Netflix社員がトランスジェンダーの連帯を受けてストライキと要求リスト提示を計画

米国時間10月20日、Netflixの従業員が10月5日に封切られたデイヴ・シャペル・スペシャルに対する同社の取り扱いをめぐってストライキを行った。それと同時にロサンゼルスのトランスジェンダー活動家Ashlee Marie Preston(アシュリー・マリー・プレストン)氏が、ストライキに参加しているNetflixの従業員への連帯集会を主催した。その集会のために作られた動画では「Queer Eye(クィア・アイ)」のJonathan Van Ness(ジョナサン・ヴァン・ネス)や「Cowboy Bebop(カウボーイビバップ)」と「The Sandman(サンドマン)」のMason Alexander Park(メイソン・アレクサンダー・パーク)といったNetflixのスターたちが、その他のハリウッドスターや、Angelica Ross(アンジェリカ・ロス)、Jameela Jamil(ジャミーラ・ジャミル)、Kate Bornstein(ケイト・ボーンスタイン)、Our Lady J(アワー・レディ・J)、Sara Ramirez(サラ・ラミレス)、Peppermint(ペパーミント)、Colton Haynes(コルトン・ヘインズ)らのトランスジェンダー擁護者とともに連帯を表明した。

Netflixの広報担当者は「私たちはトランスジェンダーの同僚や協力者を大切に思っており、ストライキを行った社員の決定も尊重します。また私たちは、Netflixのコンテンツ内にも、やるべき多くの仕事があることも認識しています」とTechCrunchに述べている。

従業員のストライキや連帯集会の正確な参加者数は不明だが、プレストン氏が先手を打ってもっとスペースのある場所に移動させたことで、周辺では大きな騒ぎとなった。

ストライキに参加した従業員が求めているのは、Netflixが「トランスフォビアやヘイトスピーチのプラットフォームにならないための対策を講じること」と書簡に記している。彼らは、コンテンツへの投資や従業員関係、安全、被害の縮減などの分野でNetflixが対応すべき要求のリストを作っている。

コンテンツでは、Netflixがトランスジェンダーやノンバイナリーの人材への投資を増やすことと、有害の可能性のあるコンテンツに関しては話し合いに被雇用者専門集団を参加させること、製作担当役員としてトランスとノンバイナリーを増やすこと、センシティブな作品については検討委員会の内部手続きを改定することを要求している。従業員関係と安全については、トランスやBIPOC(黒人、先住民、その他有色人種)を上級管理職に雇用することと、ダイバーシティや差別解消の宣伝動画への出演を拒否(あるいは前作からの消去)できること、そしてトランスフォビックのタイトルやタレントの利用を避けることが求められている。被害の縮減に関しては、Netflixがトランスフォビックのプラットフォームなることによって加害者になることを認め、そんなタイトルを使う場合は免責事項があること、トランスを肯定するタイトルに変えること、反トランスとされている作品については、トランス肯定のコンテンツを提案せよとしている。

要求には、今回の騒動の元となったデイブ・シャペル・スペシャルのNetflixからの削除は含まれていない。それは最初、トランスフォビック発言のプラットフォームになることを懸念する一部のNetflix従業員と会員からの反発を浴びた。

The Hollywood Reporterのインタビューで、共同CEOのTed Sarandos(テッド・サランドス)氏は、要求への応否を明言しなかった。

「この2、3日の間、人々の声に耳を傾け、彼らがどう感じているか、何を望んでいるかを聞き出すことに専念してきました。私たちは、スクリーン上でも、カメラの後ろでも、そして職場においても、インクルージョンに深くコミットしていることをお伝えしたいと思います」とサランドス氏は述べた。

ストで不在です。

シャペルの特別番組の前にトランスフォビアに関する免責事項を追加して欲しいという要求に対してサランドス氏は、あまり乗り気でないようだった。

「コンテンツにすでに年齢制限があり、番組の冒頭でデイブ自身がはっきりと警告しているため、これに関しては不要だと思う」とサランドス氏はいう。

Netflixがシャペル・スペシャルを公開する前から、従業員たちは反トランスのジョークがあることに懸念を表明していた。シャペルは、自分が「チームTERF」であると宣言し、トランスジェンダー運動に反対する女性過激集団の名を具体的に挙げていた。しかしサランドス氏は社内のメールでもその特別番組を擁護し「画面上のコンテンツが現実の害になることはない」という。しかし批判を浴びた彼はその後のThe Hollywood Reporterで「画面上のコンテンツが現実世界でインパクトを持つこともありうると、私は100%信じている。肯定的なインパクトもあれば、ネガティブなインパクトもある」という。

カリフォルニア州ロサンゼルス、10月20日。トランス派の従業員と賛同者たちがカリフォルニア州ロサンゼルスで、2021年10月20日にデイヴ・シャペル・スペシャルに抗議してNetflixでストライキを行い、その壇上でライターで監督のJoey Soloway(ル・ソロウェイ)氏がスピーチしている。Netflixが放映を決めたシャペル・スペシャルには、トランスジェンダーの人たちに関するジョークがあり、すでに一部の従業員が懸念の声を上げていたにもかかわらず、会社はそれを無視した。(画像クレジット:Rodin Eckenroth/Getty Images)

自身もトランスジェンダーであるNetflixのシニアソフトウェアエンジニアTerra Field(テラ・フィールド)氏が、シャペル・スペシャルに関するバイラルなスレッドをツイートしている。

私たち自身は被害者でもなければ、神経過敏でもない。私たちが反対しているのは、今後このようなコンテンツがトランスのコミュニティに及ぼす被害に対してだ。特に有色のトランス、トランスの黒人女性への悪影響が大きい

報道によると、フィールド氏はその後、他の2人の社員とともに、トップのオンライン会議に出席しようとしたため、停職処分を受けました。しかし、Netflixは、ある取締役が会議のリンクを彼女と共有し、出席しても問題ないことをほのめかしていたことを発見し、彼女を復職させた。取締役級の上司同伴ならOKのようだ。

 

真実も多少はある。Netflixは多くの人の生活を変えたすばらしい企業だ。Netflixは大失敗を犯した。しかし、ここが分岐点だ。Netflixの社員としての私たちには、このプラットフォームの上や外に変化を作り出す特権と責任がある。

そのすぐ後に、Netflixのトランス社員のリソースグループがストライキの組織化を開始した。しかし、その組織者で、黒人とトランス両方の社員のリソースグループのグローバルなリーダーであるB. Pagels-Minor(B・ページ-マイナー)氏たちは、米国時間10月15日に解雇された。これらの解雇で、Netflixに対する反発は一層激化した。

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先週、Netflixの代表者はTechCrunchに対して「当社は、商業上の機密情報を社外で共有した従業員を解雇しました。この社員がNetflixへの失望や被害が動機となっていることは理解していますが、信頼と透明性の文化を維持することは当社の中核をなすものです」という。

TechCrunchはB・ページ-マイナー氏らに接触できたが、彼らのコメントは得られなかった。

その問題のリーク情報は、Bloombergの記事に登場する「The Closer」に関する内部的な数字のようで、Netflixはその1回かぎりの特別番組に2410万ドル(約27億4000万円)を投じたという。一方、同社はBo Burnham(ボー・バーナム)の最近のコメディ・スペシャル「Inside(明けても暮れても巣ごもり)」に390万ドル(約4億4000万円)、9話で構成される大人気の「Squid Game(イカゲーム)」には2140万ドル(約24億3000万円)投じた。後者は、Netflixのデビュー番組としては過去最高の視聴率だった。

Netflixによると、その社員はコンテンツを外部にシェアしたことを認めた。しかしページ-マイナー氏の弁護士がThe New York Timesに今週語っているところによると「ページ-マイナー氏はセンシティブな情報をプレスにリークしたことを強く否定している」という。この状況に詳しいNetflix社員によると、ページ-マイナー氏がこれらの文書をリークしたことは非常に疑わしいとみんなが思っているという。なぜなら、2人とも上場企業のチャットでリークすることには批判的だったからだ。

Netflixによると、同社の内部的アクセスのログによると、Bloombergの記事の中で言及されている番組に関するセンシティブなデータを見た人物は1人だけだったという。

画像クレジット:Al Seib/Los Angeles Times/Getty Images

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hiroshi Iwatani)

Netflixがトランスジェンダーの従業員によるストライキを計画した社員を解雇

Netflix(ネットフリックス)は、同社のトランスジェンダーの従業員リソースグループを率いて10月20日にストライキを計画していた社員を解雇したことを、事情を知るNetflixの現および元社員がTechCrunchに認めた。この解雇については、The Verge(ザ・ヴァージ)が最初に報じた

Netflixの従業員は、共同CEOであるTed Sarandos(テッド・サランドス)氏が、最近公開されたDave Chappelle(デイヴ・シャペル)の特別番組「The Closer(デイヴ・シャペルのこれでお開き)」について発言したことに抗議するため、ストライキを計画していた。Netflixは、この従業員を解雇したのは、内部情報を漏洩した疑いがあるからだと主張している。

「当社は、商業上の機密情報を社外に漏らした従業員を解雇しました」と、Netflixの担当者はTechCrunchに語った。「この社員の動機が、Netflixに対する失望と心の痛みであろうことは理解していますが、信頼と透明性の文化を維持することは当社の中核をなすものです」。

問題となっているリーク情報は、Bloomberg(ブルームバーグ)の記事に掲載された「The Closer」に関する内部指標のようだ。Netflixはこの一回限りのスペシャル番組のために2410万ドル(約27億5000万円)を費やしたと報じられている。これに対し、Bo Burnham(ボー・バーナム)が1人で制作した最近のコメディ特番「Inside(ボー・バーナムの明けても暮れても巣ごもり)」には390万ドル(約4億5000万円)、Netflix史上最高のヒット作となった「イカゲーム」は全9話分で2140万ドル(約24億5000万円)を投じたという。

今月初め、Netflixが「The Closer」の配信を準備していた際、従業員たちから番組中に有害な反トランスのジョークが含まれているのではないかという懸念が寄せられた。シャペル氏は、性別と生物学的な性を結びつけ、トランスジェンダーの権利を求める運動に反対する「Trans-Exclusionary Radical Feminists(超排他的急進フェミニスト)」を意味する「チームTERF」であると公言するほどだ。Netflixがとりあえず10月5日にこのスペシャル番組を配信したところ、社員やサービス加入者の中から、Netflixに対して怒りが噴出した。

このスペシャル番組が公開された翌日、NetflixのソフトウェアエンジニアでトランスジェンダーであるTerra Field(テラ・フィールド)氏は、反トランス的な表現の影響について、拡散された一連のスレッドをツイートした。「TERFのイデオロギーを促進することは(昨日、私たちがプラットフォームで行ったことですが)、トランスの人々を直接傷つけることであり、中立的な行為ではありません。これは二者択一の議論ではありません。生きていたいトランスの人々と、私たちに生きていてほしくない人々との議論なのです」と、フィールド氏は書いている。

その直後、Netflixは、招かれていない取締役レベルの会議に出席しようとしたとして、フィールド氏と他の2人の社員を停職処分にした。しかし、フィールド氏は、悪意を持って会議に出席しようとしたのではなく、実際には1人の取締役がリンクを共有していたため、会議に出席できると思い込んでいたことが判明し、翌日には復職させられた。

しかし、Netflixの社員の中にはうんざりしている人もいた。特に、共同CEOのテッド・サランドス氏が社員に宛てたメールの中で「スクリーン上のコンテンツが現実の害に直結するわけではない」と書いたからだ。サランドス氏は、続けて「私たちは「Sex Education(セックス・エデュケーション)」、「Orange Is the New Black(オレンジ・イズ・ニュー・ブラック)」、「Control Z(コントロールZ)」、Hannah Gadsby(ハンナ・ギャズビー)やデイヴ・シャペルの番組などを、すべてNetflixで配信しています。重要なのは、コンテンツチーム自体の多様性を高めることです」と書いている。

エミー賞を受賞したNetflixのスペシャル番組「Nanette(ナネット)」で有名なレズビアンのコメディアンであるハンナ・ギャズビーは、サランドス氏が自分をNetflixの性的少数者に対する包括性の象徴として描こうとしていることに反論した。

「テッド、あなたが認めようとしないヘイトスピーチの口笛がもたらす現実世界の影響に対処するために、私には十分な報酬が支払われていません」と彼女はInstagram(インスタグラム)に書いた。「あんたとあんたの道徳的アルゴリズム儀式なんかクソ喰らえ」。

Netflixがトランス系社員によるストライキの立案者を解雇して炎上を煽る中、同社に反感を抱く人たちの中には「cancelnetflix.com」というリンクを投稿し、Netflixの解約方法が書かれたヘルプページに人々を誘導しようとする動きが広まっている。

NetflixのLGBTQ+アカウントであるMostは「私たちはみなさんのコメントをすべて読み、より大きく、より良い、性的少数者の表現を提唱し続けるために活用しています」とツイートした。「OK、もう私たちに怒鳴るのに戻っていいですよ」。

画像クレジット:TechCrunch

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(文:Amanda Silberling、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

【コラム】プライド月間の6月を終えて、テック業界のステレオタイプな男性的文化との戦い

「ゲーム」と呼んでいるものを始めたのは4歳のときだった。学校でコスプレの時間があり、衣装箱に駆け寄った私の肩を先生が掴んだ。先生は私の顔を見てこう言った。「これは女の子の衣装。男の子の衣装はあっちだよ」。

私は何が悪いのかわからず困惑した。ただ「ああ、世の中にはルールがあるんだな」と思ったのを覚えている。その瞬間から、私は多くの人が参加しているゲームのルールに従うようになった。学校や職場、社会全体で何が許容され、どのように振る舞うべきかを規律する、不文律のゲームだ。

私はこのゲームに従い、自分の「ゲイらしさ」を抑えてきた。20代でカミングアウトした後でさえも。仕事を始めたばかりの時は特にそうだった。初めて参加する会議やビジネスの取引があるたびに、どの部分が「OK」で、どの部分が人を遠ざけるのか、線引きはどこなのかを常に先読みしていた。

そういう意味では、私が拠り所とするテック業界に蔓延しているステレオタイプの男性的な「ブログラマー」文化は、私にとって大きな驚きではない。誰もが自分の核となるアイデンティティを隠そうとして、集団の型に合うように必死でエッジを削っていれば、少数派の声がかき消されるのは必然だ。この図式から得られる結果はこうだ……大きな変革を起こす者が集うはずの、イノベーションの艦隊であるはずのシリコンバレーは委縮していく。

プライド月間と先日行われた祭典は、ブログラマー覇権主義に対する解毒剤になる。虹を象徴とするプライドは、自由であり、真実であり、何にも縛られないすべての者の豊穣の角(豊かさの象徴)である。プライド月間が終わりに近づいた今、私の最大の希望は、プライド月間だけが持つ偏見のないエネルギーで、さらに意義のある変化を引き起こすことである。

まず自分のチームのために行動する

私はプライドとそれにともなう意義深い行動を心から愛しているが、一部のブランドが形だけの行動をしていることは否めない。企業がマーケティングのためにレインボーフラッグを利用し、必ずしも自分たちの身近なところで具体的な変化を起こさないという「パフォーマティブ・アクティビズム(流行に合わせて表面だけのアクティビズムを行うこと)」が増加している。口先ではプライドを支持しながら、裏では反トランスジェンダー法案を推進する政治家を支援する企業も増えている。

もしあなたが職場の多様性に真剣に取り組むリーダーであれば、まず自分のチームを支援できるように内部に目を向けよう。従業員が、性別、人種、性的指向、さらには服や音楽の趣味といった付随的な属性に関係なく、十分に満足していられる文化を作るにはどうすればいいだろうか。

2019年に行われたイェール大学公衆衛生大学院の調査によると、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルを自認している人のうち、推定83%が日々の生活で自分の性的指向をすべての他人、またはほとんどの他人に秘密にしているという。

この抑圧は職場ではさらにひどくなる。テック業界では特に顕著で、無数の差別的行動が日常茶飯事となっている。職場向けの匿名チャットアプリ「Blind」の調査によると、LGBTQの技術系社員の約40%が、職場で同性愛者差別やハラスメントを目撃したことがあると回答している。

多様性に関する年次報告書によると、大手テック企業では、他の業界に比べて女性や過小評価グループ(ある集団において、全世界における人口比よりも小さな割合しかもたないグループ)の雇用が非常に少ないこともわかっている。#SiliconValleySoWhiteというハッシュタグで共有されている何千何万もの個人的な体験談にもあるように、この業界では日常的に、文化的に少数派のグループに属する人を「ダイバーシティ採用」と称して、給与や昇進などあらゆる面で差別を行っている。さらに、Bloomberg Technologyのキャスターであり、著書「Brotopia」でシリコンバレーの男性優位主義の文化を暴いたEmily Chang(エミリー・チャン)は、この業界は女性を疎外するように仕組まれていると話す。

これらの問題は簡単に解決できるものではないが、私は「自分らしさ」がその解決に重要な役割を果たすと信じている。私の「ゲーム」を終了するときが来たのだ。人からの評価を気にせず、自分の好きなように仕事ができることを知ったとき、私はその自由をとても甘美なものに感じた。何年にもわたって、自分でもよく理解せずに、絶え間ないループの中で疲弊しながら自分を偽ってきた後、私はCEOになり、私は自分がなりたいと思っていた人物になることができた。カリフォルニアのテック業界に精通し、出世すればするほど、私は私であることに自信を持てるようになった。

しかし、自分の会社を所有しなければ、自分自身を完全に表現することはできないと思う必要はない。調査によると、自分を表現しないことによる代償は、個人の自由だけでは済まないことがわかっている。近年では多様性に関する意味のある対話が行われるようになったとはいえ、私たちが働く世界は圧倒的に画一的(一面的)だ。自分の本来の姿を明らかにすることができない、あるいはしようとしない人々であふれている。

他者の理解と「弱さの共有」の力

技術系のリーダーである私たちが、本腰を入れて自分らしさの表現の問題を掘り下げることができなければ、私たちの業界に蔓延している「ブログラマー」文化を排除することは不可能だ。

「ブログラマー」文化が蔓延した環境では、誰もが恐怖、疲労、不安を抱くだけではなく、収益にも影響が生じる。幸福感を持つ従業員は生産性が高く、多様性のある経営陣を擁する企業では、収益性、創造性、問題解決能力が高いという事実は、研究で明らかになっている。仕事中に本来の自分でいられるという自由は、成功と達成感につながる。

それでは、技術系のCEOや経営陣は、どうすればこれを実現できるだろうか?私は、二面的なアプローチが必要だと考える。まず、自分らしさの表現に向けた取り組みを、ポリシーとして制定する。リーダーはチームに、従業員が自分らしさを最大限に発揮して仕事を行えるようにするという責任を持たせる。つまり、従業員全員に、組織内のすべての声を聞くという責任を与えるのだ。

GumGum(ガムガム)では、STRIDE(Seeking Talent Representation Inclusion Diversity & Equity:包括性、多様性、平等性を持つ自己表現の追求)評議会を設置している。評議会のメンバーは、社内のすべての部門、拠点、職責から構成されていて、日々の業務の一環(有給)として、社内の多様性と包括性を向上させるための具体的な提案を行っている。

職場における自分らしさの表現を可能にするには、無意識の偏見に関するトレーニングも不可欠だ。私がキラキラしたショートパンツとクロップトップを着て街を歩いていたら、周りの人は好意的かどうかにかかわらず、私の選んだ服装に何らかの反応を示すだろう。このような潜在的な判断を意識することは、偏見を抑制するための第一歩であり、職場での意思決定に偏見がどのように影響するのかを理解することにつながる。

第二に、ビジネスの真正性を追求するのはCEOや上級管理職の役割であり、彼らが模範となる能力を持つことだ。今日のキャンセルカルチャー(ボイコットの形式の1つ。ある人物を仲間や仕事上の仲間から追放すること)によって、リーダーたちは、自分たちの行動を律し、プロとしてミスのないようにすることに過敏になっているように思われる。

もちろん、時と場所に応じたプロフェッショナリズムは必要だが、私は常に、CEOとして可能な限りオープンであることを心がけている。自分の個性のあらゆる要素、他人にジャッジされ、好ましくないと思われるような要素にも光を当てるのだ。私がかつてアイデンティティを隠そうとして苦慮していたが故の決断である。かつて私が抱えていた、ゲイであることの恐怖は、今では本当の自分を見せるための起爆剤となっている。私は、私の周りの人にも同じことをしてもらいたいと考えている。

ある種の人たちだけが活躍できるテック企業のブロカルチャーを醸成したいと思う人はいないだろう。しかし、それを口にするだけでは十分ではない。まずは、人と違っていてもいい、どのような違いがあってもいい、ということを表すことから始める必要がある。例えば私は派手なファッションが好きなので、Zoomのミーティングに空色の帽子をかぶって出席することを躊躇わない。これがCEOとしての私の表現方法だ。

このような姿を見せることに恐怖心があるなら、恐怖をオープンにすることも重要だと思う。私たちはCEOとして、自分の弱さ、アイデンティティへの苦悩、隠しておきたい自分の秘密の部分を共有すべきだ。失敗を認めることも同様だ。CEOもただの人間であり、自分らしさの表現を目指すのであれば、その人間性も晒すべきだ。

「自分の弱さを批判されることなく話を聞いてもらえる」という土壌を作ることも必要だ。面接や新しいプロジェクトに取り組む際、私が社員に尋ねるお気に入りの質問に「何に対して恐怖を感じているか?」という質問がある。

恐怖心は誰にでもある。この質問に対する答えで、その人の傷つきやすい部分に触れることができる。その人は、失敗したり、間違った決断をしたり、何かの拍子に問題を引き起こしたりすることを恐れているかもしれない。そのような感情に触れることは、自分らしさを完全に表現することを認める良い方法である。

テック企業の転換点

プライド月間は、受容と存在の自由をめぐる幅広いストーリーの一部である。この価値観を十分に実践せずに、周りがやっているからといってレインボーフラッグを掲げる企業は、偽善的であるだけでなく、自らを損なっている。プライドは収益の機会ではないし、たとえそうであったとしても、中身のないメッセージを発信するだけのブランドはチャンスを逃がしている。

体よく飾られたLGBTQ+プライドの下には、プライド運動が支持する価値観を緊急に必要としているたくさんの職場環境がある。その価値観を日々の仕事で実現していくことは、並大抵のことではない。しかし、職場での「あるべき姿」から脱却できるようにすることは、(遅きに失した)変化のための重要な出発点となる。

私は、本当の自分を隠すことは恥ずべきことだと考え、他の人がそのような経験をしないように努力している。私は今、若い頃には考えられなかったほど自分らしく仕事をしていて、その小さな行動が、同僚たちにも影響を与えている。際限ない駆け引きを止め、本当の仕事を始めることができるとすれば、それはビジネスにおける自分らしさの在り方をともに探究し始めたときだけだ。

編集部注:本稿の著者Phil Schraeder(フィル・シュレーダー)氏はコンテクストインテリジェンスに特化したグローバルテクノロジー&メディア企業であるGumGumのCEO。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:コラム差別セクシャリティLGBTQ+シリコンバレー

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(文:Phil Schraeder、翻訳:Dragonfly)

独立系VCのSixty8 Capitalが社会的地位の低い創業者を対象とした22億円規模のファンドを設立

黒人、女性、ラテン系、LGBTQ+のスタートアップ創業者にとって、シリコンバレーにおけるVC投資のパイ獲得が困難であるということは間違いない。この事実に対処すべく、米国のど真ん中、インディアナ州のインディアナポリスに拠点を置くSixty8 Capitalが、社会的弱者のスタートアップ創業者らにアーリーステージ資金を提供するため2000万ドル(約22 億円)規模のファンドを設立した。

このファンドには、The Indiana Next Level Fund、50 South Capital、Bank of America、Eli Lilly and Company、First Internet Bank、Central Indiana Community Foundationなどの投資家が名を連ねている。また、インディアナ州を拠点とするベンチャー企業のAllos Venturesと連携しており、同社のPaul Ehlinger(ポール・エリンガー)氏がSixty8のベンチャーパートナーとなる予定だ。

「このファンドで有色人種や女性をはじめとする多様なコミュニティに直接資金を提供することで、彼らを力付けることが可能になります。多様な人々によって設立された、すばらしいソリューションを構築している企業に直接投資できるようになるのです。これがSixty8を立ち上げた理由であり、これまでになかったチャンスを見つけ出すことができると信じています。インディアナのコミュニティだけでなく、中西部や南部の一部にも良い影響をもたらすことができたらと期待を膨らませています」と同社のマネージングパートナーであるKelli Jones(ケリー・ジョーンズ)氏は話している。

インディアナポリスで育ったジョーンズ氏は、ニューヨークやロサンゼルスに移った後、音楽、テック、エンターテインメントなどに携わる仕事を経験。2016年にインディアナポリスに戻り、自分が育ったコミュニティの黒人がテック分野やそれ以外で仕事に就くための訓練を受ける手助けを開始した。それが黒人の創業者に焦点を当てたスタートアップインキュベーターの展開に繋がり、後にピッチコンテストに参加することになる。

同氏がともに働いていた創業者らが、インキュベーターやピッチコンテストの一環として始めたビジネスを成長させるチャンスを得るために資本へのアクセスを必要としているということが、その当時から明らかだったため、アーリーステージファンドのアイデアを具体化させていったと話している。同氏によるとインディアナ州はB2BのSaaSで知られており、そのエネルギーにあやかりたいと考えていた。

「インディアナ州はB2BのSaaSで有名で、ExactTarget、SalesforceAngie’s ListInteractive Intelligence、Genesysなどのすばらしい企業へのイグジットなど、地元のテクノロジー分野では本当にすばらしいことがたくさん起こっています。しかし多様性に関してや、有色人種、女性、LGBTQの創業者を増やすということについてはあまり議論されていないのが事実です」とジョーンズ氏。

同社は1社あたり25万ドル(約2700万円)から50万ドル(約5500万円)の投資で、シード、プレシードの他、Aラウンドへの参加も計画している。インキュベーターやピッチコンテストなど、他のベンチャーからのパイプラインが用意されており、また起業家精神に溢れたコミュニティにも精通していると同氏は話している。

同社は、多様性の問題や多様な人々が投資の意思決定を行うという課題に対処するためだけでなく、ベンチャーキャピタルの支援を受けた企業には到底見えないような企業にも投資することができるという戦略に基づいてファンドを設立したいと考えていた。

最初の投資先はQualifiというB2BのSaaS企業だ。大量の採用を行う企業がAIを使って書類選考をより早く行うというもので、これにより7~10日かかっていた審査期間を3日以内に短縮することができるとジョーンズ氏は話している。

同社の企業名の由来は1968年に遡る。全国で多くの抗議が沸き起こり、有色人種や女性、ゲイの権利のための平等性を求める声が多く上がった歴史的な時代である。2019年に同社を立ち上げた当初は別の名前を使用していたものの、多様なグループを力付けることに焦点を当てた会社として、この名前の方がふさわしいと感じたとジョーンズ氏は振り返る。

「偉大な指導者を失い、人々の心の中にあった炎が大きく燃え上がった1968年の公民権運動の時と同じように、人々は依然として行進し生き残ろうと声をあげ続けているように感じます。女性の権利、ラテンアメリカ人の権利、黒人の権利のために戦っていた当時、さまざまなことが起きていましたが、2021年の今もなお、当時から前進できていないように感じるのです」。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:Sixty8 Capital投資マイノリティ女性LGBTQ+

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Ron Miller、翻訳:Dragonfly)

【コラム】「脳の多様性」を活用してサイバーセキュリティのスキルギャップを解消する

編集注:本稿の著者Cat Contillo(キャット・コンティロ)氏は、HuntressのThreat Analyst IIで、誇り高き自閉症のクィア。LGBTQ+の権利、自閉症、神経多様性、DEI、サイバーセキュリティに情熱を注いでいる。

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組織はさまざまな考え方や視点からサイバーセキュリティのスキルギャップに対処し、さまざまな能力や思考プロセスを持つ人材を取り入れてセキュリティチームを強化する必要がある。その際の最初のステップとなるのがニューロダイバーシティ(脳の多様性、神経多様性)の理解である。ニューロダイバーシティを持つ人には、未開発の可能性があることをご存じだろうか?

ニューロダイバーシティが意味するところは私たち1人ひとりで異なる。ニューロダイバーシティとは、ADHD、自閉症、失読症、トゥレット障害などの認知障害や発達障害などの神経学的差異を、人間の脳の自然なバリエーションとしてとらえ、脳の違いはただの多様性でしかないと考える概念である。

私は、自分が人とは異なるオペレーティングシステムを持っているという自覚を常に持っていた。Mac OSで育てられた、Windows専用OSのような感覚だ。自閉症と診断されて初めて、なぜ自分がこのように感じていたかを理解し、目的を持つことができた。そして社会に出て、ニューロダイバーシティを持つ人々がサイバーセキュリティ業界にとって重要視されることを知ることができた。

自閉症の人には、サイバーセキュリティの分野での業務に適した特性がたくさんある。例えば自閉症の人の多くはパターン思考を持ち、細部にまでこだわる性格である。自閉症の人は、脅威ハンティングで悪意のあるコードとそうでないコードの微妙な違いを見つけ、自動化されたツールが見逃してしまうような脅威をキャッチすることができる。過集中という特性では、問題解決に集中し、他の人が投げ出したくなる複雑な問題にも粘り強く取り組むことができる。

もちろん、私たちが持つ能力、興味、強み、弱点は1人ひとり異なる。しかし、適切なサポートや環境があれば、サイバーセキュリティにプラスに働く特性もある。

自閉症の大人がテクノロジーやサイバーセキュリティに興味を持っていれば、特にその傾向が顕著である。興味があることで細部へのこだわりがさらにアップし、防御チームの優秀なサイバー専門家になることができるのだ。サイバー脅威の数や種類は常に変化している。明らかに排除できるものもあれば、もっと巧妙なものもある。コンピュータにもともと備わっているアプリケーションや実行ファイルのようなネイティブファイルを利用する「Living off the Land(LOTL:自給自足型、環境寄生型)」という攻撃手法もある。このような情報、何を探すべきか、どこに注目すべきかさえわかれば、ニューロダイバーシティ人材は、最も巧妙な脅威に対しても、集中して検査、調査、追跡することができる。

利点を受け入れる

私たちは、ニューロダイバーシティ人材の「違い」に注目するのではなく、異なる考え方や視点がサイバーセキュリティの分野にもたらすメリットを受け入れるべきである。実際、世界はさらに多くのサイバーセキュリティの専門家を必要としている。チームの多様性を確保するには、ニューロダイバーシティを受け入れることが必要だ。細部にこだわる人、規則にこだわる人、論理的な人、人とは違う考えを持つ人など、ユニークな才能を融合したチームは、サイバーセキュリティにおける競争力の源泉であり続けることになる。

サイバーセキュリティ分野でキャリアを積むには、論理性、規律性、好奇心、そして問題解決やパターン発見の能力が必要だ。この業界は、ニューロダイバーシティ人材に、特に脅威分析、脅威インテリジェンス、脅威ハンティングといった幅広いポジションとキャリアパスを提供している。

ニューロダイバーシティ人材は、干し草の中から針を見つけるように、潜在的な脅威を探し出して分析するのに欠かせない、小さな危険信号や細かな情報を見つけることができる。パターン認識、既成概念にとらわれない思考、細部へのこだわり、鋭い集中力、論理的な思考、誠実さなどの長所もある。

チームの多様性が高まれば高まるほど、チームの生産性、創造性、成功率は向上する。また、ニューロダイバーシティ人材が存在することで、サイバーセキュリティを強化できるだけでなく、異なる考え方や視点を採用してコミュニケーションの問題を解決し、チームや企業全体にプラスの効果をもたらすことができる。

米国労働省労働統計局によると、サイバーセキュリティ専門家の一般的なキャリアパスの1つである情報セキュリティアナリストの需要は、2029年までに31%増加すると予想されているが、これは他の職業の平均成長率4%をはるかに上回る。サイバーセキュリティ分野の重要な業務に空席がある一方、その業務に理想的な人材が何百万人も失業したままで取り残されている。

第一歩を踏み出す

今こそ「優秀な人材=神経学的定型(ニューロダイバーシティの逆の意味)」という思い込みを改める時である。職場における包括性と帰属意識を高める方法は数多くある。いずれも、求人情報が最初のステップだ。

求人情報には、求める人材や業務の要件を明確に記載する。より包括な求人情報を作成し、制限を減らしてみよう。配慮を必要とする応募者がアクセスできる連絡先のアドレスを記載し、必要な配慮を提供して、従来の方法とは異なる働きかけを行う。

ニューロダイバーシティ人材にとって一般的な面接は難しく、雇用に向けた最初のハードルになることが多い。面接時の質問のリストをガイドラインとして提供すれば、応募者の緊張を和らげることができるだろう。アイコンタクトの異常で人を判断しないことはさらに重要だ。

職場でニューロダイバーシティ人材を受け入れる包括的な文化を促進するためには、職場でさまざまなニーズに対応できるようにする必要がある。あらゆるレベルの従業員が、多様性のあるチームの力を引き出せる、風通しがよく包括的な職場環境を構築するための知識と理解を持つことが不可欠である。そのためには、全従業員を対象とした多様性、公平性、包括性、帰属意識を目的としたトレーニングが必要である。コミュニケーション手段を変更することも検討しなければならない。ニューロダイバーシティ人材は人によってコミュニケーションの仕方が異なるので、手段を考えないと職場内でのコミュニケーションの断絶につながりかねない。

サイバーセキュリティの分野で活躍したいニューロダイバーシティを持つ人や自閉症者にもアドバイスしたい。学習を続け、サイバーセキュリティの専門家とつながってネットワークを作り、決してあきらめるな。企業の大小を問わず、あらゆる面で意識を高め、包括的な対応を求め続ければ、成功のチャンスは増えるはずだ。

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カテゴリー:セキュリティ
タグ:コラム自閉症多様性LGBTQ+

画像クレジット:Chris Madden / Getty Images

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(文:Cat Contillo、翻訳:Dragonfly)

「LGBTQの居場所をつくる」米国10代向けアプリweBelong、ミクシィ笠原氏などから約7300万円を調達

「本来の自分」というのは、なかなか晒け出せないないものだ。ネット上ではもちろん、家族や友人にだってカミングアウトできないことは誰にでもあるだろう。そんな人たちに「居場所」を提供するSNSアプリがある。HoloAsh,incが運営する、10代マイノリティ向けコミュニティアプリ「weBelong」だ。

同社はこの度、プレシードラウンド調達として、ミクシィ笠原健治氏、元メルカリ富島寛氏、エニグモの須田将啓氏など、複数のエンジェル投資家などから約7300万円の資金調達を実施。アカツキHeart Driven Fundなどからの出資を含め、累計の調達金額は約1億円になったという。

画像クレジット:HoloAsh,Inc.

weBelongは、米国に住む10代のマイノリティ(LGBTQや、ヒスパニック、黒人など)向けの匿名制コミュニティアプリだ。生年月日、性別、ジェンダー、趣味、悩みなどを登録すると、アルゴリズムが「自分に近い属性や関心を持つグループ」をおすすめしてくれる。ユーザーはそのグループ内で、互いの悩みや関心事をテキストでチャットできる。

例えば「自分がレズビアンであることを親に言い出せない」「摂食障害に悩んでいる」「自分の体型が恥ずかしい」など、アプリ内ではさまざまなトピックについて会話が交わされる。仲の良い友達や家族に相談しにくい悩みでも、weBelongのユーザー同士では打ち明けられる。自分と近い境遇にある人たちだからこそ、安心して話ができるのだ。

他人と比較しないSNS

「米国は多様性に満ちた国なのだから、LGBTQは社会で受け入れられているのではないか?」と思われる読者もいるかもしれない。しかし、必ずしもそうとはいえない現実がある。米人権団体のHRCが行った調査によると、10代LGBTQの76%が「自分の家で自分らしくいられない」と回答。また学校においても、70%は過去にいじめを経験しているという。

20代、30代でさえ「本当の自分」をカミングアウトするには勇気がいる。このような環境下で、まして10代となると「そもそも自分の性は何なんだろう?」「これを家族に言っていいのかな?」「友達になんて思われるだろう?」と、誰にも相談できないまま殻に閉じこもってしまうのは想像に難くない。

そんな「自分らしくいる」ことに難しさを感じる、10代マイノリティに焦点を当てたのがweBelongだ。このSNSアプリがおもしろいのは、フォロー・フォロワー数や「いいね」(同アプリでは「ハグ」と呼ぶ)の数を第三者からは確認できないという点だ。よって他のSNSアプリのように、ユーザーは「数字」を競い合うことがない。自分を良く見せようとしたり、アピールしたりするインセンティブが働かないからだ。

HoloAshのCEOである岸慶紀氏は想いを語る。「weBelongは『他人と比較しない』ことにこだわっています。他のアプリのように、一部の有名なインフルエンサーが圧倒的なパワーを持つという場所にしたくはなくて、どんな人にとっても居心地の良い空間をつくりたいと思っています」。

「感謝される経験」が支えになる

weBelongは2021年1月にリリースされてから、約20万件のコメントがなされ、毎日約200人が利用している。特筆すべきは、1日あたり35分〜40分におよぶユーザーの平均滞在時間だ。これは、同社が目指した「自分と同じ属性の人と繋がれる、居心地の良い空間」を演出できている証拠だろう。

現段階では収益化は行っていないものの、岸氏の頭の中にはアイデアはいくつもある。「ただの広告モデルにはしたくないと思っています。確かに、10代マイノリティ向けに商品を展開する企業の広告を出す、ということはすぐに思いつく方法です。ただ、僕たちが目指しているのは本当にそこなのかな、と少し違和感があるんです」。

同氏は、ユーザー同士でマイクロペイメントができる仕組みやアプリ内のバーチャルコインの活用を考えているという。例えば、ユーザーAがユーザーBの悩みを聞いてあげた時、ユーザーBはお礼として数ドルをユーザーAに支払う。その支払いに対して、weBelongが少額の手数料を受け取るという形だ。

岸氏は、自身がADHDを持つ身としてこう語る。「自分がまだ小さい頃に、歯磨きを学校の先生に褒められたことがあるんです。それがたまらなくうれしくて、それ以来いつも歯磨きだけは完璧にしていた(笑)。こんな些細な出来事でも、人生を生きる大きな糧になると思うんです。weBelongでは、いろんな不安や悩みを抱えた人たちがお互いを支え合う中で、『他人から感謝される』『他人に頼りにされる』という経験を経て、自己肯定感を強めていくきっかけになって欲しいと思っています」。

現代を生きるティーンエイジャーにとって、SNSは諸刃の剣だ。自分自身を世界中に発信できる一方で、数字に依存してしまうばかりに「心が疲弊」する場合もある。フォロワー数・いいね数を競わずに、10代マイノリティの助け合いに焦点を絞るweBelongは、現代のSNSシーンにまったく別の角度から一石を投じる存在になりそうだ。

カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:weBelong資金調達SNSマイノリティLGBTQティーンエイジャーHoloAsh,inc