テックの多様性を高めるNPO「All Raise」に新CEOが誕生

ベンチャーキャピタルの取引や意思決定に多様性を高めることに注力する非営利団体All Raise(オールレイズ)は、Mandela Schumacher-Hodge Dixon(マンデラ・シューマッハ=ホッジ・ディクソン)氏を新しい最高責任者に任命した。この人事は、Pam Kostka(パム・コストカ)氏がスタートアップの世界に戻るために非営利団体の舵取りを辞めてから5カ月後のことだ。

ディクソン氏は10年以上にわたって、スタートアップの世界でリプリゼンテーションを高めるための活動を続けてきた。All Raiseに参加する前、ディクソン氏は、取り上げられることの少ない創業者のためのオンライントレーニングセンターであるFounder Gym(ファウンダージム)で、6大陸で18のコホートを運営していた。数週間前、ディクソン氏は、Founder Gymの現在のコースが最後の卒業生になることを発表した。Googleとの大きなパートナーシップを獲得したこのプログラムは、閉鎖されることになった。

「私はどこにも行きません」とディクソン氏は今週、TechCrunchのインタビューに答えた。「より公平なエコシステムを作ろうという、これまでやってきたことをまだ続けています。私はこの世界に入る前、シリコンバレーに知り合いがいない6年生の教師でした。私は、橋渡しをすることがすべてであり、そうしてきたのです」。

ディクソン氏は、Founder Gymが閉鎖した理由をTechCrunchに具体的に説明しなかったが、閉鎖はリーダーシップ委員会の全員一致の決定であったと述べている。All Raiseの機会が訪れたとき、彼女は、店を閉じる過程にいたということだ。

この2つの仕事の繋がりは明白だ。ディクソン氏は、歴史的に見過ごされてきた起業家たちが会社を設立する際に、特に資本をより利用できるよう、何年もかけてグローバル企業を立ち上げたのだ。現在、彼女は、ベンチャーキャピタル業界により明確な焦点が当たっているが、同じことを行うより大きな組織で仕事をしている。

現在、2万人以上のコミュニティメンバーを誇るAll Raiseは、女性ベンチャーキャピタリストの幹部によって2017年に設立された。オリジナルの設立チームは、投資家のStacy Bishop(ステイシー・ビショップ)氏、Theresia Gouw(テレシア・グー)氏、Dayna Grayson(デイナ・グレイソン)氏、Kirsten Green(キルスティン・グリーン)氏、Nairi Hourdajian(ナイリ・ホルダジャン)氏、Maha Ibrahim(マハ・イブラヒム)氏、Rebecca Kaden(レベッカ・カデン)氏、Aileen Lee(アイリーン・リー)氏、Jess Lee(ジェス・リー)氏、Jenny Lefcourt(ジェニー・レフクール)氏、Ann Miura-Ko(アン・ミウラ・コ)氏、Sarah Nahm(サラ・ナーム)氏、Stephanie Palmeri(ステファニー・パルメリ)氏、Heidi Patel(ハイディ・パテル)氏、Megan Quinn(ミーガン・クイン)氏、Renata Quintini(レナータ・クインティーニ)氏、Elisa Schreiber(エリサ・シュレイバー)氏、Kristina Shen(クリスティーナ・シェン)氏、Sarah Tavel(サラ・テヴェル)氏から構成されている。

設立以来、1100万ドル(約13億円)の資金を調達し、ベイエリア、ニューヨーク、ボストン、ロサンゼルス、シカゴに地域支部を開設し、まもなくDCとマイアミにハブを立ち上げる予定だ。

All Raiseは、テック分野のリプリゼンテーションを高めるために特別に生まれた非営利団体だが、ディクソン氏は、組織のミッションに新たなレベルの包括性をもたらしたいと考えている。ディクソン氏は、シリコンバレーでベンチャーキャピタルを調達し、ベンチャーキャピタル会社で働いた最初の黒人女性の1人であるという。また、パンデミック時に2人の子どもを出産し、リーダーとしての自分にまた新たな「広がり」が加わったという。

「私も、無意識であれ意識的であれ、ただ1人であることや少数の存在であるという排除のバイアスにさらされた経験をしています」と、ディクソン氏は語る。「私はそれを理解したいと強く意識してきたのでわかるのです。All Raiseでは、このことを私のリーダーシップに反映させ、私たちがサポートするのは、より多様なアイデンティティを受け入れる空間であることを確認することができます」。

ディクソン氏の活躍の場は確かに存在する。All Raiseは、2030年までに女性創業者へのシード資金提供額を11%から23%に増加させ、2028年までに米国企業の意思決定者の女性比率を2倍にするという目標を、女性全体を見ることによって設定してきた。しかし、データが示すように、黒人やラテン系の女性は、白人女性に比べてベンチャーキャピタルからの資金提供が偏って少なく、ノンバイナリーの創業者も、資金調達の際に高いハードルに直面する可能性がある。これらの断絶は、個別に追跡しなければ、見えなくなってしまう可能性がある。

同社は現在のミッションの中で、マイノリティに対してどのような影響を与えたいかという、ディクソン氏が変えていくだろう盲点について明確な目標をまだ持っていない。新CEOは、具体的にどのようなことに注力するかは明らかにしなかったが、All Raiseのリーダーシップチームに多様性を反映させることが優先事項であると述べた。まだ就任して1週間なので、どのような役割を担い、どのような人材を採用すればいいのか、まだ考えている最中だという。

「私たちは、本社をはじめとする本拠地を、多様で、包括的で、公平なものにすることに注意を払っています」と、ディクソン氏はいう。「私は、より包括的で、歴史的に十分に取り上げられていない女性やノンバイナリーのリーダーを受け入れ、幅広い女性やノンバイナリーのリーダーのための帰属意識とコミュニティの安全な空間を作ることが最も重要であると思います」。彼女は、2022年第2四半期にAll Raiseコミュニティ内の多様性指標を発表する予定だ。

ディクソン氏は、代表の定義を増やし、より多くの目標を明示することに加え、非営利団体が提供するバーチャルブートキャンプから、起業家とオープンボードシートの機会を結びつけるプログラムまでの計画を運用することも優先課題としている。これは、ディクソン氏がFounder Gymで築いてきたものに直接つながるものだ。「私たちが定義し、私たち自身に責任を持たせる強力な成功基準を持つこと」は、どんな製品を作るかという明確なロードマップを持つことと並んで重要であると、彼女は語った。

彼女の目には、このNPOの次の章は、タイムリーにより代表的な場所に到達することだと映っている。

「私にとって、時間が最も重要で、動かなければならないんですが、同時に、私たちはこの分野のリーダーですから、慎重に行動しなければいけません」と彼女はいう。「私たちはオピニオンリーダーとして見られたいし、オピニオンリーダーとして見られる権利を獲得し続けたいのです」。

画像クレジット:All Raise

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(文:Natasha Mascarenhas、翻訳:Yuta Kaminishi)

イーサリアム開発者ツールプラットフォーム「Hardhat」開発元、a16zなどの寄付により非営利団体「Nomic Foundation」に

人気の高いEthereum(イーサリアム)開発者ツールプラットフォーム「Hardhat」を開発したNomic Labsは、プロトコルの開発者エコシステムを改善することを目的として、非営利団体になることを発表した。

2018年に立ち上げられたNomicは、Nomic Foundationとしてリブランディングを行っており、3000万ドル(約34億6600万円)の寄付目標のうち、すでに1500万ドル(約17億3300万円)の寄付を確保していると、共同設立者兼CEOのFranco Zeoli(フランコ・ゼオリ)氏がTechCrunchのインタビューで述べている。Nomicによると、最初のコミットメントは、Ethereum Foundatio(イーサリアム財団)、Ethereumの共同設立者であるVitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)氏、およびCoinbase(コインベース)、Consensys(コンセンシス)、Andreessen Horowitz(a16z、アンドリーセン・ホロウィッツ)、The Graph(ザ・グラフ)、Polygon(ポリゴン)、Chainlink(チェーンリンク)、a_capital、Kaszek Venturesなどの多数の暗号取引所やベンチャーから得られたものだ。

同グループは3000万ドル(約34億6600万円)の目標を達成するために、いくつかの分散型自律組織(DAO)に資金提供の提案を行う予定だ。

開発者ツールは、ソフトウェアエンジニアがそのブロックチェーン上でアプリを作成することをより簡単にすることで、Ethereumのような特定のプロトコルの成長を加速させることができる。ゼオリ氏によると、実際に2万3千のGitHubリポジトリ(開発者プロジェクト)がHardhatを使用しており、数万人のアクティブユーザーがいるとのこと。また、Uniswap、ENS、AAVEなどの著名な暗号プロジェクトもHardhatユーザーだという。

Nomic Foundationの主な目標の1つは、開発者に質の高いエクスペリエンスを提供するインフラを構築することで、より多くの開発者をEthereumプロトコルに引き付けることだとゼオリ氏は語る。

「Ethereumには、成功しなければならない2つの重要な側面があると思います。1つはスケーリングです。しかし、非常にスケーラブルなシステムを持っていても誰も使わないのであれば、それは無意味なことです」とゼオリ氏。開発者による採用は、Ethereumプロトコルの将来にとって中核をなすものだ、と同氏は続けた。

ゼオリ氏と彼の共同設立者は、2015年にビットコインの可能性を探るために暗号の世界に入り、Nomic Labsはプロトコルの異なるさまざまな暗号化プロジェクトに取り組むために設立されたが、Ethereum Foundationからの助成金を受けて、2019年にHardhat製品に注力するためにピボットした。この助成金がきっかけとなり、NomicとEthereum Foundationの間に密接な協力関係が生まれ、Nomicが非営利団体に移行する前は、後者がNomicの唯一の資金源となったとゼオリ氏は語った。

同氏と共同設立者のPatricio Palladino(パトリシオ・パラディーノ)氏は、ともに母国アルゼンチンに住んでいるが、同国では、通貨の切下げやボラティリティが激しく、市民の生活に支障をきたしている。このような変動に関連する課題は、暗号資産が価値ある代替手段となり得る明確な例を示しており、これがNomicを非営利団体にすることを決めた動機となったとゼオリ氏はいう。

Nomic Foundationは、Hardhatをサポートするだけでなく、Ethereumエコシステム全体を向上させることを目的として、他の開発者ツールをサポートすることを目指していく。

ゼオリ氏はこう語っている。「(Nomic Foundationが)将来的に成功するシナリオは、Hardhatに対する競争が大幅に激化することでしょう。Hardhatだけでは、成長を続ける業界全体のニーズを満たすのに十分でないことがわかっているからです。ソリューションの多様性、異なるアプローチ、異なる戦略、さらには異なる嗜好が存在することが必要なのです」。

画像クレジット:DrawKit Illustrations on Unsplash

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(文:Anita Ramaswamy、翻訳:Aya Nakazato)

【コラム】非営利団体にはソーシャルメディアを改善する答えがあり、ビッグテックにはそれを実現するリソースがある

ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響についての議論は目新しいものとはいえないが、この秋、Facebook(フェイスブック)が自社プラットフォームの10代向けのメンタルヘルスに対する悪影響を十分に認識していたことを示唆していた報告が出されたことで、議論は再び世界の注目を取り戻した。

このデータ(およびFacebookがこれらの懸念を無視したという事実)は厄介な話だが、ソーシャルメディアがメンタルヘルスに与える影響を理解することはそれほど簡単ではない。実際、ソーシャルメディアは若者が自分自身や自分のアイデンティティを発見するための安全で肯定的な空間やつながりを提供できるとする強い主張も存在している。

ソーシャルメディアへの怒りがもたらす暗い結論の一方で、こうした利点はあまりにもしばしば片隅へと押しやられてしまう。事実、Instagram(インスタグラム)、Snapchat(スナップチャット)、Facebookといった現在の人気ソーシャルネットワーキングプラットフォームは、収益化を最優先事項としてデザインされている。これらのアプリは、アプリのユーザー時間が増えることで広告収入も増えるため、基本的に過度の使用を促すものなのだ。

最近の反発に応えて、Instagramのような場所は厳格に大人用とすべきだと主張する人もいるが、筆者は10代の若者にとって有益なソーシャルメディア環境を構築することは可能だと強く信じている。それは彼らが自己発見をできる場所であり、アイデンティティを自由に探求できる場所であり、暗闇の中で彼らを慰め、彼らが1人ではないことを知る手助けをする場所なのだ。

この未来が反応的な機能だけで育成できるかどうかはわからないが、ソーシャルメディアの巨人には、他の組織や非営利団体と協力して、ソーシャルメディアをすべての人々にとってより安全な場所にできる可能性がある。

広告型かつ非営利型のソーシャルメディアのためのスペースの創出

営利目的のソーシャルメディアが独占しない世界を想像するのは難しいが、独占は必然ではない。広告収入型のソーシャルメディアアプリを完全に排除するのは現実的ではないかもしれないが、テック業界には広告収入に依存しないプラットフォームのためのスペースを作る機会と責任がある。

もし閲覧数、クリック数、広告数が人々の欲求やニーズに対する二次的なものであれば、ソーシャルメディアプラットフォームの仕組みに革命を起こすことができるだろう。他のアプリからのプレッシャーから逃れたり、仲間と交流したり、自分自身が受け入れられる場所を見つけたり、目的はどうであれ私たちはユーザーが自由に参加できるコミュニティを構築することができる。

Ello(エロ)や、LGBTQ+の若者向けのTrevor Project(トレバーブレロジェクト)のソーシャルネットワーキングサイトであるTrevorSpace(トレバースペース)など、広告なしのソーシャルメディアスペースはすでにいくつか存在しているが、それらの規模は小さく機能も少ないため、 Instagramなどのソーシャルメディアアプリに備わる機能に慣れているユーザーを大量に引き付けることはできていない。

また、若者が匿名で自分のアイデンティティを探求できるオンラインスペースも必要だが、ソーシャルメディア企業がユーザーの精神的健康や健康よりも広告支援を優先する場合には、それはほぼ不可能だ。広告主は年齢、性別、行動、アイデンティティに基づいてユーザーをターゲットできるように、ソーシャルメディアに時間を費やしているのは誰かを正確に知りたいと考えているからだ。これは、ソーシャルメディアを自分が何者なのかを知るための手段として使いたいが、あまり慎重には行動できない若いユーザーにとって特に問題となる。

これを克服するためには、業界全体として利益を目的としないソーシャルメディアスペースへの投資を増やす必要がある。ここ数年、テック大手はプロダクトのイノベーションで驚異的な進歩を遂げており、これを、ユーザーが安心して自分を表現したり、協力的なコミュニティを見つけたりできるサイトにも応用できる可能性がある。

Facebook、Instagram、TikTok(ティックトック)、その他の広告付きアプリにはふさわしいタイミングと場所があるが、収益に左右されないオンラインスペースに対する明確なニーズと要望も存在している。どちらか一方である必要はなく、両方のためのスペースを確保するために私たちは協力することができる。

たとえばTrevorSpaceに対しては、私たちは特定の収益目標を達成するというプレッシャーを与えることなく、ユーザーの要望やニーズをよりよく理解するための研究に投資してきた。この調査を通じて、私たちはユーザーが自分のアイデンティティを探求し、自分を表現できる安全な空間を持つことに価値を見出そうとインターネットを利用していることを学んだ。

AIをずっと使用したらどうなるだろう?

より多くの非営利のソーシャルメディアプラットフォームに投資することに加えて、テック企業たちには、その最先端のAI開発を応用することで、ソーシャルメディア上のユーザー体験を改善し、オンラインに時間をかけすぎたことによる精神衛生上のストレスを軽減できる機会もある。

ソーシャルメディアサイトは現在、機械学習を使用して、人々がオンラインでより多くの時間を過ごすことを促すアルゴリズム生み出しているが、機械学習の可能性はそこに留まるものではない。テクノロジーには、人びとのメンタル不調を悪化させるのではなく、メンタルヘルスをサポートする力があることを私たちは知っている。ではAIを使用して、ユーザーにソーシャルメディアを制御できる新しい力を与えたらどうなるだろうか。

AIが、特定の瞬間に本当に必要としているものを見つけるのに役立てたらどうなるのかを想像してみて欲しい。例えばユーザーが笑いたいときには笑えるコンテンツへ、泣きたいときには泣けるコンテンツへとガイドしてくれたり、志を同じくするユーザー間の前向きな関係を築く手伝いをしてくれたり、または、彼らの生活にプラスの影響を与えるスキルや知識を彼らに与えてくれるリソースを提案したりということだ。

今日のソーシャルメディアアプリの大多数は、AIを使用して、私たち向けのフィード「あなたのための」ページ、そして私たちのためのタイムラインを決定している。しかし、もし私たちがAIを使って、ソーシャルメディア上での自分自身の旅をガイドできるようにすれば、根本的に異なる感情体験を育むことができる。それは、単に時間と注意を独占するのではなく、自分自身の欲求やニーズを支えるものなのだ。

これは簡単なことのように聞こえるし、すでに起きていることだと考える人さえいるかもしれない。しかし、最近Facebookの元プロダクトマネージャーFrances Haugen(フランセス・ハウゲン)氏の証言によって裏付けられたように、現在私たちが大手ソーシャルメディアで見ているコンテンツは、そのようにはキュレーションされていない。その状況は変わる必要がある。

ソーシャルメディアにおける前例のない革新と研究のおかげで、私たちは私たちの幸福に貢献するサイトを作成するために必要な技術は持っている、あとはその開発に時間とリソースを投資して、非営利アプリが主要な広告利用アプリと共存できるスペースを作ればいいだけなのだ。

将来的には、ユーザーが自身の見るコンテンツやそのコンテンツとのやり取りを制御できるようなAIを、ソーシャルメディア企業が非営利企業と提携して開発する可能性があるが、そのためには両者からの多大な時間投下、投資、協力が必要になるだろう。また、ソーシャルメディア大手は、この分野で切望されている代替アプリが入り込む余地を十分に確保する必要がある。

ソーシャルメディアをすべての人にとってより安全で健康的なものにすることは、The Trevor Projectを含む多くの非営利団体が実現に向けて取り組んでいる目標であり、ソーシャルメディア企業の支援によって私たちはその実現に大いなる助けを得ることになるだろう。

編集部注:著者のJohn Callery(ジョン・カレリー)氏はThe Trevor Project(トレバー・プロジェクト)の技術担当上級副社長。

画像クレジット:mikroman6 / Getty Images

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(文:John Callery、翻訳:sako)