自動車の遠隔起動デバイスを活用したプラットフォームを通じて、これまで金融にアクセスできなかった人たちに向けた新たな金融サービスを提供しているGlobal Mobility Service(GMS)。同社は6月8日、イオンファイナンシャルサービスなど10社を超える東証一部上場企業から11億円を調達したことを明らかにした。
今回GMSに出資した企業は次の通り。
- イオンフィナンシャルサービス
- 川崎重工
- 凸版印刷
- 大日本印刷
- 双日
- G-7 ホールディングス
- バイテックグローバルエレクトロニクス
- そのほか非公開の一部上場企業
各企業とは資本業務提携を締結し、事業の拡大へ向けて取り組んでいくという。なお同社は2017年4月にもソフトバンク、住友商事、デンソー、クレディセゾン、グロービス・キャピタル・パートナーズ、SBI インベストメントなどから総額約7億円を、2015年8月にもSBI インベストメントから3億円を調達している。
与信審査の概念を変える新たなファイナンスプラットフォーム
GMSが取り組んでいるのは、既存の与信審査の仕組みでは自動車を手に入れることのできない人達を救うためのデバイスとプラットフォームの開発だ。
同社代表取締役の中島徳至氏によると「リースやローンといったモビリティファナンスが利用できない人が世界に20億人いる」とのこと。特に新興国では劣化した車両を長年使い回すことにもつながり、騒音や排気ガスといった新たな問題の原因にもなっているという。
前回の調達時にも紹介したとおり、GMSでは自動車を遠隔から起動制御できる車載IoTデバイス「MCCS」を開発。月額の料金支払いがないユーザーの自動車を遠隔で停止、位置情報を特定できる手段を作ることで、従来とは異なる新しい金融の仕組みを構築した。
これまでの与信審査を省略することで、より多くの人が自動車を手に入れるチャンスを掴めるようになる。
中島氏によると、現在GMSのサービスは2000台を超える車で利用されていて、毎月導入台数が200台ペースで増えているとのこと。中心となっているのはフィリピンの三輪タクシーで、日本やカンボジアでもすでに事業を展開している。
最近フィリピンではGMSの仕組みを利用して三輪タクシーを手に入れたユーザーが、1回目のローンを完済した上で、次は自動車を入手するべく2回目のローンを組む事例も増えているそう。新たなエコシステムが生まれてきているだけでなく、三輪タクシーから車に変わることで金額も一桁変わるため、ビジネス上のインパクトも大きい。
日本でも年間約190万人がローンやリースの審査に通過できないと言われている。従来は金融機関が保証会社を通じて審査をするのが一般的だったが、GMSの仕組みを使って自分たちでやってしまおうという企業もでてきた。
すでに西京銀行やファイナンシャルドゥとは業務提携を締結済み。今後も金融機関やメーカー系のディーラーと連携を深めていくという。
「今までは台数を重視するというよりも『この仕組みでビジネスが成り立つのか、そもそもユーザーからニーズがあるのか』を検証しながら関係者とのパートナーシップを進めてきた。結果として新興国のファイナンスではデフォルト率が15〜20%が一般的と言われている中で、(GMSでは)1%以内に押さえることができている」(中島氏)
事業会社10数社とタッグ
これまでは技術開発と市場開発に加え、金融機関からの理解を得るために話し合いや実証実験に時間を費やし、少しずつ体制が整ってきたという。たとえば今回出資しているイオンファイナンシャルサービスとは実証実験からスタート。手応えがあったため資本業務提携に繋がった。
同社以外にも今回のラウンドには東証一部に上場する各業界の事業会社が10社以上参加している。GMSによると「国内Mobility、IoT、FinTech の各業界における未上場ベンチャー企業の中では最多」とのことで、各社とは業務提携を締結し事業を推進していく方針だ。
「たとえば初めのベンチャー投資となる川崎重工は、GMSの中で最も取り扱いの多いバイクを開発している企業。今後はタッグを組むことでさらにサービスの価値を向上させていきたい。また当社の事業において『セキュリティや個人認証』が大きな鍵となる。凸版印刷や大日本印刷とはお互いのナレッジやリソースを活用しながらサービスを強化していく」(中島)
今回調達した資金をもとに、GMSでは組織体制を強化しプラットフォームの機能拡充とともに、ASEAN各国での事業開発を加速する計画。直近ではインドネシアでの展開を予定しているという。
「GMSが取り組んでいるのは『Financial Inclusion(金融包摂)』と呼ばれる、これまで金融にアクセスできなかった人たちをサポートする仕組み作り。その点では、導入台数を増やすというよりは、どれだけの雇用を創出していけるかを大事にている。20億人がローンを組めないという中で、まずは1億人の雇用を生み出せるようなサービスを作っていきたい」(中島氏)