“置き配”は再配達率を減らす救世主になるか、置き配バッグ「OKIPPA」が3.5億円調達

スマホアプリ連動型の置き配バッグ「OKIPPA」を展開するYperは4月24日、ニッセイ・キャピタルとみずほキャピタルを引受先とした第三者割当増資により3億5000万円を調達したことを明らかにした。

同社にとっては昨年ニッセイキャピタルから5000万円を調達して以来となる、シリーズAラウンドという位置付け。調達した資金を活用してバッグ量産体制の整備と人材採用、経営体制の強化を進めながら国内における再配達率の改善を目指していく。

アプリ連動型の「置き配バッグ」を展開

過去に何度か紹介しているけれど、OKIPPAは狭いスペースでも手軽に活用できる“簡易的な宅配ボックス”のような置き配バッグだ。普段は手のひらサイズに折りたたむことができ、設置するための工事も不要。玄関口に収納したバッグをかけておけば置き配を利用できる。

バッグの最大容量は57リットルで耐荷重は13kg。拡げると割と大きな荷物も入れることができ、撥水加工も施されている。盗難が心配なユーザー向けに、アプリのプレミアムプランとして東京海上日動と共同開発した置き配保険も展開済みだ。

またバッグ以外のプロダクトとして、YperではOKIPPAと連動したスマホアプリを手がけている。

このアプリではバッグに荷物が預入された際に通知が届く仕組みになっているほか、ヤマト運輸や日本郵便など配送会社5社に再配達依頼ができる機能、Amazonや楽天を含むECサイトで注文した商品の配送状況を追跡できる機能などを搭載。バッグを持っていないユーザーでも荷物管理用のアプリとして単体で使うことが可能だ。

今回Yperでは同様の特徴を持つ「荷物管理/荷物管理Lite」を吸収合併し、「荷物管理OKIPPA」としてアプリのリニューアルを実施。荷物管理/荷物管理Liteを開発していたチームもYperの開発体制に加わり、さらなる機能拡充と利用者数の拡大を目指していく。

なおOKIPPAの概要や開発背景については以前詳しく紹介しているので、そちらも参考にして頂ければと思う。

複数社が置き配サービス開始、置き配検討会もスタート

「この1年だけでも置き配を取り巻く環境が大きく変わってきた」——。Yperで代表取締役を務める内山智晴氏は2018年から2019年にかけての置き配市場についてそう話す。

同社では最初のプロトタイプを翌年2月に開発した後、4月にクラウドファンディングでプロジェクトを立ち上げ、9月下旬から一般販売をスタート。現在OKIPPAバッグの累計販売数は全国で1万個を突破しているという。

昨年4月にMakuakeで実施したクラウドファンディングプロジェクトでは、目標を大きく上回り、1800人以上が参加(2000個以上が売約)した

開発当初に置き配サービスをやっていたのはYperとファンケルぐらいだったそうだが、そこから昨年6月に楽天が自社サービス内で置き配に対応。今年2月にはAmazonが試験的に一部エリアで置き配を指定できるようにしたほか、日本郵便も3月からサービスを始めた。

置き配に注目が集まる背景にあるのは再配達率の高さだ。国土交通省の発表では2018年(平成30年)4月期の宅配便再配達率は約15.0%。この数値を2020年度には13%程度まで削減することを目標に掲げている。

近年この課題を解決する有力なソリューションとして注目を集めてきたのが「宅配ロッカー(宅配ボックス)」だったわけだけれど、現時点で十分に普及しているとは言えず、これのみで再配達を劇的に減らすのは難しい。そこで新たな打開策として置き配への関心が高まっているわけだ。

それを象徴するように、3月には国交省と経産省が再配達削減検討に向けて「置き配検討会」を新設。検討会の委員名簿にはアスクルやアマゾンジャパン、日本郵便、楽天、ZOZOなどと並んでYperの名前も含まれている。

「今まではそもそも『置き配』とは何か、明確な定義やルールもなかった。国としてその環境の整備を進めていく検討会に委員として参加できるのは大きい。自分たちとしては当初からOKIPPAを『置き配のインフラ』にすることを目指してやってきた。置き配自体が国主導でスタンダードなものになって行けば、配送会社も積極的に検討しやすくなるし、OKIPPAをどのように活用するか議論もしやすくなる」(内山氏)

ECヘビーユーザーをターゲットにまずは100万個設置へ

Yperでは昨年12月に日本郵便と共同で、OKIPPAによる再配達削減の効果を検証するための実証実験を実施した。この実証実験は東京都杉並区の1000世帯にOKIPPAを無料配布し、約1ヶ月の期間に渡って再配達率への影響を調査するというものだ。

期間内に約6000個の宅配物が配送され、参加者の不在率は約51%だったそう。同実験ではこの51%に当たる約3000個の宅配物を「潜在再配達個数」とし、その内OKIPPAを活用することで受け取れた荷物(OKIPPA受取個数)が占める割合を「再配達削減率」として算出した。

そのロジックに基づくと、週ごとの結果では最大で再配達率を61%削減。トータルではOKIPPAを通じて1744個の荷物を受け取ったことになり、約57%の削減に繋がった。

「OKIPPAのメインターゲットはECサイトで週1回以上買い物をするようなヘビーユーザーで、かつ自宅に宅配ボックスが内容な人たち。彼ら彼女らは一般の消費者に比べて年間で3~4倍ほど荷物を受け取る機会が多く、その人たちに置き配の選択肢を提供できれば再配達率を6割以上削減することも可能だと考えている」(内山氏)

そのためにはそもそもバッグがしっかりと行き届いて使われる状態になっている必要があるし、配送員への認知の拡大なども含めてインフラとして整備される必要もある。内山氏によるとコアのターゲット層がだいたい200万人ほど全国にいると試算しているそうで、当面はその約半数に当たる100万人への提供を目標にしていくという。

現在の1万個から100万個はなかなか簡単ではないようにも思えるが、バッグの普及に関してはすでに複数の施策を始めているようだ。

たとえば消費者に直接販売するだけでなく、事業者と組んでエンドユーザーに無料配布する取り組みを実施。東京電力グループのPinTや建設会社のオープンハウス・アーキテクト経由で、それぞれのサービス利用者などに無料でOKIPPAを提供するB2B2Cモデルにも力を入れている(事業者がバッグを購入しユーザーに提供する仕組み)。

またOKIPPAに限らず置き配サービスの障壁となるオートロックマンション向けにも、それに対応したシステムを開発中だ。

「ドライバーは減っていっている一方で、宅配物の数は増えている。特にB2Cの宅配物の増加がネックで、そこにどうやって対応していくのかは大きな社会課題だ。配送の無駄をなくし配送効率をあげることは不可欠で、置き配は日本の治安の良さを活かした配送方法としてインフラ化できる可能性がある」(内山氏)

OKIPPAバッグが普及すればECサイトなどでOKIPPAの配送プランを作り、コンビニの宅配便取次手数料のようなモデルでのマネタイズも検討していきたいとのこと。今回調達した資金を用いて、月産数十万個単位で生産可能な量産体制を整備し、最低限のインフラを整えるべく事業を加速させるという。

「再配達は誰にとっても無駄なもの。ユーザーにとってはストレスだし、配送会社にとっても負担が大きい。それにも関わらず今はそこに対してコストを払っている。OKIPPAを通じて再配達を減らすことで、誰も損しない形で、サービスとしてもしっかり成長できるような仕組みを目指したい」(内山氏)

Yperのメンバー。左から3人目が代表取締役の内山智晴氏

投稿者:

TechCrunch Japan

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