パーソナルスタイリングサービス「SOÉJU Personal(ソージュパーソナル)」やD2Cアパレルブランドの「SOÉJU(ソージュ)」を展開するモデラートは12月19日、総額8500万円の資金調達実施を発表した。第三者割当増資の引受先はANRI、ポーラ・オルビスホールディングスと既存株主のフルコミットパートナーズの各社だ。今回の調達は、5月に実施した2480万円のシードラウンド調達に続くものとなる。
9月にも紹介したが、ソージュパーソナルは、30代、40代の女性をメインターゲットにしたファッションサービスだ。仕事や家事に追われて、なかなか毎日のコーデまで考えている余裕がない、という世代の女性に、プロのスタイリストが、個別にピッタリくる着こなしを教えてくれる。
サービスではまず、東京・代官山にあるサロンでアイテムを試着し、プロのスタイリストのアドバイスを受けられる(遠方などの場合はオンライン提案も可能)。体型に応じたサイズやスタイルの提案だけでなく、ライフスタイルに合わせた着まわしのコツも教えてもらえる。初回のカウンセリング料金は1時間5000円だ。
その後は毎月、または3カ月に1度、手持ちの洋服とお勧めアイテムを組み合わせたスタイリング提案がオンラインで届く。お勧めアイテムはオンラインで購入も可能。迷ったときにはチャットでスタイリストに相談することもできる。こちらの料金は、1回の提案ごとに3000円のサブスクリプション型だ。
スタイリング提案では、自社アイテムだけでなく、ユニクロやZARAなどのブランドからリーズナブルなアイテムも合わせてコーディネートし、おすすめの服を教えてもらえる。モデラート代表取締役の市原明日香氏は「だいたい8割ぐらいの方で、ソージュブランドのアイテムだけでなく、別のアイテムも買っている」と述べている。
モデラートでは今年9〜10月の約1カ月間、MAKUAKEでクラウドファンディングを実施。ワンピースなど3種のベーシックアイテム販売とカウンセリング、スタイリングアドバイスを組み合わせたコースで支援を募ったところ、100万円の目標に対して150万円超を集め、プロジェクトを終了した。
市原氏は「クラウドファンディングでは通常、知り合いや知人の紹介で支援を得ることが多いと聞いていたけれども、面識がなく、紹介でもない方の支援が3分の1ほどになった。大きく宣伝したわけではなく、これだけ利用してみたいという方がいたということで、少し驚いています」と話す。
プロによるスタイリングというと敷居が高い感じもあるが、「MAKUAKEでは、(モノとして販売する)ファッションアイテムにアドバイスが付いてくる、という形でコースを用意したことで、スタイリングを身近に感じてもらうことができた」と市原氏。「商品からサービスも利用できるというのは、顧客にとっても分かりやすいようだ。MAKUAKEでの形式は今後も取り入れたい」(市原氏)
9月に行われた複数のVCと起業家の合宿プログラム「Incubate Camp 11th」のピッチイベントでは、「ベストグロース賞」を受賞しているモデラート。今回投資に参加したANRIからは、この時にもアドバイスを受けたそうだ。
今後のビジネス成長に向けモデラートでは、「機械学習を取り入れたスタイル提案にも取り組みたい」としている。ただ現時点では、ファッションスタイルにおいて「正解が何か」という点で、学習データづくりに課題があると市原氏はいう。
「Instagramなど、世にあるデータを使って正解データを作るか、それともスタイリストの提案を打ち出すか。事業をスケールするためには、スタイリストの作業を効率化したいので、機械学習は取り入れたいところだが、ソージュパーソナルのユーザーだけを対象にした“濃い”データが学習に適するのかどうか……」(市原氏)
当面は「スタイリストがInstagramなどのデータに正解を付ける、という形をひとまず検討している」と市原氏は言う。ただ「ライフスタイルは人それぞれだし、ユーザーの満足度にも自分軸だけでなく、『会社で評判のいいスタイル』や『家族や夫に評価されるスタイル』などいろいろな軸がある。最後はAIだけでなく、人が介入する必要はある」とも話している。
ソージュブランドでは「いろいろな軸に合わせられるという観点からも、『誰が来ても間違いじゃないもの』を基本アイテムとして用意している」という。これは「ZOZOとは違うアプローチ」と市原氏は説明する。
「ZOZOの場合は、ZOZOスーツの計測データから、体にピッタリ合ったものを用意しようというアプローチ。でもワンピースなど、30代、40代になってくると、女性はラインを気にする人も多く、ピッタリがよいとは限らない」(市原氏)
ワンピースを例にとると、ソージュのものはある程度の厚みと重みのある、しなやかな生地が使われているので、自分の好みやシーンに応じて、体の線に沿わせてスマートに着ることも、線を目立たせずに着ることもできる。
「アパレルでは『新しいものを出さなければ』という呪縛がある。でも、例えばユニクロは必ずしもそうではない。細かい色やモデルの変更はあっても、定番の形はいつでも揃っている。ベーシックでいろいろな着方ができるものを、ソージュでも定番アイテムとして用意している」(市原氏)
サロンに行ってアドバイスを受ける、というサービスの形については、市原氏は「その場で試着してみて、いろいろなアイテムを合わせてみることで分かることは必ずある。それがリアルの価値」と話す。しかし一方で、サロンに足を運ぶのが人によっては面倒と捉えられる部分もあることも、否定はしなかった。
「忙しい人にわざわざ来てもらって、手ぶらで帰るというのでは申し訳ないので、何か手に入れて帰ってもらいたい。特にサイズなどが揃っていない、ということはないように解決したい」(市原氏)
オンラインとオフラインサービスのちょうど良い落としどころとして、市原氏が注目しているのは、米国の「MM.LaFleur(エムエムラフルール)」のモデルだ。
MM.LaFleurでは、サロンやポップアップショップでの試着、ECショップでの通常の通販のほかに、「Bento Box」というセット商品の定期送付サービスがある。商品セットは、個人のスタイルやフィット感の好みに基づいて、スタイリストが選択。送付された商品の中から気に入ったものを購入し、合わなかったものは無料で返品できる。サブスクリプションモデルではないので、購入必須ではない。
MM.LaFleurの3カ月以内のリピート率は40%。創業から3年で年間売上高は約50億円に達し、「資金繰りがいいのでシリーズBラウンドの調達をキャンセルした」との噂もあるほど、好調にビジネスを伸ばしているサービスだ。
市原氏はこうした前例や、国内でエアクローゼットなどが展開する、レンタルサブスクリプション型のサービスも踏まえながら、「ソージュでは、自社ブランドや自社仕入れ商品だけでなく、他社のものからもスタイルを提案するところを特徴として打ち出している」と話す。
「高いものでなくても、ユニクロやZARAの製品で着心地の良いもの、スタイルの良いものもある。ソージュでは、スタイリストが有名ブランドとシルエットが似たジャケットをプチプライスブランドで見つけてきて、提案することもある。自社製品、自社扱い製品だけではなく、半分ぐらいは自社以外でいいものを伝えてもいいんじゃないかと思っているし、伝えるのが誠実だと考えている」(市原氏)
今回投資に加わったポーラ・オルビスホールディングスからは、こうした誠実さにもつながる、ビジネスのビジョンや美学を求められた、と市原氏はいう。「事業での協力が前提の出資ではないけれど、これをきっかけに、ポーラショップのスタッフらとの商品の共同開発や販売、店でスタイリングイベントを行うなど、コラボレーションもできればうれしい」(市原氏)
今回の調達資金については、スタイリストやデジタルマーケティング、アライアンスの担当者、エンジニアの採用に投資していくと市原氏は述べている。