フォードとVWが出資する自動運転スタートアップArgo AIの評価額は7830億円

自動運転車両技術のスタートアップであるArgo AI(アルゴAI)の企業価値が75億ドル(約7830億円)と評価された。Ford(フォード)から10億ドル(約1043億円)の投資を受けて世間の注目を集めてからまだ3年とちょっとである。

VW(フォルクスワーゲン)グループがArgo AIにに26億ドル(約2713億円)を投資してから、約2カ月後の7月30日にこの公式評価額が発表された。先の投資によって、フォードとVWは同等の所有権を持つこととなり、それぞれおよそ40%となる。残りの株式はArgoの共同創業者と従業員が保有している。またArgoの取締役会は、VWからの2名、フォードからの2名、Argoからの3名で構成されている。

2017年2月にフォードが発表したArgo AIへの投資は多くの人たちを驚かせた。このスタートアップが脚光を浴びたのは、創業からわずか6カ月のときだったからだ。創業者のBryan Salesky(ブライアン・サレスキー)氏とPeter Rander(ピーター・ランダー)氏は、緊密でしばしば重なり合う部分も多い自動運転業界では知られた存在だった。

Argoを創業する前、サレスキー氏はGoogle(グーグル)の自動運転プロジェクト(現Waymo)でハードウェア開発の責任者を務めた人物であり、ランダー氏はUber Advanced Technologies Groupでエンジニアリングリーダーを務めていた。しかし、サレスキー氏とランダー氏を知っている関係者でさえ、当時その取引をどう考えるべきかに頭を悩ませていた。

それ以来Argoは、センサー、ソフトウェア、コンピューティングプラットフォームなどの仮想ドライバーシステム、およびフォードの自動運転車用に設計された高解像度マップの開発に注力してきた。

そのミッションは現在、VWグループにも入り込んでいる。FordとVWは、契約条件に基づいて、Argo AIの自動運転車両技術の開発コストを分担している。ピッツバーグに拠点を置くArgo AIは、デトロイト、パロアルト、ニュージャージー州クランベリーにもオフィスを構え、オースティン、マイアミ、ピッツバーグ、ワシントンDCの公道上で自動運転車両のマッピングとテストを行っている。

VWによる投資は、その要員と事業をヨーロッパに拡大する。 2017年にVWグループの自動運転技術を開発するために立ち上げられた、自動運転子会社であるAutonomous Intelligent Driving(Foutune記事)は、Argo AIに吸収される。Autonomous Intelligent Drivingのミュンヘン事務所は、Argoのヨーロッパ本部になる予定だ。全体で、Argo AIの従業員数は現在1000人を超えている。

自動運転車の開発と配備は長い道のりになるだろうと、7月30日にフォードのCEOであるJim Hackett(ジム・ハケット)氏は発言したが、Argo AIへの投資はすでにFordに対して短期的でタイムリーな利益をもたらしている。

フォードは7月30日に、Argo AIの株式をVWに売ることによって第2四半期に35億ドル(約3650億円)を手にしたと発表した。この売却によって、同社は第2四半期に一時的な収益の増加を見ることになった。

Argo AIの取引を含んだフォードの第2四半期の利益は、11億ドル(約1147億円)と計上されている。同社は利息と税金と一時金を算入する前の段階では、同四半期に19億ドルの損失を出していたのだ。新型コロナウイルス蔓延のために工場が何週間も閉鎖されたフォードは、2019年の同時期に比べて売上が半減し計194億ドル(約2兆246億円)と報告されている。

だが結果がはるかに悪いものになった可能性もあった。すでにフォードは第2四半期に50億ドル(約5215億円)もの純損失が発生する可能性があることを警告していたのだ。

こうしたコロナ禍の逆風にもかかわらず、ハケット氏はフォードはまだAVの長期的な追求に取り組んでいると語った。CFOのTim Stone(ティム・ストーン)氏もその点を繰り返し「同社は商品開発、エンジニアリング、テストなどの自動運転車事業の商用化に向けた投資を続ける」と語った。

「自動運転車の旅は長いものになるでしょう、しかしフォードはほとんどライバルがいないような位置を占めつつ、この競争に臨むことができるのです」とハケット氏は付け加えた。

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(翻訳:sako)

自動運転車と2足歩行ロボがタッグを組んで配達するフォードの近未来構想

自動運転車は、混み合った街の通りを走り抜け、食料品、ピザ、その他の荷物を、やがて人間が運転しなくても配達できるようになるかもしれない。しかし、それだけでは、フォード自動車のCTO、Ken Washington氏が言う「最後の50フィート(約15m)の問題」を解決できない。

フォードと、スタートアップのAgility Roboticsが共同で取り組む研究プロジェクトでは、2足歩行ロボットと自動運転車を連携させて、道路からドアまでの問題に対処する方法を検討する。このプロジェクに採用されたのは、頭の部分にライダー(Lidar)を取り付けた2足歩行ロボットであるAgilityのDigitだ。このロボットは、40ポンド(約18kg)までの荷物を持ち上げることができる。荷物と一緒に自動運転車に乗って移動し、配達先で車を降りて荷物を運ぶ。

「私たちは、利用する人の視点で自動運転車の可能性を検討しています。初期の実験で、最後の50フィートに課題があることはわかっていました」と、Washington氏はTechCrunchの最近のインタビューで語った。その解決策を見つけることは、2021年からの運用を計画しているフォードの商用ロボタクシーを差別化するための重要な要素となる。

Digitと、フォードの自動運転車の間のコミュニケーションが、おそらくこの研究プロジェクトの中でも最も感動的な部分だろう。下に示したGIFのように、車が目的地に到着すると、フォードのワゴン車、Transitのハッチが開く。Digitは手足を伸ばしてそこから降り、荷物を持ち上げてドアまで歩くのだ。

Digitはライダーとステレオカメラを装備している。基本的な動作には、それで十分だろう。

興味深い話はまだ続く。自動運転車も、各種の強力なセンサー類と複雑な意思決定能力を持ったコンピュータを備えている。そして、Digitが歩き出す前からデータの共有を始める。それによってDigitは、「目覚め」た時点ですでに今どこにいるのかを理解できている。そして、万一Digitが問題に遭遇したら待機中の自動運転車と通信して、より優れた知見に基付いた判断を仰ぐのだ。

これによって、AgilityのCEOであるDamion Shelton氏が「ロボットの古典的な弱点」としている問題を解決できる。つまり、スリープ状態から目覚めたときに、自分が今どこにいるのかわからないということがないようにする。

「もし、周囲を完全に見渡せるような状態で、走り回っている車に乗っていれば、起き上がって歩き始めるのもずっと簡単です」と、Shelton氏は説明する。「しかしそうはできないので、このデータ通信によってロボットが周囲を認識できるようにするのです。ロボットが目覚めて車から降りてから、最初の30秒間は混乱している、というようなことが起こることはありません」。

Washington氏によれば、車からドアまでの問題を解決するためにフォードが実験している手段は、AgilityのDigitだけではないという。しかし、2本足のロボットには、それなりのメリットがあることは、Washington氏も認めている。たとえば歩道の溝をまたいだり、階段を歩いて登る能力を持っていることだ。そのあたりは車輪式ロボットの弱点となりうる。

フォードとAgilityの合意は、今のところ研究プロジェクトに分類されるもの。フォードは、まだAgilityに株式出資をしていない。しかしWashington氏は、「しかるべき時に、そのような選択をしないというわけではない」と付け加えた。

Agilityにとって、このプロジェクトは新しいビジネスの転換点、というよりもむしろ、それを加速させるものだ。このロボット工学のスタートアップは、2015年後半にオレゴン州立大学からスピンアウトしてできた会社。同大学のDynamic Robotics Laboratoryによる2足歩行の研究成果を商業化することを目的としている。2017年には、ダチョウを模して設計されたCassieロボットを、2足歩行の研究プラットフォームとして発表した。Digitは、Cassieに上半身、腕、センサー類、そしてより強力なコンピュータを付加したもので2019年2月に発表した。

Agilityには20人の従業員がいて、そのうち約半数がロボットの製作に携わっている。同社は、シードラウンドとシリーズAラウンドによって、880万ドル(約9億7000万円)近くの資金を調達した。さらに今、この新たなパートナーシップを念頭に業務を拡張するため、新たなラウンドによる資金調達をもくろんでいる。

Agilityのオフィスは、米オレゴン州アルバニーとピッツバーグにある。同社は、これまでに第1世代のDigitロボットを2体作っている。夏までには第2世代のDigitを発表することを計画している。Shelton氏によれば、この2足歩行ロボットの最終型となる3世代目のDigitも、夏から秋にかけて登場する可能性があるという。

Agilityは、このDigitの最終バージョンを6体製作するつもりだ。そこからは、月に2体という安定したペースでDigitsを製造できるとShelton氏は見積もっている。最終的にAgilityは、2021年までに50体から100体を製造できるペースをつかむことになる。

これらの研究と実験は、すべて商用のロボタクシーサービスを立ち上げるというフォードの最終的な目標の一部だ。そして、例の最後の50フィートは、自動運転車を利益の生み出せる事業に育てるためにには、どうしても避けて通ることのできない課題なのだ。その目標を実現するための準備として、フォードでは2つの仕事を並行して走らせている。1つは、自動運転車の事業を運営する手法について、テストしながら磨きをかけること。もう1つは、それとは独立に、子会社のArgo AIを使って自動運転車の技術を開発することだ。

Argo AIは、ピッツバーグを拠点とする会社で、フォードは2017年に10億ドル(約1100億円)を投資した。フォードの自動運転車用に設計された仮想運転者システムと、高精度のマップを開発している。その一方で、フォードは地元の企業だけでなく、ウォルマートドミノ・ピザ、Postmatesといった大企業のパートナーを手を組んだパイロットプログラムによって、市場進出戦略を試行している。

フォードは、自動運転車のビジネスを構築することに専念したLLCに対して、2023年までに40億ドル(約4400億円)をつぎ込む覚悟だ。その40億ドルのうちの10億ドル(約1100億円)が、スタートアップArgo AIへの出資として計上されている。

フォードは、現在デトロイト、マイアミ、ピッツバーグ、およびワシントンDCでテストしていて、オースティンにも拡大する準備ができている。

画像クレジット:フォード提供/写真=Tim LaBarge 2019

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(翻訳:Fumihiko Shibata)