ファイナンスプラットフォーム提供の「エメラダ」がシードラウンドで2億円を調達

ファイナンスプラットフォームの提供を計画しているFintechスタートアップ「エメラダ」がシードラウンドで2億円の資金調達を実施したことをTechCrunch Japanへの取材で明らかにした。この投資ラウンドをリードしたのはD4V(Design for Ventures)で、大手金融機関、金融業界関係者など個人投資家なども含まれるという。

2017年中にエクイティーとデットで2つのサービスを目指す

エメラダは2017年中にエクイティーとデットで2つのサービスのローンチを目指している。

1つはエクイティー(株式)によるファイナンスプラットフォーム。スタートアップ企業と個人投資家を結び、1件あたり数千万円の資金調達のマッチングを行うもの。もう1つのサービスは機関投資家を対象にしたP2Pによるデットファイナンス(借入)のプラットフォーム。いずれのサービスも2017年中のサービスインに向けて準備中だという。

TechCrunch読者なら「日本版AngelList」と言えば分かりやすいかもしれない。ただ、多数の個人投資家に生株を渡してしまうと株主にしても投資を受ける企業にしても、株主総会の対応などが頻繁に生じるため現実的な仕組みとして回らない。この辺りのスキームは現在の金融商品取引法および会社法の枠内でできる方策を当局と議論中という。シードより少し後のステージのスタートアップの資金調達を扱い、1口あたりの投資額は50万円となる可能性が高いという。取扱対象となるスタートアップ企業は、IPOやM&Aなど明確にエグジットを意識している企業で、「ある程度セレクティブなものになるだろう」(エメラダ澤村帝我CEO)という。スタートアップの資金調達需要のどの辺りを取り込むのかという質問に対しては、「シリコンバレーでAngelListFundersClubが活用されているように、大きな調達ラウンドにジョインするだけではなく、ブリッジファイナンスをまかなうなどシリーズAクランチの回避を仕組みでサポートしたい」としている。こうした調達プラットフォームがもし普及すれば、ハンズオンVCを補完するプラットフォームとして機能していくことになるだろう。

もう1つのデットによるP2Pファイナンスは、従来からあるソーシャルレンディングとは異なるものになると澤村氏は言う。「金融機関出身の人間としては本丸はそこではない思っています。機関投資家が貸出しているところを早く簡単にできるようにするのが狙いです。(ソーシャルレンディングのような借り手の)匿名性よりも、むしろ見える化したい。リスク・リターンの情報開示をしっかりやって機関投資家を相手にビジネスにしていく」(エメラダ澤村CEO)。

大切なのは「プロのお金」が還流すること

「P2P」とか「プラットフォーム」という言葉を聞くと、個人を含む多くのプレイヤーが参加可能なものを想起する人もいるだろう。ぼくは「民主化」というキーワードを思い浮かべた。ただ、エメラダは民主化ということに力点を置いていないそうだ。実際、先行する英米のサービスには、Funding CircleLendingClubなど色々あるが、澤村氏によれば、これらのプラットフォームでも機関投資家からの資金が大半というところが増えているのが現状だそうだ。また、個人をプラットフォームに載せようと考えると「ユーザー獲得単価(CPA)が高くなる」、「一定規模になるとスケールが難しい」、「コンプライアンス・リスクがある」(個人を対象にする以上は機関投資家相手以上にシッカリした情報開示が必要)などといったこと難しさもある。

「長い目でみれば個人がお金を動かす時代が来るかもしれません。ただ、アメリカですら(資金調達プラットフォームが)機関投資家へシフトしていることを考えると楽観的に考えても日本では、これは20年はかかる話。それよりも、事業者に対して最適な形で資金還流がなされることが大切。経済にとっては流れるべきところに適切な方法で流れていないのが課題なので、大事なのはプロのお金。われわれは融資先の発掘、選別、リスク評価の機能を充実させて既存の金融機関を支援します。審査モデルとシステム構築の方向性については、金融機関の融資企画や審査部門で経験が長い専門家などと協議をしながら決めています」(エメラダ澤村CEO)。

低金利時代に多くの営業員を抱えて収益を圧迫される金融機関に対して、テクノロジーを活用した案件発掘や審査の機能をオンラインで提供し、そこに対して投資家として既存金融機関にも入ってもらう、というのが狙いだそうだ。

エメラダの潜在利用ユーザーの企業に対しては、事業の中身も含めて資金に関する悩みや課題を解決するという意味で、これまで銀行、税理士・会計士、証券会社とバラバラに行く必要がる現状に対して、ワンストップとなるような「ファイナンスのアマゾン」を長期的には目指したい、と澤村CEOは話している。

澤村CEOは慶應義塾大学出身で、エメラダ創業前は野村證券、ゴールドマン・サックス証券の投資銀行部門で企業買収や資金調達の助言業務に携わっていたそうだ。現在エメラダのマネジメントチームは同じくゴールドマン・サックス出身のメンバーのほかに、ソニーでPS VRの開発をしていたエンジニアなどが参画している。

ついにメガバンクが「更新系API」を提供開始、マネーフォワードが経費精算振込で連携一番乗り

家計簿アプリや法人向けクラウド会計を提供するマネーフォワードが「更新系API」と呼ばれる枠組みを使ってメガバンクの振り込みを外部サービスから行う機能を実装したことを発表した。

具体的には、みずほ銀行、三井住友銀行、住信SBIネット銀行の3行に対して、マネーフォワードが提供する「MFクラウド経費」から振込処理を完結する機能。これまでにもMFクラウド経費における経費精算のワークフローでは振込をまとめて指示するCSV形式の「電子オーダー」を作成し、これをネットバンキング側に手動でアップロードすることはできた。ここがAPI連携してリアルタイム化した形だ。経費精算の振込からスタートするAPI連携だが、2017年中にも法人間の買掛金振込にも対応していく計画という。

今回のAPI連携はネット系サービスの人なら「OAuth 2.0」を使った普通のAPIと言えばお分かりいただけると思う。ネットバンキングのIDやパスワードをマネーフォワード側に渡すことなく、ユーザーの明示的な許可アクション(OAuth用語では認可と呼ぶ。以下の画面)により、マネーフォワードはユーザーに代わって口座情報にアクセスができるようになる。ただ、これまで大手銀行が外部に開放してきたAPIは、口座残高を外部から調べるといった「参照系」だけに機能が限られていた。セキュリティー要件のハードルが上がることなどから踏み切れていなかった更新系APIが新たに開放された形だ。

MFクラウド会計と住信SBIネット銀行の連携の設定画面。FacebookやGoogleのアカウントを使ったログイン(認可)では見慣れた画面かもしない

2018年春にも施行される改正銀行法(概要PDF)で利用者保護の法的枠組みや、登録制度といった「お墨付き」が付くことで、さらにFintech企業と既存銀行の連携は加速することになりそうだ。すでに、MUFGも3月6日にはAPI開放を発表していて、クラウド会計のfreeeやOBCなどが連携する可能性のあるサービス事業者として名前が挙がっている。

マネーフォワード取締役の瀧俊雄氏によれば、これだけ大きな銀行においてサードパーティーのクラウド経由で経費精算ができる国は、Fintech先進国と言われるイギリスを含めて日本以外にないのだそうだ。更新系APIの利用により振込手数料が銀行側にとっても売上となるため、関係者の理解が得られやすかったということや、監督官庁と産業界が歩調を合わせたときには物事の展開が速いという日本社会の特性が背景にあるのでは、という。

API連携が意味するもの

銀行のもつ口座が「開かれた口座」になれば、その周辺に多くのサービスが出てくることが予想される。そして、その先にはさらに大きな変化が待っているのかもしれない。

マネーフォワード取締役の瀧俊雄氏

API連携でプロトコルが標準化されると、サービス間の結合度合いは下がる。このことは組み合わせの自由度があがることを意味している。企業にとって「メインバンクがいつでも簡単に変えられる」というようにポータビリティーが高まれば、銀行間の競争も起こるだろう。瀧取締役によれば、イギリスでは個人口座のポータビリティーが極めて高く、自動引落なども紐付けたまま簡単に個人が利用銀行を変更できるようになっているのだという。

もう1つ、起こり得る変化としてECサイトでのクレジットカード決済が銀行口座からの直接振込に変わることも考えられる、という。

「もともと取引自体に価値はないのです。何か決済をするときに決済手段として銀行に行っているだけ。取引動機はすべて銀行の外にあるのです。例えばオンラインで買い物するときには、そのECサービスに動機がある。だから、ECはAPIのメリットが現れやすい分野です」(瀧取締役)

さらに長い視点で考えると、「毎日関わるところ、収入が関わるところ、小売などに利用者の主観的価値が寄っていくので、そこにお金も寄っていくのでは」(瀧取締役)という予想もある、という。中国のモバイルアプリがあらゆる支払いや個人間決済に使われているように、LINEやメルカリ、Paymoといったところにお金をプールして出し入れするほうが、銀行経由よりも使い勝手が良く、経済的な合理性もあるかもしれない。すぐに起こる変化ではないだろうが、銀行が全銀ネットワークという高コストなレガシーシステムを使った振込手数料やATM利用料を取り続けることは、モバイル時代にはもうできなくなっていくということなのだろう。

住宅ローンいくらまで借りれる? 10項目による自動診断をMFSが開始

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住宅ローンの借換サービス「モゲチェック」でスタートした日本のFintechスタートアップのMFSが今日、新たなサービス「モゲスコア」を開始した。ユーザーの収入状況やその安定性を判断するための重要な10項目(年収、勤続年数および家族構成など)から信用力を判断してスコアを算出する。同時に信用力に応じた適用金利の目安も提示する。

このモゲスコアは借り手となるユーザーの信用力を数値化したものだが、実際の借り入れ可能予想額も、このスコアから直接算出できる。具体的にはモゲスコアに年収を掛け合わせて100で割ったものが借り入れ可能額という。例えばモゲスコアが700点で年収500万円の場合、住宅ローン借り入れ可能額は3500万円と推定できるということだ。

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これまで新規に住宅ローンを組んで家やマンションを購入する際、顧客側から見て金融機関が提供するローンの審査に通るかどうかはブラックボックスだった面がある。やったことがある人なら分かると思うが、購入を検討しているマンションの不動産デベロッパーの営業担当などに「おたくの世帯収入と家族構成なら3500万円くらい借りれますよ」とアドバイスされ、そんなもんかと実際に3本くらい同時にローン審査に申し込むことになる。ところが銀行の審査ロジックは開示されていないので、「なぜか審査に落ちた」ということもあるし、実はより条件の良い金利のローンを組めるのに、それに気付かないということが起こり得る。

つまり、ここには情報にの非対称がある。そしてローンを提供する金融機関が積極的に透明性を上げるインセンティブは働かない。それがMFSのように顧客メリットを売りにしているスタートアップ企業の出番となるところ。MFSは住宅ローンの借り換えによる総返済額の圧縮でサービスを開始しているが、この借り換え時の審査実績があるからこそ、金融機関の審査基準に近いスコア化ができているということだ。どの銀行のどのローンに、どういう条件だと通るか(あるいは落ちるか)というデータが蓄積しつつあって、それを今回新たに借り入れ時へのサービスとして展開する、ということだ。MFSは2016年3月から東京・京橋など相談窓口となるリアル店舗サービスも開始している

今回のモゲスコアはMFSのサイト上からも利用できるが、外部提携も進める。ネクストが運営する住宅情報サイトのHOME’SとAPI連携することでモゲスコア算出機能を提供するという。API連携は2017年3月に開始予定。

自分がどの程度の金額を借りられるのかが事前に分かれば、住宅購入時の基本方針の決定に役立つだろう。ちょっと面白いのは実際の審査と違って入力条件を変えたときのスコアの変化を見れること。例えば転職を挟む場合に、転職前に借りてしまうほうがいいのか転職後がいいかなど、これまで一般消費者には難しかったシミュレーションもできるようになることだ。

MFSは2015年6月にモゲチェックをローンチし、同年9月に総額9000万円の資金をマネックスや電通国際情報サービスなどから調達。2016年6月にはシリーズAとしてグロービス・キャピタル・パートナーズから2億円の資金を調達している。

(情報開示:MFS中山田明代表と、この記事を書いたTechCrunch Japanの西村賢は数年来の友人)

係争中のクラウド会計「freee」が33.5億円を追加調達、佐々木CEOが競合提訴の背景も語る

freee創業者で代表取締役の佐々木大輔氏

freee創業者で代表取締役の佐々木大輔氏

クラウド会計サービスを提供する「freee」がシリーズDラウンドとして33.5億円の追加増資を今日発表した。第三者割当による資金調達で、引受先は未来創生ファンド、DCM Ventures、SBIインベストメント、Salesforce Ventures、日商エレクトロニクス、日本生命保険相互会社、Japan Co-Investのファンドおよび事業会社。今回の増資で2012年7月創業のfreeeの累計資金調達額は96億円となる。未来創生ファンドは2015年の設立。2016年11月現在、トヨタ、三井住友銀行など17社が出資していて、2016年5月末時点で運用額は216億円。

前回のfreeeの資金調達は2015年8月の35億円で、このときのバリュエーションは約300億円。今ラウンドのバリュエーションは約400億円。また今回新たにSBIインベストメントが出資者に加わっている。

調達資金の用途としては開発、マーケティング、営業と全ての面の強化というが、freee創業者で代表の佐々木大輔CEOはTechCrunch Japanの取材に対して3つの点でサービス拡充を進めると話す。

会計、税務、労務を統合して「クラウドERP」へ進化

1つは2016年5月に発表した中堅企業向け「クラウドERP」を推進すること。freeeは企業の財務会計クラウドサービスとして発展してきたが、2014年には「クラウド給与計算」をリリース。労務管理まで含めて50〜500人規模の中堅企業向けに、管理会計分野にまで適用領域を広げていく方向性だ。これまで大企業では生産管理まで含めた本格的ERPとしてオラクルやSAPといったアプリケーションが導入されてきた。「ERPという考え方は数十人規模でも使ったほうが圧倒的に効率化できます。ただ、SAPとかオラクルといったERPアプリケーションは(高価すぎて)1000人規模の企業でも導入していません。われわれfreeeは基本利用料4000円で1ユーザー当たり300円といった価格帯です」(佐々木CEO)

一方中小企業ではこれまで、弥生やOBIC、OBCといったベンダーの個別パッケージをWindowsサーバーに入れて組み合わせて使うとか、Excelで何とかするといったケースが多かっただろう。オンプレミスの部門サーバーがクラウド(SaaSアプリ)へ移行するタイミングで、業務パッケージや個別開発の市場をディスラプトしているのがfreeeという構図だ。

給与計算や労務管理もサポートできるようになると、「社員が勤怠情報を入れると、それがそのまま財務会計に入っていくような仕組みが実現できます」(佐々木CEO)という。弥生会計で入力した会計データをNTTデータの達人シリーズという申告アプリと繋ぐといったように異なるアプリ間でインポート作業が発生するといったこともなくなるという。

2017年の年明けには法人税申告も可能な「クラウド申告freee」をリリース予定であるなど、会計→税務→労務というようにfreeeはクラウド上で対象領域を広げている。従来のオンプレミスの会計ソフトと比較したとき、金融機関連携による情報量の差も大きいと佐々木CEOは指摘する。これまでパッケージソフトの世界ではデータを手入力していた情報が、freeeでは銀行振込の詳細データがそのままクラウドに入ってきて残る。「どこの会社に売掛金がいくらあるかぐらいは今までも分かりましたが、じゃあ、この数字は合ってるのかと確認するような作業、これがクラウド上の共同作業でできるようになるのです」(佐々木CEO)。

もともとfreeeは会計や税務のプロよりも、むしろ対象ユーザーは個人事業主や規模の小さな事業者にいる経営者だという言い方をしてきた。この点については「小さな会社のほうが変わりやすい。その突き上げで世の中が変わってくるものです」(佐々木CEO)とボトムアップによる変化の構図を指摘する。実際、最近では200人規模のグループ企業の事業再生で会計の見える化のためにfreeeを導入した事例などもあるという。freee自身も、社員数270人と規模が拡大しつつあるが、経費精算はクラウドで自動化されているため経理の専任は1名。煩雑な事務作業がなく「分析ばかりやっている」という。

サービス拡充の2つ目はボトムアップの構図とも関係するが、税理士・会計事務所向け機能と、サポート体制の強化。経営分析やリスク分析機能の開発を進めるほか、地方支社の増設と人員増強を進めるという。

資金調達による投資強化の3点目はAIを活用した経営分析、未来予測。そして経理業務における人間のミスの自動検知だ。作業漏れやダブリ、ミスといったものを正しく処理する提案機能を2018年末までにサービスに入れていくという。

マネーフォワード提訴は「独自技術への投資を促すため」

freeeといえば12月8日に同業のスタートアップ企業であるマネーフォワードに対して、「MFクラウド会計」の差止請求訴訟を東京地方裁判所に提起した、と発表したことで業界を驚かせた。関係者が驚いた理由は2つある。

1つは、スタートアップ企業同士が問題を法廷へ持ち込むほど協議が不調に終わるというのが日本ではきわめて珍しいこと。この点について佐々木CEOの言い分は次の通りだ。

photo02「自動仕訳のコンセプトはfreeeの原点となるもので、プロダクトのリリース前から出願していたものです。われわれはゼロワンのイノベーションにフォーカスしてやってきています。ここはコストがかかるところです。そうやって出てきた良いものについてリスペクトするようお願いをしているということです。世の中の技術の発展を阻害しよういうつもりは全くなく、ライセンスを拒むものでもありません。囲い込みをしようとは思っていません」

ライセンスを拒まない、というのは、つまり正しくライセンスを受けるのであれば当該技術を使って構わないという意味だ。マネーフォワード側は権利侵害を否定しているが、もし仮に裁判で侵害が認められた場合には自動仕訳の特許についてマネーフォワードが対価を支払って利用するということになる、ということだ。

ただ、ソフトウェア産業で先行する米国では、むしろ特許は必要悪とみられる風潮が強い。特に近年、大手テック系企業の訴訟は減ってきている。むしろ特許は核兵器のように牽制力や抑止力として機能しているように見える。

佐々木CEOは「パテント・トロールが流行ったので悪いイメージがあるのかもしれません。でも米国の状況とは違います」と説明する。例えばGoogleが2011年にモトローラを125億ドルで買収したのは、膨大な量の特許を買うことが目的だったと言われている。独自技術に投資しているGoogleのような企業にしてみたら、抑止力として特許ポートフォリオを保持するために必要なものだった。ただ、その後Googleが濫訴しているわけではない。つまりシリコンバレーのネット系、モバイル系企業は独自技術を開発しつつ、クロスライセンスや牽制をするなどして均衡状態になっている。これは日本でも電機産業や自動車産業といったオールドエコノミーがやってきたことだが、現状の日本のスタートアップ業界はそんな状況になっていない。もっと日本のスタートアップ業界は独自技術をそれぞれが開発するべきだ、というのが佐々木CEOの主張だ。「独自技術にみんなが投資するようになればイノベーションは生まれていきます」。

佐々木CEOはゼロワンの技術開発に投資しやすい環境を作っていくのも重要だとしていて、「スタートアップ業界でもクロスライセンスが増えると良いのではないか」と話す。

産業史的な視点でみれば、佐々木CEOの言い分には説得力がある。一方、もう1つの論点については疑問の声が大きいのではないだろうか。それはfreeeの自動仕訳の特許が、そもそも特許が成立するほどの技術に思えないというソフトウェア・エンジニアたちの声だ。

freeeの特許にある「自動仕訳」とは、取引情報に含まれる文字列などから「対応テーブル」と「優先順位」に基いて仕訳項目を自動判別するというもの(参考リンク)。一方マネーフォワードが8月にアップデートした「勘定科目提案機能」は機械学習ベースのもの。つまり実装が異なる。freeeのようにルールベースのほうが実際的で精度が高い可能性もあるし、モデルと利用データの質・量次第では機械学習のほうが精度が良いのかもしれない。ここは実装次第の勝負なので両社ともに競うべきところのように思われる。

文字列をみて賢く自動仕訳する、というのはソフトウェア・エンジニアであれば誰でも思いつくことだろう。機械学習のライブラリは掃いて捨てるほどあり、やってみるだけならインターンの大学生の夏のプロジェクトレベルの話ですらある。2013年にさかのぼって考えてみれば、いまと事情が違うかもしれない。今ほど機械学習のことでネット系エンジニアたちは騒いでいなかったし、多くのライブラリは存在しなかった。であればなおさら、機械学習を適用した自動仕訳というマネーフォワードの実装に対して、2013年の権利を持ち出してfreeeが侵害を主張するのは無理があるのではないだろうか。

実際、マネーフォワード側は「当社技術は、本件特許とは全く異なるものと判断しており、フリー株式会社の主張は失当であり、特許侵害の事実は一切ないものと判断している」とのコメントを発表している

もっとも、この辺りは特許明細が主張する内容と、実際の技術詳細についての比較を行った上で法廷で議論すべきことだろう。freeeによる提訴は10月21日。12月8日には東京地裁で第1回弁論が行われ、1月20日には答弁が予定されている。今後2社の訴訟がどう推移するかは分からないが、1年から2年で何らかの結論がでるものと見られる。

オーストラリア人起業家、Craig WrightがBitcoinの発明者、Satoshi Nakamotoなのか?

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オーストラリア人起業家、Wrightは自分がBitcoinの発明者Satoshi Nakamotoだと名乗りでた。しかしテクノロジー・コミュニティーの多くのメンバーはこのニュースに懐疑的だ。

ストーリーは説得力が薄く、「証拠」はBitcoinの発明者、Satoshiが過去にサインした開発初期の産物のひとつを利用したにすぎないと考える専門家が多い。Wrightは過去にもSatoshiではないかと指摘されたことがあったが、その時点では否定していた。

WrightはSatsoshiであるという主張を3つのメディアに対して行った。 BBCEconomist、 そしてやや異例だが男性向けライフスタイル誌のGQだ。

BBCは「〔Wrightの主張は〕誰がデジタル通貨システムの基礎となるアイディアを最初に考えついたのかという問題に関する長年の推測を一掃するものだ」とし、さらに「Bitcoinコミュニティーの著名なメンバーであり開発において中心的な役割を果たした専門家がWrightの主張が正しいと認めた。Bitcoin Foundationのチーフ・サイエンティスト、Gavin AndresenはWrigtの主張を肯定するブログ記事を公開した。またBitcoin Foundationの創立者の1人である経済学者、Jon MatonisもWrightの主張が正しいと確信している」と報じた。

しかし、Hacker NewsとRedditにはWrightの主張に疑問を投げかける証拠が数多く寄せられている。またAndresenはハックされたのではないかという疑いも出ている。

BBCとのインタビューでWrightはBitcoin開発の初期段階で利用されたデジタル鍵でメッセージに署名した。このメッセージは本物のSatoshiが作成したbitcoinブロックと不可分に結びついているという。

しかしHacker Newsの指摘によれば、Wrightが用いたサルトルのテキストは「〔過去に別人によって暗号化されたことがあるので〕blockchainのトランザクションからコピーすることが可能」であり「Wrightは現実には何ら暗号を復号した証拠を示していない。BBCはデジタル署名が真性であることを見たに過ぎない。つまりそのデジタル署名が実際に行われたのは数ヶ月、それどころか数年前かもしれない。そうでないことを証明するのは非常に難しいはずだ」という。

Hacker Newsのスレッドによれば、本物のSatoshiはBitcoinコミュニティーとの会話をこれまでもっぱらBitcoinメーリング・リストによって行ってきたという。つまりSatoshiが自分の身元を明かす気があるなら、メッセージを1通、このメーリング・リストで送りさえすればよかったはずだと指摘している。

Redditも同様に疑問を抱いている。 Satoshiが初期のBitcoinの開発者の1人でPGPのエンジニア、Hal Finney宛に送った史上初のBitcoinトランザクションを暗号化したのと同じデジタル鍵で、Wrightはジャン=ポール・サルトルの発言を暗号化してみせた。しかし用いられたテキスト中にはCraigの名前、現状、現在の日付などは含まれていない。本物のSatoshiであれば当然含めていたであろう、そうした最新のデータがまったく含まれていないことは、Wrightはデジタル鍵をなんらかの方法で入手することに成功しただけという推測を成り立たせる。

Wrightをインタビューした3つのメディアのうち、Economistだけは最終判断を保留している。

本物のSatoshi Nakamotoは100万Bitcoinを保有していると推定されている。これは4億5000万ドル(479億円)に相当する。もしWrightが実際にそれだけの額を保有しているのであれば、オーストラリアの税務当局による調査を受けることになるだろう。そうであればメディアを利用したキャンペーンは同情を呼び起こす上で有効なはずだ。

一方、懐疑派のPatrick MckenzieGithubにこの問題に関する簡単な分析を寄せ、Wrightの主張を「根拠薄弱なでっち上げであり、まともな解析には数分も耐えられない。〔Wrihgtは〕システムレベルでBitcoinの暗号化システムに精通していることを示したが、Satoshiでなければ知り得ないような非公開の情報は何一つ明かされていない」と述べている。

〔日本版〕Mckenzieは上記Githubで、Wrightが署名したサルトルのテキストはサルトルの任意の一節ではなく、過去にBitcoinで暗号化されたことがあり、データがブロックチェーンに残っているものであることを指摘している。同時に、メディアの非専門家に自分がSatoshiだと信じさせるのは「2時間の準備で足りる」が「Gavin Andresenがどうして信じてしまったのかは謎だ」とした。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+