【コラム】米国はシリコンバレーの力を活用して国防のイノベーションを推進すべきだ

米国防総省(DoD)をはじめとする米国政府機関および議会超党派合意は、中国が外交、インフォメーションとインテリジェンス、軍事力および経済力の戦略的活用によって、将来の世界秩序を再定義しようとしていることを認識している。

中国が宣言している目標と目的を踏まえれば、我々はこの評価が今後数十年間継続する可能性を予測すべきだ。

あらゆる公平な観察者にとって、中国の積極的な政府全体による支配、とりわけ軍事領域における支配への取り組みに対する米国の対応は、断片的かつ無効である。対応(要求、取得、予算)のために用意されたシステム(および人員)は、ライフサイクルコストと30年間におよぶDOTMLPF(教義、組織、訓練、物資、指導者育成、人事、施設)プロセス管理に最適化して設計されている。

しかし、戦略的競争に勝つためにはその正反対が必要だ。スピード、緊急性、スケール、短期ライフサイクル、およびアトリビュータブル(帰属可能)なシステムだ。既存のDoDシステムは、現在DoD関連の先端技術(AI / ML、自律、バイオテック、量子、宇宙利用、半導体、等々)のほとんどを支えている民間テクノロジー・エコシステムを効果的に利用するようには作られていない。

DoDの上級軍人および文民のリーダーの多くはこれを理解し、善意のイノベーションイニシアチブを設立してきた。しかし、こうしたイニシアチブへの長期的な資金提供とその効果は、先見性ある指導者個人の支援に依存することがほとんどあり、重要な指導者の在任期間が終わると危機に晒される。

その結果、この国のシステムも組織も人数も予算も、中国をはじめとする潜在的ライバルの挑戦を受けるためのスケーリングができない。我々の敵対者は、この国の伝統的システムが対応できるよりも速く革新している。

多くの人々が、既存のDoDシステムの刷新について記してきた。計画、プログラミング、予算、実行(PPBE)プロセスの修正、DoDアクセラレータおよびDefense Innovation Unit(国防イノベーション・ユニット)の規模拡大、既存の取得権限の活用などだ。

どれも良い考えだが、肝心の問題を見逃している、それは「DoDが民間産業と本格的に関わっていない」ことだ。米国民間セクターの並外れた潜在能力を活かし、その圧倒的に優れたリソースを持ち込むことでより効果的に前進することが、この戦略的競争に勝利するための鍵だ。

シリコンバレーはゲームに戻る準備ができている

第2次世界対戦後の最初の20年間、シリコンバレーは事実上「defense valley(防衛バレー)」だった。DoDと諜報機関のためにチップとシステムを作っていた。シリコンバレーにおけるイノベーションは、戦後スタンフォード大学への海軍研究事務所からの資金提供に始まり、さまざまな機関からの最先端の無線・電子システム開発の発注がそれに続いた。

生まれたての半導体企業にとって最初の大型契約は、大陸間弾道弾ミサイル、Minuteman II(ミニットマン2)の誘導システム、次いでアポロ宇宙船だった。冷戦期、Lockheed(ロッキード)はシリコンバレー最大の雇用主であり、3世代にわたる潜水艦発射弾道ミサイル、人工衛星、およびその他の兵器システムを製造した。シリコンバレーのリソースを結集させた我々の能力が、米国にとって決定的に重要で、最終的にソビエト連邦との冷戦に勝利をもたらしたことは間違いない。

今世紀の戦略的競争に勝つためには、同様のリソースと人材を確保する必要がある。今日、シリコンバレーはDoDを圧倒するテクノロジーエコシステムの中心に位置し、スピードと緊急性をもって動き、インセンティブが与えられれば、資金と人員を壮大なスケールで結集させ、一連の問題を解決することができる。

しかしDoDは、これを「大規模かつスピーディー」に活用すべきリソースであることをなかなか認めない。そして、完全に認めていないために、もしこのリソースを集結できれば何が可能になるのかを考えていない。

そして想像したことがないために、年間3000億ドル(34兆円)以上のベンチャー資金(対してDoDの研究、開発、試験、評価[RDT&R]プログラムは1120億ドル[約13兆円]、調達は1320億ドル[約15兆円])をこの国の安全保障を支える可能性のある軍民両用活動を支える分野に注ぎ込ませるために、どのようなインセンティブ(たとえば大規模な優遇税制など)を与えればよいのか考えたこともない。

「ハンマーにはあらゆるものが釘にみえる」ということわざは、主権と国際法への脅威のような問題の答をうまく説明している。ほとんどの思考は、既存の兵器システム(艦船、空母、原子力潜水艦)の追加 / 改良に限定されていて、代替的な軍事概念や南シナ海やバルト海やカリニングラードにおける戦争の阻止あるいは勝利に貢献した即時展開可能な兵器ではない。

どうやら、新しいベンダーによる小型、低価格、アトリビュータブル、自律型、致死的、大量、分散、短期ライフサイクルのプロジェクトを中心に作られた新しいシステムとコンセプトに関する会話は、ほぼ禁止されているようだ。しかし、これらこそが集まってくるソリューションとイノベーションエコシステムだ。SpaceX(スペースエックス)のような会社50社が、21世紀のDoDを作るのに協力するところを想像して欲しい。

米国の選りすぐりを戦略的競争に参加させよ

米国の民間セクター、特にシリコンバレーに焦点を合わせ、比類なきイノベーションと並外れた潜在投資力とともにその力を爆発させることで、中国に対する米国の能力低下を逆転させ、さまざまな主要テクノロジー分野で優位性を保つことができる。

それだけではない。我々はもっと積極的かつ意識的に、この国の世界に名だたる高等教育機構、すなわち米国主要大学に集まった才気あふれる革新的かつ創造的な学生たちと教員陣の膨大な未開発の可能性を活用しなくてはならない。

この国はかつてこれに成功したことがある。スタンフォードをはじめとする米国主要研究大学のほとんどは、冷戦期の軍事イノベーションエコシステムに不可欠な存在だった。しかし、シリコンバレーが独特だったのは、スタンフォード大学の工学部が、教授や大学院生に軍事エレクトロニクス企業を立ち上げるよう積極的に働きかけたことだった。最高の人材を集め、テクノロジーを商品化することでソビエト連邦とのレースに勝つための手助けをした。

この歴史的事例に触発され、我々は最近Stanford Gordian Knot Center for National Security Innovation(スタンフォード・ゴーディアン・ノット国家安全イノベーション・センター)を設立し、シリコンバレーのテクノロジー、人材、資産、スピード、そして困難な問題に立ち向かう情熱を駆使して米国がこの戦略的競争の新時代を勝ち抜く力になろうとしている。

我々はさらに、シリコンバレーや他のイノベーションエコシステムを横断してリソースを統合する取り組みを進めていかなければならない。トップクラスの大学では、国家安全保障イノベーションの教育を本格化する必要がある。国家安全保障イノベーターの養成、洞察力、融合、ポリシーアウトリーチの提供、最も困難な問題の解決の触媒になりうる実用最小限の製品の継続的創出などだ。

この国のすべてのリソースと至高の人的財産を活用しないリスクはあまりにも大きい。

編集部注:Steve Blank(スティーブ・ブランク)氏は、スタンフォード大学Gordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバーで、同大学の非常勤教授およびコロンビア大学のイノベーション担当上級フェロー。

Joe Felter(ジョー・フェルター)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationのセンター・ディレクター、創立メンバーで、スタンフォー大学のCenter for International Security and Cooperation、Hoover Institution、およびStanford Technology Ventures Programの講師、研究職。

Raj Shah(ラジ・シャー)氏はGordian Knot Center for National Security Innovationの創立メンバー、テクノロジー企業家・投資家、スタンフォード大学非常勤教授、ペンタゴン防衛イノベーション・ユニット実験の元マネージング・パートナー。

画像クレジット:Andriy Onufriyenko / Getty Images

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(文:Steve Blank、Joe Felter、Raj Shah、翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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