スタートアップとマーケットの週刊ニュースレター「The TechCrunch Exchange」へようこそ。
今回はお金の話、スタートアップの話、IPOの噂話をしよう。
先週は非常に多くのことが起きた。先週はEquityポッドキャストのスタッフが、最近のアーリーステージ向けベンチャーキャピタルのラウンドをじっくりと調べたが、もしまだ聞いていないならこちら(未訳記事)から聞くことができる。小規模なスタートアップは登場し続けてはいるものの、今回のThe Exchangeでは、より後期ステージのニュースを掘り下げたい。
まずは、私にとっては初めて聞く会社だったNextiva(ネクスティバ)の話題から始めよう。現在、売上高が2億ドル(約208億1000万円)を超えた同社は静かな巨人である。そして注目すべきは、その規模に至るまでベンチャーキャピタルからの資金調達を行ってこなかったことだ。
資金調達に関するニュースがテックメディアで頻繁に取り上げられることを思うと、これまでNextivaが一体どのようにして高コストの成長戦略と外部資金に頼らずに規模を拡大して来たかを尋ねるのは新鮮な気持ちだった。
CEOで共同創業者のTomas Gorny(トマス・ゴーニー)氏と話しながら、会社の歴史を少し掘り下げてみた。それはおおよそのところ次のようなものだ。1996年に20歳でカリフォルニアに移住したゴーニー氏は、ドットコム・ブームの時代にテック企業で働いた後、2001年にウェブホスティング会社を創業した。そのウェブホスティング会社(iPower)は、2007年にEndurance International(エンデュランス・インターナショナル)という名の別の会社に売却された(PE Hub記事)。Enduranceは2011年におよそ10億ドル(約1040億6000万円)で一括売却されたのちに公開され、2020年11月に30億ドル(約3121億8000万円)で買収されて非公開となった(Clearlake記事)。歴史的な参考資料としてTechCrunchがEnduranceについて触れた2010年の記事(未訳記事)を読むことができる。
ゴーニー氏は2008年にNextivaを設立し、「UcaaS」(unified communications as a service、サービスとしてのユニファイドコミュニケーション)と現在は呼ばれるものに焦点を絞った。このスタートアップは、年間経常収益(ARR)が約4000万ドル(約41億7000万円)になるまでに成長したが、やがてハードウェアとサポートサービスソフトウェアを統合するサードパーティ製システムの問題に直面したことが、考え方の転換のきっかけとなった。同社はプラットフォームの構築に乗り出したのだ。
Nextivaは水平展開を行い、規模の拡大にともないCRMソフトウェア、アナリティクス、その他の機能を追加していった。そしてその成長は効率的だった。ゴーニー氏はTechCrunchに対して、同社は創業者チームの資金からスタートしたが、たとえ他の誰かの資金を使っていたとしても、同じように会社を作りあげただろうと語った。
プラットフォームの切り替えにはコストがかかり、Nextivaの計算ではそのプロジェクトに1億ドル(約104億1000万円)が費やされた。彼らはTechCrunchに対して、もしオリジナルのサービスだけに集中していれば、短期的にはもっと早く成長できたかもしれないと語っている。
Nextivaが膨大な時間とお金を費やしてきたプラットフォーム製品は、すでにマーケットに提供(GlobalNewswire記事)され、ARRは2016年の1億ドル(BusinessInsider記事)から拡大し、2020年は2億ドル(約208億1000万円)となった。今の同社はプラットフォームと呼べる地位への進化を完了できたと考えている。このことに私は少し反発を感じた。文字通りすべての会社がプラットフォームになりたいと思っている中で、ほとんどがそうできていないのだから。
しかし、ゴーニー氏はその点に関する彼の考えを語り、私の気持ちを落ち着かせた。Nextivaは一連の製品群を構築したが、その時点ではプラットフォームではなかったと彼は説明する。正しい。しかし、自社のすべてのアプリやサービスのために、顧客データの共有プールを作成するシステムを構築したことで、Nextivaがその基盤となるレイヤーの上でより速く構築できるようになり、同社は1つになれたのだと彼は主張する。現在テック企業たちが乱用する以前の「プラットフォーム」の用語定義に照らして、その使い方は正当なもののように思える。
Nextivaの次のステップは?年30%以上の成長を考えれば、株式公開の可能性もあるだろう。それが自己資金であることを考えると、桁外れに大きなキャッシュバーンを持つことはないし、IPOのために必要なベンチマークは満たしている。さらに、ゴーニー氏はプライベートであることで、製品開発に集中したいときに成長を加速させたり減速させたりすることができると強調してはいたものの、Nextivaはもっと有名になりたいと考えているような印象を受けた。そして、IPOはそれに役立つだろう。
2021年はユニコーンのIPOラッシュが到来するといわれている。おそらく、そうしてデビューするものたちの中にはダークホースも含まれているだろう。
マーケットノート
今回私たちは、より広範なスタートアップ市場についての、議論に値する3つのテーマを取り上げる。AIの資金調達、フィンテック、未上場株式市場の流動性だ。
AIに関しては、特に後期ステージの中では、このところ忙しいセクターとなっている。オハイオ州に拠点を置くヘルスケアAI企業のOlive(オリーブ)は、これまでに調達した4億5600万ドル(約474億6000万円)の約半分にあたる2億2550万ドル(約234億7000万円)を調達した(Oliveサイト)。さらにいうなら、Oliveはユニコーンでもあり、PitchBookは資金調達後の評価額を15億ドル(約1561億1000万)としている。
中西部の企業の活躍を見るのはうれしい。だがOliveだけがユニコーンではない。Scale AI(スケールAI)も巨額の資金を調達しており、今回は35億ドル(約3642億6000万円)の評価額で1億5500万ドル(約161億3000万円)(未訳記事)の資金を調達した。2019年は10億ドル(約1040億7000万円)以上の評価額で1億ドル(約104億1000万円)を調達していた(未訳記事)。またAIスタートアップの領域では他にも、Versatile(バーサタイル)が2000万ドル(約20億8000万)を調達し、ultimate.ai(アルティメットai)も2000万ドル(未訳記事)を調達した。大忙しだ!
先を急ごう。Stripeはサービスとしてのバンキングを提供するツールセットを投入し、すでに高額な評価を受けているペイメント企業を、当初のニッチな領域から、より広範なそして利益を生む可能性のある領域へとシフトした。
ということで、同じ問題空間で仕事をしている小規模なスタートアップにとっては悪い知らせかも?彼らに何かいうことがあるかどうかは別として。以前に私が採り上げたAPI経由で銀行サービスを提供するスタートアップ、Treasury Prime(トレジャリー・プライム)のCEOであるChris Dean(クリス・ディーン)氏がThe Exchangeに寄稿した記事によれば「(Stripeのニュースが発している)最も重要なメッセージは、銀行に対してオープンバンキングAPIが必要とされていることを伝えている」ということだ。
そしてディーン氏は、すべてのフィンテックが異なる対象ごとに複数のベンダーを持つように、バンキングAPIサービスを提供する主要なフィンテックごとにも多くのベンダーが存在する余地があると考えており、Treasury Primeの顧客の中にも銀行業務のニーズに対して「Marqeta(マルケタ)、Galileo(ガリレオ)、Stripeを利用している顧客」がいると指摘している。
この先どうなるか楽しみにしよう。だがそれでもやはり、Stripeのニュースはビッグニュースだ。そして今回のアップデートは、彼らのIPOの遅れを説明できるものだと思う。成長を促進するこうした新しい要素があるときに公開した方が良いだろう。そのIPOが遅れていることに対して、口やかましく指摘した前回の私たちのノートの続きはここまでにしておこう。
そして最後はCarta X(カルタX)だ。このニュースを伝えられる興奮が押さえきれない。スタートアップ企業の資本対策表(キャップテーブル)管理や従業員の株式持ち分の取引を支援するCartaは、一種の取引所(Carta X)を開こうとしている、これは未上場株式市場に対してより多くの流動性、つまりより多くの価格シグナルと透明性をもたらすはずだ。開所予定は来年早々である。詳しくはここで(Medium記事)。
その他のことなど
残り文字数が少なくなってきたので、今回の締めくくりに3つだけ取り上げる。
最後に、The ExchangeはYext(イエクスト)のCEOであるHoward Lerman(ハワード・ラーマン)氏に対してインタビューを行った。内容は、第3四半期の結果については短期予想を上回る結果(Seeking Alpha記事)となったものの、第4四半期の利益予想については投資家に不安が広がっている(Seeking Alpha記事)件に関してだ。
私は先週のExtra Crunch Liveに参加した(未訳記事)ラーマン氏に話を聞き、状況を聞くことができた。検索サービスの提供に向けたYextの努力が功を奏して知名度が上がり、販売プロセスのコスト削減に貢献している。だがもう一方では、世界が再びロックダウンに向かっていることから、一部の地域では売上の伸びに対する弱さが見られ、ソフトウェア企業の成長の鍵を握る短期的な総合成績の結果はへこんでいる。
Yextは公開SaaS企業の1つに過ぎないので、その業績に対して過剰な評価はしたくないが、近い将来の成長という点で、同社が直面している不確実性についての率直な評価は、同社の事業に特有のものであるとはいえない。近い内にスタートアップたちに対して第4四半期の成長について尋ねる必要があるだろう。
こんなことをいっても仕方がないが、Yextはインテリジェントな製品を拡大している真っ最中なのに、それを売り込む先の市場の一部が冷え込んでいるのだ。これは、スタートアップたちが未上場のうちに乗り切るのがベストだと表現する状況だ。おそらく、Yextのケースは、公開企業が同様の状況を切り抜ける際の良い事例の1つになるだろう。
ではまた。
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画像クレジット:Nigel Sussman
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(翻訳:sako)