企業のDXを支援するプラットフォームを手がけるKaizen Platform(以下 Kaizen)は4月1日、エヌ・ティ・ティ・アド(以下 NTTアド)とともにDXプランニングやDXコンサルティングを行う新会社・DX Catalystを設立した。
新会社は両社による合弁会社となり、NTTアドが51%、Kaizenが49%を出資する。両社の強みを活かしながら、デジタルを活用した顧客体験の改善と企業の事業成長を支援していく計画だ。
なおNTTアドは2019年1月にKaizenへ約5億円を出資済み。今回、同じく既存株主であるNTTドコモ・ベンチャーズからKaizenの株式を4月1日に追加取得し、資本提携を一層強化したことも明らかになった。この株式譲受により、NTTアドではKaizenの株式の7.3%を保有することになる(譲受前は4.2%)。
両社では2019年1月に資本業務提携を締結して以降、共同でNTTグループ内のWebサイトにおけるコンテンツの動画化、5Gを見据えた動画中心のマーケティングソリューションの開発などに取り組んできた。資本提携の強化や合弁会社の立ち上げは、今後NTTグループ自体がDXを推進していく中でそれを支えるだけでなく、より手厚く外部企業のDXをサポートすることが目的だ。
Kaizen Platform代表取締役の須藤憲司氏によると、ここ1〜2年ほどでプロダクトの機能拡張とともにエンタープライズ企業からのDXに関する相談がかなり増えているそう。今回は新会社設立にも繋がる、同社の直近のアップデートや今後の方向性について話を聞いた。
なお、あらかじめ開示をしておくと、僕は2014年から2015年にかけてKaizenで学生インターンとして働いていたことがある。
2つの軸で企業のUXを改善
現在kaizenでは大きく2つの事業を展開している。1つがWebサイトのUI改善やパーソナライズ機能の実装によって顧客体験を改善できる「Kaizen Platform」。そしてもう1つがクリエイターネットワークを用いた動画制作プラットフォームの「Kaizen Ad」だ。
Kaizen Platformは同社が初期から手がけるサービスで、ざっくり言えばSaaS型のツール(KAIZEN CLOUD ENGINE)とUX改善をサポートするクラウドソーシング型の外部チーム(KAIZEN TEAM for X)を組み合わせたもの。Webサイトにタグを設置するだけでUX開発環境を構築でき、その上で約1万人のグロースハッカーの中から自社に合った人材にサイトの改善を依頼できる。
当初はA/Bテストツールの色が強かったが、顧客のニーズに合わせてパーソナライズエンジンなど機能を拡張してきた。
そしてもう1つのプロダクトが2017年6月にローンチしたKaizen Ad。これは独自の発注システムと外部のクリエイターネットワークによって「1本5営業日、5万円から」動画を制作できるサービスだ。
須藤氏によると元々は動画広告のニーズを想定して立ち上げたが、5G時代を見据えて既存のバナーやサイトのLP、紙のチラシやパンフレットなどさまざまなコンテンツを動画化したいとの声が多く、広告以外でも幅広い用途で使われているそう。動画自体の注目度が上がっていることもあり、1年前と比べて事業も約3倍に成長しているという。
大企業におけるIT部門とビジネス部門の課題
前回紹介した2017年12月のシリーズCの頃と比べてもkaizenの基本的な部分は変わっていないけれど、プロダクトの機能拡張とともに顧客層も広がってきた。特に近年は製造業や金融を始めエンタープライズ企業のDX支援のニーズが拡大しているという。
背景にあるのは、特に大企業のIT部門とビジネス部門が直面している課題だ。須藤氏の話ではエンジニア不足の影響もあって、IT部門はほとんどの時間を「既存システムの保守運用」に使っている。そのためビジネス部門からの「こんな施策をできないか」という要求に対応しきれないのだそうだ。しかも他社との差別化を図るため要求の高度化・増加が進み、両部門のギャップは広がっている。
「そんな状況においてビジネス部門の現場では『基幹システムを触ったりする必要のある重たい施策は難しいので、まずはフロントエンドでできることをやりたい』というニーズが生まれている。そこにkaizenのソリューションが上手くはまった」
「kaizenの場合はタグを入れるだけでサイトのUI改善やパーソナライズができ、しかも外部のメンバーとチームを作ってスピーディーに施策の実行まで繋げられる。当初から第三者のグロースハッカーがしサイトを触る前提だったので、セキュリティやQA、インフラの強化に取り組んでいたことも大きかった」(須藤氏)
結果的にエンタープライズのDXプロジェクトのPoCがどんどん増え、金融機関のログイン後のUX改善などでも同社のサービスが使われているそう。事業全体として累計の取引社数は500社を突破し、顧客単価もかなり伸びているようだ(既存サービスのA/Bテストやグロースハックなどと比べると、DX案件は平均単価が3〜4倍とのこと)。
「レガシーなシステムを変えるのは大変だけど、タグを入れるだけで出来るならやりたいとの声を受けて始まった。たくさんの案件をやっていく中で、IT部門に頼むとどうしても時間がかかってしまう、組織内で人材を確保するのは難しいので外部のチームを作りたいといった悩みやニーズに気づいた。自分たちから『DXやるぞ!』とやってきたわけではなく、顧客の相談を受けてそれに対応してきた形だ」(須藤氏)
意識しているのは「DXの鴻海」
DXはかなり抽象度の高い言葉で、使われ方によっても微妙に意味が異なるけれど、kaizenにおけるDXとは「デジタルを活用して優れた顧客体験を提供することで、事業自体を成長させること」。
たとえば従来は売り切り型のビジネスをしていた企業が、サブスク型のモデルにも挑戦しようという動きが徐々に増えているが、そこでは良いものを作るだけでは十分ではなく、デジタル上で良い顧客体験を提供できなければならない。顧客体験を改善することが継続率を高めることにも繋がり、事業成長にもダイレクトに影響を与えるからだ。
今やビジネスモデルや事業の構造自体もデジタルを活用しながらアップデートしていく必要が求められている時代であり、そのサポートができるプロダクト・プレイヤーには大きなチャンスがある。
特に現在は「GAFAがさまざまな業界を変革する時代になり、多くの企業で今のままではマズイという危機感が高まっていること」と「スマホやタブレットが業務の中で使われるようになったこと」から、デジタルと遠かった業種・業界でもDXのニーズが高まっている状況とのことで、kaizenとしてもそういった企業の課題解決を進めていくことになる。
今後の戦略について聞いている中で興味深かったのが「DXの鴻海(ホンハイ)のような存在」を狙っていくという話。須藤氏の中では「鴻海はある意味製造業におけるAWSのような位置付け」と捉えているようで、今後DXが広がっていく上でも同じような役割が求められるという。
「5G時代の製造ラインはクラウド上のソフトウェアやプラットフォームになり、そこにたくさんの人が参加して活躍する時代がくるのではないかという仮説を持っている。要はデジタルプロダクトの組み立てやDXのクリエイティブな仕事のクラウド化、分散化が進むということだ。実際kaizenで活躍するグロスハッカーの8〜9割は東名阪以外のエリアに住んでいて、その現象が加速している」
「DXをしたいと思った時に、1番足りないのは人材。DXを推進できる人材や必要な機能が備わっているプラットフォームを色々な会社に提供できれば、さまざまな業界を良い方向に変えていくことにも貢献できると思っているし、プラットフォーム上で仕事を受けてくれる人にとっては新しい仕事や機会を生み出すことにも繋がる」(須藤氏)
NTTアドと連携強化で大企業の課題解決加速へ
今回NTTアドと合弁会社を設立したのも、より多くの企業をサポートすることが目的。冒頭でも触れた通りNTTアドとkaizenでは共同でNTTグループ内のDXを支援してきたが、今後は新会社を通じて両社の強みを活かしながらグループ内外のDXニーズに応えていく方針だ。
「DXの課題解決をしていると、自分たちだけでは解決できないことが山ほどある。そのための企画を片手間でやるよりは、そこに特化した会社を作った方がより効果的なサポートができると考えた。実行の部分ではkaizenのソリューションを使っても良いし、他のスタートアップのプロダクトとのコラボもありえる。それらを組み合わせながら大企業のDXのお手伝いをしていきたい」(須藤氏)