Wunderlist創業者のスタートアップがPowerPointに挑むために32億円を調達

ソフトウェア産業はもはや幼年期ではない、そしてそのことが私たちを技術的に興味深い瞬間にも引き合わせてくれるのだ。広く普及した最大級のレガシーアプリの中には、小規模で動きの速いスタートアップたちの挑戦を受け続けているものがある。スタートアップたちは新しいアプリケーションを開発して、巨人たちを打ち負かすことを夢見ている。その最新の動きとして、ベルリンのあるスタートアップが、米国時間10月1日に新しいプレゼンテーションソフトPitchのクローズドベータ開始を発表した。

これは特にMicrosoft(マイクロソフト)のPowerPointに対して挑戦しようとするものだ。なお、スタートアップの創業者たちはかつてMicrosoftに自分の会社を売却した経験を持つ者たちである。

同時に、Pitchは追加の3000万ドル(約32億円)を調達したことも発表した。このファンディングはThrive Capitalによって主導され、Instagramの共同創業者たちであるKevin Systrom(ケビン・シストローム)氏とMike Krieger(マイク・クリーガー)氏、そしてSuperhumanの創業者であるRahul Vohra(ラーフル・ヴォーラ)氏も参加している。

この資金は1年前に行われた、Index Ventures、BlueYard、Slack、その他ソフトウェアディスラプションに精通した他の多くのエンジェルたち(ZoomのCEO、DataDogのCEO、 Elasticの共同創業者が含まれる)が参加したラウンドで、Pitchが調達した1900万ドル(約20億円)にさらに追加されることになる。

Pitchは、Wunderlistを開発した人たちと同じメンバーによって創業された。Wunderlistは人気のToDoアプリで(多くの今回と同じ投資家たちから支援されていた)、Microsoftが2015年に買収し、その後独自のサービスTo Doの開発に伴ってその終了が発表されたばかりだ。昨年10月以来、Pitchはずっと密かにそのサービスの最初のバージョンを開発していた。創業者には、CEOのChristian Reber(クリスチャン・レーバー)氏のほかに、Vanessa Stock(ヴァネッサ・ストック)氏、Marvin Labod(マービン・ラボッド)氏、Adam Renklint(アダム・レンクリント)氏、Charlette Prevot(シャーレット・プレボット)氏、Jan Martin(ヤン・マーティン)氏、Eric Labod(エリック・ラボド)氏、そしてMisha Karpenko(ミシャ・カルペンコ)氏が名を連ねている。

現在行われている招待者限定フェーズは、開発のゆっくりとした進歩の1つだ。レーバー氏がインタビューで述べたようにベータ版の目的は、使用方法の情報とフィードバックをベータテスターから集めて、将来のフルバージョンに備えてアプリケーションを洗練する方法を見出すことだ。

言い換えれば、すぐにテストできる製品は実際にはまだないことを意味している。私が尋ねると、レーバー氏は試せるようになるには少なくともあと数週間は必要だと語った。とはいえ開発は着実に進行しており、十分な量な資金を調達することもできた。

Pitchの開発の背後にある主な動機は、長い間存在してきたゆえに、非常に強固に固まったプロセスを再検討しようというものだ。その長く使われてきたプロセスはそれほどうまくは機能しておらず、テクノロジーのすべての進化を念頭に置いて再検討を受けてもいいものだ。

闘いの相手の第一候補はPowerPointだ。その登場はなんと1987年に遡る。10億以上インストールされ、5億人以上のユーザーがおり、広大なプレゼンテーションツールの世界で最大かつ強大な存在となっているが、おそらくその賞味期限を多少過ぎてもいるツールだ。

「私たちはピッチ(発表)そのものを製品として構築していくというアイデアが気に入っていました」と彼は言う。「ここ数年、Figmaのような企業のことをみてもわかるように、デザインに多くのイノベーションが起きてきました。それが私たちに1つの疑問を投げかけたののです。どうしてプレゼンテーションツールは停滞したままなのかと。PowerPointの改良版を開発するというアイデアも気に入りましたが、私のビジネス脳がそれは酷いアイデアだと叫びました。なぜ、KeynoteやPowerPointに似た製品で市場に参入する必要があるのでしょう?」。

友人たちからフィードバックを得るためにチームがプロトタイプをいじり始めたときに、その質問への答えを得ることになった。レーバー氏によればそのことによって、チームは本質的に停滞しているフォーマットを動的なものに変えるための、ビジネスチャンスを理解したのだという。Pitchが開発フェーズからクローズドベータに移行する前に、テストとフィードバックを拡張し続けている大きな理由は、ユーザーとの対話を通じて前向きな進展が得られているからだろうと私は想像している。

レーバー氏によれば、Pitchを開発する決断は、彼の投資家としての経験からも裏打ちされているのだという。これまでにも彼は、既に確立されたソフトウェアが支配的だったサービスの再構築を狙う、多くのアプリケーションに焦点を当ててきた。彼の投資ポートフォリオには、仮想ワークスペースを構築するNotionが含まれている。その創業者もまたPitchへの投資を行っている。

レーバー氏の作業時間を占めている他の案件のことを考えると、Pitchの立ち上げの中には学ぶべき興味深い教訓がある。実は彼は現在Wunderlistを買い戻そうと多忙なのだ。Microsoftによる終了の発表にもかかわらず、このツールはいまでも動作しているし、数百万人のアクティブユーザーを抱えているのである。

レーバー氏は、かつてWunderlistを売却したことについては後悔はしていないと語る。当時も会社は成長していたが、最終的には自分たちの力では構築できない、より大きなプラットフォームが必要だと感じていた。そしてEvernote(これはレーバー氏と彼のチームにとって大いなる刺激だった)の運命と没落を見つめるなかで、彼はMicrosoftへの売却が正しい選択だったということを知っていたのだ。

しかし、そうだとしても、現在の大きな所有者のもとで、製品がだんだん衰えて無視されて行くのを見るのは辛かったのだろう。

「Microsoftのリーダーシップチームに何度もメールを送り、ツールを買い戻すことができるかどうかを尋ねました。なぜならMicrosoftがユーザーを混乱させることなく、それをシャットダウンするのに苦労していることがわかったからです」と彼は言う。そこで彼はMicrosoftに対して「私に買い戻させてほしい。もしお望みならチームとその他すべてをそのまま維持してもいいですよ。皆が幸せになれます」という提案を行ったのだ。しかし、それは先に進まず簡単でもなかった。1年後、彼はTwitter上で改めてピッチを行った。そして「彼らは音信不通になりました」と彼は語った。

Wunderlistは、しっかり動作するプラットフォームなしにはアプリを構築する方法を考え出すことが難しい時代に出現したものだったが、この原則はもはやそのような単純なものではなくなったように思える。これがレーバー氏がWunderlistを買い戻して運用できると考えた理由だ。

「新しいソフトウェア会社にとって最も難しい問題は、特にSlackの例を考えるとプラットフォームの問題なのです」とレーバー氏は言う。「MicrosoftはTeamsを構築してWindowsにプリインストールして、少なくともユーザーに対して、試してみるようにと圧力をかけています。私に言わせれば、それは極めて不公平な彼らの利点であり、スタートアップならば継続的に闘って行かなければならないものなのです」。

「しかし同時に、新しいものを開発しているするこれらすべての企業は、互いに深く結び付くものを開発していると思います。Slack、Zoom、そしてAirtableはすべて緊密に統合されています。つまり、製品のスイート一式を用意しなくても、本当に大きな企業を作ることができるのです」。確かに、これらのように、Pitchのアイデアは、インストールすることを選べば使える他の軽いアプリケーションとともに、ウェブベースのバージョンを提供するというものだ。Pitchで作成されたドキュメントを読んだり操作したりするためにはソフトウェアライセンスは必要ない。その代わり自身でドキュメントを作成したい者に対しては最初から有料プランを提供するというのが、彼らのビジネスモデルのコアだ。

すなわち、収益の確保に対して、Wunderlistが十分に早い段階では焦点を合わせていなかったことが1つの反省点だったとレーバー氏は述べた。初期のEvernoteやその他の多くのアプリケーションのように、その主目的は注目を集めることだったからだ。これもまた学んだ教訓である)

長期的にはスタートアップは、独立性を維持するか、自身がプラットフォームとなるか、それとも別のプラットフォームに乗るかという、どの方向に進むかについての選択を行う必要がある。しかし今のところ、それらはPitchが行わなければならない選択ではない。

「私たちは、大きな市場の可能性を秘めた急成長企業に投資しています。Pitchは、変化の機が熟している市場で、優れた製品を開発できる強力な立場にあります。Pitchへの期待は、プレビューに対して期待を寄せた何千社もの企業の存在によって、既に明らかなのです」とThrive CapitalのJoshua Kusher(ジョシュア・クーシャー)氏は声明の中で述べている。「私たちは製品のビジョンだけでなく、そのチームも含めた両者によって、Pitchを信じています。Wunderlistへの投資を通じて、私たちは創業者たちと強力な関係を築きました。Pitchで再び彼らと協力できることを楽しみにしています」。

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(翻訳:sako)

アウトドア地図アプリ「YAMAP」が栄冠、B Dash Campプレゼンバトル「ピッチアリーナ」

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B Dash Venturesの渡辺洋行社長(左)とセフリの春山慶彦社長(右)

 

福岡で開催中の「B Dash Camp」で10日、スタートアップのピッチコンテスト「ピッチアリーナ」が開催された。国内外54社が参加し、前日の予選を通過した12社が本戦でプレゼンを実施。本戦には韓国や台湾、タイなどの海外勢が9社半数以上を占め、国際色の強いコンテストとなった。最優秀チームにはアウトドア向けの地図アプリ「YAMAP」を手がけるセフリが選ばれた。以下、出場各社とサービスを紹介する。

YAMAP(最優秀チーム)
携帯の電波が届かない状態でも、スマートフォンで現在位置がわかる地図アプリ。地図を印刷して持ち歩くこともできる。利用シーンは登山、スキー、スノーボード、釣りなどアウトドア全般を想定。特に近年社会問題化しているという「山での遭難事故」を解決したいという。2013年3月にリリースし、ダウンロード数は10万件。アプリには自分のアウトドア用品を登録する欄があり、これと連動するアウトドア用品の比較評価アプリをまもなくリリースする予定。ちなみにYAMAPはTechCrunch Tokyo 2013のファイナリストでもあった。

VIDEO SELFIE(審査員特別賞)
加工機能のついた動画撮影アプリ。顔をリアルタイムでトラッキングし、顔の位置、距離に合わせて画像や音楽でデコレーションできる。2014年11月から50万ダウンロード。MAUは7万5000人。

CREVO(PayPal賞)
クラウドソーシングを活用したアニメーション動画制作サービス。企画から納品までをサポートする。国内外のクリエイター1000人が登録し、このうち7割は海外のクリエイター。リリースから1年間で250社が導入している。価格は18万円〜。過去にはhuluのテレビCM動画を作った実績もある。

MakeLeaps
フリーランスや中小企業向けの見積書・請求書オンライン作成・管理・郵送ツール。楽天などもサービスを導入しており、98.3%のリテンション率を誇る。これまでに500Startupsをはじめとして、75万ドルを調達。

BookTrack
音声付き電子書籍プラットフォーム。本を読んでいる位置をトラッキングし、その動きと同期して音楽やエフェクトを付け流ことができる電子書籍。サービスは1年3カ月前にスタート。これまで30カ国200万ユーザーが利用している。学校用のプログラムは1700校、2万5000人が利用している。

CATFI
ネットワーク接続する体重計付き自動給餌器。以前の名称は「Bisrto」でクラウドファンディングのIndiegogoなどにも出展していた。スマートフォンを通じて、ネコの食事量や体重を管理。猫向けの顔認識機能により、複数の猫への給餌が可能。また猫の健康状態に合わせて最適な餌を提供する。

PopUp Immo
法人向けの賃貸物件版のAirbnb。数週間とか短期間にだけレンタルするニーズに対応する。保険などもカバー。フランスのパリでサービスを展開。すでに大手企業からの引き合いもあるのだそうだ。ビジネスモデルは20%の手数料。今後は年末までに1500スペース(現在は500スペース)まで拡大。さらにアジア圏でのサービス展開を検討している。

Sellsuki

東南アジアのECサイト向けツール。東南アジアでは、ECサイトとのチャットを通じて購買まで至るようなECサイトもあるそうなのだが、そういったサイト向けの注文管理やコミュニケーションを管理できる。7000人(店舗)がサービスに登録

ChattingCat
英語のネイティブスピーカーに、自分の英語を添削してもらえるサービス。韓国人創業者のApril Kim氏によれば、世界で一番使われている言語は「ヘタな英語」。自身もその1人で、実際に先生に添削してもらった経験がある。これをオンラインで提供しようと、サービスを開発した。ユーザーは英文を入力すると、平均4分以内に世界中で登録している600人以上のネイティブスピーカーに添削してもらえる。

EatMe
レストランのディスカウントクーポンを配布する台湾のアプリ。ユーザーは2000店舗以上のレストランを検索できる。店舗側は、クーポンの利用状況に応じて、どんなキャンペーンがユーザーに刺さるかがわかる。年間で10万ユーザーが利用しているという。

FANDORA
クリエイターが投稿したキャラクターやイラストをグッズ化し、販売できるプラットフォーム。台湾で2013年にスタートした。1500人以上のクリエイターが登録し、4万点以上の商品が購入可能となっている。すでに130万ドルの資金調達を実施し、翌年には日本、中国、東南アジアにも進出する予定。

フリップデスク
スマホECサイト上で実店舗のような販促・接客を提供するASPサービス。サイトに埋め込んだタグによって訪問者の行動を解析し、最適な販促を行う。例えば、購入を迷っている新規ユーザーを判別し、オーバーレイコンテンツやクーポンを配布したり、チャットでサポートすることができる。販売開始7カ月で約200サイトが導入している。