Build 2020の基調講演に感じたオンライン開催の変なところと良いところ

「私たちは異常な時代を生きています」とMicrosoft(マイクロソフト)のCEOであるSatya Nadella(サティア・ナデラ)氏は、Build 2020の基調講演を暗いムードで切り出した。そこには、司会を務めるSeth Juarez(セス・フアレス)氏とDona Sarkar(ドナ・サーカー)氏の開幕の挨拶からの、なんとも奇妙な落差が感じられた。

2人の司会者は、大きなデスクに米国疾病管理予防センターが認可した社会的距離を保って座り、ぎこちない冷やかしや親父ギャグを交えながら、この48時間のライブストリーミングイベントの開幕を宣言した。少なくとも最後の部分では、現在の異常事態の中でもなんとか正常が保たれていた。

気まずいツッコミやつまらない冗談は、良くも悪しくもハイテク業界のプレゼンには付きものだが、無観客の会場では別次元のものに聞こえてくる(特に観客の間に潜り込ませた大げさに騒ぐサクラがいない)。良い方に考えれば、YouTubeの司会者の意気込みが感じられるが、悪くいえば、笑い声の効果音を削除したコメディドラマのようでもある。

避けて通れない初めての試みとして、Microsoft Build 2020の基調講演は、恐らくマシな方だったのだろう。これは間違いなく、パンデミックが世の中を本格的にロックダウンし始めて以来の、巨大ハイテク企業による本格的な大規模イベントだ。結局のところ、Apple(アップル)のWWDCは来月まで開催されず、Google(グーグル)もI/Oを実質的に諦め、オンライン開催も取りやめてしまった。

「今、私たちがみんなでできるいちばん大切なことは、私たちが直面している新たな困難に立ち向かっている人々の支援に注力することです」と、グーグルは中止を決定した際に述べていた。「私たちはプラットフォームのアップデートを、開発者ブログやコミュニティーフォーラムなどを通じて、今後もみなさまと共有する方法を探っていく所存です」。

確かにどちらにせよ難しい決断だ。パンデミックの重大さに比べたら、これらのイベントなどは取るに足らないものかも知れないが、たとえ不自然な方法であったとしても、企業が正常な感覚を取り戻そうとして何かを主張することには意味がある。

フアレス氏とサーカー氏の掛け合いは、2日間のプログラムを1本につなぐ役目を担っていた。多少のアドリブも当然、必要になる。オープニングで2人は、5分間ほどSurface StudioでTwitterのハッシュタグ付きコメントをスクロールさせていた。この開発者カンファレンスに実際に生身で参加した気分になれるよう、コミュニティの感覚に近づけようという試みだ。

ナデラ氏の講演は、それとちょうどいいバランスを保っていた。シンプルでおそらく録画の、家族の小物や写真で飾られた棚の前に立っての出演だった。彼がカメラに向かって話す間に、画像や動画が挟み込まれる。寂しく感じられるとしたらそれは、どうしても2019年の盛大なイベントと比較しながら見てしまうせいだろう。

マイクロソフトは任天堂からヒントを得たのかも知れない。任天堂は基調講演をライブでは行わず、数年前のE3で行われたNintendo Treehouseのプレゼンテーションから録画に切り替えている。普段の形式での興奮は失われてしまうが、その代わりにいくつもの映像を組み合わせてプレゼンテーションを完璧に仕上げることができる。大切なのはそのバランスだ。任天堂の場合は、無数のゲームの予告編を使ったことが功を奏した。このパズルでは、映像資料が大きくものを言う。

残念ながら、ライブのデモで悪態をつく光景は見られなくなった。だが、マイクロソフトのプレゼンテーションを補足しようと大々的にSkypeに依存した会話では、人はホームスタジオに住んでるわけではない事実を嫌というほど突きつけられる。飛行機やら芝刈り機の騒音が聞こえると、当面は物事が正常ではなくなるということを思い出さざるを得なくなる。一概に悪いとはいえないが、なんか変な感じだ。

このような形式の変更が強要される中からも、良いものが生まれている。ひとつはBuildが無料登録で見られるようになったことだ。オフィシャルなチャット(詳しく突っ込むことはしないが、訳あって悲惨な結果になった)では、大勢の開発者や参加者が、これは歴史上初めてのBuildだと興奮気味に伝えていた。参加費、旅費、人で混み合うイベントの不自由さなどが、多くの人たちにとって高いハードルになっていた。

これから数カ月のうちに、これがこの手のイベントの新常態になるのか否かが決まるだろう。2021年への十分な注意を払わないままの主催者を責めるのは難しい。多くは、いつもの人が集まるイベントに戻ると思うが、バーチャルで参加しやすい今の形が新型コロナウイルス(COVID-19)以降も存続されることを私は望む。

“新型コロナウイルス

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(翻訳:金井哲夫)

5月19日〜21日開催のMicrosoft Buildもリアルなしオンラインのみ

5月といえば、大きなデベロッパーカンファレンスの月であり、Facebook F8とGoogle I/O、そしてMicrosoft Build(マイクロソフト・ビルド)は同じ2週間の中で行われることが多い。しかし、今年は違う。Facebook F8Google I/Oはすでに中止を発表してオンラインのイベントに切り替えたが、今度はMicrosoftが当然のようにその後に続いた。5月19日から21日まで予定されていたBuildのリアルイベントは中止となる。新型コロナウイルス騒動がその理由とされた。microsoft build logo

同社はThe Vergeに掲載された声明で「コミュニティの安全を最優先する。健康と安全に関するワシントン州の勧奨に基づき、デベロッパーのための例年のイベントMicrosoft Buildを、実演によるイベントではなくデジタルのイベントとして開催する。弊社のデベロッパーエコシステムがこの新たな仮想的形式に寄り集まって、学び、結びつき、そして共にコードを書くことを期待している。今後の詳しい続報をお待ちいただきたい」と述べた。

この発表に、意外性はない。むしろ最近では同社がいつそれを言い出すかが唯一の疑問であり、それが早すぎたり遅すぎたりしたときのみ意外に感じただろう。しかもワシントン州は新型コロナウイルスに相当やられているだけに同社も意思決定をせざるを得ないはずだ。現在、州の各郡は250人以上のイベントを禁じているが禁止期間はBuildの前までだ。

私がこの記事を書いている時点ではBuildのホームページは更新されておらず、チケットを買えるようになっている。でも私があなたなら買わないだろう。もちろん返金はあるが、そんな面倒を背負い込む理由もない。

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(翻訳:iwatani、a.k.a. hiwa