夜型人間も夜型人間も平日の活動量に差がなく、社会的要因が影響しているという世界初の研究

夜型人間も夜型人間も平日の活動量に差がなく、社会的要因が影響しているという世界初の研究

夜型20人と朝型61人の学生それぞれの活動量平均値をプロット。土曜日と日曜日午前は、夜型の活動量が朝型よりも低下する。しかしこれ以外の時間帯は、活動量に差はなかった(平日は金曜日と月曜日だけを図示したが、火曜日から木曜日も同様に差がない)

島根大学京都医療センター臨床研究センター金沢大学の研究グループは、遺伝子で決まる朝型と夜型の人の活動量が、平日においては差がないことを明らかにした。これまで夜型生活者は活動量が相対的に低いとされてきたが、差が表れるのは土曜日のみで、遺伝的要因と社会的要因が大きく関わっていることが世界で初めて示された。

ヒトには「朝型タイプ」「夜型タイプ」があり、その違いの約半分は、遺伝的(先天的)に規定されている。その規定遺伝子が、2017年のノーベル医学生理学賞の対象となった「時計遺伝子」であり、その個人差である時計遺伝子多型であることが知られている。

夜型の生活習慣を持つ者(夜型タイプ)は、朝型に比べて身体活動量が低く、睡眠時間が短く、食生活が乱れることが多いために、肥満や糖尿病の罹患率が高いことが広く報告されてきた。しかし、そうした研究では、調査は1日だけ(24時間程度)に限られており、社会的制約が異なる平日と休日の両方で調査しなければ「健康増進へのエビデンスとして不十分」だと研究グループは考えた。そうして、この比較研究を行うことにした。

研究グループは、大学生男女81人を対象に、朝型とされるTの遺伝子多型を持つ人(TT者)と、夜型とされるCを含む遺伝子多型を持つ人(TC+CC者)とに分けて実験を行った。学生たちには、7日間連続して、起床時から就寝時にかけてデジタル加速度計を装着してもらい、活動量を計測した。その結果、平日は両者とも活動量に大きな差はなく、土曜日と日曜日の午前中にのみ、TC+CC者の活動量の低下が見られ、起床時間と就寝時間が大幅に遅くなることがわかった。ここから、平日は通学などの社会的な制約のために夜型も朝型と同じ行動をとらざるを得ず、差が見えなくなっていると推定された。

また、実験の際に行ったアンケート調査から、「自分は朝型」や「自分は夜型」といった主観は、遺伝子による分類とは関係がないこともわかった。つまり、自分の遺伝子の型を理解することで、自分にとって最適な活動時間を把握できるということだ。研究グループは、子どもの生活指導を行う人は、社会的制約のない週末の子どもの行動を観察して、適切にその生活習慣を理解することが大切だと提言している。また、勉学、スポーツ、ビジネスに取り組む際には、遺伝的な朝型か夜型かの個性を考慮することで、最善のパフォーマンスを発揮できるとも指摘している。

宇宙で発生した電磁波が地上に伝わる5万キロにおよぶ「通り道」が世界で初めて解明される

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

「電磁波の通り道」を同時多地点観測する様子 ©ERGサイエンスチーム

金沢大学理工研究域電子情報通信学系松田昇也准教授らからなる国際研究チームは12月10日、複数の科学衛星と地上観測拠点で同時観測された電磁波とプラズマ粒子データなどから、電磁波の通り道の存在を世界で初めて突き止め、電磁波が地上へ伝わる仕組みを解明したと発表した

地球周辺の宇宙空間では、自然発生した電磁波が地球を取り巻く放射線帯を形成したりオーロラを光らせるなどの物理現象を引き起こしているが、1つの衛星や観測地点からの観測では、電磁波の伝搬経路全体を三次元的に捉えることができなかった。そこで研究グループは、日本のジオスペース探査衛星「あらせ」、アメリカの科学衛星「Van Allen Probes」、そして日本が世界に展開する地上観測拠点「PWING 誘導磁力計ネットワーク」とカナダが北米に展開する「CARISMA 誘導磁力計ネットワーク」を連携させて、同時に観測を行った。

それにより、宇宙空間の特定の場所で電磁波(イオン波)が生まれ、その一部だけが宇宙の遠く離れた場所や地上に届いていることがわかり、そのおよそ5万キロの旅の途中で宇宙のプラズマ環境変動を引き起こし、やがて地上に到達していることを解明した。

宇宙空間には冷たいプラズマが存在し、それが電磁波によって温められると、地上の大気の寒暖の変化のように、宇宙の環境が変化する。特に大規模な太陽フレアによる宇宙嵐が起きると大量の電磁波が発生し、人工衛星の故障、宇宙飛行士の放射線被曝、地上の送電網の障害など、多くの影響をもたらす。電磁波の通り道がわかれば、プラズマ環境変化が様々な場所で同時に発生する仕組みもわかる。

イオン波を4つの拠点で同時に捉えた観測結果

だがそれを解明するには、イオン波が発生している時間帯の、2つの科学衛星と2つの地上観測拠点の位置関係が大変に重要になる。研究グループは、そのタイミングを予測しつつイオン波の観測を続けたところ、2019年4月18日に4つの拠点でのイオン波の同時観測が達成され、同一のイオン波が地磁気赤道から地上に伝搬する「電磁波の通り道」が同定された。それによると、イオン波は5万キロの距離を移動するが、経路の断面はその1/1000ほどと小さい、細長いストロー状であり、広い宇宙空間で、きわめて局所的に伝搬経路が形成されていることもわかった。

あらせ、Van Allen Probesの衛星軌道と地上観測拠点の位置関係

「電磁波の通り道」が解明され、電磁波がどこで発生し、どう伝わるかがわかったことで、安全な宇宙利用に向けた「宇宙天気予報」の精度向上が期待されるという。同研究グループは「地球以外の惑星でも電磁波が発生し伝わっていく仕組みを解明し、宇宙環境変動の網羅的な理解と普遍性の解明へと歩みを進めていきたい」と話している。

この研究には、金沢大学の他、名古屋大学、東北大学、コロラド大学、ミネソタ大学、JAXA宇宙科学研究所、京都大学、九州工業大学、ロスアラモス国立研究所、ニューハンプシャー大学、情報通信研究機構、国立極地研究所、アルバータ大学などが参加している。