・エコシステムの発展を目指し投資活動を行なっている東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)。同社は10月26日、起業を目指す現役東大生生や東大の卒業生、起業をしてまもない東京大学関連ベンチャーに対して事業化資金や経営支援を提供する「東大IPC起業支援プログラム」の新たな支援先を発表した。

3回目となる今回は計4チーム(2社はすでに法人化)が選出。バイオ関連の研究を応用したスタートアップ2社のほか、ロボット技術を活用したハイテク義足を手がけるチームや、機械学習を用いてオフィス探しの効率化を実現するプロジェクトが名を連ねる。

簡単にではあるけれど、各チームについて紹介していきたい。

ジェリクル : 独自のハイドロゲルを用いた医療技術の研究開発

ジェリクルは独自のハイドロゲルを体内に打ち込むことで、いろいろな疾患を治す治療法を研究・開発しているバイオスタートアップだ。

同社のコアな技術は生体適合性が高く(99%の水と1%のポリマーでできている)、かつ生成と分解を独自に制御できるゲルを作れること。体内でゲルを生成するだけでなく治療後の分解までをコントールすることで、ゲルを用いた医療技術「Gel Medicine」の概念を実現していきたいという。

具体的には治療をすると長時間痛みを伴ったり、1週間うつ伏せ状態が続いたりといった「従来の技術でも治すことはできるものの、治療が大変だった疾患」にこの技術を用いることで、QOLの高い治療法を開発することが当面の目標。まずは下肢静脈瘤という疾患に対して、従来のレーザーや接着剤を使った治療よりも患者への負荷が少ない治療法の実現を目指す。

ジェリクルの母体となっているのは東京大学の酒井崇匡准教授の研究。同社で代表取締役CEOを務める増井公祐氏は酒井氏の研究室の出身だ。増井氏は大学卒業後にITベンチャーのレバレジーズで新規事業の立ち上げや事業部長などを担った後、2018年8月に同社を創業している。

estie : AIを活用したオフィス版の「SUUMO」

estieはAIを活用して事業用の不動産賃貸をよりシンプルにしようとしているチームだ。たとえるならオフィス版の「SUUMO」のようなプロダクトと言えるかもしれない。

それこそ個人向けの賃貸ではSUUMOや「HOME’S」を始めオンライン上で情報を集め、自分にあった物件を探したり比較したりすることはごく普通のことだろう。一方でオフィス賃貸の場合はオフラインの要素が残り、人と人との関係で成り立っている側面が強いという。

estieでは個人向けの賃貸と比べて物件に関するデータにアクセスしづらいことが課題だと考え、オフィス賃貸に関するデータを収集し、オンライン上に押し上げるような仕組みを構想。AIを活用することでテナントにマッチしたオフィスをレコメンドできるようなプロダクトを開発中だ。

チームメンバーは全員東大の出身で、不動産業界のバックグラウンドがあるメンバーやエンジニアらが集まる。年内を目処にプロダクトをローンチ予定。

アグロデザイン・スタジオ : 農薬版の創薬スタートアップ

近年、医薬業界ではAIなども用いた創薬スタートアップが登場してきているけれど、“農薬業界”はまだまだ未開拓の領域と言えるだろう。アグロデザイン・スタジオは農薬の研究開発に取り組む農薬版の創薬スタートアップだ。

代表取締役の西ヶ谷有輝氏が東大や農研機構で研究していた農薬シーズの実用化に向けて2018年3月に創業。現在は土壌にいるバクテリア(細菌)を倒す薬剤である「硝化抑制剤」の開発を進めている。

西ヶ谷氏によると硝化抑制剤は撒くと環境負荷が減るという不思議な効果があるのだという。これは農業で使われる肥料の半分ほどしか作物に吸収されず、残りの半分がバクテリアの餌となり、その排出物が地球環境を汚染する物質に繋がっているからなのだそう。硝化抑制剤はそのバクテリアを倒すため、肥料の無駄がなくなり、環境の負荷も下がるという構造だ。

そんな力を持つ硝化抑制剤だけれど、効果が非常に弱いために大量に使わねばならず、それが残留農薬の問題に繋がってしまっていた。アグロデザイン・スタジオでは残留問題を解決するべく、少し撒くだけで足りる強力なパワーを持った独自の硝化抑制剤を開発した。

菌のみが持つ酵素だけに効く薬剤をデザインすることで毒性を抑制。仮に人が摂取しても健康に支障をきたさない安全な薬剤の実用化を進めている。

BionicM : ロボット技術を活用したハイテク義足

BionicMはロボット技術を活用することで、足に障害のあるユーザーのモビリティを高めるハイテクな義足を開発している。

現在流通している義足の多くはバッテリーやモーターを搭載しているものがまだ少なく、ユーザーは自分の力を使って義足を動かさなければならない。それによって疲れやすかったり階段の上り下りが大変だったりするほか、障害物にぶつかった際に膝の部分が折れて転んでしまいやすいという課題があったという。

BionicMが現在開発中の「SuKnee」では様々なセンサーによって歩行環境やユーザーの意図を検知し、楽に歩けるようにアシストする。転倒を防止する機能や、歩行時だけではなく椅子から起立する際のアシスト機能も搭載。ロボット技術によってユーザーの負担を軽減しつつ、より自由に移動できるような義足を目指している。

チームでリーダーを務める孫小軍氏は子供の頃に足を切断した経験があり、自身も義足のユーザーだ。交換留学で日本を訪れ東大の大学院を卒業後、ソニーに入社。エンジニアとして働いていたが、既存の義足の課題を解決するべく東大の博士課程に進学し、ロボット義足の研究に取り組んでいる。

累計で10チームが採択、4社は資金調達に成功

今回紹介した4チームも含め、東大IPC起業支援プログラムではこれまで10チーム(7社と3チーム)が採択。過去に紹介したヒラソル・エナジーソナスなど4社がVCなどによる資金調達を実現したという。

同プログラムは1年に2回実施していて、次回は2019年4〜5月頃から公募を始める予定。複数の事業会社と連携し、支援規模を従来の数倍に拡大する計画もあるという。なお前回採択された3社についてはこちらの記事で紹介している。

義足テック、法律×IT、ランチの事前予約・決済——東大IPC起業支援プログラムの新たな支援先が決定

東京大学の投資事業会社としての活動を通じて、大学周辺でスタートアップ・エコシステムの構築を目指している東京大学協創プラットフォーム(東大IPC)。同社は6月11日、現役の東大生や卒業生などの大学関係者や、東大関連ベンチャーを支援する「東大IPC起業支援プログラム」の新たな支援先を決定したことを明らかにした。

2回目となる今回のプログラムで新たに支援先として選ばれたのは、3Dプリンティングと機械学習技術を活用した義足を手がけるインスタリム、自然言語処理技術に基づく法律業務の支援サービスを開発するLegalscape、ランチの事前予約・決済サービスを提供するダイニーの3社だ。

インスタリム : テクノロジーの活用で低価格・高品質な義足を開発

インスタリムは3Dプリンティングと機械学習テクノロジーを組み合わせることで、価格と納期を従来の約10分の1に抑えた新しい義足を開発するハードスタートアップだ。

代表取締役CEOの徳島泰氏は大手医療機器メーカーでAEDや医療系ソフトウェアの開発に従事した後、青年海外協力隊としてフィリピンに2年半滞在。そこで糖尿病が原因で足を切断し、義足を必要とする人が多いことを知ったという。

一般的な義足は職人が自身のノウハウを活用しながらアナログな手法で製作するため、1本あたり2〜3週間の時間がかかる上に費用も30万以上。お金に余裕がない家庭でないととても手に入らないものだった。

インスタリムの開発する仕組みでは3Dプリンタを活用することで材料費や設備費、制作納期を大幅に抑え、1本あたり3〜5万円で提供することが可能だという。また患部データの状態と、フィッティング後のデータを機械学習にかけることで、作れば作るほど高精度の義足を製作できる仕組みを構築している。

現在はフィリピンで実証実験を進めている段階。まずは発展途上国を中心に事業を展開する方針だ。

Legalscape : 自然言語処理技術を用いたリーガルテックサービスの開発

Legalscapeが取り組むのは、法律の専門家でなくても法的な問題に直面した際に解決の糸口を見つけられるようなサービスの開発だ。

代表取締役の八木田樹氏は東京大学でコンピュータサイエンスを先攻。そこで培った経験をビジネスに活用できないかと模索した結果、親族に法曹関係者がいて身近であり、IT化も進んでいなかった法律領域に的を絞ったのだという。

在学中の研究を生かした判例検索サービスが、2017年度の経済産業省IPAの未踏アドバンスト事業に採択。現在は実現可能性を調査しながら新たなプロダクトの開発も進めているそうだ。チームは八木田氏とマイクロソフト出身の2名によるエンジニア3人体制。自然言語処理技術を含めコンピュータサイエンスの技術を生かしたリーガルテックサービスを目指す。

ダイニー : ランチの事前予約・事前決済サービス

現役東大生4人が開発する「ダイニー」はランチを事前に予約、決済することで、列に並ぶ手間やレジで会計をする手間をなくすサービス。

ここ最近TechCrunchでも「PICKS」や「POTLUCK」といったテイクアウトの事前予約・決済サービスを紹介したけれど、ダイニーの場合は実際に店舗でランチを食べる際のストレスを減らしてくれるものだ。

2018年2月に本郷エリアでテスト版をリリース。現在はβ版という形で六本木エリアで9店舗、本郷エリアで13店舗の飲食店で利用できる。代表取締役の山田真央氏によると、まだ店舗が少ないため利用者の数は限られているが、一度使ったユーザーの継続率は高いという。今後は人気店を含めた飲食店の開拓が、事業を拡大していく上での鍵となりそうだ。

山田氏はメルカリやDeNAなどでインターンを経験した後、自らサービスを立ち上げた。一度は別のプロダクトを作っていたそうだが、リリース後ほとんど使われなかったため方向性を転換。あらためてチームで解決したい課題を約120個リストアップした結果、ダイニーの元となるランチタイムの問題に取り組むことを決めたという。

過去の採択チームからは2社が資金調達済み

東大IPCでは1号ファンドを通じてシード・アーリーステージの東大関連ベンチャーを支援する複数のVCへのLP出資に加え、ミドルステージ以降の東大関連ベンチャーへ直接投資もしてきた。

具体的には現時点でUTEC(東京大学エッジキャピタル)など6つのVCファンドへ出資、バイオベンチャーのタグシクス・バイオ資金調達時に紹介したスマートアパレルを展開するXenomaなど4社に投資しているという。

今回の東大IPC起業支援プログラムはこれらの投資活動を補完する取り組みのひとつという位置付け。VCなどから出資を受ける前のプレシード段階にあるスタートアップや、起業の前段階にあるグループに対して市場調査資金の提供や経営面のサポートをすることで、さらなる事業展開や資金調達の実現を目指している。

今回採択されたチーム以外にこれまでに3社が採択されていて、2017年12月に紹介したヒラソル・エナジーを含む2社はすでに資金調達を実施済みとのことだ。