中国が企業間の炭素排出量取引制度の運用開始、気候変動にポジティブな影響の可能性

中国は現地時間2月1日、全国規模の炭素取引マーケットを立ち上げた。このマーケットが効果的に機能すれば、2021年における温室効果ガスを削減するための最も大きな取り組みになるかもしれない

中国は世界最大の温室効果ガス排出国で、世界の排出量に占める中国の割合は右肩上がりだ。

中国政府は環境への影響を抑えようと取り組んでおり、炭素取引システムのような政策は新テクノロジーの浸透、国内スタートアップや世界中のテック企業の商品やサービスに対する需要増を呼び起こすかもしれない。

米国では一部で、そして欧州では広範に導入されている炭素市場は産業からの炭素排出に価格をつけ、大気から同量の温室効果ガスを取り除くプロジェクトに投資することでそうした炭素排出を相殺するよう企業に促す。

これは2015年のパリ協定の重要な構成要素であるが、議論も呼んでいる。というのも、Carbon Markets Watchの政策担当官Gilles Dufrasne(ジレス・デュフラン)氏が2020年にタイム誌に語ったように、十分に実行され効果的に管理されなければ排出企業の「大きな抜け穴」になり得るからだ。

これは中国には特に当てはまる。中国では腐敗が繰り返されており同国は長い間、環境政策と経済成長の管理を犠牲にしてきた。こうしたことは中国だけではないが、他のどの国(米国を除く)よりも大規模な制度の運用が決定された。

政策の有効性はまた、中国共産党の官僚主義内に存在するヒエラルキーの影響を受ける。ChinaDialogueが指摘したように、中国国家発展改革委員会(NDRC)よりも弱い法的権限を持つ生態環境省によって政策は出された。NDRCは中国全土のマクロ経済政策と同国の主要経済イニシアチブの監督を行っている主要政府機関だ。

世界の温室効果ガスの28%を占めるという最大の排出国である中国ほど、大規模な排出取引マーケットを導入した国は他にない。

全国人民代表大会(NPC)の閉会式で演説する習近平国家主席、2018年3月、中国・北京(画像クレジット:Lintao Zhang/Getty Images)

中国はまず2011年に深セン、上海、北京、広東、天津、湖北、重慶、福建で排出ガス取引システムのテストを開始した。絶対的な排出上限値よりも炭素集約度(GDPユニットあたりの排出)に基づいた排出の上限を設けたシステムを使って政府は電力部門や他の産業でこうしたパイロットの展開を開始した。

2018年の構造改革後に、NDRCの後援の元に起草された計画は生態環境部に投げ渡された。排出上限・取引プログラムの移譲は、ちょうど米国がDonald Trump(ドナルド・トランプ)政権下で気候規制やイニシアチブを捨ててパリ協定から脱退する最中でのものだった。

中国の排出スキームは当初2020年に取引シミュレーションで開始するはずだったが、新型コロナウイルスパンデミックで妨げられ、2021年2月1日の実行まで半年後ろ倒しになった。

差し当たって排出取引は中国の電力産業と約2000の発電所施設をカバーしている。ChinaDialogueによると、これだけで中国の総排出量の30%を占め、今後取引システムはセメントや鉄鋼、アルミニウム、化学、石油・ガスといった重工業にもおよぶ。

当面、政府は無料の排出枠を割り当て、「状況に応じて適切な時期に」オークション枠を開始する。

そうした表現、それから炭素価格が利益と貸し出しリスクにもたらし得る効果について注意喚起している国有企業や金融サービス企業が提起した懸念は、中国政府がまだ産業成長にともなう環境的コストよりも経済的利益を重視していることを示している。

ChinaDialogueが引用したマーケット参加者の調査では、二酸化炭素1トンあたりの価格は41元(約670円)から始まり、2025年には66元(約1070円)に上昇すると予想されている。中国における二酸化炭素の価格は2030年までに77元(約1250円)になると見込まれている。

一方、経済学者Joseph Stiglitz(ジョセフ・スティグリッツ)氏とNicholas Stern(ニコラス・スターン)氏が提唱した炭素価格にかかるコミッションが2017年にできた。両氏はマーケットと価格が行動に影響を与えるとすれば、二酸化炭素は2020年までに40〜80ドル(約4200〜8400円)、2030年までに50〜100ドル(約5200〜1万400円)のレンジになる必要があるとの考えを示した。

そうした価格をつけている国はない。しかし欧州連合はかなり近く、その結果、温室効果ガスを最も削減している。

それでも中国政府の計画には、検証済みの企業レベルの排出量についての公開報告要件が含まれている。そして、もし政府が実際の価格をつけることを決めた場合、マーケットの存在は炭素排出を追跡するための技術を開発しているモニター・管理機器のスタートアップにとって大きな恩恵となり得る。

ChinaDialogueのアナリストは以下のように記している。

カーボンプライシング(炭素の排出量に価格づけを行うこと)の最も困難な部分は往々にして開始時にあります。中国政府が国家の排出量取引制度(ETS)で目標を高く設定すると決めることは可能です。メカニズムが今、動き出し、習国家主席の気候分野における野心による勢いと政治的意思が衰えなければ、加速するかもしれません。数年のうちに、これは上限の低下、多くの部門のカバー、透明性のあるデータ提供、効果的な政府間の調整につながるかもしれません。ETSを縄張りへの脅威としてではなく、政策目標のために大きなコベネフィットをともなう方策としてとらえる必要があるエネルギー・産業当局においては特にそうです。

カテゴリー:EnviroTech
タグ:中国二酸化炭素二酸化炭素排出量気候変動

画像クレジット:大杨 / Flickr under a CC BY 2.0 license.

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(文:Jonathan Shiber、翻訳:Nariko Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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