自己資金で創業した企業にみられる特徴の1つが、VCの支援を受けた競合相手より成長スピードが遅いことだ。外部から支援を受けずに行うマーケティングの費用は売上高に頼っていて、売上高は往々にしてマーケティングでの支出に頼っている。この2つの要素の微妙な関係は成長スピードを緩やかにする。それに比べ、VCの支援を受けた企業は売上をあげる前に資金を注入でき、これにより成長スピードを早めることができる。
byte(バイト)は自己資金でもっと早く成長できる方法を見つけ出した。2017年に設立され、2019年初めにプロダクトを立ち上げた同社は、会長のNeeraj Gunsagar(ニーラジ・ガンサガー)氏によると、売上高のランレートが2020年第2四半期に1億ドル(約108億円)に達する勢いだ。
同社は創業は初めてという人が自己資金で興したスタートアップではない。byteはシリアルアントレプレナーのScott Cohen(スコット・コーエン)氏とBlake Johnson(ブレーク・ジョンソン)氏によって設立された。コーエン氏は2011年に初めての会社を設立し(2016年にDeluxe Corporationに買収された)、ジョンソン氏とともに立ち上げたコーエン氏の2つめの会社Currencyは未公開会社に2019年に売却された。
そしてコーエン氏とジョンソン氏は、byteを次のステージへと成長させ、国際展開と次のプロダクトの展開に備えるために、TrueCarの元CMOで同社で8年過ごしたガンサガー氏に助けを求めた。
しかし話を戻そう。byteは目立たない歯列矯正装置を扱っていて、InvisalignやSmileDirectClubといった大手、そしてCandidのような小規模の在宅歯列矯正のスタートアップが競っている業界に参入した。しかしそうした競合相手とbyteの間には大きな違いがある。
まず、テクノロジーだ。治療プランには歯型を取るキット、目立たない矯正装置そしてHyperbyteと呼ばれるデバイスが含まれる。Hyperbyteは、歯列矯正をスピードアップするために、高頻度振動(HFV)で歯の根やその周辺の骨に微小パルスを送る口の中で使用するデバイスだ。
HFV治療はFDA(米食品医薬品局)に承認されており、歯科矯正医のクリニックで提供されている。しかし通常かなり高額になる。
Hyperbyteは、byteのサービスに含まれていて、サービス代金は1895ドル(約20万4000円)だ。bytePayという支払いプランも用意されていて、この場合、月々83ドル(約8900円)を2年ちょっと払う。一括払いの方が349ドル(約3万7600円)安い。同社はまた、歯列矯正と併せて使用できるホワイトニングのソリューションもパッケージに含めている。
byteのすべての治療プランは、医師免許を持っている歯科矯正医がレビューする。そして顧客は治療期間中に臨床面で何か問題があれば歯科矯正医または歯科医に相談できる。また、咬合治療に保険を適用できる場合もある。
別の表現をすると、byteは歯列矯正治療にかかるコストと時間を軽減するものだ。重要なことには、byteは軽度の咬合異常、そして少しの隙間やわずかな歪みといったさほどひどくはない歯並び、過蓋咬合のような複雑ではない問題を専門としている。
最も興味深いのは、byteが2020年第1四半期に爆発的な成長を見せたことだ。2020年1〜3月の売上高は前年同期の10倍だった。そして第2四半期も10倍成長の勢いを持続しているという。byteはまたTechCrunchに対して、新型コロナウイルス(COVID-19)前のEBITDAは良好だった、と述べた(すべての非公開企業にいえることだが、そうした数字はbyteのものでありTechCrunchは確認していない)。
利益がbyteの財政状態を改善している。最初の歯型取りキットにたどり着くまでの顧客獲得コスト(CAC)は、2019年末に平均189ドル(約2万円)だったが、2020年4月末までに88ドル(約9500円)に下がった。
CACの急激な低下にはいくつかの要因が絡んでいる。ガンサガー氏によると、Googleキーワードの価格は新型コロナウイルスパンデミックの最中に大幅に下がり、直接そしてオーガニックのトラフィックが倍に増えた。これはおそらく新型コロナパンデミックで自己磨きへの関心が高まったためだ。
高まる自己磨きの潮流に乗った企業はbyteだけではない。「自己磨きへの関心、この期間を有効活用しようというトレンドがある」とRakuten IntelligenceでマーケティングSVPを務めているJaimee Minney(ジャイミー・ミニー)氏はCNBCに語った。「本の売上が増えている。ゲームやパズル、そして健康・美容部門の売上も同様に伸び始めている。特に2019年と比較するとそうだ。私が今後注意を向けるのは自己磨きのものだ」。
これまでは、こうした状況で会社の成長を加速させるために他の企業はマーケティングにより資金を投じていた、とガンサガー氏は説明した。
「我々は事業拡大に伴って、顧客体験も収益性も犠牲にしない」とガンサガー氏は話した。「我々はシステムを通じてあまりにも多くの歯型取りキットを展開したくない。何故なら、テクノロジーと体験の点でしっかりとサポートできることを確かなものにしたいからだ。我々が投じる資金はすべてかなりの収益を生んでいる。さらに資金を投入しても目標とするCAC150ドル(約1万6000円)は下回っていて、今年の売上高は1億ドルを超える。しかし我々のNPS(ネットプロモータースコア)や顧客満足度がひどいものにならないはず、とすごく自信があるわけではない」
用心深い成長戦略を描く中で、ガンサガー氏とbyteは幅広いテックエコシステムを漠然と眺めているわけではない。成長のためにあらゆる犠牲を払い、結局失敗に終わったテック企業を我々は目の当たりにしてきた。歯列矯正の分野でもそうした例はある。例えばSmileDirectClubは2019年9月のIPO前にすばらしい成長を達成したが、返金と引き換えにNDAを求められたという顧客から批判を浴びた。
byteのもう1つの重要な戦略は、今後立ち上げられる歯科医や歯列矯正医とつながることができるbyteProだ。ヘルスケア専門家を切り離すのではなく、ともに成長しようという考えに基づいている。
2020年6月から展開されるbyteProでは、歯科医や歯列矯正医はbyteのプロセスにこれまで以上に関わることになる。これからサービスの利用を始めるクライアントは、byteの歯列矯正プロセスに関わって欲しいとかかりつけの歯科医や歯列矯正医に依頼できる。またオンラインで注文しなくても歯型取りインプレッションキットをかかりつけ医のクリニックで入手することすらできる。一方で、歯科医や歯列矯正医はbyteProネットワークに加入して新規患者とマッチングしてもらえる。さらにbyteを購入した人が年間を通じてこれまでよりもクリーニングや他の治療など歯のことを気に掛けるようになる、とbyteは話す。笑顔をすてきなものにするために投資した人に、いい歯科医や歯列矯正医を引き合わせることをbyteは目的としている。
byteはVCの支援は受けていないが、女優で投資家のKerry Washington(ケリー・ワシントン)氏から小額の資金を受けている。ワシントン氏はThe WingとCommunityにも投資していて、byteではクリエイティブ・ディレクターを務める。
「ポートフォリオを引き続き増やすための方法を探していたとき、自分自身が関わることを誇りに思えるような企業にフォーカスしていた。誇りに思えることとは、プロダクトの質と人々の暮らしの質をいかに向上させるかというものだ」とワシントン氏は述べている。「声を上げられることは本当に重要だ。byteに関しては『もし口を開けられらないのなら、声を出すことはできない』といってきた。そして顧客から話を聞くとき、人々は笑ったり話したりすることを恐れる。私はbyteが多くの点で人々の暮らしをいい方向へと変えられるツールだと認識した」。
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(翻訳:Mizoguchi)