David Mayman氏は、この10年間、パーソナルな航空機のを追い求めて、10年の歳月と数百万ドルの個人資産をつぎ込んできた。彼は、ジェットパックは方向性を誤った幻想に過ぎないという大方の意見には納得していない。自身の会社Jetpack Aviationでジェットパックを作り続け、認知度を高めるためのスタント飛行をほうぼうで披露しながら、彼は人が空を飛ぶということに関しては、まだまだ夢を見る余地があると人々に訴えてきた。
それにしても、従業員8人のスタートアップで、価格38万ドル(約4300万円)の「空飛ぶバイク」を作ろうというのは、かなりの難題だ。ときどき無謀な冒険に出ることで知られる一流アクセラレーターY Combinatorは、この会社とジェットエンジンに魅せられたそのCEOに賭け、次なる投資先に決定した。
Jetpack Aviationは、まったく違う会社になろうとしている。同社は今週、大ばくちの中の大ばくちである一人乗りの垂直離着陸機「Speeder」の予約受け付けを開始した。「スター・ウォーズ」か「Halo」からそのまま抜け出したようなスタイリッシュなコンセプトデザインの乗り物だ。
【編集部注】この垂直離着陸機は、A.L.I.Technologiesが日本国内で商標登録済みで開発中の「Speeder」とはまったく関係がない。
お金持ちでSF好きな購入希望者は、最初に出荷されるバイクの予約順番待ちの列に並ぶためだけに1万ドル(約110万円)以上を支払わなければならない。しかし、このスタートアップの創設者は、これを資金集めというより、野心的な同社の将来の成功を支援したい人がどれほどいるかを確かめるためのものと考えているようだ。
「これは私たち全員にとって、実用性を宣言するものです」とMayman氏はTechCrunchに話した。「Tesla Model 3の一般販売までに長い時間がかかったことを考慮すれば、これがすぐにでも商品が手に入る、生産の最終段階で行われる予約注文としてのKickstarterキャンペーンとは性格が違うものだとわかってもらえるはずです」
まずギャンブルがあり、それからバイクができる。これはYCのスタートアップへの投資としても異例の形だが、Mayman氏にとっても、これは今までのビジネスとは違う筋道だ。彼はこの12年間、ジェットパックへの執着を自己資金で賄ってきたからだ。オーストラリア出身のCEOであるMayman氏にとって、YCの投資は、シリコンバレーのベンチャー投資家ネットワークにつながりを与えてくれるものだった。彼はまた、サンフランシスコは非常に奇抜なものを予約注文したがる企業の幹部を育てる街だと、正当に評価している。
「空飛ぶバイクに誰も興味を示さないなんて、あり得ません」とYCの共同経営者であるJared Friedman氏はTechCrunchに宛てた電子メールで語っていた。「Jetpack AviationはSpeederで未来を作りました。この技術が、過酷な通勤、旅行、そして日常の移動をどう買えるのか、楽しみです」
同社のジェットパックへの人々の関心と期待を高めるために、Mayman氏が使える手段は、大勢の報道陣の前でプロトタイプの壮観なデモ飛行を披露することしかない(Jetpack AviationがRed Bullと提携していることは意外なことではない)。ところが、Speederの飛行できるプロトタイプはまだ作られていない。彼は、この新しい投資ラウンドで実現すると話している。
本当に作れるのだろうか?これは大きな疑問だ。
私たちとの会話の中で、Mayman氏は次のことを率直に認めた。
- Speederが顧客の手元に届くまでには「少なくとも」2年の開発期間を要する。
- このモデルを出荷するためには「数千万ドル単位」の資金が必要である。
- 未知の部分がまだ山ほどある。
Jetpack Aviationの現在のデザインは、Uberなどの企業が開発を進めているヘリコプター型のコンセプトVTOL機とは違い、比較的滑らかで、人は、ジンバルで支えられた数基のジェットエンジンを搭載する本体の上に直接またがるという野心的なスタイルだ。
同社によれば、最終デザインでは、このバイクは最大速度が時速150マイル(時速約240キロ)、最大高度1万5000フィート(約4500メートル)で飛行できるという。航続時間はまだ限定的で、このモデルの場合は最長でおよを30分。同社はいくつかのバージョンを計画している。その中には、米連邦政府による規制に準拠し、パイロットの免許を持たなくても操縦できる軽量モデルもある。
当面の問題は自動安定化技術の開発だ。Speederを、簡単に安全に飛ばすには欠かせない。Mayman氏によれば、VTOL機のデザインはどれもがクアドコプター型だという。推進システムの上に重心を載せることが非常に難しいからだ。「指の上に立てた鉛筆のバランスを取るようなものです」と彼は言う。
同社では、人々にジェットパックの操縦訓練を行っている。ジェットパックはこれまでに11回のデザイン変更が加えらた。システムをうまく使いこなして飛び回れるようになるまで、およそ1週間だという。しかし、Mayman氏はこのバイクを、普通に使えるデバイスにしたいと考えている。スティーブ・ジョブズ氏がiPadのシンプルさを説明したときに、とても説得力のあったデザインコンセプトだ。だが、人がこれに乗って市街地を飛行するCG映像を見ると、ちょっと普通ではない感じを受ける。
すでに市場に存在するドローンのための自律飛行や安定化の技術では、Jetpack Aviationの眼鏡にはかなわない。しかし、Mayman氏によれば、3分の1スケールのプロトタイプでは目覚ましい進展があったという。また、複数のジェットエンジンを中央で束ねた方式が難しい場合のために「見栄えは少し悪くなるが」プランBも用意していると彼は話してくれた。
このようなコンセプトを離陸させて、会社が惨めに墜落しないためには、このビジョンが成熟する過程を柔軟に見守ることが重要だと、Mayman氏も言っていた。彼らはそのバイクに複数のデザインで臨んでいて、認可を得るための規制環境についても複数の事態を想定している。また、これとは別に軍用バージョンの開発と、高速医療救助などの緊急対応に特化したデザインも計画している。
1万ドルを支払って予約した人たちが、まったく違うスタイルの製品を手にしたときにがっかりしないかと訪ねると、最終的にほぼ同じデザインで製品化できるよう、十分なモデリングを行っているとMayman氏は答えた。「デモのCGとまったく同じとはいかないかも知れませんが、それでも、オートバイやジェットスキーほどのサイズの同系統のコンセプトに収まると私は信じています」
まだ影も形もない状態から予約を受け付けるとは、かなりユニークな決断だが、彼らは明らかにテスラを模範にしようと考えている。40万ドル近い大枚を自由にできる人が、ジェットエンジン付きのジェットスキーを買いたいと思えば、なんとしても自由市場にそれをやらせるしかない。
Y Combinatorからの15万ドル(約1667万円)の投資は、その途方もない事業の第一歩を支えるものであり、他の人たちのレーダーにも引っ掛かるように自信を持って勧める意味もある。Mayman自身は、彼が情熱を傾けるプロジェクトの野望をさらに拡大できることを純粋に喜んでいるようだ。そのビジョンを実現させるまでの道のりに、無数の障害物が横たわっていたとしてもだ。
「手を付けなければ、到達はできません」とMayman氏。「もしみんなが『すごいぞ、こんなものを作れるなんて、めちゃくちゃ幸せだよ』と感じながら毎朝目を覚ますことができないのであれば、そんなことはやる価値がありません。別のことをしたほうがマシです」
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(翻訳:金井哲夫)