本田技研工業がeVTOL、アバターロボット、宇宙技術に向けた計画を発表

本田技研工業は9月下旬、電動垂直離着陸機(eVTOL)、二足歩行ロボット、宇宙技術などの新規事業分野におけるイノベーション計画を発表した。

本田技研工業(HMC)のイノベーション部門である株式会社本田技術研究所(Honda R&D)が中心となり「モビリティの可能性を3次元、さらには時間や空間の制約を受けない4次元、そして最終的には宇宙へと広げて、人々に新たな価値をもたらすテクノロジーへの既成概念にとらわれない研究」を行なっていくという。

まるでSF小説のような話である。こういったイノベーション計画は結局うまく行かずに終わることも多々あるが、説明会で同社は過去73年間にわたって開発し続けてきた燃焼、電動化、制御、ロボティクスなどのコア技術が、これまでのモビリティニーズと大きく異なる未来の目的に適応し、いかに進化を遂げることができるかを論証したのである。

ハイブリッドeVTOLとそれに対応するモビリティ・エコシステム

画像クレジット:本田技研工業株式会社

eVTOLとヘリコプターの違いは、前者がバッテリーからの電力で駆動する独立したモーターを持つ複数のプロペラを備えているのに対し、後者は巨大で騒がしいローターを上部に備えていることである。つまりeVTOLは通常、より安全で静か、そしてクリーンであることになる。

世界中で開発されているeVTOLのほとんどがオール電化であるのに対し、HMCは「自社の電動化技術を活用し、ガスタービンハイブリッドのパワーユニットを搭載したHonda eVTOLを開発する」ことを目標としている。この分野での技術開発を進めていくという計画意図は4月の記者会見で初めて発表されたが、その中でHMCは2050年までに製品を100%EVにするという目標も掲げている。

HMCのコーポレートコミュニケーション担当マネージャーであるMarcos Frommer(マルコス・フロマー)氏はプレスブリーフィングの中で、全電動式のeVTOLは質量あたりのバッテリー容量の関係で航続距離が非常に短いため、新型車両のほとんどのユースケースが都市間移動やシャトル便などの近距離飛行に限られると説明している。2024年までの商業化計画を発表したばかりのJoby Aviation(ジョビー・アビエーション)でさえ、これまでで最も長いeVTOLのテスト飛行は1回の充電で約150マイル(約241km)だったという。

「当社の市場調査結果によると、eVTOL機での移動における最大のニーズは、航続距離が250マイル(約402km)程度の長距離の都市間移動です」とフロマー氏。「自動車の電動化もあって、ホンダはリチウムイオン電池の研究開発に力を入れています。しかし、現在のリチウムイオン電池をベースに進歩しても、容量あたりのエネルギー密度は今後20年間で数倍程度にしかならないと予想されています。そのため、さらなる軽量化が求められる空のモビリティでは電池だけで長距離を実現するのは難しいと考えています」。

フロマー氏によると、将来的にバッテリーがさらに進化すれば、HMCはガスタービン発電機を取り外してeVTOLをオール電化にすることも可能だという。

ホンダはコアテクノロジーを活用しながら新分野へ取り組み、挑み続けている(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はeVTOLを核に、地上のモビリティ製品と連携した新しい「モビリティ・エコシステム」を構築したいと考えているという。同社の説明会ではアニメーションを使った次の例が発表された。ケープコッドに住むビジネスエグゼクティブが、1つのアプリを使ってハイブリッドeVTOLを予約。ニューヨークのオフィスまでは空路でわずか2時間の距離だ。このアプリはホンダの自律走行車に接続されており、離陸のためのモビリティーハブに向かう間には今日の天気を教えてくれるだろう。着陸すると自律走行のシャトルがビッグアップルで待機していて、オフィスに連れて行ってくれる。仕事が終わり、悠々と帰宅すれば、家族と一緒に自宅のテラスでディナーを楽しむことができるだろう。

「モデルベース・システム・エンジニアリング(MBSE)の手法を用いて、従来のものづくり企業から、システムやサービスの設計・商品化も行う新しい企業へと変革するために挑んでいます。予約システムのインフラ、航空管制、運航、自動車などの既存のモビリティー製品など、さまざまな要素からなる1つの大きなシステムを完成させてこそ、お客様に新たな価値をお届けすることができるのです。これらの要素をすべて弊社だけでまかなうことは不可能であり、多くの企業や政府機関とのコラボレーションが必要になるでしょう」とフロマー氏は話している。

HMCは2023年に試作機による技術検証を行い、2025年にハイブリッド実証機の飛行試験を行うことを予定している。商業化の判断はそれからだ。HMCがそこから進み続けることを決めた場合、2030年までに認証を取得し、その次の10年でローンチできるようにしたいと考えている。同社がTechCrunchに話してくれたところによると、商業化が実現した場合、一度に4人以上の乗客を乗せることができるeVTOLの価格は民間旅客機のビジネスクラスよりも低くなることが予想されている。

「商用化の可能性については、まだ詳細を議論中です。しかし、すべてのお客様が民間旅客機のビジネスクラスよりも安い価格で当社のeVTOL機を利用できるようになるよう努力しています」とフロマー氏は話している。2040年までにはeVTOLが日常化するとHMCは予想しており、それまでに市場規模は約2690億ドル(29兆8800億円)になると予測している。

ホンダのロボット「Asimo」で時空を超えた世界へ

ホンダのアバター・ロボット・レンダリングは、医師が遠隔で患者を助けることを可能にする(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

ユーザーが実際にその場にいなくてもタスクを実行したり物事を体験したりできるという、第二の自分を持つことを可能にする、ホンダによるアバターロボットコンセプトの「Asimo」。ユーザーはVRヘッドセットと、手の動きを正確に反映させることができる触覚グローブを装着することで、アバターを接続して遠隔操作することができる。

「私たちはこれを、2Dや3Dのモビリティを超え、時間と空間を超越した4Dモビリティと位置づけています」とフロマー氏。

Asimoは、世界で通用するような外科医がいない発展途上国では高いニーズを得るであろう遠隔手術や、人が住めない場所や人が到達するのが困難な場所にアバター版の人間を送る宇宙探査などの用途を想定している。

「アバターロボット実現の核となるのが、弊社の強みであるロボット技術を活かして開発された多指ロボットハンドと、ホンダ独自のAI支援の遠隔操作機能です。多指ハンドを使って人間用に設計されたツールを使いこなすことができ、AIによってサポートされた直感的なユーザー操作に基づいて複雑な作業を迅速かつ正確に行うことができるアバターロボットを目指しました」と同社は話している。

トヨタ自動車にもテレプレゼンスでコントロールできる同様の二足歩行アバターロボットT-HR3があり、テスラも最近人型ロボットの計画を発表している(テスラのロボットは遠隔操作技術をベースにはしていないようだが)。もしホンダがAsimoの計画を進めるならば、操作を容易にするためにも、ロボットの学習のためにも、遠隔操作の利用は理に適っている。ロボットに動作を直接行わせるというのは、ロボットを訓練する上で最良の方法なのかもしれない。

同社は2030年代にはAsimoを実用化したいと考えており、2024年3月期末までにテストを実施したいと考えている。

宇宙技術の研究・開発を強化する

循環型の再生可能エネルギーシステム(画像クレジット:本田技研工業株式会社)

同社はさらに宇宙技術分野、特に月面開発の研究開発を加速する計画も発表した。その中で少し触れたのが、同社が以前発表した循環型再生可能エネルギーシステムだ。6月、本田技術研究所と宇宙航空研究開発機構はこのシステムの共同事業化調査を発表した。月面上の基地や惑星探査機に酸素、水素、電気を供給し、人間が長期間にわたって宇宙で生活できるようにすることを目的としたシステムについてである。このシステムは、ホンダの既存の燃料電池技術と高差圧水電解技術を活用したものだという。

同社は宇宙飛行士が宇宙に飛び出す際のリスクを最小限にするために、月面で遠隔操作のロボットを使うこと、さらには地球からバーチャルで月を探索できるようにするということも検討している。月面用ロボットには、アバターロボットで開発中の多指ハンド技術や、AI支援の遠隔操作技術に加え、ホンダが衝突被害軽減のために使用しているトルク制御技術が搭載される予定だ。

同社はまた、再利用可能なロケットの製造に向けて、流体や燃焼、誘導、制御などのコア技術を役立てたいと考えている。

「このようなロケットを使って低軌道の小型衛星を打ち上げることができれば、コネクテッドサービスをはじめとするさまざまなサービスにコア技術を進化させることが期待できます」とフロマー氏はいう。「これらのサービスはすべて、ホンダの技術と互換性を持つことになるでしょう」。

フロマー氏によると、同社はロケット製造を夢見る「若いエンジニア」たちに、2019年末に研究開発を開始する許可を与えたという。ホンダは宇宙に関するいずれの取り組みについても、それ以上の具体的な内容を明らかにしていない。

画像クレジット: Honda Motor Company

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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