CRISPR遺伝子編集の発見者ダウドナ教授のスタートアップが新Casタンパク質の特許ライセンスを得た

遺伝子編集のスタートアップ、Mammoth BiosciencesがCRISPRテクノロジーを利用した新しいタンパク質に関する独占的ライセンスをカリフォルニア大学バークレー校から得た。

このライセンスは研究開発から商用化まで極めて幅広い分野をカバーしておりMammothにとって知的所有権のポートフォリオの極めて大きな拡大となる。ライセンスを取得したCasɸタンパク質はCas9と似た働きでサイズはほぼ半分にすぎない。Cas9はDNAのCRISPR座位付近にあり、CRISPRと共同して遺伝子切断タンパク質として機能する。CAS9の発見はバークレー校のCRISPR研究の本格化の出発点となった業績だった。

CRISPRではサイズは非常に大きな要素となる。サイズが小さいほど合成も容易で標的遺伝子への付着位置も正確になる。Casɸファミリーのタンパク質が優れていると考えられるのはそういう理由だ。遺伝子編集における切断位置の正確性、生体細胞への伝達効率、またmultiplex処理と組合わせて複数の標的配列を同時に切断する性能の向上などが期待されている。

7月にScienceに査読を経て掲載された論文がCasɸの発見とCRISPR遺伝子編集において期待される優秀性を述べている。 Casɸはバクテリオファージ中に発見されたタンパク質だが、バクテリオファージは細菌に感染して自らの複製を大量に作り出すある種のウィルスだ。「バクテリオファージ」というのはラテン語由来で「バクテリアを食べるもの」という意味だ。

CRISPRを利用した遺伝子編集テクノロジーにおいて正確性の向上は現在もっとも熱心に追求されている分野だ。Cas9をベースにした遺伝子編集では「失中」つまり意図しない遺伝子編集が起こる可能性があり、これを減少させるために様々なアイディアが提出され研究が続けられている

Mammoth Biosciencesの共同ファウンダーの一人はバークレー校のジェニファー・ダウドナ(Jennifer Doudna)教授だ。ダウドナ教授はCRISPRの共同発見者だ。MammothのIPポートフォリオにCasɸが追加されたことは将来の商用化を踏まえて同社のビジネスに非常に大きな意味を持つはずだ。

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滑川海彦@Facebook

遺伝子編集技術が人類の健康と生活に革命をもたらす

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この記事はCellectisのchairman、CEOでCrunch NetworkのメンバーAndré Choulikの執筆

遺伝子編集技術は21世紀前半を通して、我々の生活と我々が伝統的に健康というものに抱いている概念を根本的に変えるだろう。

遺伝子編集により病気の治療方法が変わる。これまでの治療が対症療法だったのに対して、遺伝子編集は病気を引き起こす原因を直接治す。遺伝子編集技術は我々が体に取り込むものに対する概念を変える。なぜなら、遺伝子編集を使えば、地球を汚染することなく、より健康的な食物を我々の食卓に供給することが可能になるからだ。こういった食べ物はただ安全なだけでなく、持続的成長や気候変動に関連した環境問題にも対応できるだろう。

結果的に、人々は遺伝子編集の是非について、その倫理性を争点にはしなくなるだろう。問題は、「いつ、遺伝子編集が世界の大部分にとって重要な事実となるか」ではない。実際のところ、これはサイエンスフィクションでも予言でもなく、遺伝子編集は今現在起きていることである。現実に、TALEN®方式で遺伝子編集されたT細胞を使っての最初のガン患者に対する治療が既に行われた。加えて今年の秋には、全米中の畑でTALEN®方式で遺伝子編集された大豆やじゃがいもが収穫される。さらには遺伝子編集を施された豚や乳牛(hornless cow)が実際に牧場を歩き回っている。

遺伝子編集をめぐる状況は明瞭とは言い難いが、近年の新しい遺伝子編集技術の出現と、新興企業の登場により倫理的な議論が不可避な状況になった。

例えば、CRISPRテクノロジーをベースにした、臨床試験の初期段階にあるスタートアップ企業の3社は製薬会社と生命工学会社の大手を主要な提携先としている。それぞれEditas Medicine (Juno Therapeutics)、CRISPR Therapeutics (VertexCelgene) 、Intellia Therapeutics (Novartis)といった具合だ。

これらの提携は重要だが、長期的な成功はこれらの企業が公約を実現できるかどうかにかかっている。CRISPRによる技術革新を、有用な認可薬の開発に結びつけることができるかが最も重要であり、そのような努力がたとえ新薬として結実するにしても、それにはこの先何年ものさらなる懸命な努力が必要だろう。

これらスタートアップ企業に加えて、遺伝子編集の分野ですでに操業しその地位を確立している企業としてSangamo BioSciencesPrecision BioSciencesがある。Precision Bioはこれまで独自のARCUS遺伝子編集技術を用いてパートナーのバイオテクノロジー企業の研究を推進してきたが、現在はその技術を自社の製品開発に使おうとしている。

Sangamoは臨床段階にあるバイオ製薬会社で、Zinc finger nucleasesを商業化する方法を研究している。Zinc fingerヌクレアーゼを使えば細胞内の特定の位置のDNAを改変できるので、狙った遺伝子を修正したり破壊したりできる。同社のリードセラピーであるSB-728はHIV/エイズの機能的治療となる可能性がある。最近公表されたデータは同社のさらなる研究の進展を裏付けており、これはHIVを免疫学的に機能制御することに向けた大きな進歩と称されている。

こういった動きは倫理的論議を引き起こすこととなる、すなわち議論の中心は遺伝子編集の潜在的脅威であり、具体的には遺伝子編集人間への脅威なのだ。

遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

実際、動物を使った遺伝子改変は35年以上前になされ、その方法は直ちにヒトにも適用可能だったが、当時その技術は遺伝子改変人間への動きにはつながらなかったことを思い出して欲しい。同様のことが、ヒトの胚性幹細胞を使って遺伝子破壊をすること、羊のドリーを作成した技術を使ってヒトをクローン化すること、もしくはヒトiPS細胞を使って新規クローンを作り出すことなどに当てはまる。遺伝子編集への恐れ、つまりは遺伝子編集を通じて何が出来てしまうのかに対する不安、は理性的事実に基づいたものでは全くない。

人々はしばしば尋ねる。「遺伝子改変って何だろう?心配すべきことなのだろうか?もし、悪意を持った人たちがこの技術に手を染めたとしたらどうなってしまうのだろう?」

答えは複雑だ。携帯電話やソーシャルメディアなどのテクノロジーはグローバル社会を根本的に変えてしまった。これまで、たとえ悪い人がそれらを悪用したとしても、大多数の場合において、これらのテクノロジーにもたらされた変化は良い方向に働いてきた。

遺伝子編集はそれと似ている。遺伝子編集技術は我々が生命の最も基本的な構成因子を見る目を根本的に変えてしまう。それは我々が病気を治療したり、食物を育てたり、ヒトとしての自分自身について考えたりする上で、これまでの概念全てについて再考を促すほどの力がある。

元来、文明行為の最たるものは植物を育て動物を飼育することにあると考えられた。それ即ち遺伝的選択とクローニングである。クローニング、即ち最高の品種の選択は、もともとは人類の生存率を高める行為として行われた。それ以来、人類はその技術に磨きをかけ続けた。

地球の人口が90億以上に達しようとする時、我々が存続できるかどうかは遺伝子編集の力にかかっているのかもしれない。さらに言えば、今日ある人が体外受精で生まれたとしても誰が気に留めるだろうか。1970年代の体外受精をめぐる議論を覚えているだろうか。この点はもはや議論にすらならない。

2015年は極めて重要な年となった。遺伝子編集は現在我々の生活を真に現実的な意味において一変させている。イギリスのGreat Ormond Street Hospitalにおいて、他の治療法では救うことができなかった白血病の患者に対し、遺伝子編集を施したCAR T細胞の候補産物が初めて使用された。彼女は遺伝子編集により救われた最初の患者となった

European Medicine Agencyの専門家によると、これは彼らが見てきた中でももっとも複雑な生産物ということだ。それはT細胞を非常に洗練された方法で再プログラミングした結果であり、その過程で一部の遺伝子が付け加えられまた他の遺伝子の働きは抑えられ、結果的にそのT細胞は強力なガン撲滅マシーンへと変化したのだ。

この細胞は何千と生産でき、長期の保存に耐え、世界中の病院に供給でき、治療の必要などんな患者に対しても投与することができる。今日、これを製造するのは複雑かもしれないが、患者に投与するのは簡単である。未来の医学においてはこれが標準となる可能性さえある。

2015年は商業的農業においても同じくらい良い年だった。遺伝子編集食物が全米中で豊富に収穫され、遺伝子編集ジャガイモと大豆が2年以内に消費者の手に届くことが現実味を帯びてきた。これまでの50年間、植物の育種の焦点は収穫量を増やすことであり、実際に生産性は向上したもののそれは除草剤と殺虫剤のさらなる使用を伴ったものであった。つい最近まで消費者の健康は重要視されておらず、それが大規模農業の弊害とされ、ひいては有機農業の隆盛を引き起こした。

今日、有機農業は現在のアメリカの農業生産において10%に満たない。それでも、人口の増加と歯止めのかからぬ耕作地の減少(地球温暖化や持続可能性、及び世界の公正成長などの要因は言うに及ばず)といった状況で、より健康的な農産物への強い需要と自然への配慮の両立を満たすには、人類の経済規模を縮小するかテクノロジーで解決するかしかない。来る遺伝子編集食物の収穫はこの利鞘縮小問題に答えを出すための第一歩となり、人類を拡張するための新たな経路の開拓と持続可能な発達の両立への扉を開くものだ。

繰り返しになるが、もし、またはいつ遺伝子編集が現実となるかが問題なのではない。むしろ、我々がそれを最初に実行するかどうかということなのだ。オバマ大統領が最も最近の一般教書演説で言った、「ガンを撲滅しよう、このアメリカの地で」。この演説はCancer MoonShot 2020の立ち上げの次の日になされた。Cancer MoonShot 2020は製薬企業大手とバイオテクノロジー企業の主導で行われる。しかし、我々は2020年までガン細胞を除去するための治療を待つ必要はない。我々は遺伝子編集によりガンの根治に着実に近づいている。

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(翻訳:Tsubouchi)