睡眠中の脳卒中を早期に警告するZeitのウェアラブル、実用化に向けシード約2.3億円調達

睡眠中の脳卒中を早期に警告するシステムを開発しているZeit Medicalは、Y Combinator(Yコンビネータ )のSummer 2021コホートを卒業した直後に、シードラウンドで200万ドル(約2億2800万円)を調達した。同社の研究によると、脳モニタリング用ヘッドバンドは、脳卒中の可能性を数時間前に警告することで命を救うことができると考えられており、今回の資金調達は、実用化に向けた推進力となる。

同社のデバイスは、軽量の脳波計(EEG)が内蔵されたソフトなヘッドバンドだ。スマートフォンのアプリと連動して、脳の活動を分析し、人間の専門家によって訓練された機械学習モデルを使って、差し迫った脳卒中の兆候を監視することができる。

共同創業者でCEO(そして現在はFerolynフェロー)のOrestis Vardoulis(オレスティス・バルドゥリス)氏は、使用状況の調査で、CPAPマシンを使用している人も含め、90%の夜にヘッドバンドを装着して、装着感や快適性に関する不満はほとんどなかったと述べている。脳卒中の影響を軽減するという目標を達成するためには、継続して使用することが重要であり、不快なヘッドバンドやかさばるヘッドバンドは確実に悪影響を及ぼす。

「当社は、製品を最終的に完成させ、今後の研究でテストできるようにすることに加えて、入院患者へのAIのさまざまな応用を試してきました。集中治療室の患者の多くは、綿密な虚血モニタリングを必要とします」とバルドゥリス氏は語る。本来であれば専門家や専用のシステムでなければ診断できないような様々な状態を、Zeitが作成したモデルで警告できる可能性がある。「くも膜下出血の患者を脳波でモニターしているいくつかの大規模な国立学術センターに、当社の技術が許容可能なアプリケーションであるかどうかを確認するためにアプローチしました」とも。

バルドゥリス氏によると、脳卒中患者のコミュニティはこの装置に非常に興味を持っており、我々の以前の記事でも、コメント欄にこの装置が自分にどれほど役に立つかを指摘する人がいたという。ZeitはFDA(米国食品医薬品局)の認可に向けて進んでおり、「Breakthrough designation(ブレイクスルー指定)」という一種のファストトラックを取得しているが、広く普及するまでにはまだ1〜2年かかるかもしれない。

これは、医療機器としては非常に短いリードタイムであり、投資家たちは明らかにこの製品がインパクトとROIの両方をもたらす機会であると考えた。

200万ドル(約2億2800万円)のラウンドは、SeedtoBとDigilifeが共同で主導し、Y Combinator、Gaingels、Northsouth Ventures、Tamar Capital、Axial、Citta Capital、そしてエンジェルのGreg Badros(グレッグ・バドロス)氏、Theodore Rekatsinas(テオドール・レカツィナス)氏をはじめとする医療関係者数名が参加した。

この資金はご想像のとおり、事業の継続と拡大、チームの構築、FDAの検討と承認に必要な研究のために使用される予定だ。運がよければZeitのデバイスは、早ければ2023年には、脳卒中のリスクを抱える人々に標準的に使われることになるだろう。

画像クレジット:Zeit

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Aya Nakazato)

家庭用治療器で脳卒中患者のリハビリに変革をもたらすBrainQが44億円調達

肘を痛めた場合は手術が効果的で、脚を失った場合は義足という手段がある。しかし脳に問題があった場合の治療は非常に難しく、脳卒中の場合リハビリは身体の修復メカニズムに委ねられることが多い。そんな中、脳の損傷部分に刺激を与えて自己修復を促進する装置でこの状況を変えようとしているのがBrainQだ。試験で十分な改善が見られたため、FDA(米国食品医薬品局)から画期的医療デバイス指定を受けたこの装置。同社は最近、この製品を市場に投入するため、4000万ドル(約44億円)を調達した。

最初に言っておくが、脳波を発する奇跡のデバイスの効果を疑うのは当然のことだ。実際、BrainQの創設者であるYotam Drechsler(ヨータム・ドレクスラー)氏と話した時、2017年に我々が対談した際に筆者が「強い疑いの念を表明した」と同氏が思い出させてくれたのも事実である。

悪気があったわけではない。当時の技術はほとんど概念的なものだったと同氏も認めるほどだ。しかし、以来チームは研究を続け、資金を調達し、当時は単なる有望な論文とされていたものが、実際のデータと臨床結果に裏付けられたものに変わったのである。このようにして完成したシステムは、ここ数十年あるいはそれ以上変わることのなかった、脳卒中治療を大きく改善するものになるかもしれない。

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脳卒中になると、握力や調整能力などさまざまな障害を招くが、当然、損傷は手や足そのものではなく、それらの部位を司る脳内のネットワークに起きている。しかし、医学的にはそのネットワークを直接再構築する方法はなく、脳は自分の力で、自分のペースで再構築していかなければならない。

これをサポートするため、定期的な理学療法と脳の健康診断を時には何年も続けて行い、脳がまだ働いているかどうか、体の各部分自体が衰えていないかどうかを確認するのである。

近年このプロセスに加えられた改良の中でも最も興味深いのは、例えばバランスが片側に偏っていることなどを即座にフィードバックし、それを修正することを目的とした刺激を提供するテクノロジーである。ただしあくまでもこれはフィジカル・セラピーである。

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ドレクスラー氏とBrainQの問題の捉え方はこれとは少し違う。脳卒中は単なる怪我ではなく、脳が慎重に培ってきたホメオスタシス(恒常性)を乱し、それに対抗する手段を持たない状態であると考え、脳卒中を怪我ではなく、早産で生まれた赤ちゃんが体を温めることができない状態にあることに例えている。このような場合何をすべきか。より低い温度で活動できるように体を「修理」したり、熱の生産活動を増強したりするのではなく、その子どもを保育器に入れて、すべてを正常に機能させようとするのが通常である。

これと同様に、脳内の環境を変化させることで脳の働きを良くしようとしているのがBrainQのデバイスだ。

「健康な脳とそうでない脳のチャンネルをマッピングして比較します。これらを見つけたら低強度の磁場療法で脳に共鳴させ、内因性の回復メカニズムを促進させるのです」とドレクスラー氏は説明する。

このような刺激は、中枢神経系が自らを再プログラムする能力である神経可塑性を向上させることが他の状況でも明らかになっている。脳卒中の患部に絞って刺激を与えることで、BrainQのデバイスは患部の神経可塑性を促進し、早期の回復を目指すのである。

しかし「脳卒中の影響を受けたのは右後頭葉の腹側半分だから、そこに磁石を当てたら良い」というわけではない。脳は複雑なシステムであり、脳卒中は特定のエリアだけでなくあらゆるネットワークに影響を与えてしまう。BrainQでは機械学習と膨大なデータを駆使して、これらのネットワークをどう狙えば良いのかを理解しようとするのである。

脳がどう機能するかについてここでは深く掘り下げないが、脳波を測定すると、特定のネットワークが非常に特殊なスペクトルサインや周波数で局所的に機能していることがわかる。例えば左手と左足が運動皮質の同じ領域を占めていても、手は22Hz、足は24Hzで動作していることがある。

「問題はこのサインをどうやって見つけるかということです」とドレクスラー氏はいう。説明するのはやや難しいので、対談後に同氏自身の言葉で書いてもらうことにした。

BrainQの治療法は、データに基づいてELF-EMFの周波数パラメータを決定するところに特徴があります。パラーメータを選択する際、中枢神経系における運動関連の神経ネットワークを特徴づける周波数や、脳卒中やその他の神経外傷後の障害に関連する周波数を選択するというのが弊社の目指すところです。そのために、健康な人とそうでない人の大量の脳波(電気生理データ)を解析しました。弊社のテクノロジーは説明的な機械学習アルゴリズムを用いて、自然なスペクトルの特徴を観察し、独自の治療的インサイトを導き出します。これらはBrainQの技術によって、損なわれたネットワークを回復するために使用されます。

この治療のために開発された同デバイスは一風変わった様相である。全脳磁界発生装置のため、かなりかさばる円筒形のヘッドピースが付いているが、その他の部分は背中のブレースとヒップパックのようなものに収まっている。一般的な脳磁気イメージング技術であるMRIとは異なり、発生する磁場や電流が非常に小さいためこういったデザインが可能となったのだ。

画像クレジット:BrainQ

「通常の脳活動と同程度の、非常に低強度のものを使用しています。活動電位や活動のジャンプを起こすのではなく、回復メカニズムに適した条件を整えるのです」とドレクスラー氏は話している。

この刺激に関する結果は、小規模(25人)ながらも決定的な研究結果として証明され、近日中にレビューと出版が予定されている(査読前の原稿の抄録はこちら)。通常の治療に加えてBrainQの治療を受けた患者は、バランス感覚や筋力の改善などの指標である回復評価が大幅に改善し、92%が通常の治療に比べて大幅に改善し、80%が回復と呼べる結果を得ることができた(ただし、この言葉は正確なものではない)。

一般的には、1度の治療につき約1時間、デバイスを装着したままさまざまな運動を行い、それを週に5日、2カ月ほど繰り返す必要がある。ヘッドセットが患者のパターンをBrainQのクラウドベースのサービスに送り込み、必要な処理とマッチングを行ってオーダーメイドの治療パターンが作成される。操作はすべてタブレットアプリで行われ、外来看護師などの介護者が操作することも、内蔵の遠隔医療プラットフォームを利用することも可能だ。

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ドレクスラー氏によると、このアプローチは初期の段階では評判が悪かったという(筆者だけではなかったようだ)。

「2017年、私たちは患者がどこにいても治療できる、クラウド型の治療機器の基盤を整え始めました。当時は病院という管理された環境の外で患者を治療することについて、意欲的な人などどこにもいませんでした。しかし2020年に新型コロナウイルスが登場しすべてが変わりました」。

今回のパンデミックにより、通常であれば病院で定期的なケアを受けることができた脳卒中の患者の多くが、同様のケアを受けることができなくなった(未だできていない人もいる)と同氏は話す。低リスクで大きな成果が期待できる在宅療法は、現在脳卒中から回復しつつある何千人もの人々にとって非常に有益なものである。そして重要なのは、既存の治療計画を変更することなく、その結果の改善に寄与することができるという点だと同氏はいう(「我々は誰の邪魔をするつもりもありません」と同氏)。

通常であれば「しかし、FDAが保険適用を承認するまでにはまだ5年かかるかもしれない」というような内容をここらで書くだろう。しかしBrainQは先日、画期的医療デバイス指定を取得したのだ。これは迅速承認プロセスで、2021年に入ってからはメディケアの適用を受ける資格も与えられている。つまり、BrainQは1〜2年先にはこのデバイスを出荷できている可能性があるということだ。

次のステップとして同社はより大規模な試験を行おうと考えており、最近の資金調達額の大部分(Hanaco Venturesが主導し、Dexcel PharmaとPeregrine Venturesが参加した4000万ドル)をこの試験に充てる予定である。

「これだけの資金を集めたのは、12の施設でとてもユニークな研究を行おうとしているからです」とドレクスラー氏は話す。提携先の病院や研究機関の名前はまだ公表できないようだが、基本的には脳卒中リハビリテーション分野のトップレベルの施設であり「これらトップレベルの施設が同じ研究に参加してくれて、これ以上のことは望めません。何か新しいことが起こるのではないかという大きな期待に胸を躍らせています。脳卒中の回復分野においてはこの20~30年ほとんど進歩がなく、理学療法が200年前から標準的に行われてきたのです」と話している。

もちろん保証はできないが、このような研究は障害を軽減するだけでなく、元に戻すための医学につながる可能性があるため、その価値には計り知れないものがあると同氏は期待に胸を膨らませている。

「2016年の自分のピッチデッキを見返していました。CEOとしての初期段階では大きな夢を持っていましたし、プロセスの初期には多くの懐疑的な意見を聞きましたが、その夢の多くが今、実現しつつあることを心から誇りに思います」とドレクスラー氏は語っている。

画像クレジット:BrainQ

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)