Amazonの、監視カメラだらけのレジ無しコンビニエンスストアにて

さて、もう既に多くの人びとが、小売業界を震撼させたAmazonの大胆な試みについて聞いたことがあるだろう。そう、現金不要、レジすら無いGoストアだ。歩いて中に入り、欲しいものを手に取ったら、そのまま歩いて店を出るだけだ。私は最近その経験をするチャンスを得ただけでなく、そのチーフアーキテクトの1人と話をする機会を持つことができた。

ここで私が考えたのは、万引きを試みて、Amazonの独り善がりな態度を出し抜いてみせようというものだった。しかし、店舗に実際に入ってみると、こうしたことが不可能であることがはっきりした。私はずっと、Amazonの広報担当者ならびにプロジェクトのTechnology VPであるDilip Kumarから、60センチも離れずにいたのだが、彼らは既にシステムに対するそうした乱雑な攻撃手段に対処していることがわかった。

プロモーションビデオで見ることができるように、携帯電話上のAmazon Goアプリが生成するQRコードを提示すると、ゲートが開いて店舗に入ることができる(これまではAmazonの従業員だけだった)。この瞬間から(まあ実際には、店内に完全に入った瞬間から、あるいはゲートの前の段階から既に)あなたのアカウントはあなたの物理的な身体と関連付けられて、カメラによる一挙手一頭足の追跡が開始される。

沢山の、本当に沢山のカメラが設置されている。

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Amazonのレジ無し店舗のアイデアが最初に発表されたとき、一体どのように実現されるのかと疑問に思った。天井や、ディスプレイケースの後ろ、テープルなどに置かれたカメラを使うのか?どんな種類の?近接センサや重量センサ、そして顔認識も?これらはどこで照合されて処理されるのか?

Amazonのアプローチは、私が想像していたほど複雑ではなく、むしろ私が想像していたようなやり方ではなかった。このシステムは主に、何十台もの天井に備え付けられたビデオで構成されていて、店舗の中のあらゆる場所を、各1平方インチに至るまで、あらゆる方向から撮影している。私が訪れた店舗には、おそらく百台は下らない数のカメラが設置されていたと思う。その大きさは、普通のボデガ(街角の小規模食料雑貨店)やガソリンスタンド併設の店舗程度のものだった。

これらは一般的なRGBカメラであり、ケース内のボードでカスタマイズされたものである。内部ではある程度の基礎的な単純作業が行われているが、おそらくは動きの検出、基本的なオブジェクトの識別などが行われているのだろう。

それらは、また別に用意された深さ感知カメラ(飛行時間関連技法を使っている、とKumarからは説明を受けた)を使って補完されており、それら全てが黒い背景の中に溶け込んでいる。

これらのカメラから取り込まれた画像は、中央処理装置(より適切な用語がなく、正確にはどのようなものかはわからない)に送信される、そこでは店舗内のそれぞれの人物を特定し、棚から取り上げられ手に持たれている商品を、素早く正確に認識するという、実際の仕事が行われている。何かを選ぶと「仮想ショッピングカート」にその品物が自動的に追加され、客はトートバッグやショッピングバッグに、その品物を速度を気にせず無造作に放り込むことができる。システムがしっかり見ることができるように、手で持って差し上げる必要はない。

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こここそが、秘伝のソースの隠された場所だとKumarは私に話してくれた。それはそうだろう。似たような服装の人物が、ほとんど同じようなヨーグルトを手に取った際に決定することは、ありふれた課題のように思えるかもしれないが、ビジネス全体が基礎を置けるようにするために、必要なスピードと正確性を実現することは容易ではない。

まあ、現在世の中に存在するリソースを与えれば、たとえ学生でも数週間のうちには、80%の場合には動作するような店舗を設計することができるだろう。しかしそれを、99.9%の場合に、面倒な作業も不要で瞬時に正しく動作するようにすることは、本当に多大な努力を必要とする挑戦なのだ。

特筆すべきは、それが顔認識技術を使っていないということだ(質問してみた)。Amazonはおそらく、顔認識技術を使うことが、プライバシーに関心の高い買い物客たちからの非難を招くことになることに、早い段階から気が付いていたのだろう。まあそういったことを心配する人びとが、この店舗にやってくるとはあまり思えないが。その代わりに、システムは他の視覚的な手がかりを使い、カメラ間の連続性をモニタしている。人間がレンズに近付くことはないので、1人の買い物客があるカメラから別のカメラに移動した際に、それらの画像の間に関連付けを行うことは、システムにとって難しいことではない。

1台のカメラに技術的な問題が起きた場合や、何らかの形でレンズの視界が覆われてしまった場合にも、システムが完全に停止してしまうことはない。カメラが失われる状況でもテストされているが、もちろん交換は迅速に行われ、システムは再調整される。

カメラに加えて、棚には重量センサーがあり、システムは各アイテムの正確な重量を知っている。つまり、2個のヨーグルトを一度に取り上げて、そのうちの1つを手の中に隠しておこうとしても無駄なのだ(私が試してみようと思ったことだ)。おそらくインディ・ジョーンズの映画にあったように、同じ重さの砂袋をバッグの中に入れておき、それで素早く品物を置き換えることはできるかもしれないが、そんな面倒なことをやる万引き犯は多くないだろう。

そしてKumarが私に言ったように、ほとんどの人は万引き犯ではなく 、このシステムは普通の人びとに向けて設計されている。単に矛盾を検出するのではなく、悪意を持った人物を前提にシステムを構築することは、必ずしも良い設計選択とは言えない。

実際には人間を相手にするシステムには解決困難なことも起きるが、Kumarによれば、そうしたことが起きることはとても稀なのであまり考える必要はないと話した。彼はまた、店舗が広くなっても難しさは増えないと語った。もちろん追加のカメラや処理能力は必要である。

それはまた、非常に多くの人数に対してもテストされてきている。私たちがそこを訪れたのは午後の空いている時間帯だったが、その直前はランチタイムの混雑だった。Amazonの担当者は私に、そのときは数人ではなくて数十人の人たちが、入口で電話をセンサーに示すだけで、自由に出入りしていたと話した。

レジは無いかもしれないが、スタッフは存在している。在庫を補充するストッカー、ワインとビールのセクションにはIDチェッカー(きっと以前はソムリエだったのだろう)、そして新鮮なサンドイッチや食事パックを作っているシェフたちがバックヤードにはいる。エントランスの付近にいて、アプリを使う人を手助けしたり、質問に答えたり、返品を受付たりする人たちもいる。

品揃えは主に、持ち帰り用のランチパックやスナックなどだが、その他帰宅途中でボデガで買うような、ちょっとした日用雑貨などもある程度置かれている。とはいえ、価格帯はコンビニエンスストアではなく、スーパーマーケットで見られるものだった。

既存の資産や仕組みを活用するAmazonのやり口を期待した向きには意外かもしれないが、そうしたものはほとんど見かけることがなかった。アプリは自己完結型で、顧客の「メイン」Amazonアカウントの中ではなく、あくまでもアプリの中だけで追跡される。プライムメンバーだからといって、割引を受けたりすることはない。Whole Foodsはそれ自体ための小さなセクションを店内に持っているものの、幅広いパートナーシップは見られない(そして、私には理由を想像できないのだが、Whole Foodsの店舗をGoの店舗に転換する予定もないらしい)。

全体としては、私はシステムのシームレスさに感銘を受けた。様々な仕掛けがそこここでスムースに運用されていたからだ。

だがもちろん、哲学的な側面では悩ましい点がある。私がいま後にしたこの店舗は、非常に議論の余地があるテクノロジーの応用の顔の上に、親しげな仮面を被せた代物だからだ。すなわち遍在的個人監視(ubiquitous personal surveillance:社会の様々な場所で個人の動向を監視すること)装置なのだ。

通常のレジや、セルフレジを、まばたきもせずに記録を続ける百台ものカメラで置き換えることは、少々やりすぎだと私は思う。何が得られるというのだろう?自分の時間を20〜30秒ほど取り返せる?まあ利便性の欠如が、この店舗に対して苦情として寄せられることはないだろう。なにしろその名の通りこれは「コンビニエンスストア」(便利な店)なのだ。

多くの企業によるテクノロジーの応用では良く見られることだが、これは私にとっては、気にする人はわずかで問題視する人はさらに少ないような問題を、わざわざ「解決」するために、膨大な工夫と資源が投入されているように思える。技術的成果としてはこれは驚異的なものだが、しかしその反面、これはロボット犬と同じようなものだ。

店舗は機能している。私が言えるのはそこまでだ。Amazonが、この店舗をこの先どうしようとしているのかを、私は語ることができないし、こうした線に沿った私の質問に沿って意味のある回答をしてくれた人もいなかった。Amazon Goは今週から一般公開される予定だが、新奇性以上のものを見いだせるかどうかはまだわからない。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。