【編集部注】執筆者のMatthew Rendallは、Clearpath Roboticsの産業部門・OTTO MotorsのCEO。
間違った人の話を聞くと、北米の製造業は絶望的な状況にあると感じることだろう。
アメリカとカナダの仕事が、過去50年の間に海外へと流出していることに疑いはない。2000年から2010年の間だけで560万もの仕事が消え去った。
しかし興味深いことに、外国へとアウトソースされた仕事はそのうち13%にしか満たないのだ。失われた仕事の大部分にあたる残りの85%については、”生産性の向上”、つまり機械が人間を代替したことがその原因となっている。
多くに人にとって、このシナリオは事態がさらに深刻であることを物語っている。中国やメキシコは「アメリカ・カナダ人の仕事を奪っている」かもしれないが、少なくともその担い手は別の人間だ。一方ロボットには、製造業のような分野の仕事をこの世から消し去ってしまう恐れがあると言われている。“How to Keep Your Job When Robots Take Over.(ロボットから自分の仕事を守る方法。)” “Is a robot about to take your job?(ロボットが私たちの仕事を奪おうとしているのか?)” “What Governments Can Do When Robots Take Our Jobs.(ロボットが人間の仕事を奪う中、政府に何ができるか。)” など、人々の恐怖心を利用しようとする動きも多く見られ、もう怖気づかされるのはたくさんだ。
しかし実情は少し違っている。過去20年間でアメリカのインフレ調整済み製造業生産高は40%も増加しており、アメリカ国内の工場が生み出す付加価値も過去最高の2.4兆ドルに達している。つまり仕事の数が減る一方で、製造業の生産高は増えているのだ。製造業に従事する人の教育・給与水準は上がり、彼らは作業員の生産性を向上させるテクノロジーを含め、価値ある製品を生み出している。
実際のところ、主に労働者の高齢化を背景に製造業では200万人もの労働者が不足している。彼らの平均年齢は45歳で、これはアメリカの非農業部門雇用者の中央値よりも2.5歳ほど高いほか、若い世代の同業界への関心も低い。
これまでもテクノロジーが存在する限り、技術の進歩を文字通り破壊するラッダイトのような人たちが存在していた
この数値からは違った結論が導き出される。ロボットは私たちの仕事を奪っているのではなく、私たちの仕事をより良いものにしているのだ。
ロボットを利用すれば安全性は向上するし、パフォーマンスも安定する。海外の労働力を搾取するより道徳的にも優れている。さらにロボットは驚くほど費用対効果が高く、投入資金を12ヶ月以内に回収できることもよくある。つまり、常にコスト削減の方法を模索し、進化のスピードが遅いことに悩まされている製造業にとって、ロボットはゲームチェンジャーだと言えるだろう。
さらにその後に続くコスト削減が連鎖反応を起こし、人がやりたがるような仕事がもっと北米にとどまることになる。そして製造業界は、イノベーションを生み出すことに資金や人員を集中できるようになるのだ。その結果、より良い教育を受け、高度な技術をもった労働者を必要とし、同時に彼らを生み出すような新しい仕事が誕生するだろう。短期的には仕事が減るだろうが、長期的に見るとロボットは労働者・社会の両方に利益をもたらす。
これは何も根拠のない非現実的な見解ではない。歴史的にも、テクノロジーの転換期には一定のパターンが見て取れる。前世紀のあいだに車の作り手は人間からロボットへと代わっていった。その結果、車の生産台数が増加し、車一台当たりの労働者数も以前よりむしろ増えたのだ。労働者は、危険な作業を行う代わりにプログラミングを担当してロボットに大変な仕事を任せ、彼らの給与は以前より増加した。これまでもテクノロジーが存在する限り、技術の進歩を文字通り破壊するラッダイトのような人たちが存在していたが、冷静に周りを見れば、生産性は向上し、生活の質はこれまでにないほど高まっている。
経済的にもこの理論は証明されている。産業革命のように、自動化技術への重点的な投資が行われる時期と、一国のGDPが増加する時期の間には強い相関関係が確認されており、さらにGDPの増加は生活の質の向上と強い関係がある。生活の質の向上とは、ケガの少ない安全な労働環境から、より高度な仕事をこなすことで得られる個人の満足度の向上までを意味しており、それがさらなる好循環を生み出すことになる。高度な仕事をすることで人々の収入が増え、高度な教育も賄えるようになり、その結果より高度な技術をもった労働者が生み出され、彼らがその時間と資金を使って経済をさらに加速させていくのだ。
最近のWashington Postの記事にこの流れが上手く説明されている。「(これこそ)生産性を向上させ、市場経済を豊かにする原動力だ。農業の生産性が向上したことで多くの農家が市街地へと移住し、彼らは市街地で工業経済を支える労働力となった。さらなる生産性の向上のおかげで、最終的に私たちは医療サービスや教育、そして政府を賄えるようになった」私たちは今まさしく同じサイクルの中にいるのだ。
ここでもう一度北米の製造業の現状に立ち戻ってみよう。恐怖心を利用しようとする動きや大げさなメディアの存在、人々のまっとうな不安、むなしく響く政治家の暴言にも関わらず、ロボットは製造業をより良い方向へ導こうとしている。ロボットはこれまでのテクノロジーのように、人の仕事を奪うとされる批判の対象でしかなく、ロボットが奪おうとしている仕事はそもそも人間がする必要がないのだ。
実際には、ロボットのおかげでより多くの(そしてより良い)仕事が母国にとどまり、国内産業が発展し、ミクロ・マクロ両方のレベルで私たちの生活の質が高まっていくだろう。自動化が進み、効率・安全・生産性が向上することで、北米の製造業はただ生き残るだけでなく、私たちのイノベーションや想像力のパワーを世界に見せつけることになるだろう。
結局、ロボットが私たちの仕事を奪っていくのか、と聞かれればそうかもしれない。しかしその代わりに、私たちや私たちの子ども、そして孫たちは、もっと意味があって高収入の仕事につく可能性が高くなるだろう。私の目には、これはまっとうなトレードオフのように映る。
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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter)