ソフトバンク出資のeコマースサービスBigCommerceが予想どおり上場申請

予想どおり(未訳記事)、BigCommerce(ビッグコマース)が上場申請を行った(7月13日提出のフォームS1参照)。テキサス州オースティンに拠点を置くeコマース企業である同社は、未公開企業として2億ドル(約215億円)以上を調達した。申請書類のIPO調達予定金額に記載の仮数値は1億ドル(約107億円)となっていることから、調達金額が米ドルで9桁の上の方ではなく、下の方になる見込みを示している。

BigCommerceは、株式市場で人気のShopify(ショピファイ)と同様に小売業者にeコマースサービスを提供している。カナダのライバルであるShopifyに夢中な市場の投資家の様子を見れば、BigCommerceのデビューのタイミングにまったく驚きはなく、賢いようにみえる。

もちろん価格が決まればさらにいろいろわかる。とはいえ、タイミングに恵まれたようだ。

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BigCommerceはSaaSビジネスだ。つまり、定期料金を受け取ってデジタルサービスを提供する。顧客から収益を得る方法の詳細は、こちらを見て欲しい。我々にとって重要なのは、市場の投資家がSaaSビジネスを、昨今の株式取引においてということだが、非常に人気のある市場セグメントに分類しているということだ。

まず概観から始めよう。2018年と比べた2019年の業績と、2019年第1四半期と比べた2020年第1四半期の業績は以下のとおりだ。

  • 2019年、BigCommerceの売上高は1億1210万ドル(約120億円)に増加した。2018年の9190万ドル(約99億円)から約22%の増加だ。
  • 2020年第1四半期のBigCommerceの売上高は3320万ドル(約36億円)に増加した。2019年第1四半期の2560万ドル(約27億円)から約30%の増加だ。

BigCommerceは2019年にはそれほど急速に成長しなかったが、2020年第1四半期の成長ペースは非常に早い。同社は2020年第2四半期の詳細情報を含むS-1/A(すでに提出した上場申請書類の変更届)を提出すると思われる。直近の詳細な財務実績を開示せずに上場することはできない。

売上成長の加速が直近の期間でも続いているなら(eコマースセグメントが新型コロナウイルスのパンデミックの間も多くの企業にとって魅力的であると証明されたことを念頭に置きつつ)、BigCommerceのIPOのタイミングは一見、賢い選択だ。投資家は成長の加速を好む。

売上の成長から売上の質へシフトする中、BigCommerceの2020年第1四半期の売上総利益率は77.5%となり、SaaSビジネスの業績は堅調だった。2019年第1四半期の売上総利益率は76.8%で、やや悪い数値だった。それでも売上総利益率が改善したことは歓迎される。他の条件が一定なら、将来のキャッシュフローが売上高よりも速いペースで成長することを意味するからだ。

BigCommerceの2018年のGAAPベースの純損失は3890万ドル(約42億円)で、2019年には4260万ドル(約46億円)とわずかに拡大した。金額で見ると大きいが、年間売上高に対する比率では小さい。これは読者の好きに解釈すればいい。しかし、2020年第1四半期のGAAPベースの純損失は400万ドル(約4億3000万円)で、前年の第1四半期の1050万ドル(約11億円)から減少したため、状況は改善している。

BigCommerceの「ビッグコマース」ビジネスは、筆者の予想よりゆっくり成長しているが、全体的な経営状態は筆者の期待を上回った。

読者がS-1をじっくり検討する前に、他にもいくつか指摘しておく。BigCommerceの調整EBITDA(企業の収益性に関する歪んだ、偏った見方を提供する指標)は純利益と同様に改善し、2019年第1四半期のマイナス920万ドル(約9億8000万円)から2020年第1四半期のマイナス570万ドル(約6億1000万円)とマイナス幅が縮小した。

調整EBITDAと類似する指標であるキャッシュフローは、ご想像の通り、純損失の数値より悪い。BigCommerceの営業活動によるキャッシュフローは、2020年第1四半期に1000万ドル(約11億円)の流出となった。2019年第1四半期の営業キャッシュバーン1110万ドル(約12億円)からは改善した。

同社は多くのSaaS企業よりも負債が多いが、これまでのところ問題になるほどで​​はない。 BigCommerceの長期借入金(流動部分を除く)は、2020年第1四半期末の時点で6900万ドル(約74億円)強だった。それ自体は良い数字ではないが、IPOが順調に運べば大幅に減少する可能性があり、その意味では十分に小さい。なお、依然として借入金によって事業に必要な多額の運転資本を賄っている。

IPOドキュメントに記載されている投資家にはRevolution、General Catalyst、GGV Capital、SoftBankなどがいる。

画像クレジット:David Paul Morris/Bloomberg / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

ソフトバンク出資の保険販売LemonadeがIPO申請

住宅所有者と賃貸者に保険を販売するLemonade(レモネード)が米国6月8日、新規株式公開を申請した。SoftBank(ソフトバンク)やSequoia(セコイア)の部門、General Catalyst(ゼネラル・カタリスト)、Tusk Venture Partners(タスクベンチャーパートナーズ)などからかなりの資金を調達しているLemonadeが発表した業績は急発展中のインシュアテック市場に光を当てるものだ。インシュアテック市場はここ数四半期、かなりの資金を引きつけてきた。

TechCrunchは2019年初めにインシュアテック業界を特集(未訳記事)した。なぜ保険マーケットプレイスがそんなにも多くの資金を、しかも急速に引きつけているのかについてだ。Lemonadeはフルサービスの保険プロバイダーという点で、保険マーケットプレイスとは異なる。

実際、フォームS-1にはこう記載されている。

テクノロジー、データ、AI、現代的なデザイン、行動経済学を駆使することで、当社は保険をより手軽で手の届きやすいものに、そしてきめ細かく、社会的インパクトのあるものにしていると確信している。そのために、米国と欧州で全額出資の保険会社と垂直統合された会社を設立した。フルテクノロジーが会社を支える。

Lemonadeは、保険をより良いビジネスに、そしてより良い消費者プロダクトにするテクノロジーを持っているとうたっている。そそられるものだ。保険はみんなのお気に入りの商品というわけではない。保険のマージンが少なければ、素晴らしい。もしLemonadeがそのプロセスで具体的に純利益を生み出せたら二重に素晴らしい。

数字を見てみよう。LemonadeのIPO資料を紐解くと、同社は保険からいくぶんかの利ざやを稼ぐことができるが、営業コストをカバーできるには程遠い。この資料は、Zoomの驚異的な儲けの多いデビューよりもVroomの益のない上場を(未訳記事)思い起こさせる。

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申請書類によると、Lemonadeは1億ドル(約108億円)のIPO規模を想定している。この数字は不正確だが、方向性としては使える。この一時的な目標額が示すのは、同社が5億ドル超(約539億円超)ではなく、1〜3億ドル(約108〜323億円)の上場での調達を目指そうとしている可能性が高いことだ。

これまでにプライベートキャピタルで4億8000万ドル(約517億円)が投じられたLemonadeは、調達額を倍増とまではいかなくても増やそうとしている。そうした資金でLemonadeはどうしたいのか。まだ損失が出ているなら、損益の改善だ。同社が提供したチャートを詳しく見てみよう。

まず申請の最初にあった3つの棒グラフだ。

総計上収入保険料(GWP)は、販売した保険プロダクトから予想される売上高のトータルだ。想像できるかと思うが、Lemonadeが時間の経過とともにより多くの保険プロダクトを販売すると仮定すればこの数字は大きくなる。

2つめのチャートは、GWPの結果に比べて同社が正味ベースでいくら損失を出しているのかを詳細に示している。これは回りくどいメトリックで、あまり力強いものではない。LemonadeのGWPは2018年から2019年にかけて倍以上になった。しかし同社のGWPのドルあたりの純損益はずっと少ない。これは芳しくない営業レバレッジを意味する。

最後のチャートはよりポジティブなものだ。同社は2017年に徴収した保険料よりも多くの保険金を支払った。そして2019年までに保険プロダクトで利ざやが出るようになった。ここで示されているトレンドラインは堅調で、2018年から2019年にかけて急激に改善している。

そしてこのグラフもある。

好調に見える。誇るべきものとして現にマイナスのままである調整後のEBITDA利ざやの改善はユニコーンそのものだ。しかし2020年はアニマルスピリットが見られ、おそらくこれが投資家の追従を引き起こす。

とにかく数字を見よう。下に主な収入源を示した。

まずいくつかの定義。正味経過保険料とは何だろう。Lemonadeによると「総計上収入保険料(GWP)の経過した分で、再保険契約のもとにサードパーティの再保険者に引き渡された経過分を減じたもの」だ。販売前のソフトウェアの売上高のように、保険料収入は「通常、保険契約の経過比例となる」。

2つの数字が同社の売上源だ。2つの合計はかなりの成長を見せている。2018年に2250万ドル(約24億円)だったのが、2019年には6730万ドル(約73億円)と199.1%増えた。直近では、同社の第1四半期決算で、2019年の売上高が1100万ドル(約12億円)だったのが2020年には138.2%増の2620万ドル(約28億円)になった。ゆっくりした伸びではあるが、収穫不足の公開市場に成長を示すには十分だろう。

次は損失について取り上げよう。

欠損

利ざやについては少し厄介なので後で取り上げる。ここで問題になるのは、支払い能力に比べてLemonadeのコスト構造が耐えがたいものであることだ。損金は2018年に5290万ドル(約57億円)だったのが、2019年には1億850万ドル(約117億円)に増えた。直近では、2160万ドル(約23億円)だった2019年第1四半期の損金は、2020年第1四半期に3650万ドル(約39億円)に膨れ上がった。

実際のところ、Lemonadeは時間の経過とともに損を重ねるばかりのように見える。なので、同社はどのようにして成長しながらそのような大きな損失を出しているのだろうか。ここにヒントがある。

ごちゃついているが、理解は可能だ。まず営業収入が、我々が以前目にしていたGAAP売上高メトリクスといかに異なるかを見よう。営業収入はnon-GAAPの数字で、「正味資産運用収益を加える前、再保険者に引き渡された経過保険料を差し引く前の総売上」を意味する。

そうした点を別にすると、真に関心が向けられるのは調整後の粗利益だ。これは「正味資産運用収益を除外し、純損失や損害調査費、繰延新契約費、クレジットカード処理費用など他の売上コストを減じた総売上」と定義されている。つまり売上総利益を意味するが、実際のところはそうでない。うんざりする。Lemonadeがすでに調整していることを考えると、同社が第1四半期に540万ドル(約5億8000万円)しか生み出せていないのは特筆すべきだろう。

同社の第1四半期3カ月間のGAAP売上高が2620万ドル(約28億円)だったのを思い出そう。なので同社の粗利を調整すれば、売上総利益率は20%をほんの少し上回ることになる。

それが何だろうか?同社の出費はかなりのものだ。比較的利ざやが少ない売上をあげるための販売やマーケティングに第1四半期だけで1920万ドル(約21億円)を費やしている。より正確に表現すると、Lemonadeは2020年第1四半期のGAAP販売とマーケティングの28%をカバーするだけの調整後粗利益を生み出した。

いずれにせよ、同社は2019年にSoftBankから3億ドル(約323億円)を調達し、キャッシュは十分にある。実際、2020年第1四半期末時点で、「キャッシュと短期投資で3億400万ドル(約327億円)」ある。営業活動によるキャッシュバーン(1940万ドル=約21億円)を長期間維持できる。では、なぜ上場するのか。

Extra Crunchに書いたように、IPOマーケットが成長株にオープンであることをVroomが示し、そしてソフトバンクは勝つ必要があるからだ。投資家がどのような反応を示すかは今後を待つとして、このIPOは上場のタイミングを図ったもののようだ。誰がそのことについて怒ることができるだろうか。

画像クレジット: dem10 / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi

Uberが来月にもIPO申請とロイターが報道

LyftがIPOを正式申請したのに続き、UberもIPO申請書類S-1を4月に提出する見込みだ、とロイターが報じている。Uberは昨年12月にIPOのための書類を内々に提出していた。

Uberはまた、IPOに伴う動きを始動させる見込みだ。株式公開の一環として、積極的に活動したり長期間働いていたりするドライバーに報奨金を提供して株式を与えることを計画している。

1カ月ほど前、Uberは2018年第4四半期の決算を発表し、ここでは売上30億ドル、損失8億6500万ドルを計上した。しかしこの数字は税制優遇適用後のものであり、適用前は損失12億ドルだった。調整後のプロフォーマベースでは2018年第4四半期の最終損失は7億6800万ドルだった。

この数字は前期からは若干改善した。2018年第3四半期はプロフォーマベースで9億3900万ドルの損失を計上し、税引き前純損失は9億7100万ドルだった。にもかかわらず、Uberの損失は第4四半期も続いたことになる。年間ベースでは、2018年の損失は18億ドルで、2017年は22億ドルだった。

競合するLyftは今月初めにS-1を提出したが、2018年の売上は22億ドルで損失は10億ドル近くだった。S-1でLyftは、2019年2月25日時点で最低2万回の乗車を提供した“優良”ドライバーに最大1万ドルの現金ボーナス給付を計画していることを明らかにしている。

Uberは今回のロイター報道についてのコメントは拒否した。

原文へ、翻訳:Mizoguchi)