「SmartHR」利用企業が1年半で5000社を突破、8000人規模の企業での採用も

SmartHR(旧社名:KUFU)は6月19日、労務管理クラウド「SmartHR」の利用企業が、6月12日に5000社を突破したと発表した。また同時に、7月4日より、社会保険の「算定基礎届」の電子申請機能を公開することも明らかにした。

SmartHRは労務関連の書類自動作成、オンラインでの役所への申請、人事情報、マイナンバーの収集・管理やWeb給与明細などの機能を備えたクラウド型の労務管理ソフトウェア。2015年11月の正式版リリースから約1年半で、利用社数が5000社を突破したことになる。

SmartHRでは、従業員5名以下の小規模企業を対象とした「¥0プラン」を2016年9月に提供開始することで、利用の裾野を広げる一方、従業員1000人以上の企業による導入も増えているそうだ。複数店舗が多い業態の飲食チェーン、アパレル業、宿泊業のほか、農園、寺院、新聞社など、IT以外の業種での採用もあるという。

特にアパレル、飲食チェーン、宿泊業など、複数店舗が多い企業での導入が進んでいることについて、SmartHRでは「本社にバックオフィスを集約していること、各店舗の店長には労務知識がないが、本部とスタッフとのやりとりには店長をはさむことが共通している。スタッフも店長も本部も多忙で、(人事労務情報のやり取りのための)印刷代、郵送代などのコミュニケーションコストが高くついている。そうした中、SmartHRでは情報収集機能や、人事マスター機能、閲覧や操作の権限管理機能を強化していて、そこがニーズに合致したのではないか」と分析している。

5月には、飲食チェーン「てけてけ」や「the 3rd Burger」など57店舗を展開し、従業員約1700人を抱えるユナイテッド&コレクティブでの導入が発表されたほか、8000人規模の企業による採用も決定しており、その他、数千人〜1万人を超える従業員数の企業からの導入決定や検討も進められているそうだ。

また7月4日には、SmartHRに「算定基礎届」の電子申請機能が追加される。これにより、7月10日が申告期限となる「年度更新」「算定基礎届」の2つの手続きで電子申請に対応、ペーパーレス化を実現する。「年度更新」については申告と合わせて労働保険料の納付が必要だが、通常、労働基準監督署や金融機関の窓口で行う支払を、SmartHRからネットバンキングで行うことができる。さらに今回の「算定基礎届」の電子申請対応により、手続きをパソコンだけで完了させることが可能となる。

SmartHRでは、こうした機能追加・改善による各種手続きの利便性向上や、人事マスタ機能の強化に加え、今後、周辺クラウドサービスとのAPI連携強化や、業務提携による新製品開発も視野にいれている、ということだ。

HR Techの現状と未来を語る──TechCrunch School #9 HR Tech最前線 イベントレポート

人材(ヒューマン・リソース)分野へのテクノロジー適用の現状と未来を語るイベント「TechCrunch School #9:HR Tech最前線 presented by エン・ジャパン」が3月14日夜、TechCrunch Japanの主催で東京・外苑前にて開催された。HR Techサービスの提供者や人事・採用担当者を中心に100名以上の方に来場いただき、4人の登壇者の熱いトークもあって、活気あふれるイベントとなった。そのパネルディスカッションの様子をお伝えする。

まずは登壇いただいたスピーカーの4名から、各社のHR Techへの取り組み、トピックスについて紹介してもらった。モデレーターはTechCrunch Japan編集長の西村賢。

サイダス代表取締役:松田晋氏

組織内の人材の見える化と最適配置を進められるプラットフォーム「CYDAS(サイダス)」を提供する松田氏からは、今後のサービス構想について踏み込んだ紹介があった。

「人材プロファイル管理のサービスをやっていて気づいたことがある。より使いやすくするためには、人の活動データや行動情報を集めなければならないということだ。そこでソーシャルアプリで得られたデータをAIに蓄積し、CYDAS HRへ反映する、という構成のサービスを6月にリリースする予定だ(下図)。外部アプリケーションも含め、いろいろなアプリとつなぐことで、いろんなことができると考えている」(松田氏)

 

エン・ジャパン執行役員:寺田輝之氏

無料で簡単に人材採用ホームページが作成できる「engage(エンゲージ)」を提供する、エン・ジャパンの寺田氏は、HR Techで実現したいこととして「入社後活躍」の推進を挙げている。

「採用された人が入社後、会社と合わずにすぐに転職すれば、採用サービス側からしたら儲かるが、それはやっちゃいけない。絶対やらない」という寺田氏は「海外も視野に入れながらHR Techを進めている。入社後活躍につながる取り組みとして、求職者側の情報収集先として最もニーズの高い“口コミ”“企業内の採用ページ”を、それぞれ口コミサイトの『カイシャの評判』とクラウド型の採用支援システム『engage』として提供している」と話す。engageの主な利用企業はスタートアップで、うち採用サイトを用意していなかったという企業が3割になるそうだ。

KUFU代表取締役:宮田昇始氏

労務関連手続きを自動化するクラウドサービス「SmartHR」を提供するのがKUFUだ。SmartHRは労務書類の作成と電子申請を機能としてスタートしている。そのSmartHRの現況をKUFUの宮田氏が説明する。

SmartHRは現在は労務を広くカバー(下図)し、利用企業は3700社超、社員数1600名規模の企業でも導入されているという。「労務の時間が3分の1になり、担当者がリモートワーク導入など新制度の導入に時間を割けるようになったことで、社員6割の生産性が向上した例もある。現在は、SmartHR APIによって、給与計算や勤怠管理、チャットツールなど、各社の既存システムとのつなぎこみや他社ベンダーとの連携も進めている」(宮田氏)

メルカリ HRグループ:石黒卓弥氏

そして今回、HR Techのユーザーサイドとして参加したメルカリの石黒氏。メルカリでは企業情報発信に力を入れていて「サイト『mercan(メルカン)』で毎日情報発信しているので、皆さんぜひ見てください」とのことだ。

「メルカリでは“新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスを創る”をミッションに掲げ、『Go Bold』『All for One』『Be Professional』をバリューとしている。そこでHRグループとしては『当社にとって価値のある優秀なメンバーを集めること』『メンバーが思いきり働ける環境をつくること』『思い切りやったことに対して、適正に評価すること』をミッションとした」と石黒氏は言う。「ここ3四半期ほどは、入社社員の2〜3割はイングリッシュ・スピーカー。HR Techに関してはSmartHRなど、いろいろと取り入れている」ということだ。

HRツールの導入・運用コスト、どう考える?

HR領域の業務は求人・募集から入社後のタレントマネジメントまで幅広い。統合的にこれらを扱おうというパッケージもあれば、今回の登壇者企業が提供するような個々の業務に特化したサービスも存在する。HR領域の市場は、個別のサービスの長所を組み合わせた“ベスト・オブ・ブリード”モデルになるのか、それとも特定ブランド下に集約されるのだろうか?

SmartHRの宮田氏は「ユーザー側に立ったら、理想は1ブランド集約だが、いざベンダー側に立つとHRの全領域をカバーするのは無理」と話す。「確かに米国のWorkdayのように規模が大きく、扱う業務の幅も大きなサービスもある。だが、個別業務に必要な機能に対して“とがって”ちゃんと価値を提供しなければ、と思うと、網羅的なサービスにはなかなかできない。SmartHRにしても、やればやるほど奥が深く、下手に他に手を出すとどの機能も中途半端になってしまう」(宮田氏)

宮田氏が言うには「今取れるべき戦略は“とがったものをつないで使いこなす”のがいいのかな」とのこと。「労務データの入力と電子申請書類の提出だけなら単純かと言えばそうでもなく、日本の法律に沿った運用をしていると複雑な条件分岐があって、これは地道に開発を進めるしかない。SmartHRでは機能追加などについては、5社以上の要望がなければ検討に入れない。ただ、アウトプットが役所への手続きということで最終的には同じなので、同じような要望が挙がりやすい」(宮田氏)

サイダスの松田氏も「CYDASも全面展開に見えて実はそうじゃない。既存のソーシャルアプリがあるなら、それとつないでください」と言う。「CYDASが大事にしているのは情報。顧客には大手企業が多く、たいていは既にERPが導入されている状態だが、やりたいことができない、APIが提供されていない、ということでCYDASを使いたい、と言ってもらっている。使いやすいもの同士をつなげて、ちゃんと活用していけばいいんじゃないかと思うので、1社で完結していいということはない」(松田氏)

では、HRツールの存在そのものの意義についてはどうか。社員10人規模の企業でツールを入れる理由はあるのか。Excelで管理していればよいのでは?という問いに対し、宮田氏は「SmartHRについては10人未満の企業でもニーズがあると思う。導入が楽で、チャットサポートぐらいで、セルフサービスで使い始められるので、経営者の労務関連の学習コストを下げるために使われている。そういう意味ではExcel、手書き、郵送、メールが競合ツール」と答える。

労務自動化によるコストメリットについて宮田氏は「顧客にとっては金銭的なコスト削減より、時間コストの削減の影響が大きい。また経営側から人事部門に、労務事務よりも採用や働きやすい環境作りに時間をかけて欲しいという要望がある」と話す。

一方、松田氏は「CYDASは、イニシャルコストを考えれば10人規模だと必要ない」と言う。「目的に応じてつないでいく使い方ならいいと思う」(松田氏)

社員マスターをExcelで管理する企業も、特に小規模では多いが、これについてはどうだろう。

顧客企業の社員マスターを見てきた経験を、宮田氏はこう話す。「マスターとして使われてきたExcelが担当者を渡り歩くうちに“秘伝のたれ”みたいになっていって、もうその人でなければ触れないみたいなことも(笑)。データが正規化されていない状態が多い。SmartHRのユーザー企業は50名〜1000名弱の規模が多いが、導入時に半分はExcel管理で、2割は何も管理していない。うちでも3人でスタートした時には人事マスターなんてなかった」(宮田氏)

メルカリの石黒氏も、2015年に60人規模だったメルカリにジョインした際には、ツールはなく、Excelが社員マスターだった、と振り返る。「当初はExcelを使い続けていたが、ツールは一人目から入れた方がいい。これは間違いない。でも後回しにしちゃうんだよね、移行ができないから。ただ最初にフォーマットがあれば、後の人はそれに倣ってくれるので、そろえるなら早いほうがいい」(石黒氏)

顧客に大手企業も多いサイダスの松田氏は「大手でも社員マスターはけっこうみんなムチャクチャで、データの整理に時間がかかる。ツールを入れていても、実はマスターがまだまだできていないこともある。半角カナなどの影響で、元々あったERPがいたずらしていることもある」と打ち明ける。「データクレンジング専門の人事データマネジメントという仕事が出てくるかも」(松田氏)

応募・採用のミスマッチはテクノロジーで防げるのか?

続いての話題は、応募・採用について。求職者が企業の情報を検索して調べられる時代、企業はどのように情報を発信していけばよいのか。

エン・ジャパンの寺田氏は、応募と採用のミスマッチが起こる原因について「ミスマッチが起こる理由はさまざま。どう防ぐのかはアメリカでも研究が進んでいるが、採用側の企業は応募者の情報を確認することができるのに対し、求職者は意思決定するための情報を得られないという非対称がある」と話す。「企業の考え方にもよるが、engageを利用するスタートアップや中堅企業の場合、情報を出したくても出せなかったり、何を出せばいいのか分からないというケースが多い」(寺田氏)

ソーシャルリクルーティングにしてもリアルではない、と寺田氏は言う。「人事が“ココを(発信する情報として)使う”と決めて出されている採用情報は多い。ソーシャルでも自社の情報をどれだけ出せるか、どれだけ発信していくかが大事」(寺田氏)

メルカリの石黒氏は「キラキラした写真ばかりが出ている会社が多く、リアリティがない。いい社員のいいエピソードと写真を出した方が求職者も多く来るのは事実なんだけど」とミスマッチの理由について話す。「メルカリでは自社メディアmercanをつくって、10カ月運用してきた。執行役員の経歴のようなしっかりした記事もあれば、毎日のお茶目な日常の記事もあって、ありのままを伝える努力をしている。将来的にはHRソーシャル運用者を採用したい。グローバル採用が進む中で、口コミなどでイヤな体験もいい体験も表に出やすくなっているので、それをマネジメントする担当者がいればと思っている」(石黒氏)

口コミについては、寺田氏がこう話している。「口コミはどうしても評価が偏っていく。そんな中で、発信する情報全部がカッコいい必要はない。企業で、その人たちがいいと思っていることを発信すればいい。思ってもいないことを出すから合わない人が来る。自分たちの言葉で自分たちの情報を出すのが大事。ジョブディスクリプションの出し方については、海外だとglassdoorとかも参考になるかも」(寺田氏)

HR Techという観点からは、採用時に集めたデータの活用で、採用失敗の予測ができるのか、といったところも気になるところだ。API連携によって、採用後の予測ができる未来は来るのだろうか?

「入社前のデータと労務データが一緒になることで、どのメディアを経由して来た人が長続きしているかは一気通貫で見ることができるだろう」と言う宮田氏に、松田氏は「SmartHRのデータと採用適性検査などで、予測ができるようになっていくかもしれない」と期待を膨らませる。「海外ではAIと連携して分析するサービスも出ているので、そういう時代になると思う」(松田氏)

石黒氏からはHR担当の目線から「メルカリでは全員に履歴書情報があるわけではない。担当者目線では、エントリーシートの項目を増やして書かせることで情報はたまるが、書かせるATS(応募者管理ツール)は応募のハードルを上げてしまう。OCRを使った履歴書解析ツールとかがあるといいかもしれない」との希望が。

また、寺田氏は「エン・ジャパンには、知能テスト、性格価値観テストを受けた90万人のデータがあるが、テストはテスト。SmartHRなどとデータを連携して、入社後のパフォーマンスが出せれば」と話す。履歴書データと知能検査のデータを並べて管理することに関する倫理的な課題については「求職者の側にも結果の情報を提供していくのがよいと思っている。不採用の理由が性格の傾向や価値観のところで分かることは、求職者にとっても役に立つと思う。双方向に情報が見られるならフェアだし、お互いの不幸が減る」と寺田氏は言う。

採用後の人材活用とツールの使いこなし方、人事評価について

採用後の人材活用についても話を聞いてみた。ありがちなのは、採用担当と労務担当が別々で、システムも分断されているケースだ。

「確かにメルカリでも、SmartHRと採用管理システムの『Talentio』とのAPI連携は利用しているが、採用と労務とで人・システムとも現状では連携していない」と石黒氏は言う。「システム連携については、Facebookログイン機能みたいに、人事労務管理に関するキーとなるIDを扱うプレイヤーが勝てるのではないか。根っこのIDを取れば認証ができて、(役割やシステムの)分断を意識せずにやれればよいのだが」(石黒氏)

HR Techでは米国に対し、数年は遅れを取っているといわれる日本。ビッグデータを活用した組織や人材の最適化、AIの活用は今後進むのだろうか。

サイダスの松田氏は「AIを使う時代は来る。でも、人が見て何か判断しなければいけないので、システムからの通知が重要だ」と言う。「CYDASのデータとAIを重ねると、適材適所の配置とかいろいろ見えてくるものがある。でも(その配置を)決めるのは誰か。ツールを使いこなせる人だろう。自分自身は分析が好きでシステムを使い倒していると思うが、お客さんは違う。なので(お客さんがツールを使いこなしやすいように)システムを作り直している」(松田氏)

エン・ジャパンの寺田氏は「仕事は、どの会社でも異なるタスクの集合体になっていて、タスクとタスクは重なり合っている。人間の仕事をAIに置き換えられるとはいっても、実は兼任などの重複カバーを考えると置き換えは難しい」と採用の観点から、業務の切り分けの難しさとテクノロジーによる人材活用との関係について話す。「人材を活用するためには、タスクの可視化を、それぞれの企業や人事担当が分かっていなければならない。日本では難しいとされるジョブディスクリプションが発展していくと、AIの導入もしやすいかも」(寺田氏)

HR Techの遅れを取り戻すにしても、北米発祥のグローバル企業のツールは、日本企業の風土に合うのだろうか。

メルカリの石黒氏はこの点について「複雑な問題だ。日本企業の人事担当者に英語が得意な人がいないとか、『このボタンは右にあった方がいい』といったカスタマイズを要求する(がベンダーはカスタマイズを入れたがらない)とか、そういう課題もあるし、日本独特の労働法の問題もある」とした上で「だが、使えるものも多い。使わずにあれこれ言うのはいけないと思う」と話す。

また、ツールそのものをHR部門で使いこなすことにも課題がある。たとえば目標管理ツールの導入で、方法論まで一緒にインストールすることはできるのだろうか?

石黒氏は「ツールが使いやすければいいが、評価のためだけに四半期に1回しか使わないツールはいつまでも使いこなせないと思う。書かないと給料がもらえない、とか能動的でない理由で使っているのでは、結局“Excelが最強”ということになってしまう」と話す。また人事管理ツールでは、しばしば権限設定の複雑さに問題が出ると石黒氏は言う。「性善説に立って、評価される方が権限を設計できるようにしちゃえばいい。人事部がやろうとして複雑すぎるから“やめた”ということになる。もっとみんなが積極的に使いたくなるツールになればいい」(石黒氏)

松田氏も同様に「目標管理ツールは、毎日、毎週ログインするものと連携して、使える形の方がいい」と話す。「ただ、そうなってくると会社の(評価)制度の問題になってくる」(松田氏)

ツールの使いこなしについては、会場からも質問があったのだが、石黒氏は「ツールを使うのが好きであること、目的を見失わないことが大事。人事に携わって、いろいろないい経験やイヤな思いを持っている人が、システムのデザインをやるといい」と答えている。また宮田氏は「ツールの使い方で言えば、技術的な知識はいらないと思っている。API連携も簡単になっていく」と話していた。

日本のHR Techの未来を一緒につくりたい

ディスカッションの最後に、日本のHR Techの未来について、スピーカーから一言ずつコメントいただいたので紹介する。

「今後労働人口が半分になり、採用が激化して、人事の仕事のステータスは上がるだろう。そうした中で、なるべく業務を効率化し、付加価値の高い人事制度の設計や、採用設計に時間を使って欲しい」(SmartHR 宮田氏)

「HRのSNS運用や、HRデータサイエンティストの分野にはお金がまだ流れていない。ここにチャンスがある。人がまだやっていない逆説的なキャリアを歩むのもよいのではないかと思う」(メルカリ 石黒氏)

「中堅企業の採用が変われば日本は変わる。オフィシャルな情報をもっとオープンにしていってもらいたい。HR Techは人事本来の業務に集中できるのが利点。一緒に活用法をつくらせてもらえればと思う」(エン・ジャパン 寺田氏)

「一番大切なのは、システムって使う人も楽しくなければ、ということ。人事の人がいかに楽しく仕事ができるのか、ということを一緒に進めていければと思う」(サイダス 松田氏)

労務管理クラウド「SmartHR」に社労士向け機能、公認アドバイザー制度も開始

SmartHR for Adviser

KUFU(クフ)は9月26日、労務管理クラウド「SmartHR」に社労士向け機能を搭載した「SmartHR for Adviser」の提供を開始した。またこれと同時に、「SmartHR公認アドバイザー制度」を開始した。

「社労士とともにサービスを伸ばす」というメッセージ

SmartHRは、労務関連の書類自動作成、オンラインでの役所への申請、人事情報、マイナンバーの収集・管理やWeb給与明細などの機能を備えたクラウド型の労務管理ソフトウェア。これまで中小企業を中心にサービスを展開してきたが、SmartHR for Adviserの開始により、社労士向けの機能も拡充。社労士が顧問契約している中堅から大手の企業にも利用を拡大していく構えだ。

スタート時点では、社労士が顧問先の複数の企業を1アカウントで閲覧・管理できる機能が提供される。また、これまで役所へのオンライン申請時には、企業に特定の社労士を紹介してその電子証明書を利用していたが、これを一般の社労士にも解放。自身が所有している電子証明書を使って、顧問先企業の社会保険・雇用保険の手続きをSmartHR上から電子申請することが可能となった。

今後は、顧問先企業の離職率を経時変化や世間動向との比較で確認できたり、制度が変わりやすい助成金の受給要件に合致しているかどうかなど、タイムリーに情報を把握できる機能などを拡充していくという。

「SmartHRは、社労士の仕事を奪うのではないかと考えられているが、我々はリリース当初から一緒にうまくやりたいと思っていた」とKUFU代表取締役の宮田昇始氏は話す。「例えば、クラウド会計ソフトのfreeeが登場した時には、『税理士の仕事がなくなる』という見方があったが、今や税理士がfreeeを利用して企業にも紹介している。うまくやれているサービスは専門家と競業しないと考えていた。実際、SmartHRも初めは中小企業をターゲットにサービスを展開してきたが、すでに社労士を顧問に持つ中堅以上の企業での併用も多くなってきた。さらに、社労士が顧問先企業にSmartHR導入を勧めるケースも増えている」(宮田氏)

今回のSmartHR for Adviser提供は「社労士といっしょにサービスを伸ばしたい」というKUFUからの正式なメッセージでもある、と宮田氏は言う。「多くの社労士は顧問先を月次で訪問していて、少ない情報と短いコミュニケーションの中で、スタンダードな提案しかできないのが現状。我々のサービスを使ってもらうことで、個々の顧問先企業に寄り添った、よりよい提案ができるように支援していきたい」(宮田氏)

またKUFUでは、SmartHR for Adviserと同時に「SmartHR公認アドバイザー制度」開始も発表した。SmartHRの導入企業からは「SmartHRが使いこなせて労務相談もできる社労士を紹介してほしい」との要望が多く、中には上場直前といった規模の会社でも「社労士を紹介して」との声があるのだという。これまでも個別では紹介してきたということだが、制度化によって、SmartHRへの理解が深い社労士を公式に育成・紹介していく形をとる。

制度開始にあたり、KUFUでは社労士向けの無料セミナーを随時開催し、参加した社労士をSmartHR公認アドバイザーとして認定していく。企業への社労士の紹介料は無料。社労士側も紹介料、加入料金、月額料金などの費用は不要だ。

労務管理をDisruptするサービスを

KUFUでは先日、従業員5名以下の小規模企業向けにSmartHRの¥0プランを発表したばかりだ。このときにも「大企業向け機能の強化も同時に進めることで、収益増を図る」としていたが、今回の社労士向け機能の解放も、エンタープライズ企業向けサービス強化の一環だと宮田氏は言う。

「¥0プランは、社労士顧問契約など結べない小さな企業にも、とにかく使ってもらいたいということで間口を広げた。そうして会社が成長していく中で、社労士に労務環境をチェックしてもらったり、相談する場面が増えてきたときに、公認アドバイザーと手を組んで共に歩んでもらい、ゆくゆくは大きな成長を遂げてもらえれば、我々のサービスも有償で使ってもらえることになる」(宮田氏)

大企業の場合、雇用形態のバリエーションが多く、手続きはより煩雑で、労務担当者が一人ではないことも多い。こうした大企業特有の環境に合わせて、雇用形態別の書類出し分けや、担当者の権限が設定できる機能、組織に合わせて従業員データベースをカスタマイズできるような機能も追加を準備しているそうだ。また2016年5月に公開したAPIを利用した、社内システムや各社のクラウドサービスとの連携もどんどん進める、という。「2016年10月には、さらに大企業にうれしい機能を提供する予定だ」(宮田氏)

2016年初めのインタビューでは「2016年内に3000社、2017年内には2万社の導入を目指す」としていた宮田氏に、その道程を聞いたところ「2016年5月の時点で1000社、現時点で2000社を超える登録を獲得しており、2016年内の目標は4000社に上方修正した。さらに少し先になるが、2019年末には20万社の登録を目指す」と答えてくれた。今月、サンフランシスコで開催されたTechCrunch Disrupt SFに絡めて、宮田氏はこう話す。「Disrupt(破壊)という言葉が気に入って。¥0プランにしてもfor Adviserにしても、とにかく門戸を開いて、多くの企業に使ってもらって広げていく中で、企業、社労士、KUFUの三者が喜べる形にしていきたい。Disruptしたいですね」

労務管理クラウド「SmartHR」に小規模企業向け0円プランが登場—大企業向け機能の強化で収益化図る

SmartHR

KUFU(クフ)は9月12日、労務管理クラウド「SmartHR」に従業員5名以下の小規模企業を対象とした「¥0プラン」の提供を開始した。

SmartHRは労務関連の書類自動作成、オンラインでの役所への申請、人事情報、マイナンバーの収集・管理やWeb給与明細などの機能を備えたクラウド型の労務管理ソフトウェア。TechCrunch Japanが開催するイベント「TechCrunch Tokyo 2015」のスタートアップバトルで優勝を果たしたことでも話題になったこのサービスは、2015年11月のリリースから9カ月の2016年9月現在、1800社を超える企業が登録している。

その登録企業のうち、一定数を従業員が5名以下の小規模企業が占めるという。こうした企業では、労務管理や手続きを経営者が行うケースが多く、労務に関する書類作成の時間コストや、手続きに必要な情報を調べたり教わったりするコストが負担になりやすい。一方で従業員数が少ないうちは労務手続きが頻発するわけではないため、月額制のサービスを利用すると割高になる恐れがある。

「¥0プラン」はこうした小規模企業が、SmartHRの主要機能を無料で利用できるプランとなっている。無制限でサービスが利用できる15日間のトライアル期間終了後に制限される機能は、「メール&チャットサポート」、「書類の印刷代行機能」、「役所への電子申請機能」の3つで、役所への電子申請機能については将来的には解放を検討しているそうだ。

また従業員数1000名を超えるエンタープライズ企業の引き合いも増加する中、KUFUでは「権限管理のカスタマイズ」や「従業員データベース機能の強化」、「外国人雇用に必要な書類への対応」など、SmartHRの大企業向け機能の強化も進めることで、¥0プランのリリースとバランスを取り、収益化を図っていくという。

2016年9月12日現在の従業員数別プラン体系と料金(年間一括払い時の月額換算、税抜)は以下のとおり。

  • ¥0プラン(〜5名) 0円(一部機能制限あり)
  • MICROプラン(〜5名) 980円
  • SMALLプラン(〜15名) 3,980円
  • MIDIUMプラン(〜30名) 9,800円
  • LARGEプラン(〜50名) 19,800円
  • ENTERPRISEプラン(51名以上) 別途見積り

KUFUでは¥0プランの提供により「社会保険・雇用保険の手続きを後回しにせざるを得なかった小規模企業でも、本来行われるべき手続きが進むことを期待する。経営者は本業に、人事担当者は採用や制度づくりに集中でき、そこで働く従業員はよりよい環境で安心して働くことができる、という社会を実現していきたい」としている。

労務管理クラウド「SmartHR」運営のKUFU、WiLなどから5億円の資金調達——すでに1700社が利用

左から500 Startups Japanの澤山陽平氏、James Riney氏、KUFUの宮田昇始氏、WiLの難波俊充氏

左から500 Startups Japanの澤山陽平氏、James Riney氏、KUFUの宮田昇始氏、WiLの難波俊充氏

Open Network Lab(Onlab)10期卒業生であり、そのデモデイで最優秀賞を受賞。その後はTechCrunch Japanが開催するイベント「TechCrunch Tokyo 2015」のプレゼンコンテストである「スタートアップバトル」をはじめ数多くのイベントで優勝を果たしたことでも話題を集めたのがクラウド型労務管理ソフトウェア「SmartHR」を運営するKUFU。そんな同社が大規模な資金調達を実施した。

KUFUは8月30日、WiL、BEENEXT、500 Startups Japanおよびコロプラ元取締役副社長の千葉功太郎氏、エウレカ共同創業者で元代表取締役CEOの赤坂優氏、エウレカ共同創業者で取締役副社長COOの西川順氏を引受先とする総額5億円の第三者増資を実施したことを明らかにした。なお、赤坂氏、西川氏が立ち上げたエウレカは、SmartHRエンタープライズ版の最初の導入企業でもある。

KUFUは2013年の創業。クライアントワークを行いつつ自社サービスを検討する中でOnlabに参加。自身が労務手続きで苦労した経験から、社会保険や雇用保険の手続き自動化を行うSmartHRが生まれた。

SmartHRは労務関係の書類の自動作成から、手続きのToDoリスト化、オンラインでの役所への申請、人事情報の管理、マイナンバーの暗号化保存などの機能を備える。2016年8月現在、IT企業を中心に1700社がサービスを導入。利用継続率も98%と好調だ。当初は10人規模の比較的小さなスタートアップをユーザーとして想定していたが、いざサービスを提供してみると、50〜200人規模の中小企業にも好評なのだという。

「会社のフェーズによって担当者や抱えているニーズが違うことが分かってきた。10人未満の会社では、社長が労務管理を行っている。そうなると書類が自動で作成でき、オンラインで申請までできるということ、そしてそもそも労務まわりの学習コストが下がることが評価されている。10〜30人規模になるとバックオフィスの専任担当者がいるが、その場合は効率化のためにSmartHRを利用する。50人以上にもなると、今度は管理のコストが大変なことになるので、プロジェクト管理ツール、人事管理ツールとしても使う様になる」(KUFU代表取締役の宮田昇始氏)

KUFUでは今回の調達をもとに、開発や営業人員の増員進める。開発面では、大規模な組織について対応するための細かな管理機能を強化するほか、社会保険労務士(社労士)向けの機能を開発・提供していく予定だという。「サービスは口コミを中心に広がっているが、企業が契約する社労士から導入を進められるというケースもある。今後は街の社労士を味方に引き込んでいきたい」(宮田氏)。エンタープライズ向けの営業についても進めていく。マーケティング施策も強化する。

また最近では「ヘルプの文言やボタンの名称までコピーした競合サービスも出てきた」(宮田氏だが、「競合が市場を開いてくれているという意識もある」「SmartHRは社労士法人も持っており、ユーザー企業が電子申請の際にわざわざ電子証明書を取得する必要がないなど、システム面での優位性も高い」(宮田氏)だと語る。同社は2019年に20万社への導入を進めるとしている。

余談だが、KUFUも登壇してくれたTechCrunch Tokyoのスタートアップバトルは今年も開催予定。登壇を希望する創業3年未満、サービスローンチ1年未満のスタートアップはこちらを読んで是非とも応募して欲しい。

労務管理クラウド「SmartHR」運営のKUFUが資金調達、あわせて社労士法人を立ち上げ

kufu

2015年11月に開催したイベント「TechCrunch Tokyo 2015」。その目玉企画である、創業3年未満・サービスローンチ1年未満のスタートアップ限定のプレゼンコンテスト「スタートアップバトル」で優勝したKUFU。労務クラウドサービス「SmartHR」を提供する同社は1月27日、East VenturesおよびDGインキュベーション、Beenextの3社を引受先とする第三者割当増資資を実施したことをあきらかにした。金額や出資比率は非公開だが、数千万円程度と見られる。同社は今回の調達をもとに開発やサポートの体制を強化する。

またKUFUではこれにあわせて、SmartHRの運営に携わる社会保険労務士(社労士)の 海野慶子氏が「社会保険労務士法人スマートエイチアール」を立ち上げたことを明らかにしている。

これまでにも紹介している通りだが、SmartHRは社会保険や雇用保険など、労務に関わる手続きを自動化するサービスだ。各種の手続きに応じて、画面上のフォームに必要事項を入力していけば、書類を自動作成できる。総務省が提供する電子政府「e-Gov」の外部連携APIと連携することで、今冬にもウェブから役所への申請も可能になる予定だという。料金は従業員数にあわせて月額980円から。以前、サービス開始から3カ月半の導入企業数が200社以上と聞いていたのだが、現在その企業数は480社にまで増加。売上も月次約170%のペースで成長しているという。

例えば税務会計ではfreeeやMFクラウド会計といったクラウドサービスが登場し、税理士がこれらのサービスに対応していくという動きがあるようだが、SmartHRの登場によって、社労士でも同様の動きがあるという。つまり、社労士の仕事を奪うのではなく、社労士の仕事をクラウドサービスでサポートするということだ。実際従業員数50人以上の企業の多くが社労士とアカウントを共有してSmartHRを利用しているという。

KUFU代表取締役の宮田昇始氏によると、最近は社労士から「社労士事務所向けの管理画面を作って欲しい」という要望も届くのだそうだ。最近ではサポートにも注力しており、実績をサイト上で公開するなどの取り組みも行っている。また社労法人スマートエイチアールでは、社会保険労務士の視点からSmartHRの導入を支援していく。今後はKUFUと協力してSmartHRの改善を図っていくほか、社労士向けの機能の提供も進める。

KUFUでは今後、SmartHRで対応する手続きを拡充。さらに人事情報管理システムの強化を進める。同社は2016年内に3000社、2017年内には2万社の導入を目指すとしている。