障がい者が開発段階から参加して使いやすい製品デザインを目指すFableプラットフォームとは?

アクセシビリティは、その機能を持たずに仕上げられた製品に後付けするものではなく、開発の最初の段階から考慮すべきものだと、テック企業も気づき始めている。しかし、それのために必要なリソースを持つ企業は極めて少ない。Fable(フェイブル)は、障がい者も使いやすいインクルーシブな製品のデザインが楽に行えるよう、個々の障がい者の要求に応じた開発やテストの支援を目指している。同社はそれを実現するための、150万ドル(約1億5800万円)のシード投資を調達した。

「障害を体験している人は、みな最高の解決策の持ち主です」とFableの共同創設者Alwar Pillai(アルウォー・ピライ)氏はTechCrunchに話した。だが、それが製品のアクセシビリティ機能に活かされることは稀だ。

しかも、そうした製品を開発しているのは、健常者で40歳未満の人たちであることが非常に多いと彼女はいう。「そのため優先順位は低く、不完全なものになりがちです」とピライ氏。「大切なのは、この製品は目の不自由な人でも本当に使えるのか、と考えることではありません。企業が障がい者の意見を求めることです。Fableは開発とテストの最初の段階から障がい者に参加してもらうための、デジタルチームと障がい者とを結び付けるプラットフォームです」。

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Fableは、製品開発で参考にしたい障害を持つ人に、オンデマンドでアクセスできる環境を提供する。プロトタイプやモックアップを協力者に送り、48時間使ってもらって評価を聞くこともできる。

「ほとんどの企業には膨大なデジタル製品がありますが、障がい者がそれをどう感じているかを把握していません。例えば目の見えない人は、サインアップの手続きに1時間もかかるということなどです」と共同創設者でCOOのAbid Virani(アビッド・ビラーニ)氏は話す。「そこで私たちは、いくつかのプロトタイプを、例えば四肢麻痺の人や、うんと拡大しなければよく見えない視覚障がい者の前に置き、彼らがどのように使うかを観察するのです。彼らは、思いもよらない事柄をフィードバックしてくれます」。

もちろん、顧客はターゲットとする障害、生活支援技術、プラットフォームを選んでテストできる。例えば視覚障がい者にモバイルブラウザーをテストして欲しい、といった具合だ。

モバイル画面リーダーのユーザー、多様なユーザーでChromeを、視覚障がい者にあらゆるデバイスを(画像クレジット:Fable)

この作業は開発中に、しかも開発を遅らせずに行うことが重要だと、ピライ氏とビラーニ氏はいう。さもなければ、それは開発の最終段階に持ち越されてしまい、実際に障がい者が使いやすいものを作ることよりも米国障がい者法に適合させることが目的になってしまうからだ。

「適合しているのに、まったく使えないサイトができ上がる恐れがあります」とビライ氏はいう。しかし多くの企業は、障がい者のテスターを抱えていないため、そのことに気づくことすらない。

また大規模な製品になると、様々な要素やプラグインやパートナーが統合されていて、そのエクスペリエンスにとって重要な部分であっても、それぞれアクセシブルであったり、なかったりするという問題がある。表面的にはアクセシブルなサイトに見えていたのに、いよいよ有料サービスの課金処理へ移行しようという段になってナビゲーションが急に難しくなるようでは、本当にアクセシブルとはいえない。

これでは大量の商機が無駄になっていると、ピライ氏は指摘する。「数十億ドル(数千億円)という可処分所得を持つ人たちがいますが、未開拓のままです。これは市場の好機なのです」と彼女はいう。ただし、最初からアクセシビリティを考慮したデザインをしていればの話だ。

それだけではない。パンデミックによって家で仕事をすることが多くなり、オフィスでは問題なく行えていたことが、リモートワーク用ツールでは難しくなる場合もある。

テストに協力できる障がい者を紹介し、障がい者に縁遠かった安定した仕事を提供するだけでなく、Fableは洗練されたテスト方法を公表(Adobeリリース)し、そこから得られたデータを利用した現状の改善も目指している。

今回の150万ドルの投資ラウンドは、カナダを拠点とするDisruption VenturesとシリコンバレーのVillage Globalが主導した。「私たちには公益のための仕事で10億ドル(数千億円)規模のビジネスを確立することが可能だと、信じてくれる人たちを求めていました」とビラーニ氏はいう。

米国障がい者法は昨日で施行30年目を迎えた。90年代からずいぶん時間が経ってはいるものの、やるべきことがまだ残されている上に、これからも続く仕事であることは明らかだ。開発とテストの基礎の段階にアクセシビリティとインクルージョンを組み込むことで、そのゴールが見えてくるに違いない。

画像クレジット:Fable

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(翻訳:金井哲夫)

障がい者のための技術発展を目指す企業を支援するMicrosoftアクセシビリティー補助金

ハイテク界にも障がい者のための支援活動が数多く存在するが、アクセシビリティー問題で投資家を熱くさせることは難しい。だからこそ、Microsoft(マイクロソフト)のAI for Accessibility(アクセシビリティーのためのAI)補助金制度は大歓迎だ。障がいを負った人たちのためのAI活用の道を探る企業や団体を対象にしたAzureクレジットと現金による株式を要求しない経済援助だ。マイクロソフトは、視覚障がい者のための教育を支援するスタートアップであるObjectiveEd(オブジェクティブエド)をはじめ、10以上の対象団体を発表した。

この補助金制度は、少し前に500万ドル(約54億円)でスタートした。その条件に合うスタートアップ企業やプロジェクトをわずかでも補助しようと5年の期限を区切って行われている。もちろん、それらの人たちにマイクロソフトのクラウドインフラに親しんでもらおうという狙いもある。

申し込みは常に受け付けられ「障がいを負った人たちにAIや機械学習を役立てたいと模索する人なら誰でも、喜んで支援します」とマイクロソフトのMary Bellard(メアリー・ベラード)氏は話している。ただし「素晴らしいアイデアで、障がい者コミュニティーに根差している」ことが条件だ。

今回、補助金を獲得した中にObjectiveEdがある。今年の初めに私が紹介した企業だ。iPadを使った、目の見えない、または弱視の小学生向けのカリキュラムだが、目が見える子どもたちにも使うことができ、教師の負担が軽減される。

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そこには、ご想像のとおり点字も含まれている。点字を学ぶ必要のある子どもたちに対して、点字を教えられる教師の数は足りていない。一般的には、直接的な実践教育で教えられている。つまり、子どもが点字を(ハードウェアの点字ディスプレイを使用して)声に出して読み上げるのを教師が聞き、間違いを正すというものだ。高価な点字ディスプレイが自宅で自由に使える環境で、その技能のある家庭教師を雇える場合は別だが、この重要な教育が受けられるのは、週に1時間程度という子供もいる。

ObjectiveEdのアプリなどに使用する書き換え可能な点字ディスプレイ。

「点字ディスプレイに文章を送り、生徒がそれを声に出して読み上げると、マイクロソフトのAzureサービスがそれをテキストに変換し、点字ディスプレイの文章と比較する。そして必要に応じて間違いを正し次に進む。そんなことができたら最高だと私たちは考えたのです。すべてをゲーム形式にします。楽しく学べるようにね」とObjectiveEdの創設者Marty Schultz(マーティー・シュルツ)氏は話していた。

それが、この会社の次なるアプリで可能になる。今や音声のテキスト変換の精度は十分に高く、さまざまな教育やアクセシビリティー目的の使用に耐えられる。あとは、生徒が点字訓練の時間を取れるようiPadと点字ディスプレイを用意するだけだ。1000ドル以上もするハードウェアだが、目の見えない人に金をかけてはいけないなんて決まりはない。

点字の識字率は低下している。音声インターフェイス、オーディオブック、画面読み上げなどが普及し実用性が高まったことを思えば無理もないと私が言うと、シュルツ氏とベラード氏は口を揃えてこう指摘した。メディア消費の上ではオーディオに依存できることは素晴らしいが、書かれたものを真剣に読みたいとき、または多くの教育の現場においては点字は不可欠なものであるか、または発話に代わる非常に便利な代替手段なのだと。

シュルツ氏もベラード氏も、教師に取って代ろうとは決して考えていないという。「教師は教え、私たちは子どもたちの訓練を支援します」とシュルツ氏。「私たちは授業の専門家ではありません。教師の助言を受けて、これらのツールを生徒たちが使いやすいように作るのです」。

マイクロソフトの補助金を受け取った団体は、このほかに10団体あり広範囲の多様なアプローチや技術をカバーしている。例えば、私が気に入ったのはSmartEar(スマートイヤー)がある。ドアベルの音や警報音などを傍受して、スマートフォンを通じて耳の聞こえない人に知らせるというものだ。

また、ロンドン大学シティ校では、個人用のオブジェクト認識のための素晴らしいアイデアを持っている。テーブルの上のマグカップやキーホルダーを認識するという程度のことは、コンピュータービジョンシステムにとっては実に簡単なことだ。しかし目の見えない人の場合、システムがマグカップやキーホルダーを特定してから、例えば「それはドアの脇の茶色いテーブルの上にあります」などと教えてくれたら非常に助かる。

以下に、ObjectiveEd以外でマイクロソフトの補助金を獲得した10の団体のプロダクトを紹介する(それぞれを詳しく調べてはいないが、今後調査するつもりだ)。

  • AbiliTrek(アビリトレック):さまざまな施設のアクセシビリティーを評価し解説する障がい者コミュニティーのためのプラットフォーム。個人の必要性に応じて検索結果を選別できる。開発元は同名のAbiliTrek。
  • SmartEar(スマートイヤー):環境音(ドアベル、火災警報、電話の呼び出し音など)を能動的に傍受し、小型のポータブルボックスかスマートフォンから色付きのフラッシュを点滅させて聾者コミュニティーを援助するサービス。運営元はAzur Tech Concept(アザー・テック・コンセプト)。
  • Financial Accessibility(フィナンシャル・アクセシビリティー):プログラムやサービスと人との最適なマッチングのための情報や活動を提供するインタラクティブなプログラム。運営元はBalance for Autism(バランス・オブ・オーティズム)。
  • The ORBIT(ジ・オービット):個人向けオブジェクト認識をAIシステムに訓練するためのデータセットを開発中。盲人コミュニティーで使用されるツールでの重要性が増している。開発元はCity University of London(ロンドン大学シティ校)。
  • BeatCaps(ビートキャップス):ビートトラッキングを使用して字幕を生成し、音楽のリズムを視覚化する新しい音声転写方式。聴覚機能障がい者に音楽を体験してもらうための視覚化技術。開発元はCommunote(コミュノート)。
  • EVE(イブ): 聴覚障がい者のための、発話を認識しリアルタイムで自動的に字幕を生成するシステム。開発元はFilmgsindl(フィルムグシンドル)。
  • Humanistic Co-Design(ヒューマニスティック・コ−デザイン):個人、組織、施設が協力し合い、デザイナー、メーカー、エンジニアが、障がい者のために技能を発揮できるよう認知を高めるための生活協同組合。運営元は同名のHumanistic Co-Design。
  • MapinHood(マッピンフッド):視覚障がい者が職場やその他の目的地へ歩いて行くときのルートを選択できるナビゲーションアプリを開発中。開発元はトロントのスタートアップであるiMerciv (イマーシブ)。
  • I-Stem(アイ-ステム) / I-Assistant(アイ-アシスタント):文章の読み上げ、音声認識、AIを使い、教室での対面によるテストに代わるインタラクティブで会話的な代替手段を生徒たちに提供するサービス。運営元はinABLE(イネイブル)。
  • ADMINS (アドミンズ):大学の書類をオンラインで記入することが難しい障がい者に業務支援を行うチャットボット。開発元はOpen University(オープン・ユニバーシティー)。

この補助金は、ユーザーが現在勉強中で明かりを消してはいけないような緊急のニーズに応えるために、Azureクレジットまたは現金、またはその両方で支払われる。このプログラムに適合すると思われる活動に携わっている場合は、ここから申し込める

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(翻訳:金井哲夫)