ペンタゴンとシリコンバレーのパートナーシップを再起動

TechCrunch Global Affairs Projectは、テクノロジー部門と世界政治でますます複雑になる関係を検証した。

2021年11月15日、ロシアは警告なしに対衛星ミサイルを地球低軌道に発射し、自国の衛星を破壊した。この際に生じた破片やデブリは、国際宇宙ステーションに滞在する宇宙飛行士を危険にさらしただけでなく、GPSや電力網など、地球上の重要なインフラを支える衛星網に、今後何年にもわたって深刻なダメージを与える可能性がある。

その1カ月前には、中国が地球を1周する極超音速ミサイルを発射したが、これは現在の技術で防御することは不可能だ。

これらの出来事は警鐘である。米国の技術的リーダーシップは保証されておらず、新たな技術の進歩が我が国の安全保障に対する新たな脅威を生み出す現在、私たちがパートナーや同盟国とともに発展させて維持してきたグローバルスタンダードは書き換えられつつある。

しかしながら、これらの新たな脅威は決して乗り越えられないものではない。むしろ、人工知能、宇宙、サイバーセキュリティ、自律システムといった新たな技術分野の最前線で活躍する起業家や投資家にとっては、これらの出来事は明らかに呼び水となるはずである。

非対称戦争(双方の軍事力、戦略や戦術が大きく異なる戦争)やサイバー戦争がもたらす新たな課題に対応するためには、60年以上前にシリコンバレーや現在の我が国の技術的リーダーシップを構築した際と同じように、米国国防総省、学界、産業界が協力して取り組む必要がある。インターネットや半導体が生まれ、ヒトゲノムのマッピングも実現したのも政府の投資によるものだ。

筆者は商業技術分野で30年を過ごしたのちに、過去50年にわたる米国の経済力と世界的なリーダーシップの基盤となった関係を再構築するために国防総省に移籍した。

国防総省とシリコンバレーの関係はなぜ復活させる必要があるのか?

国防総省は、戦争の性質の変化に対応するだけでなく、必要なビジネスプロセスの改革を生み出すテクノロジーの近代化策を積極的に推進している。例えば、商業宇宙では、ユビキタスなインターネットアクセスを提供するための小型衛星や、さまざまな(宇宙の)エリアに積荷を届けるための迅速な打ち上げ能力の開発がすでに行われていて、自動運転車は交通手段を提供し、ドローンの大群が石油パイプラインの監視や商業ビル、インフラの検査を行っている。

これらの革新技術はすべて2つの側面をもつ技術で、軍事的な用途に使用できる。このソリューションをネットワーク化するには、費用対効果が高く、安全で拡張性のあるグローバルなクラウドオプションが必要である。企業と同様、軍も膨大なデータに含まれるインサイトを活用し、AIや機械学習で予測能力を実現し、より迅速で優れた意思決定を行う必要がある。

防衛力の改善には、同様にビジネスプロセスの改革も重要である。国防総省のビジネスプロセスのほとんどは1960年代に確立され、戦車や艦船、飛行機などの大型兵器プラットフォームの構築に重点が置かれていた。商業部門が急速に進歩したことで、軍の技術的優位性は高まっているが、国防総省は、継続的に購入している大型兵器プラットフォームを補完する多くの技術を購入する必要がある。

これからの10年が、技術の優位性をめぐって各国が激しい競争を繰り広げる時代となるのは確実で、多くの民間企業にとっては、国防総省と協力して複雑な問題に取り組むことのできる初めての機会となるはずだ。

例えば、アセット(資産)を空、宇宙、海中、陸上、サイバー空間に持つ国家安全保障機構は、事実上、世界最大のセンサーの集合体である。しかし、これまでのところ、これらのセンサーはシームレスに統合されるようには設計されておらず、通常はサイロ状に構築・運用されているので、アップデートや、共通の運用計画の作成は難しい。宇宙にモノのインターネット(IoT)、すなわちグローバルなセンサーネットワークを構築することで、リアルタイムの状況把握、作戦決定を支える復元力のある通信インフラ、そして小型かつ多数で機敏な海・陸・空・宇宙システムの自律部隊の基盤が提供される。

これらのシステムは膨大な量のデータを生成するので、ストレージ、管理、分析の強化が必要である。技術の近代化とは、情報を収集、分析、理解し、国家安全保障のためにより良い意思決定を行うためのさらに優れたツールを構築することを意味する。また、脆弱性に対するサイバー攻撃からシステムを保護する高度な手段も必要である。そして、よりクリーンなエネルギーを利用してこれらの新機能を物理的に実現する必要がある。

これらのテクノロジーを開発しているのは民間企業だが、国防総省は、国家安全保障を強化し、(国家としての)商業的な成功を促進するために、これらを迅速に評価し、効率的に調達する能力を高めなければならない。このビジョンを実行すれば、これまで以上に多くの企業が、21世紀の国家安全保障を強化するための一世一代の経済的機会に参加できるようになる。

国防イノベーションユニット:国防総省におけるスタートアップ

アッシュ・カーター国防長官(当時)は、最高の技術を軍に提供するためには、制度の壁を取り払い、商業部門からフレッシュなアイデア、技術、方法論を取り込む必要があると認識していた。2015年、彼はこのつながりを再構築するために「Defense Innovation Unit(国防イノベーションユニット、DIU)」の開設を発表した。DIUは、革新的で迅速な契約メカニズムを実現し、国防総省とのビジネスをより手軽に、(民間企業にとって)より望ましく、より収益性の高いものにするために設計されたものである。

すでにDIUでは、ハードウェアやソフトウェアのライフサイクルにおける重要なポイントでの継続的な投資や、試験施設への継続的なアクセスを提供し、民間企業に防衛分野でも成長するための道筋を示すといったコラボレーションがいかに強力であるかを証明している。このコラボレーションでは、製品の開発の加速、企業の成長の促進、そして投資家に新しい市場へのアクセスを提供することが可能である。

しかし、主要技術における米国の優位性を維持するには、60年来の買収システムを変える必要がある。現在では、国防総省は、多くの技術において、先駆者でも主要投資家でもマーケットメーカーでもない。国防上の問題を解決するためには、国防総省は、自らが開発したものではない商業技術を適応・統合するファーストフォロワーになる必要がある。DIUは次の3つの分野での活動を提唱してこの目標に取り組んでいる。

  • 防衛仕様の要求に縛られた軍用のカスタムソリューションを作るのではなく、利用可能な商用ソリューションで直接問題を解決する
  • 買収を合理化し、商業的なスピードをもって機会を拡大する
  • 予算編成プロセスに柔軟性を持たせる。現在、防衛のために1ドルの支出を計画して実際に支出するまでに、最長で3年かかっている

一見当たり前のようにも思える3つの分野だが、国防計画や議会の承認など、長年にわたって確立されてきたプロセスを覆すのは容易ではない。また、(民間企業には)防衛以外にも大きな市場があるので、国家安全保障に関わる仕事に対応するサポートテクノロジー企業には、健全なビジネスケースを提示できるようにすることも重要だ。

国防総省だけ、あるいは一部の民間企業だけの参加では、変化のペースを速め、障壁を取り除くことはできない。企業、大学、政府の3者が積極的に関与し、さまざまなアイデアやアプローチを提供して、モダナイゼーションのペースを加速させる必要がある。人材の交換、製品の獲得、重要な問題についてのオープンなコミュニケーションなど、国防総省と民間企業のつながりを再構築することは非常に重要である。

国防総省のリーダーたちは、米国史上かつてない技術テクノロジーの進化の時代に生きていることを認識している。DIUは、商業的な技術と方法論を採り入れて軍の重要インフラを近代化する、という他にはない重要な役割を担っている。昔、シリコンバレーが誕生したときのように、私たちは協力して、国家の安全で豊かな未来を守ることができるはずだ。

編集部注:本稿の執筆者Mike Brown(マイク・ブラウン)は、Defense Innovation Unit(DIU)のディレクター。DIU以前は、Symantec CorporationのCEO、Quantum Corporationの会長兼CEOを務めていた。また、国防総省のホワイトハウス大統領イノベーションフェローとして2年間勤務し、中国の米国ベンチャーエコシステムへの参加に関する国防総省の研究を共同執筆している。本稿で述べられている見解は著者のものであり、国防総省または米国政府の公式な政策や立場を反映するものではない。

画像クレジット:Jeremy Christensen / Getty Images

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(文:Mike Brown、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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