プレイリストを軸とした新音楽サービス「DIGLE」“音楽体験をより豊かに、楽しく”

世界最大の音楽ストリーミングサービス「Spotify」が日本でローンチしてからちょうど2年ほど経ち、ここ日本でも音楽聴取の文化は徐々にだが変わりつつある。形式は物理的な販売からデジタルダウンロード、そして定額配信へと移行し、音楽の聴取・シェアの仕方もこれまで以上に多様になった。

僕がパンク少年だった中学生の頃はお気に入りの曲をCDからMDに録音して「ミックステープ」のようなものを作り、自分で聞いたり友達に貸したりしていた。その頃はSpotifyやApple Musicも、SoundCloudやBandcampもまだ誕生していなかったからだ。だが今は当時の僕が羨ましく思うくらい簡単に、より多くの人に自分がオススメしたい楽曲のリストを共有することができる。

そのように誰でも簡単に音楽のプレイリストをシェアすることができる「ストリーミング時代のミュージックプラットフォーム」がCotoLab.の提供する「DIGLE」だ。音楽ストリーミングサービスと直結しているので、登録し自分で作ったプレイリストを投稿・公開することで他のユーザーから“いいね”やコメントを貰え、人気が出るとランキングに掲載される。

音楽好きが作ったプレイリストが沢山掲載されているので、今までに聴いたことがなかった新しい音楽に出会うにはもってこいの場だ。ジャンルもロックやポップ、アコースティックなど様々なものが作られている。

CotoLab.は現在の日本での音楽聴取の方法について「世界各国で定額制音楽ストリーミングサービスが普及しており、日本国内でも大物アーティストの楽曲配信が続々と解禁されるなど、ストリーミングは着実に影響力を増してきている」と説明している。同社いわく「ストリーミングでは“プレイリスト”での音楽の聴き方が浸透しており、影響力あるプレイリストを作成している”プレイリスター”が登場してきている」そうだ。そういった経緯から、「プレイリストが人々の音楽体験をより豊かに、楽しくできるものだと考え」プレイリストを軸としたサービスを展開することになったという。

CotoLab.の代表取締役 西村謙大氏いわく、ストリーミングサービスとは別にスマートスピーカーなどが普及し始め音楽の「BGMとしての利用」が増え「プレイリストでの音楽の聞き方がより一般的になる」という変化を見越してDIGLEの開発にいたったという。世界のストリーミングユーザーの半数強がアルバム単位でなくプレイリストで音楽を聴いていると指摘した上で「日本でもストリーミングのユーザーはどんどん増えている。今後(日本でも)そういう聴き方になっていくのでは」と話した。「そうなった時に、僕たちはサービスとメディアを通してそういった聴き方に合った情報の出し方をしたいと考えている」(西村氏)

DIGLEに加えてCotoLab.が展開し力を入れているのが「DIGLE MAGAZINE」というメディアだ。他の音楽メディアと違い「DIGLEがプレイリストに特化しているように、DIGLE MAGAZINEもプレイリストに特化している。面白いプレイリストを毎日1つ紹介する、ということをベースでやっている。埋め込みのプレイヤーがあるので、そのまま音楽にアクセスできる」と西村氏は説明した。DIGLE編集部が提供しているプレイリストの他にも、ネクストブレイクを狙う新進気鋭のアーティストたちが紹介されているなど、コンテンツも豊富だ。

そんなCotoLab.は9月20日、シードラウンドにて三菱UFJキャピタルや豊川竜也氏、その他個人投資家3名を引受先とする第三者割当増資、さらに日本政策金融公庫からの融資と合わせて総額4200万円の資金調達を実施したと発表した。

現在はSpotifyの音源に特化しているが、Apple Musicなどへ他のサブスクリプションサービスへの対応などを目指し開発を進めていくという。DIGLE MAGAZINEに関しても、コンテンツ量を増やしていく予定だ。

「今まではサービスに力を入れており、メディアにはそこまで力を入れていなかった。今回の調達をきっかけに、色んなライターさんに関わっていただいて質と量の両方を増やしていく予定だ」(西村氏)

「現状、サービスもメディアもウェブのみでの展開なので、将来的にはアプリ化したい」と西村氏は話していた。

テイラー・スウィフトとSpotifyが復縁――全楽曲が主要サービスで聞けるように

2014年の別れからしばらくが経ち、テイラー・スウィフトとSpotifyが再び手を結ぼうとしている。アルバム『1989』の販売枚数が1000万枚を突破し、個々の楽曲の販売数も合計1億曲に達したことを記念し、テイラー・スウィフトは、6月8日の深夜よりこれまでに発表された全音源が全ての音楽配信サービスで聞けるようになるとTwitter上で発表した

この発表以前にも、Apple Musicではテイラー・スウィフトの楽曲が配信されていたが、今回の決定によりSpotifyやAmazon Music Unlimited、Amazon Prime Music、Tidal、Pandora Premiumなどでも彼女の曲を聞けるようになる。業界筋によれば、Spotifyでは広告付きの無料プランと有料プランの両方が配信対象となる。

音楽配信サービスに抵抗しているアーティストの中でも特に名の通った彼女が方針を変更したことから、これまで制作者に十分な対価を支払っていないと批判されてきた音楽配信サービスに対するアーティストの見方が変わってきたのかもしれない。最近では、SpotifyとApple Musicの有料登録者数がそれぞれ5000万人と2700万人を超えたこともあり、アーティストの音楽配信サービスからの収益が増加し、物理的なメディアの売上の穴を埋め始めている。

テイラー・スウィフトは、無料プランでも彼女の曲が聞けることに納得できず、Spotifyとは2014年に決別した。当時彼女はTimeに対して「芸術作品は固有の価値があるものとして扱われるべきだと思っています」と語り、Spotifyと他社との違いについては「Beats MusicやRhapsodyでは、私のアルバムを聞くためには有料プランに加入しなければいけません。そのおかげで、私のつくったものに価値があると認識できるのです」と説明した。

テイラー・スウィフトとSpotifyが復縁。

その頃Spotifyは、ユーザーの混乱を避けるために、有料プランと無料プランで聞ける楽曲に差をつけないようにしていた。そのため、テイラー・スウィフトはほぼ全ての楽曲をSpotifyから引き上げることに(今年の4月、Spotifyは複数のレーベルと新たな契約を結び、無料プランでの売れ筋アルバムの配信を有料プランから2週間遅らせる代わりに、レーベルに支払われるロイヤルティーを下げることを決めた)。

しかし、同社に近い情報筋によれば、メディア各社がこの件を一斉に取り上げた結果、Spotifyの新規ユーザー数は急増したとのこと。「テイラー・スウィフトの曲以外ならSpotifyで全部無料で聞けるの?じゃあ登録しよ」という人がたくさんいたようだ。

その後彼女は、3か月間の無料トライアル期間中はアーティストへロイヤルティーを支払わないと決めたApple Musicと対立することに。当然ながらこの仕組みの下では、Appleのマーケティングのために、アーティストが不利益を被ることになるとテイラー・スウィフトは考えたのだ。最終的にAppleが折れ、トライアル期間中もアーティストにお金が支払われるようになった。また、Apple Musicは広告付きの無料プランを提供していなかったので、テイラー・スウィフトの楽曲を配信しているというのが彼らにとっての売りになった。

しかし最近アーティスト側も、基本的に音楽配信というのは、コンサートやグッズといった主要な収益源のための販促手段なのだということに気づき始めた。Spotifyで楽曲が配信されていれば、テイラー・スウィフトの曲をラジオでしか聞いたことがなかったという人が、コンサートチケットやTシャツにお金をかける熱心なファンへと変わっていく可能性がある。さらに音楽配信サービスの現在の成長率を考えると、ロイヤルティーの金額はこれから段々と全盛期のCDの売上に近づいていくだろう。

いずれにせよ、音楽配信サービスはなくならない。アーティストはこの仕組みを利用しなければ、ファン(既存・見込み共に)を失うだけだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter