「競争して勝てないなら買収してしまえ」という格言もある。 AppleはTidalと音楽ストリーミングの買収について交渉しているという。Tidalのアプリはビヨンセやカニエ・ウェストのようなビッグ・ネームの独占先行配信権を持っている。
Wall Street Journalの記事によると、交渉は始まったばかりで、買収が成立するとは限らないという。しかしAppleは音楽ストリーミングの分野でSpotifyと激しい競争を続けており、Tidalを買収できればApple Musicを大幅に強化することができる。
Appleはドレイクなどで自身の独占先行配信も強くプロモーションしているが、この分野ではTidalが先行している。ラップ・ミュージシャンのJay・ZがTidalを5600万ドルで買収したのは 2015年の3月だった。その後、Tidalは全面的なリニューアルを実行し、トップクラスのアーティスト多数と契約することに成功した。ビッグネームのアーティストの一部はTidalの所有権を共有することになった。Tidalに所属する著名なアーティストには、アリシア・キーズ、カルヴィン・ハリス、アーケイド・ファイア、コールドプレイのクリス・マーティン、ビヨンセ、ダフト・パンク、ジャック・ホワイト、J.コール、ジェイソン・アルディーン、カニエ・ウェスト、デッドマウ5、マドンナ、ニッキー・ミナージュ、リアーナ、アッシャーらが含まれる。
Tidalはこうしたスターたちを共同所有者に加えるという条件で最新の楽曲を配信する権利を得た。当初こうした取り決めはビジネスとしてうまくいくはずがないと思われていた。しかしこのシステムのおかげでTidalはカニエ・ウェストの新アルバム、Life Of Pabloを数週間にわたって独占的に先行配信できた。またビヨンセのビジュアルな新アルバム、LemonadeをストリーミングできるのはいまだにTidalだけだ〔ジェイ・Zとビヨンセは結婚している〕。
Appleは音楽をフラグシップ製品であるiPhonesの売れ行きも左右するようなモバイルの重要な要素と位置づけている。Tidalの言い値がいかに高かろうと、これだけのビッグネームをストリーミングできるとなればSpotifyに対する大きな強みとなる。
AppleがTidalの買収に成功すれば音楽ファンには便利になる。現在のストリーミングはバルカン諸国のように多数のサービスが並立し、楽曲のカタログは異なるアプリの間で細切れにされている。人気ラッパーのドレイクとカニエ・ウェストを聞きたいなら2つのアプリをインストールしなければならない。しかし一部のビッグネームを除けば2つのアプリはほとんどのミュージシャンが重複している。しかしリスナーはそれぞれに月額10ドルの料金を払わねばならない。Spotifyがレディー・ガガの前マネージャーでテクノロジー分野の投資家でもあるTroy Carterをスカウトしてから独占配信の傾向はますます強化された。
Apple Musicは現在1500万人の有料契約者がいるがSpotifyは3000万人だ(無料も含めた全リスナーは1億人)。 Apple Musicは急成長したが、音楽ストリーミング・サービスなど聞いたこともないような新規ユーザーを獲得するためにはTidalの買収は非常に効果的だ。そうでないとライバルのSpotifyはプレイリストとリスナー別のカスタマイズのしやすさを武器に地歩を固めてしまいかねない。
ただしAppleは現在でもApp StoreとiOSのオーナーであることを利用してSpotifyを妨害していると批判されている。AppleがTidalを所有すれば、リスナーは便利になると同時に選択肢が狭められることになるのも事実だ。しかしApple MusicでTidalのアーティストが聞けるのなら熱心なSpotifyファンの中にもAppleにに乗り換えるリスナーが出てくるだろう。
画像: Theo Wargo/Getty Images
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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+)