海外の目に映る日本のスタートアップエコシステム

左から、Antti Sonninen氏、Marvin Liao氏、Oranuch Lerdsuwankij氏、Casey Lau氏、Jerry Yang氏

2018年12月に金沢で開催されたテクノロジー・スタートアップの祭典Infinity Ventures Summitでは数多くの興味深いセッションが開催されたが、個人的に特に印象に残っているのは「Startup Ecosystems Around the World」と題され4人の海外ゲストが登壇したセッションだ。

Slush Tokyo Co-FounderのAntti Sonninen氏がモデレーターを務めた同セッションには、StartupsHK Co-FounderのCasey Lau氏、500 Startups PartnerのMarvin Liao氏、Techsauce Co-FounderのOranuch Lerdsuwankij氏、そしてHardware Club General PartnerのJerry Yang氏が登壇。1時間にもおよんだ同セッションでは、日本にもよく訪れるという上記4名から日本のスタートアップエコシステムに関しても少しだけ言及があったので紹介しておきたい。

500 StartupsのLiao氏は日本のスタートアップシーンを「ガラパゴス現象」という言葉を用いて説明した。「この国には独自の文化やインフラに基づき、日本でのみ生存しているスタートアップが存在していている。この国で成功したとしても他の国ではなかなか難しい。それは逆も同じだ。国際的で巨大なスタートアップやプラットフォームでも日本市場参入にはとても苦労する」(Liao氏)

以前に取材したY Combinator出身のTemplarbitも文化の違いなどからなる日本市場参入の難しさを説いていた。TemplarbitのCEO、Bjoern Zinssmeister氏は競争意識が強いアメリカと比べ日本では人間関係が重要で“推薦”が必要となってくるため、それが原因で多くの米国企業がこの国で苦戦するのでは、と話していた。

一方で日本に来る際には多くのアーリーステージのスタートアップや起業家に会うようにしているというYang氏は日本人の過労気味なワークスタイルを気に掛けているようだった。

Yang氏いわく「シリコンバレーのレイトステージのスタートアップでは残業をしている人たちはさほどいない。彼らは8時か9時ころには自宅で仕事しているか休んでいる。だが日本で出会った起業家たちはハードワークや長時間労働を尊重する傾向にある」という。

「“どれくらい”やるかではなく“どのように”やるかが重要だ。そういった意味ではアメリカなど海外のスタートアップ創始者たちのほうが、この国で出会った起業家たちよりもある意味で敏腕だと言えるのでは」(Yang氏)

Yang氏の言うことも一理あるが、いわゆる「持ち帰りサービス残業」により「定時あがり」が可能となっているという指摘もある、と一言加えておこう。

そのYang氏の発言に対し日本のスタートアップの肩を持ったのはLiao氏だった。Liao氏は日本の「エコシステムがまだまだ未熟」であることが根本的な原因なのでは、と述べた。

「アメリカやヨーロッパのエコシステムは長きに渡り存在し、多くの企業が成功を成し遂げてきた。それによって、次世代を見てみると、アーリーエンプロイーたちはまだハングリー精神が絶えないうちに会社をスケールさせるノウハウを学べている」(Liao氏)

ではその状況をどのように打破していくのか。どのように日本のスタートアップエコシステムを成熟させていくのかーーStartupsHKのLau氏はネットワーキングで海外からのアドバイスに耳を傾けることも重要なのでは、と説明。そして日本ではSlush Tokyoを始めとする大きな国際的テックカンファレンスが開催されており、日本と海外を繋げる重要な架け橋となっていると話した。

「香港でも最初は(そのようなイベントが)必要不可欠だった。「誰かが手を取ってくれて、スタートアップエコシステムを生成してくれるのではない」(Lau氏)だからこそ、カンファレンスなどで多くの人とネットワーキングし情報を共有することが重要だ、と同氏は言う。また、同氏は日本のスタートアップの情報を配信し、取材で各地を巡っているThe BridgeのMasaru Ikeda氏を賞賛し、会場は拍手に包まれた。

だが一方で、Lau氏は日本人起業家の英語力など言語力や社交性に関しては懸念を抱いているようだった。「唯一の不安材料はコミュニケーションレベル。タイやインドネシアでは誰もが社交的で、かつ英会話はごく一般的だ」(Lau氏)

タイで開催されているテックカンファレンス、Techsauceにはどれくらいの日本人が参加しているのだろうか。来客者数は1万人以上と説明されているが、Techsauce Co-FounderのLerdsuwankij氏いわく日本人の来場者は50人にも満たなかったという。

だがLerdsuwankij氏は代表取締役の長谷川潤氏がタイで創業したFinTechスタートアップOmiseを話題にあげ、タイは日本の起業家にとって優れた環境だと説明した。バンコクには日本人運営のコワーキングスペースMonstar Hubなどもあり、良好な日本人コミュニティーが存在しているのだという。だが成功には「文化の理解」と「プロダクトのローカル化」の徹底が不可欠だと同氏は話していた。

もし日本人VCや起業家が登壇していたらどのような議論が交わされていたのか気になるところだが、以上がIVSセッションにおける海外からの4名のエキスパートたちによる日本のスタートアップシーンに関する言及の一部だ。

Launch Padの第1位、店舗の空きスペースをコインロッカーに変える「ecbo cloak」に

12月12日〜13日にかけて石川県・金沢市で開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2017 Fall in Kanazawa」。13日午前にはピッチコンテスト「Launch Pad」が行われた。予選を通過した12社のスタートアップが、1社6分のプレゼンテーションに望んだ。1位となったのは店舗の空きスペースなどを荷物置き場として利用できるecboの「ecbo cloak」だった。2位は東京ロケットの「助太刀くん」、3位はカバーの「hololive」、4位はZEALSの「fanp」、5位は空の「ホテル番付」だった。登壇企業とサービスの概要は以下の通り。

東京ロケット「助太刀くん

建築業者と職人をマッチングするサービス。職種と地域を設定すれば、職人に最適な現場の情報がプッシュされる。セブン銀行とも連携。11月29日にiOS版のサービスを開始しており、現在1000人以上の職人が登録。初日に有料プラン契約、2日目にマッチングが成功しているという。建設業では、職人の職種が70種類、また職人を囲い込む商慣習があり、その課題解決のためにサービスを生み出した。無料サービスと月額1980円の有料サービスを提供。今後はペイメントや、その信用スコアを元にしたサービスも展開予定。

matsuri technologies「nimomin

2018年6月から始まる民泊新法では、民泊での物件利用が年間180日までに制限されている。そのため、民泊オーナーは撤退や民泊破産の危機にあるという。nimominはその残り民泊利用が制限された半年間(185日)の物件をマンスリーマンションとして提供するサービス。民泊オーナーがAirbnbのアカウントを使って物件を登録すれば、マンスリーマンション事業者が専用サイトにて、条件に合った物件を検索できる。Airbnbと連携し、公式APIを利用している。現在7500室が登録していくという。今回、自社APIも公開。プラットフォーム化を進めるという。

空「ホテル番付

ホテルの料金決定を支援するサービス。ネット上にホテルが公開している料金と部屋数をもとに各ホテルの売り上げランキング、売れ行き、競合ホテルとの稼働率の比較を算出。現在1000のホテル情報を閲覧可能。空はホテルの料金決定支援サービス「Magic Price」(月額3万円)を提供しているが、ホテル番付から送客することでマネタイズを進めるという(ホテル番付自体は月額無料〜1万円で提供)。今後はホテルに限らず幅広い領域での料金決定支援サービスの展開を検討しているという。

ecbo「ecbo cloak

店舗の空きスペースなどを荷物置き場として利用できるサービス。国内のコインロッカー数は現在22万個だが、ニーズを考えるとあと30万個は足りない状況。その解決を目指すがecbo cloakだ。ユーザーはスマホで預けたいエリア、店舗とスケジュールを選択。店舗側は荷物の写真を撮ればサービスは完了。支払は事前に登録したクレジットカードで行う。バッグサイズで1日300円、スーツケースサイズで1日450円。保険で20万円までを補償するという。現在はJR東日本とも連携。東京駅でもサービスを利用できる。プレゼンでは、今後はボタン1つで荷物の配送ができる「ecbo delivery」を展開することを発表した。

あいりぺ「MAIZOKIN

引き出しに眠った「埋蔵ケータイ」は合計1.7兆円規模とも言われているが、MAIZOKINはそんなケータイを買い取りするサービス。買取サービス自体はほかにもあるが(同社いわく、古い端末までをターゲットとしている直接的な競合はいないとのこと)、このサービスのポイントは、データの完全消去と、過去に撮影した写真をアルバム化できること。買取のフローは、売りたいフィーチャーフォンやスマートフォンの種類を選択し、写真を撮影すれば、すぐに買取価格が提案される。価格に同意すればあとは端末を送ればいい。サービスは2018年4月リリース予定だが、現在はLINE上での買取サービスを展開している。

FutuRocket「HACKFON

既存のアナログ電話機をIoTリモコンに変えるデバイス。ダイヤル信号をデジタル化し、サーバに送信することで、スマート家電を操作したり、Amazon ダッシュボタンとして利用したりできる。スマートフォンアプリとは異なり、12個の物理キーを組み合わせて使うことができるため、子どもから年長者まで幅広く利用できるのがウリ。本日よりクラウドファンディングを展開。将来的にはホテルや工場などの法人向け展開を検討している。

OQTA「OQTA
スマートフォンでハトを鳴かせることができる「IoT鳩時計」。コミュニケーション手段に言語でなく、音を使うことで、「言葉では伝えることができない愛情を届けることができる」とアピールする。最大8人で1つの鳩時計を操作できる。実機のデモではハトの鳴き声で会場の笑いを誘った。ちなみにハトの鳴き声は電子音ではなく、“こだわりのふいご”だそうだ。現在クラウドファンディングサービスの「MAKUAKE」にて購入可能。ビジネスモデルは「現在考え中」とのことでパートナーを募集しているとのこと。

カバー「hololive

キャラクターに会えるライブ配信サービス。センサーやVR用コントローラーを使ってキャラクターを操作し、その映像をユーザーに配信することが可能。キャラクターはセンサーで体の動きと同期するだけでなく、ボタン操作で表情を変えることも可能。ライブ配信サービス「17 Live」で配信した際には、台湾を中心に同時視聴者数2.6万人を記録した。今後はVRだけでなく、ARでのライブ配信も予定する。ビジネスは課金とアニメ等のプロモーション利用を想定する。今後は中国市場もターゲットにサービスを展開する。同社はHTCのアクセラレータープログラムの「Vive X」にも採択されている。次期バージョンのサービスでは顔認識に対応し、スマートフォンでの配信を行っていくという。

EXPVR「BE THE HERO

現状のVRゲームは自由に動き回れず、コントローラーで指定した位置にワープすることがほとんど。これは移動時の「酔い」があることに由来する。同社が開発するのは「酔わない移動システム」。これまで合計10の移動方式を開発しているという。これを元にして開発したのがVRゲームのBE THE HEROだ。現在は、腕振りによる「ランニング」で移動し、敵を倒すという忍者のゲームを提供しているが、今後は魔法少女、ダークヒーローのゲームも提供するという。太平洋標準時間の12月13日よりアーリープロトタイプ版を提供する。今後は2018年2月にアーリーアクセス版、2019年1月には正式版をリリースする予定だという。

リンクライブ「Stock

チャットツールは便利だが、情報が流れていく「フロー」なツール。Stockは、「ストック」型の情報を共有できるサービスになる。EvernoteライクなUIでテキスト入力、ドラッグアンドドロップによる画像挿入などをすれば、更新日などの順番でノート(情報の単位)をストックし、閲覧・編集することができる。ノートに対してタスクを設定することができるほか、ノート単位でのチャットが可能。9月にベータ版をローンチし、中小のチームを中心に1200以上のチームで利用されている。サービスは月額無料と、840円の有料版を用意する。

Laboratik「A;

「管理しないマネジメントツール」をうたうスマートボット。Slackにこのボットを導入することで、コミュニケーションの内容を判断。メンバーごとの会話量や、感情のネガ・ポジ、重要な情報のストックなどができる。これを使うことでコミュニケーションの偏りをなくしたり、ネガティブな投稿の多く、疲れの見えるメンバーの休息促進などができる。2月にベータ版をリリース。現在は日米700社が利用している。料金は無料版から1ユーザーあたり500円のスタンダードプラン、料金応相談のエンタープライズプランを用意。今後は連携するコミュニケーションサービスを拡大していく。

ZEALS「fanp

インフィード広告からランディングページに来たユーザーは、そのプロダクトの潜在ユーザーであり、すぐにコンバージョンできず、CVRが上がらない(0.8%程度)という。fanpでは、インフィード広告をクリックすれば、直接メッセンジャーが立ち上がり、ボットを使ったコミュニケーションによって、プロダクトの紹介などができる。メッセンジャーから離脱したユーザーなども、Facebook情報や会話ログの確認が可能。後日メッセージを送るといったこともできる。

 

MR、ドローン、音声デバイス、ビットコイン——テック業界経営者が予測する10年後のトレンド

左からスマートニュース代表取締役会長 共同CEOの鈴木健氏、ディー・エヌ・エー執行役員の原田明典氏、投資家/The Ryokan Tokyo代表取締役CEOの千葉功太郎氏、アイ・マーキュリーキャピタル代表取締役社長の新和博氏、グリー代表取締役会長兼社長の田中良和氏、gumi代表取締役社長の國光宏尚氏

この10年のテック業界を振り返れば、最も大きな変化というのは「ガラケー(フィーチャーフォン)」から「スマホ(スマートフォン)」への変化だった。では今後10年はどんな変化が訪れるのか?——6月5日〜7日にかけて兵庫県神戸市で開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2017 Spring Kobe」。10周年となる本イベント、6日最初のセッション「業界トレンドの歴史と未来。これまでの10年、これからの10年」では、経営者、投資家らが今後10年のトレンドについて語り合った。

登壇者はgumi代表取締役社長の國光宏尚氏、アイ・マーキュリーキャピタル代表取締役社長の新和博氏、グリー代表取締役会長兼社長の田中良和氏、投資家/The Ryokan Tokyo代表取締役CEOの千葉功太郎氏、ディー・エヌ・エー執行役員の原田明典氏の4人。モデレーターはスマートニュース代表取締役会長 共同CEOの鈴木健氏が務めた。

経営者、投資家が振り返る「過去10年で最も衝撃だったニュース」

セッション冒頭、登壇者は自己紹介とあわせて、この10年でもっとも印象に残った、衝撃だったニュースについて語った。

原田氏が挙げるのは「アプリ回帰」というキーワード。NTTドコモからミクシィを経てDeNAで投資を担当する原田氏。かつてガラケーで流行しなかった「アプリ」が、スマホになって流行したと振り返る。「(流行の)ポイントはタッチパネル(での操作感)。過去の(ガラケーでアプリが流行らなかったという)トレンドを踏襲し過ぎて当てはめていけない」(原田氏)。続けて千葉氏は、2016年11月の「i-mode端末最終出荷」、2015年3月の「トイドローンとの出会い」を挙げる。端末最終出荷時点でも1700万人がいまだ利用していた日本独自の巨大プラットフォームの終焉、そして自身の新しい活動にも通じるドローンとの出会いこそが衝撃だったという。

原田氏と同じくNTTグループ系の出身である新氏も、ガラケーからスマホの変化が衝撃だったと語った。「いち従業員ながらも、通信キャリアが天下を取っていたつもりでいた。だがあれよあれよとスマホがやってきた。キャリアがトップだったところから、外来のハードウェアメーカーやOSがトップに移り変わったことが衝撃」と語る。グリーの田中氏は「10年前に1億円買っていれば…」と悔いつつ、「ビットコイン」の衝撃を語る。最初のビットコイン(ブロック)が登場したのは2009年、2010年頃でも1ビットコインは5円程度だったが、今では30万円前後となっている。こういったプラットフォーム(というか仮想通貨)の登場自体が非常に衝撃の大きいモノだったとした。

國光氏は2000年代後半に起こったソーシャルゲームの勃興について振り返った。当時はグリー、DeNA、ミクシィといったプラットフォーマーがしのぎを削りあい、ゲーム開発会社が資金を調達し、成長していったが、そういった経済活動自体が「日本のスタートアップの足腰を強くした」と語った。大企業や他業種からの参入者も増え、エンジニアのより一層高まったのもこの時期だろう。

セッションの様子。図はIVSで取り上げたトレンドを年代別にマッピングしたものだという

10年後、流行するデバイスは?

冒頭に書いた通り、ハードウェアで言えばガラケーからスマホ、その上によるプラットフォームの変化こそが、この10年の変化そのものと言っても過言ではない。では今後10年でどんなことが起こるのだろうか。

國光氏は、スマートフォン、ソーシャルウェブ、クラウドの掛け算で実現するプロダクトについて、「(この10年で)おいしいところが出尽くした」とした上で、最後に残っている領域として「モバイル動画」を挙げる。中国ではライブ動画での個人の活動やECが活発化している。これと同じような流れが日本でも来ると語る。

一方デバイスについては、MR(Mixed Reality)技術を取り込んだ先進的なメガネ型デバイスなどが1年以内にも登場するのではないかと予測する。「これからは、『MR、IoT、クラウドファースト』という企業が(マーケットを)塗り替えていく。わざわざスマホを見るより、目とインターネットが繋がった方が便利なのは自然な流れ。直近のGoogleやFacebookの発表を見ていると、思った以上に早く来るのでは」(國光氏)。MRデバイスについては、MicrosoftのHoloLensをはじめとして、特許を囲わずに各メーカーで作っていくという流れがあると説明。将来的にはAppleもAirPodsならぬ「AirGlass」などをリリースすれば一気にトレンドがやってくると予測する。

これに対して原田氏は、「ボイスインターネット」、つまり音声対応デバイスの時代やってくると語る。原田氏は「コンピューターが小型化する」という流れがあると勘違いしていたと振り返る。PCからスマホ、スマホから時計(スマートウォッチ)という変化が重要というのは間違い。一方で、スマートフォンの方がPCよりも機能が制限されるが、リテラシーの低い人でも使いこなしやすかった。同じように、リテラシーの低い層にどう刺さるデバイスであるかこそが重要だという。そういう観点で、次のトレンドは音声認識デバイスが作るのではないかとした。

先日ドローン特化の投資ファンドを立ち上げたばかりの千葉氏はデバイスとして「ドローン」を挙げた。ファンドの詳細はインタビュー記事を読んで欲しいが、ドローンが自動運転することで、BtoB領域のビジネスを変化させるのではないかと語った。

新氏は、劇的なデバイスの進化が起こるのではなく、10年後も現在のスマートフォンの延長線上にあるデバイスが主流ではないかと予測する。「10年前と今では、通信速度は100倍になり、ユーザーは音楽からゲームや動画を楽しむようになってきた。メールはメッセンジャーにかわり、リアルタイミング性が求められている。だが(ハードの進化については)保守的に考えていて、今より少し大きくなって、全天球カメラが付き、VR体験ができる程度のものになるのではないか」(新氏)

田中氏はこの10年で最も興味あるのは「AI」だと語る。先日のAlpha Goがトップ棋士らに勝利したというニュースを例に挙げ、「一番囲碁の強い人がAIに負けて、プロがその棋譜を読んだら『さっぱり分からない』となった。今まで僕らは『人間は(歴史を通じて)最適化されている』と言っていたが、それが違うらしいと暴露されてしまった。そうなると土台おかしいことがこれから発見されていくのではないか」と予測する。

ではスタートアップがAIの領域にチャレンジするにはどうしたらいいのか? 國光氏はGoogleやFacebookなどが提供するクラウドベースのAIを活用したプロダクトに注目しているとした。すでに画像認識や動画認識、テキスト解析、音声認識といった領域については、Googleをはじめとした企業がAIの公開を進めているところだ。これを使ってチャレンジできるビジネスがないかと問いかける。

ビットコインはナショナルカレンシーの代替となるか

ここで鈴木氏は、登壇者にFinTech領域の変化について聞いた。登壇者は連日話題を集めているビットコインやブロックチェーンをどう考えるのか。

千葉氏は「苦手な領域」としつつも、先日ビットコインが暴落したことに触れ、「(信用取引などで必要な)追証が必要ないこと」に驚いたとした上で、国家を脅かす可能性にもなりえると語った。原田氏も、ナショナルカレンシー(国が発行する通貨)の信用低下に伴う代替通貨の必要性はあるが、それをビットコインが担うかどうか分からないと語る。

田中氏は、ビットコイン隆盛の背景に、中国ではクロスボーダーの総員が難しいために、その代替手段として利用されているという事例を紹介。「これは技術ではない。世界の動きを分かっていないといけない」と語った。これに対して、通貨の研究も行っていた鈴木氏は、「結局国家は強い。揺り戻しが来るのではないか」としつつも成長の可能性を示した。

クラウド労務管理サービス「SmartHR」が優勝——IVSのピッチコンテストLaunch Pad

5月26日〜27日にかけて宮崎県で開催中の招待制イベント「Infinity Ventures Summit 2016 Spring Miyazaki」。2日目の朝には恒例のピッチコンテストの「Launch Pad」が開催された。14社のスタートアップが6分間のプレゼンテーションに挑んだ。その中で見事優勝を果たしたのはクラウド労務サービス「SmartHR」を開発するKUFUだった。僕らが手がけるイベント「TechCrunch Tokyo 2015」のスタートアップアトル、招待制イベントB Dash Campのピッチアリーナに続きスタートアップ向けのピッチコンテストで優勝したことになる。

2位は触感型ゲームコントローラーを開発するH2L、3位はスマートフォン向けの情報配信用プレートを開発するアクアビットスパイラルズ。4位はナレッジシェアアプリを開発するTANREN、チャット型の弁護士相談アプリを開発する弁護士トーク、運転支援システムを開発するPyreneeの3社。各社のサービス概要は以下の通り。

ハックフォープレイ:あそべるプログラミング「HackforPlay

ゲームを遊ぶことを通してプログラミングを学習できるサービス。ゲームをプレイしたり、そのゲームのプログラムを改造してプレイ・再投稿できるゲーム投稿サイト。他のユーザーのコードも見れるので、それを見つつ、技術を学ぶことを促す。現在700以上のゲームが投稿されている。その中心は小学生だという。また同社は金沢市でリアルなスクールを開講。子ども達のプログラミング学習の機会を提供している。

TANREN:ナレッジシェアアプリ「TANREN

TechCrunch Tokyoのスタートアップバトルにも登壇してくれたTANRENは店舗販売員向けのナレッジシェアのサービス。接客業の営業ロールプレイングを動画で撮影・指導できる。マネージャーが課題を設定し、該当する店舗にメールで通達。その後は実際のロールプレイングを携帯電話で撮影してアップロードすることで、マネージャーが指導を行える。携帯電話販売業を中心にサービスを展開。最近ではRIZAPなどでも全店舗導入を実現した。

弁護士トーク:チャットでする新しい法律相談「弁護士トーク

アプリを通じて無料で弁護士と相談できるサービス。テーマや弁護士名をもとに弁護士を検索。チャット型のUIで情報を入力していくことで弁護士に相談を行うことができる。写真などもアップロードして共有可能。より詳しい相談をする場合はアプリから弁護士に正式に依頼する。アプリリース6カ月で5万1000件の相談が寄せられている。特徴は一括見積もりでの弁護士の比較機能。プレゼンでは「弁護士ドットコム」を引き合いに出し、同サービスとの強みについて、弁護士スキルを比較できることこそが強みだと語った。

selfree:5分で電話窓口を開設できるクラウド電話システム「CallConnect

ブラウザベースのクラウド型電話サポートシステム。取得したい番号や会社情報などを入力すれば、すぐにも導入可能なのが特徴。音声ガイダンスの録音や音声ファイルのアップロード、転送機能など各種機能を導入。Salesforceなど各種サービスとの連携を実現。顧客情報の繋ぎ込みなどが可能だ。すでに個人事業主からコールセンターまで150以上の企業が利用している。

KUFU:クラウド労務ソフト「SmartHR

TechCrunch Tokyo 2015のスタートアップバトル優勝企業であるKUFUが提供するクラウド労務サービス。社会保険や雇用保険など労務手続き自動化をしてくれる。最近では開発者向けに「SmartHR for Developers」を公開。SmartHRのユーザー企業の社内システムや他社製クラウドサービスとのデータ連係を実現した。 すでに1000社がサービスを導入している。

RENO:ソーシャルヘッドハンティング「SCOUTER

審査を通過したユーザーが友人・知人を企業に推薦することで報酬を得られるサービス。ただし人材紹介の業務委託は違法になる。そこでユーザーとRENOが契約社員(スカウター)になる(弁護士ドットコムの契約サービスを利用)ことで実現する。スカウターには時給および転職後の年収5%をフィーとして提供する。企業のニーズに対して、スカウターが人物を紹介。現在登録は200人。求人700件。すでに実績も出ているという。

Labit:10秒で出品できる、本のCtoCフリマサービス「ブクマ!

本に特化したCtoCのフリマサービス。書籍・雑誌につくISBNバーコードを撮影すると、書籍の情報やAmazon.co.jpでの最安価格などを自動で取得できる。あとは希望価格と本の状態を設定すればすぐに出品できる。現在サービスを開発中。6月下旬にもサービスをリリースする予定だ。 Labitではこのサービスとは別にクラウドファンディングサービスのCAMPFIREでリアルな書店立ち上げのプロジェクトを立ち上げている。

ウリドキネット:買取比較サイト「ウリドキ

スマートフォンやブランド商品の ネット買い取りの価格比較サイト。これまでは価格比較の機能のみを提供していたが、最新版では価格の比較から直接買取申し込み(対応する店舗のみ)までをサイト上で実現した。買取業者はサイト上で商品の買取価格を設定可能。競合比較や買取依頼管理のステータス管理などの機能を提供する。この機能によって1日3時間の管理業務が1時間に短縮した事例もあるという。

Bizcast:YouTuberと企業のマッチングプラットフォーム「BitStar

YouTuberを起用したマーケティングなどを行うためのマッチングプラットフォーム。一部を除き、YouTuberの多くは収益化に悩んでいるのが実情。また一方で企業は最適なYouTuberと出会うことが難しい。これをオンラインでマッチングするほか、実際に動き出した案件についてはデータ解析機能を提供する。延べファン数2500万人のYouTuberが登録する。またInstagramなど各種のソーシャルメディア向けにもサービスを展開する。

CANDLIFY VR:Technologies すばやく、簡単に、結果を出すVR制作プラットフォーム「InstaVR

通常制作には数週間から数カ月が掛かるVRコンテンツを手軽に制作できるツールがInstaVRだ。360度写真や動画があれば、簡単にブラウザ上でVRコンテンツを制作できる。コンテンツ内に動画を埋め込んだり、電話発信やサイトへのリンクを付けることも可能。視線情報を取得しているため、ヒートマップの機能も提供する。サービスは2015年末にローンチ。これまで100カ国1000社が採用。スミソニアン博物館をはじめとして北米でも採用実績がある。

WHITE:世界初の触れるVRゴーグル「MilboxTouch

Google Cardboardやハコスコ同様の段ボール製VR筐体。競合との差別化ポイントは1枚のシール。導電性インクで描かれたこの回路シールを触ることで、スクロールやスワイプ、タップの入力が可能になる。この技術はすでに特許を取得しており、今後は各種VR筐体メーカーに対してOEM提供を進めていく予定だ。今後はSDKをオープンソース提供していく予定(Unityは提供済み)。プレゼンではVR版パックマンのプレイ動画なども紹介された。

H2L:世界初の触感型ゲームコントローラ「Unlimited Hand

Unlimited Handは腕に電気刺激を与えることで触感を実現したVR向けのコントローラーだ。インプット、アウトプットの両方を実現しており、指ごとの操作が可能。ハードウェア、ソフトウェアともにオープンプラットフォームを採用、あらゆるVR端末、コンテンツに利用可能だという。2015年にKickstarterにプロジェクトを掲出。7万2000ドルを集めた。今後は反響の大きかった順に北米、ヨーロッパ、中国に出荷していく予定だが、本日から日米amazonで319.99ドル(3万5000円)で販売を開始している。

Pyrenee:いまある車に付けられる運転支援システム「Pyrenee Drive

人類が負傷する最大の原因である「交通事故」。そんな交通事故の約8割はドライバーの不注意で起こっているという。そんな交通事故を防ぐための後付け運転支援デバイスがPyrenee Driveだ。立体物を認識し、ぶつかるものがないかを確認。ぶつかりそうになった際はアラートを出す。最近の車には自動ブレーキも搭載されているが、それでも事故が起こる可能性はある。スマートフォンとBluetoothで連携し、プロダクトの透過スクリーン上で操作することができる。2017年3月には日本、米国、欧州、アジアで販売する予定。

アクアビットスパイラルズ:瞬間コミュニケーションで世界をつなぐ「スマートプレート

「ググらせない」をテーマにしたプロダクト。スマートフォンにタッチすることで、特別なアプリを導入することなく各種のアプリを立ち上げたり、情報をプッシュする小型のプレート。プレゼンでは技術解説はなかったが、AmazonのDash Buttonに近いイメージだ。例えばタッチすることでタクシーの配車を行ったり、商品のECサイトを立ち上げる、といったことを実現する。専用アプリ・クラウドでリアルタイムなデータ解析も可能。設置については特許技術を持っているという。