アドビが「Experience Cloud」のカスタマージャーニー分析に新たな実験機能を追加

Adobe(アドビ)は米国時間3月15日、同社の「Experience Cloud(エクスペリエンス・クラウド)」製品群に含まれる、プラットフォーム全体で顧客を追跡するツール「Customer Journey Analytics(カスタマージャーニー分析)」に導入された多数の新機能を発表した。

新型コロナウイルス感染流行から、より多くのブランドとその顧客がオンラインショッピングへの移行を加速させる中、チャンネル(ウェブ、モバイル、店舗など)をまたいでユーザー体験を管理し、パーソナライズできるようにする必要性も高まっている。しかし、これらのデータをすべて追跡してダッシュボードにプロットすることと、その実用価値を高めることは、また別の話だ。

画像クレジット:Adobe

小さな変化でも、さまざまなプロパティをまたがってカスタマージャーニー全体にどのような影響を与えるかを、企業がより理解しやすくするために、アドビは企業が現実のシナリオをテストして、その結果を分析できる新しい実験機能の提供を開始した。例えば、モバイルアプリに変更を加えることによってコールセンターへの問い合わせが減少するかどうかを確認したり、ウェブサイトを変更するとモバイルアプリのダウンロードが増加するかどうかなどを確認することができる。これは基本的に、カスタマージャーニー全体を対象とするA/Bテストだが、さらに企業はこのデータを使って、個々のユーザーや大規模なユーザーセグメントに向けて、ユーザー体験を正確にパーソナライズできるという利点もある。

これらはすべて機械学習モデルによって行われるもので、膨大なデータセットから相関関係を容易に見つけ出すことができる。アドビによると、このアルゴリズムは「過去のデータ、比較可能なキャンペーン、進行中のベンチマークなど」を参照するということだ。

「現在、人々はしばしばデジタルを使って、以前にはやらなかったかもしれないようなことを始めています。彼らは1つの結果を得るために、複数のデバイスを通じて複数のチャネルに関与しているのです」と、Adobe Analytics(アドビ・アナリティクス)のプロダクトマーケティング担当ディレクターを務めるNate Smith(ネイト・スミス)氏は筆者に語った。「このことは、生涯価値と顧客保持に力を入れる多くのブランドにとって、オムニチャネル分析の優先順位を押し上げることになりました。問題になっているのは、そのような分析を行っている方法です」。

スミス氏は、従来のアプローチ、すなわちデータウェアハウスやデータレイクへのデータパイプラインとか、SQLレイヤーとその上の可視化ツールといったやり方では、一見シンプルだがコード化するのが難しい質問に対する迅速な答えを関係者が必要としている環境では、あまりにも複雑で効率が悪いと主張する。

「私たちのカスタマージャーニー分析では、Adobe Experience Platform(アドビ・エクスペリエンス・プラットフォーム)に用意されている多くの専用コンポーネントを利用できます。このプラットフォームは、当社がこの分野で買収した企業がネイティブに接続できるように、この数年間で完全にネイティブに構築されています」と、スミス氏は語る。「他の多くのベンダーが、マーケティング・クラウド・ポートフォリオを構築するために大規模な買収を行っていますが、当社はそのためのプラットフォームを実際に開発しました。なぜなら、これらをすべて機能させるためのダクトテープや針金は、ある時点でなくなってしまうからです」。

このカスタムプラットフォームがあるからこそ、新たな実験機能にチームはデータを送り込むことができる。スミス氏が指摘するように、これは開発者が既存のあらゆるツールを使って、これらのテストを構築できることも意味する。

アドビはまた、カスタマージャーニー分析が持つ顧客セグメントの発見機能と「Customer Data Platform(カスタマーデータプラットフォーム、CDP)」との間の新たな統合も構築した。「カスタマージャーニー分析で発見したオーディエンスをCDPで実際に共有し、どのシステムでもそれに対するアクションを起こすことができます」と、スミス氏は説明する。「私たちにとって、インサイトを発見するだけでなく、インサイトを最終的に活性化できるというのが、本当にエキサイティングな瞬間なのです」。

画像クレジット:David Paul Morris/Bloomberg / Getty Images

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

Adobe、パーソナライゼーションに注力してExperience Cloudをアップデート

Experience Cloud(エクスペリエンス・クラウド)は、Adobe(アドビ)のデジタルエクスペリエンスソリューションのための包括的なブランドだ。含まれる代表的な機能は、データと分析サービス、コンテンツ管理ツール、コマースプラットフォーム、そして2020年のWorkfront(ワークフロント)の買収によって取り込まれた、完全なマーケティングワークフロー管理サービスなどだ。Experience Cloudブランドは、同社の2017 Digital Marketing Summit(デジタル・マーケティング・サミット2017)でデビューした。このイベントは現在Adobe Summit(アドビ・サミット)と呼ばれていて、ちょうどCreative Cloud(クリエイティブ・クラウド)を中心とするAdobe MAXカンファレンスを、Experience Cloudを中心にしたものに相当すると考えることができる。米国時間3月15日、同社は2022年の(仮想)カンファレンスで同社のデジタルエクスペリエンスプラットフォームの新製品やアップデートを多数発表したことは驚きではない。

今回の発表の焦点は、ブランドとそのために働く開発者たちが、よりパーソナライズされた体験を構築し、Experience Cloud内の異なるサービス間のより深い統合を提供することを助ける新しいツールを提供すること、そして長年要望されていたAdobeのCreative Cloudとの統合も提供することだ。

Adobeの戦略・製品担当副社長であるLoni Stark(ロニ・スターク)氏は「私たちがお手伝いする企業は、その顧客によりパーソナライズされた体験を提供する必要があり、このデジタル経済で成功するためのツールを従業員に提供する必要があると考えています」と語る。「コンテンツとコマースに関する革新において私たちが焦点を合わせているのは、ショッピングとコマース体験をパーソナライズするための機能を提供して、顧客体験を開発する組織内のすべての人が、それを行うために必要な最も豊かな資産と洞察を得ることができるようにすることです。私たちの強みは、最高の技術を提供する一方で、開発者が想像するものを構築することを可能にできることであることを認識しながら、私たち消費者が恩恵を受けることができる、より大きなビジネス成長とエキサイティングな体験を推進する手助けができることです」。

とはいえ、おそらく今回の発表会の目玉は、新しいAdobe App Builder for Commerce(アドビ・アップ・ビルダー・フォー・コマース)かもしれない。Adobeは、これを使って、クラウドネイティブのコンテンツおよびコマースアプリケーションを構築するためのツールを開発者に提供する。これは、開発者が一連の開発者用ツールとSDKを通じて、Adobeのコマースソリューションの機能を拡張することを支援するというものだ。これによって、開発者は新しいユーザー体験だけでなく、企業のITスタックの残りの部分との統合を行うためのマイクロサービスも構築することができる。これは2021年末にローンチされたApp Builder for Experience Manager(アップ・ビルダー・フォー・エクスペリエンス・マネージャー)プラットフォームを補完するものだ。

「開発者がExperience Cloudにアプローチする際に、構築のために多すぎるツールを持たせないようにしたいのです。APIゲートウェイで統一されたエクスペリエンスを提供する必要があります」とスターク氏はいう。このApp Builderによって、開発者はより簡単にユニークなストアを構築したり、既存のeコマースツールを拡張してストア内での選択を可能にしたりすることができると指摘した。

画像クレジット:Adobe

統合機能としては、同社のマーケティングワークフロー管理サービスAdobe Workfront(アドビ・ワークフロント)」が、マーケターによるオムニチャネルキャンペーンの管理・分析を支援するJourney Optimizer(ジャーニー・オプティマイザー)と連携するようになった。また、企業内のより多くの従業員がキャンペーンや体験の構築に積極的な役割を果たすようになる中で、同社はCreative Cloudとのより深いつながりを構築して、組織間のサイロを打破し、Adobe Experience Manager Assets(アドビ・エクスペリエンス・マネージャー・アセット) とAssets Essentials(アセット・エッセンシャル)サービス内にあるCreative Cloudライブラリのコンテンツへのアクセスをより多くのユーザーに提供するようになる。

ここでのアイデアは、同社が「エクスペリエンス・フラグメント」と呼ぶものを構築することだとスターク氏は指摘する。これは基本的に企業のコンテンツライブラリを構成する最小単位のことで、これをさまざまなチャネルで再利用することで、ユーザー自身の好みや使用しているプラットフォームに基づいて高度にパーソナライズされたコンテンツを提供することができる。

画像クレジット:Adobe

パーソナライズ化への注力の一環として、Adobeは本日(米国時間3月15日)、B2CやB2Bブランドが顧客行動や製品売上、人気トレンドに基づいてより良いレコメンデーションを提供できるようにする、AI主導の新しい製品レコメンデーション機能をAdobe Commerce(アドビ・コマース)内に組み込んだことも発表した。同社は、この新製品をすでに試用している企業では、受注額が25%以上増加したと主張している。同様に、Adobe Sensei AI(アドビ・センセイAI)プラットフォームを採用した同社の新しいLive Search(ライブ・サーチ)機能は、コンシューマーブランドに、より高速でよりパーソナライズされ、より適切な検索結果を提供するのに役立つ(検索結果がしばしば笑ってしまうほどナンセンスなAmazon[アマゾン]も、おそらくこれを試した方がよいだろう)。

画像クレジット:halbergman / Getty Images

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:sako)

Adobeは新しいシンプルなデジタル資産管理ツールをローンチ

Adobe(アドビ)は米国時間4月27日、新しい資産管理ツールAdobe Manager Essentials(マネージャー・エッセンシャルズ)のローンチを発表した。舌を噛みそうな名前だが、Adobeに言いやすい名前を考える気があったのか否かは別として、そもそもこれは膨大なデジタル資産を利用するチームに、現行のAdobeの企業向け資産管理ツールよりも簡単な、Adobe Experience Cloud(エクスペリエンス・クラウド)の使い勝手を提供しようというアイデアから生まれている。

またAdobeは、この新しいエクスペリエンスを統合した最初のツールもローンチした。Adobe Journey Optimizer(ジャーニー・オプティマイザー)だ。この新ツールは、顧客データからカスタマージャーニーを構築し、それに沿ってメッセージやコンテンツを提供するための最善の方法を探す手助けをするというものだ。

「この取り組みは、デジタルコンテンツとその豊かで魅力的なエクスペリエンスの構築に向けたものであり、顧客が望んでいたものです」と、Adobeの戦略および製品マーケティング・ディレクターのElliot Sedegah(エリオット・セデガ)氏は私に話した。「ほぼすべてのインタラクションにおいて、人は豊かなエクスペリエンスを期待します。それは単に画像や動画など豊かな素材を手に入れた時点のみならず、顧客とインタラクションするあらゆる時点においても求められます。そこを重視することで、顧客の側も単にブランドとインタラクションするというより、それをカスタマージャーニーとして感じ取れるようになります。同じコンテンツを、アウェアネスからコンバージョン、さらにはポストセールスやロイヤリティまで使う。人は同じストーリーが続いて欲しいと願うのです。しかし、すべてのタッチポイントでそれを行うのは、次第に困難になってきています」。

画像クレジット:Adobe

同等の製品もあるが、要は、コンテンツのクリエイターとそれを使用するチームのための中央集中型の協働的スペースを築こうということだ。その点で言えば、この新しいツールは、他社が提供する共有オンラインファイルの管理サービスとそう大きく変わるものではない。だがAdobeは、そこにいくつか独自の能力を盛り込んだ。例えば資産の分類とタグづけを支援するAIとAdobe Sensei(センセイ)プラットフォームの導入だ。それにより検索がうんと楽になる。またこの新ツールには、Adobe Asset Link(アセット・リンク)が統合され、プロのコンテンツクリエイターは、資産の検索、内容確認、さらには作業の流れを変えることなく、Photoshop、Illustrator、InDesign、XDでダイレクトに編集することができる。

セデガ氏が指摘していたとおり、少し前までは、コンテンツ制作とその管理作業に携わっていたのは、ほとんどが制作部門とマーケティング部門だけだった。しかし今では、そこにセールスやマーケティングなどの担当者も含まれるようになり、その傾向はパンデミックでさらに加速された。

画像クレジット:Adobe

「私たちの顧客は、ビジネスモデルの再考と、顧客との関わり合い方の再考を迫られてきました。そして基本的にそれが、あらゆる場面での顧客体験のデジタル化を早め、顧客はますます企業にスピード感を求めるようになり、そのコンテンツを活用する人や仕事の数も増えました」。

そのため、これまでのAdobeの企業向け資産管理ツールはよくできてはいたのだが、ユーザーからクリエイティブツールとの相性を良くして欲しいとの要望があり、同社は資産管理技術を、より多くの人が、さらに簡単に使えるものに作り変えた。

この新しい資産管理エクスペリエンスに直接統合された最初のツールが、Journey Optimizerだった。「これは、顧客が提供したかったユーザーエクスペリエンスについて、そしてそれを簡便化することについて、再考するよい機会となりました」とセデガ氏。「コンテンツジャーニーを構築するとき、または顧客がブランドにエンゲージするときに送られるようなコンテンツをデザインするとき、デジタル資産がクリエイターの目の前に現れて、利用できるようになります」。

次に統合されるのが、2020年にAdobeが買収した作業管理プラットフォームWorkfront(ワークフロント)だ。Adobeの資産管理技術とWorkfrontの計画の管理、プロジェクトの各工程の審査と承認、同様の資産管理システムとの間には、明らかに相乗効果がある。

だがAdobeは、このエクスペリエンスをすべてのExperience Cloudアプリケーションに統合する長期戦略を立てている。

関連記事:Adobeがマーケティングワークフロー管理のWorkfrontを約1600億円で買収

カテゴリー:ソフトウェア
タグ:AdobeAdobe Experience CloudAdobe Manager Essentials

画像クレジット:Karen Blumberg (flickr.com/specialkrb) / Getty Images

原文へ

(文:Frederic Lardinois、翻訳:金井哲夫)