テクノロジーへの取り締まりが、今後の米国・中国間の競争の運命を握る

TechCrunch Global Affairs Projectは、テックセクターと世界の政治がますます関係を深めていっている様子を調査した。

今、テクノロジー大手は苦境に立たされている。野心的なテクノロジー企業はかつて、中国で比較的独立して活動できる数少ない企業の1つだった。以前、Alibaba(アリババ)のJack Ma(ジャック・マー)氏やDidi(ディディ)のJean Liu(ジーン・リュー)氏のようなテックリーダーは、ダボス会議で主役級の存在感を放つ、中国イノベーションの世界的なシンボルとなっていた。しかし今は違う。

2020年マー氏が中国の規制当局を批判する発言をした後、Alibabaの記録的なIPOは延期され、また同氏は数カ月間、事実上「行方不明」となっていた。Tencent(テンセント)は反トラスト法違反で多額の罰金を科せられている。2020年以降、両社はそれぞれの企業価値の約20%を失い、その総額は3000億ドル(約35兆円)以上に達している。Didiの株価は中国のアプリストアからの削除命令を受けた後、40%も下落している。最近では中国の規制当局がEdTechやゲーム業界に新たな規制を課し、さらには暗号資産を全面的に禁止している。

米国テクノロジー業界の重鎮らは自由を手にしているようにも見えるが、実際は彼らや彼らのビジネスも政府の監視下に置かれている。Lina Khan(リナ・カーン)氏、Tim Wu(ティム・ウー)氏、Jonathan Kanter(ジョナサン・カンター)氏といった反トラスト法を擁護する有力者たちがいずれもバイデン政権で要職に就いており、また米国議会ではプライバシーや年齢制限など、テクノロジー企業を規制する新たな法案が検討されている。

北京でもワシントンでも(そして何年もテクノロジー企業と戦ってきたブリュッセルでも)「大手テクノロジー企業はあまりにも強力になりすぎて責任を取れなくなっている」というコンセンサスがますます明確になってきている。政府はイデオロギーの違いを超えて、公共の利益の名のもとに何らかのコントロールを行わなければならないと考えている。今、創業者、経営者、投資家にとって、政治的リスクがかつてないほど高まっているわけだ。

しかし、表面的には似たような取り締まりに見えても、両国の反トラスト法戦略の意味するところはこれ以上ないほど相違している。中国では、反トラスト法の取締りは与党である共産党の指揮棒に運命が委ねられている。しかし米国の反トラスト法のムーブメントは一様ではない。

米国がまだ始めたばかりのことに対して中国は断固たる行動を取っている。しかし、データプライバシーや子どものスクリーンタイムの制限を謳う中国政府の取り組みは、その真の目的である政治的・経済的な完全支配のための布石にすぎない。事実上独立した市民社会が存在しない中国では、テクノロジー産業は共産党以外に権力を持つことができる数少ない場所の1つとなっていた。しかしこれまで以上に抑圧的な習近平政権では、このような独立した力の源が受け入れられることはない(香港を参照)。党の方針に従わなければ中国国家の強大さに直面するぞというメッセージは明確である。

さらに、中国はパワーの拡大を目指している。中国はかねてより次世代技術の支配を目指しており「China Standards 2035」プロジェクトの一環として、5GやAI、再生可能エネルギー、先進製造業など、数多くの重要な産業や分野の標準化の設定を積極的に進めている。これを実現するための主要戦略として、中国は国際的な基準設定団体を水面化に支配しようと試みていたのだが、北京はこれらのテクノロジーを開発する企業をコントロールすることも同様に重要であると気づいたのである。Huawei(ファーウェイ)、Xiaomi(シャオミ)、TikTok(ティックトック)の3社は、欧米の政治家が懸念しているような積極的なスパイ活動は行っていないかもしれないが、彼らの利用が広がれば広まるほど、中国の規格が世界のデフォルトになっていくことになる。

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ジャック・マー氏の運命と中国の5GリーダーであるHuaweiの創業者一族の運命を対比してみるといい。Huaweiは中国のテクノロジーを世界の多くの国でデフォルトの5Gキットとすることに成功。これにより中国の技術的信頼性が高まり、いくらマー氏が共産党員でもこの功績の比較にはならない。Huaweiは当然北京との親密さを売りにしており、Huaweiを選ぶことは中国への信任投票の代名詞となっているが、その分のリスク存在する。米国は、Huaweiと中国の治安機関との関係を懸念して同社に対する反対運動を実施。その結果、Huaweiが米国の対イラン制裁に違反したとして、同社創業者の娘でCFOのMeng Wanzhou(孟晩舟)氏がカナダで逮捕されるに至ったのである。

しかし、忠誠心が報われないわけではない。北京は2人のカナダ人を逮捕し、彼らの拘留を利用して晩舟氏の釈放に向けた取引を成功させた。例えHuaweiが以前は北京に忠誠を誓っていなかったとしても、今は確実に誓っているだろう。中国の他のテクノロジー大手にとっての教訓になったのではないだろうか。

中国の弾圧により投資は冷え込み、人材は浪費され、恐らく中国の強力なテクノロジー部門を築いてきた起業家精神も失われたことだろう。しかし、権力を振るってテクノロジー企業を屈服させることには間違いなく成功している。

北京が国益のためにテクノロジー大手を弾圧する一方で、米国が自国のテクノロジー大手を取り締まっている理由は一体何なのだろうか?米国の独禁法取締官はテクノロジーパワーの肥大化を懸念しているかもしれないが、より競争力のある部門がどうあるべきかという戦略的ビジョンを持っているとは信じ難い。米国の大手テクノロジー企業はその規模が米国の競争力に不可欠であるという主張をすることがあるが、彼らも政府も、自分たちが「アメリカンパワー」の作用因子であるとは考えていない。実際、米国議会がテクノロジー企業と中国のどちらをより敵視しているのか、判断に迷うほどである。

反トラスト法を支持する人々は、Google(グーグル)やApple(アップル)といった企業を解体するか、少なくとも規制することで全体的な競争力が高まり、それが政治や米国のテクノロジー分野に広く利益をもたらすと信じている。AmazonからAWSを、 Facebook(フェイスブック)からInstagram(インスタグラム)を切り離すことで、消費者にはメリットがもたらされるかもしれないが、これがテクノロジーに関する米国の優位性を維持することにどうつながるだろうか?それはまったく不明である。

これまでの米国におけるハンズオフ型の資本主義システムは、オープンでフラット、民主的であり、世界の歴史上最高のイノベーターを生み出してきた。同産業は政府が支援する研究の恩恵を受けてきたが、政府との関係の「おかげ」ではなく、むしろ政府との関係があったにもかかわらず、成功を遂げることができたのだ。米国企業が世界的に信頼されているのは(ほぼ)そのためであり、政権の動向に左右されることなく、法の支配を遵守することが知られているからなのである。

テクノロジーにおける米国と中国間の競争は、この前提を根底に検証されなければならない。政府から独立して運営されている分散型かつ非協調的な産業が、超大国によって編成された一産業に対して優位性を維持できるのか?

筆者はそれでも米国の(そして同盟国の)イノベーションは、これまで通り成功し続けると楽観視している。開放性は創意工夫を生むのである。米国の研究とスタートアップはどの国にも劣っておらず、そして競争に適切に焦点を当てることで、発展が到来するのである。

しかしだからといって、少なくとも限定的な国家戦略がまったく不必要というわけではない。米国に中国のような産業政策が必要だと言っているわけではない。結局のところ、中国のトップダウンモデルは壮大な無駄を生み出し、それが何十年にもわたって中国経済を圧迫することになる可能性があるのだ。企業を強制的に壊してしまうような露骨なやり方では、かえって害になることが多いだろう。

その代わりに米国の議員たちは、反トラスト法に関するヨーロッパの見解に賛同しつつある今、大西洋をまたいだグローバルな競争基準の賢明なフレームワークを開発すべきだ。新設されたU.S.-EU Trade and Technology Council(米欧通商技術評議会)とQuad(日米豪印戦略対話)のテクノロジーワーキンググループが協力を促進し、フェアプレーを維持する善意の民主的テクノロジーブロックを作るための基礎を築くべきなのである。

商業的なアウトカムに影響を与えることなく、政府が支援を行うというこのような中間的な方法には前例がある(冷戦時代に生まれたシリコンバレーの例など)。米国のテクノロジー産業の起業家精神を阻害することなく、ガードレールを提供するためにはこの方法が最適だ。

議会や行政がテクノロジー競争をどう扱うかを検討する際、現在の弊害を是正するだけではなく、米国のテクノロジーそのものの未来を描くことを念頭に置くべきである。なんと言っても米国経済のリーダーシップがかかっているのだから。

編集部注:本稿の執筆者Scott Bade(スコット・ベイド)はTechCrunch Global Affairs Projectの特別シリーズエディターで、外交問題についての定期的な寄稿者。Mike Bloomberg(マイク・ブルームバーグ)の元スピーチライターで、「More Human:Designing a World Where People Come First」の共著者でもある。

画像クレジット:Anson_iStock / Getty Images

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(文:Scott Bade、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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