アフターコロナ見据えて観光産業の活性化目指すトラベルテック協会発足

トラベルテックで観光産業を盛り上げる

トラベルテックで観光産業を盛り上げる

観光事業をITテクノロジーで盛り上げようとトラベルテック協会が2020年12月15日、発足した。協会はトラベルテックを軸に、アフターコロナにおけるグローバルな観光需要の拡大と観光産業の活性化を目指す。地方創生ソリューション事業などを手掛けるエスビージャパンの中元英機代表が発起人で、協会の代表理事を務める。2021年2月までに、国内のスタートアップから海外事業者、大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)まで計17社が入会した。次年度の2021年4月から活動が本格化する前に、中元代表理事に協会の役割やコロナ禍における観光業界などについて話を聞いた。

トラベルテック協会設立の背景

トラベルテックという言葉は新しい。協会はこのトラベルテックを「世界の観光や旅の分野において、最新のITテクノロジーを活用することで、旅行者の手間をなくし、シームレスな対応を推進する事業や取り組み」と定義する。

中元氏は「業界でもまだ浸透してはいないが、言葉は後から付いてくるもの。これまでにない手法や考えで観光事業に取り組むべきだという機運は、首都圏だけでなく地方部を含めて観光業界全体で高まっている。アフターコロナでトラベルテックは業界に大きく貢献するはず」と期待を込める。

オンライン取材のようす。中元代表理事

オンライン取材のようす。中元代表理事

協会発足の足掛かりとなったのは、エスビージャパン主催の無料ウェビナー「みんなの観光サミット」だ。サミットは2020年9月に始め、以降、毎月1回のペースで開催、主に自治体や観光業界の関係者に向けて、スタートアップらがサービスや取り組みをプレゼンする場となる。

サミットを続けるうちに参加者から「コロナ禍で新しい情報が入らない」と声が上がった。中元氏はアターコロナを盛り上げるためには、いち早くトラベルテックの情報を集めて発信する必要があると考え、考案から1カ月ほどで協会を立ち上げたという。

国内外のトラベルテックカンパニーが集結

協会員には国内だけでなく、シンガポールやカンボジア、台湾からトラベルテックカンパニーも参加している。

協会員のA2A town(Cambodia)は、カンボジアのキリロム国立公園で、エコツーリズム事業を展開している。また、敷地内では国内最難関のIT技術大学キリロム工科大学、高原リゾートの運営も行う。

台湾と香港、中国を中心としたアジア全域で約1億個のIDを保有するビッグデータカンパニーVpon JAPANや、繁体字圏(台湾・香港)向けに、訪日観光情報サイト「樂吃購(ラーチーゴー)!日本」を運営するジーリーメディアグループらも協会に賛同し、入会している。

中元氏は「観光業界には異なる規模の事業者や団体、組織などが集まる交流拠点は意外と少ない。協会員が交流する場としてはもちろん、トラベルテックの情報や活用方法などを得ることができ、相談も受ける場として協会を運営していく」と意気込む。

協会は、大手事業者もスタートアップもいるなかで国や規模などの垣根を越えて結び付け、トラベルテック領域の新たなソリューションを生み出して観光業界に還元する考えだ。

国内スタートアップ発のサービスを海外へ

協会は「トラベルテック領域の民間企業、スタートアップ・ベンチャー企業」を正会員の対象としている。年会費や入会費はなく、エントリーシートを審査した後、理事会承認で入ることができる。事業規模などは考慮せず、そのスタートアップが持つサービスやテクノロジー、プラットフォームが「おもしろいか」で判断しているという。

中元氏はその上で「国内スタートアップはもちろんだが、今後は海外からさらに協会員を集めたい。すでにアジア地域でいくつかの旅行系スタートアップに声を掛けている」と語った。将来的にはアジア地域との関係をより密にし、会員数は年内に50~60会員程度に増やす見通し。協会員は国内事業者5割と海外事業者5割の割合を目指す。

アジア地域を含めて事業者を呼び込む目的は2つある。海外で先行するトラベルテックのサービスやプラットフォームなどを、協会をハブにして日本に持ち込み市場を盛り上げることがひとつ。もう一点は海外事業者を通じて、国内スタートアップが海外市場へ踏み出していくことだ。

中元氏は「コロナ禍で海外の観光市場が停滞し、海外のプレイヤーも足止めを食っている。ここに大きなチャンスがあるため、海外展開も視野に入れたスタートアップと手を組みたい」と話した。

コロナ禍で見えてきたモノ

観光庁の調べによると、2020年4月の緊急事態宣言などによって、国内大手旅行会社の予約人員は同年4月、5月の海外旅行、国内旅行、訪日旅行すべてで、前年同月と比べて9割以上の減少となった。特に4月の海外旅行および訪日旅行は取り扱いがゼロになるなど市場は荒れた。

しかし、さまざまな業界が新型コロナで苦しんだ中、観光体験そのものを見直す動きも出てきた。政府の方針(観光白書)では、新型コロナを契機に特定の時期や場所に集中しがちな従来の旅行スタイルから転換し、「新しい生活様式」による旅行スタイルのあり方を探ることが求められている。

具体的には、コロナ禍では、現地ガイドが海外の観光地を案内しながら配信するといったオンラインツアーに注目が集まった。諸外国が新型コロナ感染防止のために入国制限を敷くなど、海外旅行ができない状況が人気に拍車をかけた。

協会員でもあるHISによると、同社は2020年4月からオンライン体験ツアーを始め、これまで72の国と地域で累計3500コース以上を催行し、体験者数は5万人を超えたという。

また、旅行会社だけでなく、地方自治体などもオンラインツアーで需要喚起や集客に取り組んだ。愛媛県の宇和島市観光物産協会では、宇和島伝統の闘牛大会をオンラインで生中継した。ただ映像を流すだけでなく、大会が始まる前にナビゲーターが闘牛についての紹介をしたほか、出場している闘牛の解説も行うなど工夫を凝らした。

この他、リモートワークが進められているいま、旅行需要の分散化にも期待が出てきた。2019年の日本人における旅行実施時期について月別旅行消費額をみると、ゴールデンウィークがある5月と、お盆休みなど長期休暇を取得する8月に偏りがあった。一年間を通して単月で旅行消費額が2兆5000億円以上あるのは5月と8月だけであり、多くの人が旅行時期を柔軟に選択できていなかった。

そのような中、観光地でテレワークをしながら休暇を楽しむワーケーション(workとvacationを組み合わせた造語)や、出張の仕事後に延泊して観光を楽しむといったブレジャー(businessとleisureを組み合わせた造語)など、仕事と観光が融合した新たな旅行スタイルの普及に政府も力を入れている。

「観光業界はこれまでの当たり前を変えていくことも必要だ。例えば、観光地にある多くの観光施設は平日に休館日が集中しているが、そういった足下の改革も必要なのではないか。新型コロナで観光産業が立ち止まったことは、古い商習慣でこれから本当に通用するかを考えるきっかけにもなった」と中元氏は2020年を振り返る。

協会をオープンイノベーションの場に

トラベルテック協会ロゴ

トラベルテック協会ロゴ

2021年4月以降、協会は地方自治体やスタートアップ、地域らとトラベルテック領域のオープンイノベーションの場としても動く。まず自治体や地域からの相談を協会が受け、協会員に共有して、各協会員が持つサービスで解決策を提案する。自治体らが実際に案を採用した場合、課題解決に向けた実証実験などを行う流れを作る。協会は、橋渡しの役割を担うカタチだ。

中元氏は「予算が付くことを前提にしたい。まずは次年度に年間1-3件ほど成功させたい。この一歩をいかに成功させるかが、我われ協会の頑張りどころだ。事例づくりが重要になる」と力を込める。

最後に今後のトラベルテックについて聞くと、中元氏は「確実に加速しているので、新型コロナの影響が一巡した後には、想像もしなかったサービスが生まれるかもしれない」と述べた上で、「もちろん、業界を一変させるようなトラベルテックが協会内から生まれれば、いちばん嬉しい」と笑顔で語った。

※2021年3月9日時点の協会員一覧(順不同)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。